第94話 大統領官邸占拠事件 前編
私は、ジローと龍さんにデリンジャーの状況を知っている範囲で話す。
フランソワ中を荒らしまわってる凶悪な強盗団が、デリンジャーの前世のギャング団の誰かかも知れない事と、私達との連絡を一方的に断った事について。
「なるほど、確証はないが……フランソワでも前世の記憶を思い出した者が、デリンジャーに何かを企てた可能性があるわけか」
「ええ、彼は一旦連絡を断つと。迷惑はかけられないと言ってました」
「何ーが迷惑かけられんやん。仲間だる、馬鹿が。やしが……やっけー、とりあえず情報が必要やん。あ、あいつーから着信やん、ちょっと待ってぃな。Hisai, Ivanetz, This is midnight, what's wrong?」
ジローは英語で水晶玉の会話を始めたが、きっとロシアマフィアの怖い人から連絡きたんだ。
なんかすっかり仲良くなってるっぽいけど、先生は地球一の犯罪者って言ってたし、油断するなって言ってたっけ。
それに私、英語さっぱりだし。
こんな事なら高校、いや中学の時に、もっと英語のリスニングとかすればよかった。
会話が終わり、ジローはため息をつく。
「あいつー、探り入れてぃ来た。兄貴とロバートについてやん。もしかしたら背後にいるっちゅう、ヘルって女神が関わっとるかもしれんさぁ」
「え? じゃあ私達と敵対関係になるかも知れないって事かな?」
「それは、今は多分ないなー。あいつー、イワネツは俺ぁ達とビジネスぐわぁやりたいってぃ話、嘘やあらん感じさ。それに……兄貴が言う程、嫌な奴やあらん気がすんばー?」
うーん、それはどうだろう。
なんていうか、私が直接話をしたわけじゃあないけども、人の命とかめっちゃ軽く考えてる感じがしたし、麻薬とか銃の密売とかで世界中を無茶苦茶にして、それで人が不幸になっても何も感じないような、無責任さや冷酷さもあった気がする。
「英語は少ししか理解できないが、だいたい意味はわかった。ああいう手合いは、世の中によくいる手合い。奴は、匪賊としての自分しか価値観を見出せない男だ。食うためでもなければ、貧しい者への施しなども考えず、暴力と盗みにしか己の価値を見出せない悲しい男。通常の人間社会では生きていけないような男だろう」
龍さんはイワネツという男を、ジローと何回かのやり取りで、人となりを分析してしまったようだ。
「そして、ああいう手合いは人生そのものが、盗みと暴力、匪賊の掟しか頭にない。私の部下にもああいう手合いはいたが、長生きは出来なかった。彼が前世で60代まで生き長らえてきたのは、桁外れに運が強いからだろう」
うん、確かにそうかも知れない。
けど先生も、暴力に生きて暴力で死んだ。
彼もきっとそうだったんだろう。
「俺ぁは……あいつーそれだけじゃないと思う。あいつーは俺ぁみたいに、根ーがいい加減さというか、テーゲーやあらん。前世でぃ最低最悪ってぃ聞いたが……心根は…… 根ー真面目でぃ素直な奴やん。俺ぁは、友達になったんイワネツを信じる」
ジローは、なんとなくだがイワネツを信用できる男と見ているようだけど、背後関係が不穏だし、先生の言う通り、いつこちらへの態度が豹変してもおかしくない気がする、私の勘だけど。
「問題は、イワネツをこの世界に送ってきたヘルという女神。彼女の情報は先生から聞いてるけど、冥界の女神で先生の女神とは、あまり仲が良くないらしい。そして背後にいるのはオーディン」
「なるほど。で、あるならば今度は私が対応しよう。直接話せば、わかることも多い。それよりも、問題は我が友の状況だ。情報が足りなさすぎて、これではどう動けばよいか判断がしかねるな」
その時、私の水晶玉に着信が入った。
デリンジャーからのコールだ。
「デリンジャー? 今、大丈夫。そっち今、大変な状況に……」
「あんたが、マリーって子? 初めましてと言った方がいいかしら? この泥棒女」
は? 誰この子?
若い女の子っぽい声だけど、何者?
「うるせえアバズレ! 俺に代われ。よう、そっちのデリンジャーギャング団さんよお。てめえら俺を差し置いて、俺のダチ公とよろしくやってるそうじゃねえか?」
今度は、声色の違う女の子の声になった。
二人いる? 姉妹か何か?
