↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら楽をしたい ~召喚術師マリーの英雄伝~  作者: 風来坊 章
第三章 英雄達は楽ができない
95/311

第92話 暴走族 後編

 イワネツは寝室の布団の上で横になりながら、左手で同じく横たわる胡蝶姫の振袖の中を弄り、右手で通話用水晶玉を操作してロマーノのジローに連絡を取り付けていた。


「Hi Jiro, how are you doing?」


 水晶玉の通信は繋がったが、英語で呼び掛けても応答せず、イワネツは怪訝な表情を浮かべる。


「Me desculpe, ele não pode se comunicar, Eu vou responder, mas você entende português?」


「チッ…… Puedo hablar español. ¿Quién eres? ¿Dónde está Jiro?」


 通信先から、ジローではない男のポルトガル語で返事が返ってきたため、イワネツは舌打ちしながら日常会話やビジネスレベルならば話せる、お前はどこの誰で、ジローはどこだと、スペイン語で応答した。


 イワネツは語学の才能が並外れて高く、前世でメキシコとコロンビアの麻薬王達のカルテルともビジネス関係を結んでおり、当然のようにスペイン語を習得している。


「バブイール王国元皇太子のアヴドゥルだ。前世の私は、君と同類と思ってくれていい。私は前世でいくつも呼び名があったが、一番気に入ってるのは倭言葉(やまとことば)(りゅう)だな。ジローは今、大事な要件でこの水晶玉では応答できない」


 スペイン語で通信先に出たアヴドゥルこと鄭芝龍に、イワネツは知性と威厳を感じさせる応答を聞き、通信先の男が只者ではないと察する。


――こいつ……声の感じからわかるくらいの、オーラや威厳が伝わってくるぞ。俺と同類だと? バブイールの皇太子っつったか? 


「昔、商談でポルトガル語もスペイン語も必要でね。英語はそれほど得意ではない。彼は今取り込み中で、理由はこちらで厄介な問題が生じている為だ。要件があれば私が伺おう」


「……その前に確認したいが、龍と言ったか? もしかしてお前も、俺と同様……盗賊か?」


「少し違うがそうだな、海でやるか陸でやるかの違いだ。君のことはジローを通じて、色々聞いている。要件を私に簡潔に伝えて欲しいのだが?」


――海でやるか陸でやるかの違い? なるほど、こいつは海賊というわけか。それもただの海賊のはずがねえ。こいつがジローの代わりに応答してるという事は、あのジローが認めた大物という事。


「お前は俺と同類と言ったが、俺はこう見えても人見知りなんだ。お前が信頼に足りうる男か確認を取りたい。お前の盗賊、いや海賊としての一番の大仕事はなんだ?」


「君とは生きてた時代も、おそらく密輸形態も違うかもしれないが……。そうだな、かつて私の前世で海賊として人生を賭けた大仕事は……海賊だった私が海軍の将軍となって、取り入った大明帝国皇帝を中心に、江戸の侍政権の幕府将軍とオランダ政府とで、三角貿易を結ぶ事。東インド会社を利用し、密輸業も含めてな。それは実現可能だったが、歴史が許してくれなくてね。そして息子が、後世で偉大な英雄となった事か」


 イワネツは、アヴドゥルの話した内容のスケールの大きさに、吹き出しそうになった。


 つまりは海賊と言いながらも、複数の大国家間の代表達と関係を持ち、それが出来るだけの力量と影響力があったという意味である。


 イワネツは皇帝とも言われたアウトローであったが、反社会そのものであった彼は国家元首に取り入り、根回しして自身のビジネスを成就させるのはせいぜいはロシアや、旧ソ連圏の東欧のみ。


 複数の国家中枢に入り込み、その代表者の裏側から影響力を与えるなど、前世で同世代だったコーサノストラにして、グッドガイの異名を持つ男、ロバート・カルーゾ以外は不可能であった。


「それが本当ならば、お前は同業者としてなかなかの男だな。声の感じから嘘を言ってるわけでも、イカレてもいないようだ。息子が英雄とは?」


「ヨーロッパ、大秦、私の時代では倭と同様、南蛮とも言ったな。ネーデルランドから台湾島の植民地支配を解放して、英雄となった。後世では洪門という概念の商人集団を、息子の部下の陳近南、または陳永華と呼ばれる者が作ったらしいが。時代が違いすぎて原理はわかるが、どんな者達かは知らん」


―― 洪門、確か中国の秘密結社(マフィア)だったか……。という事は、チャイニーズマフィア共の起源かこいつ! その話が本当ならば、かなりの大物だ。しかし、なぜこんな男が。


「何を目的でジローと組んでやがる? お前の目的は何だ?」


「世界の自由交易だよ。人種や宗教などというくだらぬ垣根を超えた、人と人同士が結び合い富を産む交易網をこの世界で構築する。この世界の物流の流れは非効率的で改善の余地があるから……だから規範を作るのだ。その先にあるのは……多くの人々の笑顔と幸福なり」


 イワネツは、綺麗事を言いやがってと鼻白む。


 人間が人間で生きていく以上、生まれや育ちの垣根を越える事など、共通の大きな目的やイデオロギーがあっても、そんなものは長続きしないし不可能であると。


「人種や宗教などという垣根を超えただと? そんな事を考えてた国はごまんとあった。中華帝国やアレクサンダー帝国、ローマ帝国やモンゴル帝国、スペインやイギリスやアメリカ、俺の生まれたソ連もな。だがそんなもの不可能だろう? みんな平等とか思いつきやがった、クソボケのドイツ野郎の思想で建国された、最低国家出身の俺がいうから間違いねえ。そんな事、全世界が統一の通貨や言語の統一とかねえと……いや、それでも……」


「全部が全部、人々の幸福になどと不可能なのは私も知ってるよ。だが、この世界で力を持った者達が手を取り合い、共通の理念を掲げれば目標に近づけるはずだ。それに私は生来の、前世からの気質なのかな? 頭から不可能(ブウクウノン)だなどと思うよりも、まずは試したくなる性分でね。君は違うのか?」


―― こいつ、人のケツの掻き方を知ってやがる。なるほど、ジローが組んだわけだ。こいつも、自分の信念を持った盗賊……いや海賊か。


「それで、君の要件とは何だったか?」


 イワネツは、自分の愛車と上物の女を手に入れた事をジローに自慢話しながら、交流を深めようと考えていた。


 だが、今は顔は見えないが通話先の海賊と名乗る、アヴドゥルこと鄭芝龍に興味がわく。


「いや、単に俺の自