「自己紹介がまだだったな、俺の名はレスター・ジョージ・ギリス。またの名を、ビッグ・ジョージ、それとネルソンとも呼ばれた」
こいつが、レスター?
どっかの女の子に取り憑いた?
おそらくは、前世のデリンジャーの仲間だ。
「私の名は、マリー・ロンディウム・ローズ・ビクトリーです。デリンジャーは、今どこに?」
すると、水晶玉から通信先の映像が、この部屋の壁にスクリーンのように映し出された。
水色の髪をしたショートカットの黒のスーツ着た可愛い女の子が、手に持った魔法のピストルを、猿ぐつわされ縛られて座らされた、デリンジャーに向けている。
他にも、数の黒ずくめのスーツ姿の男達が、ロマーノ製の魔力ライフルを持って、こっちに銃口を向けてきた。
「まあ、こんな感じさ。こいつなかなか頑固でよお、こっちの話聞いてくれねんだ。お前ら俺の後輩みてえなもんだろ? ちょっとこいつの説得手伝ってくれねえか?」
「説得?」
レスターともネルソンとも名乗った女の子が、デリンジャーの猿ぐつわを外した。
「すまねえ、みんな。巻き込みたくなかったが、こいつは本物のデリンジャーギャング団の一員だった。だが……こいつらの言う戯言なんかに耳を傾けることなんかねえぞ! もう、こいつは仲間でも親友でも、なんでもねえからな!」
すると、黒ずくめの男がデリンジャーの顔面を、思いっきり蹴り上げた。
「うるせえ! 俺達貴族を平民に貶めた馬鹿王子が! 我らがリーダーのネルソンを貴様!」
するとレスターと名乗った女の子が、デリンジャーを蹴った男に銃を向けて、引き金を引いて頭を吹っ飛ばす。
あまりにも残虐な光景と行為に、私は思わず目を瞑ってしまう。
「てめえピーター、言ったよな? 俺のダチ公を侮辱したら、ド頭吹っ飛ばすって。すまねえリーダー、俺の監督不届きって奴だ」
こいつ、人殺しを全然躊躇してない。
本当にデリンジャーギャング団だったの?
「お前は変わらねえなベイビーフェイス、ベイブのネルソン。前世でも言った筈だろ……そうしなきゃならなかったのかよ! 人殺しが!!」
「うるせえ! 俺は……そうする事しかできねえんだジョン。お前だって、わかってんだろ! あと俺がその渾名を嫌っている事もよお!」
やっぱり、彼らは仲間だったんだ。
前世で、私が知らない彼を知ってる……。
すると、レスターは凶悪な顔付きから今度は女子っぽい顔をして、デリンジャーの唇の傷をハンカチで拭く。
「ごめんなさい、ジョン。あなたを傷つけたくなかったの。あたしはこんなにあなたの事を愛してるのに、なんでわかってくれないの?」
……なによこいつ。
デリンジャーに馴れ馴れしく彼女面して。
この変わりよう、こいつ一体……。
「ふん、お前なんか知るかよ。裏切り者の雌豚が!」
うわぁ、デリンジャーが女子っぽくなったレスターに、思いっきり顔に唾吐きかけた。
なんなのこれ、一体何が……。
「やっぱりあの女のせいなのね、ジョン。あんな小娘、あんたの何がわかってんのよ!」
まさかこの女、前世でデリンジャーが死ぬ原因を作った、裏切り者で恋人の転生体?
そうか、この女にレスターの魂が憑りついて、二重人格のようになってるんだわ。
「なに見てんのよ? マリーだかなんなのか知らないけど、何? その頭が悪そうな金髪? 赤いドレスなんか着て! いかにも育ちが良さそうって感じがして、気に入らないっ!」
なんですってぇ……この女っ!
勝手に出てきてデリンジャーの彼女顔して馬鹿じゃないのよ!
「なによ、前世でデリンジャーを売り渡したような馬鹿女! あんたなんか嫌われて当然でしょ!」
「はあ!? あんたこそ突然現れてジョンを、彼をたぶらかした小娘のくせに……」
「シャラップ! てめえらの話がいまいち見えてこねえ! アンナ、それにネルソン、お前ら何が目的だよ? はっきりさせろ!」
デリンジャーが、アンナと呼んだ女の子を一喝する。
すると、黒ずくめの男達が全員デリンジャーへ銃を向け始めた。
「おう、そういやそうだったぜリーダー。俺もまたデリンジャーギャング団に入れてくれよ? せっかく生まれ変わったんだ、そこのアバズレの体によ」
「うっさいわよ、ろくでなし! まだこの世界で私は男に指一本手を付けられてないんだから! あたしだってこの世界では貴族令嬢よ! ザグゼンブルーって名前で!」
ザグゼンブルー……どっかで聞いたことある気が……。
あ、確かフランソワで共和制に反対する大貴族の。
「そんな事より、龍。お前……体大丈夫か? 何があったんだ? 誰が、俺の親友をこんな目に遭わせたんだ?」
「ああ、アンリ……いやジョン。私は……」
あ、そうか。
デリンジャーは龍さんがバブイールで暗殺されそうになったことも、東方の超大国で政変になってる事実も知らないんだった。
「ああ? 何だてめえ髭野郎! 向こうでベッドで寝てる野郎、早く答えろ!」
すると、レスターの顔つきになった女の子がこっちに銃口を向けてきた。
「うるせえ! もう俺の友達でもねえ野郎が俺の好きな女と、親友の龍に、大切な仲間のジローにハジキ向けるんじゃねえよ! 何が仲間だ馬鹿野郎! 何が恋人だ! お前ら……俺の気持ちを裏切った裏切り者のくせしやがって!!」
「ジョン……くそっ」
レスターが悲しそうな顔をして、顔を伏せた。
きっとこの人もそうなんだ……。
龍さんが言ったように、暴力と盗みにしか己の価値を見出せない悲しい男。
通常の人間社会では生きていけないようなアウトロー。
そして、アンナと名乗ったこの女も……きっとデリンジャーを警察に売り渡したことで、魂に深い傷を負って、この世界に転生したんだ。
「あたしだって、愛した人を……前世で裏切ったのは……仕方なかったのよ。連邦捜査官から、クソ田舎のルーマニアへの強制送還か、ジョンの情報かを選択させられて、まさかあなたを殺すなんて……。あなたを失って、私は連邦捜査局に騙されてルーマニアに強制送還されて……。真面目に生きようとしたけど、あの忌まわしい大戦が起きて何もかもなくなって……。あなたを想い続けて酒浸りになって……そのまま……あんたのせいよ! あたしは、貴族令嬢となって王子だったこの人と結婚できる寸前まで話が進んでたのに、あんたがこの人をたぶらかして、共和制なんかにするからっ!」
やはり、この女はデリンジャーを失った事で魂が傷ついている。
デリンジャーにまた会いたいがために、この世界に転生したんだろう。
そしてデリンジャーが王族のままだったら、この女が結婚した筈だったか……。
自分勝手な女っ!
「何もわかってないのはそっちよ! デリンジャーが王族の地位を捨て去って、酷い身分制度を撤廃させて、この国を侵略から守った! 長年続いた戦争を死にそうになってまで終わらせて、なんで英雄になったのかまるでわかってない! もう人殺しなんてこの国でさせないようにするため、大統領になったかもわかんないなんて……自分勝手すぎる!」
「うるさあああああい! 生意気な小娘っ! あたしがこの人と結ばれないなら、今度こそあたしはこの人と添い遂げるんだっ! こうなったら彼もろとも、あたしは一緒にっ!」
やばっ、刺激しすぎた!
あの女、発狂してデリンジャーに向けて銃を!
そしてアンナは銃を発砲したら、寸前の所で腕が跳ね上がって、天井に向けてピストルが発射されて……桁違いの魔法弾の威力だ、天井が崩落して瓦礫が部屋に降り注いでる。
「馬鹿アマが! 俺のマブダチが死んじまうだろうがっ! 何考えてやがんだてめえ!」
そうか、寸前の所でレスターの方に魂が切り替わって、助かった……。
あと、わかったことがある。
本当に警戒しなきゃいけないのは、残虐で冷酷なレスターじゃない。
あのアンナと言う、情念の塊のような女の方……。
すると、ジローが私と水晶玉の通信に割って入った。
「まあまあ、落ち着くさあ。ビッグ・ジョージって言ったか? そっちの目的はよくわかったさぁ。やしが、水晶玉挟んでぃゆんたく……おしゃべりするんは面倒くさい。面とぅ向かてぃ話さや、なあ?」
「なんだてめえ? いきなり出てきて……」
ジローはサングラスを外して、レスターをじろりと睨みつけた。
「なんでも相手ぃ、たっ殺せば片ぁつく思ったらそんなくとぅあらんぞ? 自分勝手な暴力とぅ強奪ー、自分んかい返ーてぃくる。うんな暴力っし人間思いるぐ通りないんとぅうむいねー……大間違いやん! なあ!? くぬ馬鹿野郎!!」
物凄い気迫だ。
いつものニコニコしてる彼じゃない、先生のような歴戦を戦い抜いてきて、命どぅ宝の境地に至った男の魂がこもった恫喝……半分何言ってるのかわかんないけど、言葉じゃなくて心でその思いが伝わる。
「てめえ……ただ者じゃねえな。ホーネストじゃねえだろ? 何者だ? ギャングか?」
「そのあたり、会ってお話しようや? その前に俺ぁの仲間、デリンジャーに何かあったら……お前、殺さんどー? わかたんが?」
「……やっぱりギャングか。ジョン、おめえこっちでもすげえやつ仲間にしたじゃねえか。それと、後ろのベッドで睨みつけてる野郎もな。殺し屋の俺がケツにアイス突っ込まれたような寒気がしやがる」
私が振り返ると、思わず仰け反りそうになるくらいの覇気を龍さんが出していた。
ジローの覇気が炎なら、龍さんの覇気は荒れ狂う海を押し込めたような、圧縮した水の塊のような静かな冷たさのあるような感じ。
これに匹敵できるような覇気は、本気になった先生の意地の輝きと漆黒の殺意の炎みたいなもの。
今の私には、まだそんな空気も威圧感も覇気もオーラは出せないけど……。
「明日の夜、あなた方の元へ伺いに行きます。レスターさんにアンナさん、それではごきげんよう」
私は、水晶玉の通信を先に切ってやった。
先生は言ってた、こういう状況の時ほど心を水にして頭を冷やし、精神的に相手よりも有利に、相手の真理の風上に立つことが、状況打開と勝利への道であると。
それにレスターは、きっとデリンジャーを殺すのが目的じゃない。
むしろ純粋に彼と、デリンジャーに会ってまたいっしょに何かをしたいんだ。
けど、彼は先生の言う地獄の業を清算してないから……前世と同じ過ちを、人殺しを繰り返しているんだろう。
「やっさ、じゃあデリンジャーを助けにいくさぁ! あとぅ、くり持っちょーけー」
ジローは、自分の水晶玉をそっと龍さんのベッドに置く。
「イワネツから連絡来た時、かわりに相手しくぃてぃくぃらん? 俺ぁの勘じゃまたかけてくるさー」
「うむ、預かろう。本当は俺が……アンリを、ジョンを助けに行きたいが……よろしく頼むよみんな」
「はい、私達はチームですから。誰かが困ってたら、誰かがフォローする。ソフトボールと一緒です」
……龍さんが首傾げてる。
あ、そうか17世紀生まれのこの人にソフトボールって言っても通じないか。
「ああ、本土の刑務所でやったさー。兄貴がピッチャーでぃ、俺ぁ1番バッターさ」
ジローがバットスイングした。
地味に、スイングスピードめっちゃ速い。
「ああ、クリケットか!? 懐かしい、バッツマンでストライカーをしてたぞ! あれはいいものだ、船団に分けてチームを作ってな、陸に上がった時の良い楽しみだった」
クリケット……ともちょっと違うんだけどな。
ていうか、クリケットってどんなルールか知らないし。
先生なら知ってるかな?
破壊神さんとクリケットやったって言うし……。
いや、それとはちょっと違うか。
先生クリケットって単語聞いたとき、血の気引いてたし。
「それじゃあ、先生に来てもらって人質事件とか交渉に強い人、なんだっけ? ネゴシエーターって言うのかな? 指輪で召喚で呼び出せば」
「ナイスアイデアやん、マリーちゃん。じゃあ、俺ぁが呼び出すさー! 出でよ! 勇者マサヨシの兄貴!」
ご飯食べて、ポーション飲んだから戦闘形態の先生は無理でも、アドバイス的な短い召喚なら私達でも可能な筈。
すると、先生は召喚されてこちらにやってきた……また全裸で。
「あ、兄貴ぃ? ナニしてんだばー?」
「てめえが何してくれんだゴラァ! てめえら俺のお楽しみばっか邪魔しやがって! 嫌がらせかこの野郎!」
あ、呼び出したジローが先生から頭突き食らってる。
「あいっ! 兄貴だってぃ我がう楽しみ妨ぎたんだる!」
「うるせえこの野郎! 舎弟のくせに俺に生意気抜かすんじゃねえ!」
あ、めっちゃ凄い勢いで鼻抑えたジロー蹴飛ばした。
すっごい理不尽だこれ……浮気とかしまくってる先生が悪いのに。
「まあいいや、俺が来たって事は何かトラブル発生か? イワネツのクソボケ何かやりやがったか? それとも……」
「あ、それはですね、デリンジャーの……」
私はさっき起きた状況を先生に説明する。
「チッ、クソめんどくせえ状況だ。バブイールの状況もやべえが、この流れよくねえな。一刻も早くデリンジャーの野郎、なんとか助けて立て直せねえと、この世界やべえぞ。それで交渉人だったか? 交渉事は俺でもできるが、相手の事がわかんねえし……いや、あいつなら、兄弟ならイケるな」
「ロバートさんがですか?」
「おう、あいつも指輪の召喚システムに登録してっから、向こう着いたら呼び出せ。俺が事情を説明しておくからよう。あいつ、マジでデリンジャーマニアだかんな。あいつから借りた本で俺もデリンジャーの事を知ったし。そのレスターだかって野郎の弱みも知ってるだろうし、冥界魔法はあいつもマスターしてる」
なるほど、そういえばロバートさんもアメリカ出身だものね。
それに、ジッポンのイワネツの情報も色々聞けるかも。
「あと、先生。地獄の魂って業があるっておっしゃってましたけど、もしかしてイワネツも?」
「ああ、俺や兄弟を凌ぐような業まみれだろうよ。奴がやってきた罪はそれだけ重い。地獄の刑期10万超えなんてヒットラーとか毛沢東やスターリンみてえな野郎らしか聞いたことねえよ。奴はきっと、これから先死んだほうがマシってくれえ、どぎつい思いをするだろうな」
「それー、イワネツに今度話していいかー? 兄貴ぃ」
先生は首を横に振る。
とても悲しげな顔になって。
「いや……これは野郎が乗り越えるべき問題だ。仮にも勇者として、地獄の業まみれで転生したやつの宿命。それで潰れるようなら、それまでのハンパ野郎って事だ。あと親分から、ヘルって女神の身柄取れって命令来てる。遅かれ早かれ、奴との直接対決は避けられねえかもな……。もっとも、野郎がヘルに情が湧いてればの話だが」
「まるで、非情な人みたいな言い方ですね、先生」
「そりゃあそうだろ? いくらソ連がクソアカの最低国家って言っても、麻薬と金と暴力使って約3億の人間の人生を狂わせたのが奴だ。中東やアフリカで起きた紛争で、ガキらが兵隊にされて死にまくってる戦争に武器流したり、どっかの国やテロ組織に毒ガスや小型核も流しやがった大元も奴さ」
それは知ってるが、先生はめっちゃ怖い顔になってさらに話を続ける。
「そして、野郎の組織がやった中で最も非道なのは、全世界、何千万人単位で麻薬中毒者出した事と、東欧のガキら利用した人身売買! あいつは、死んで当然の人でなしだ! 社会や大人が導かんといけねえ、年端のいかねえ多くのガキらを、変態相手の売春や鉄砲玉に使ったクズ野郎だ! 俺はよお、薬物や覚醒剤! そして子供らをてめえだけの欲望や利益で使う奴は絶対に許せねえ! そんな野郎は、人間として許しちゃいけねえんだ!」
そこまで酷い人だったなんて。
自分が最低国家ソ連をさも滅ぼしてやった的な感じで言ってたくせに。
「兄貴ぃ、俺ぁそれでも……あいつーの心根ー、信じたい。きっかけがあればあいつーだってぃ……」
「わかってんよ金城、おめえはそういう男だ。だから俺はおめえに惚れた。おめえはよお優しすぎるんだ。だがなあ、世の中にはよお、人の世には……」
「わかってるさぁ兄貴。俺ぁだってぃわかっとーんばー。やしが、それでもあいつーの心根を信じる。あにひゃーが、くぬ世界でぃ道を誤るんならぁ……拳骨さー! すりがぁ、我ぬ流儀さー」
ジローは、すごい人だ。
一度友達とか身内って思った人を、信じてあげられる強さと優しさを持っている。
「私に任せてくれないか? 人を見る目やどんな人間か本質を見極めるのは、得意なんだ。そうじゃなければ、船長は出来ないからな。マリー君とジローは私の友達を、私の代わりにアンリ、ジョン・デリンジャーを助けてやってくれ」
方針は決まった、まずはデリンジャーを救出する。
イワネツを協力者として本当に信頼できる人物かどうかを見極める。
そして、ワルキューレ達や他国の介入が来る前に、バブイールを龍さんの手に奪還する。
続きます




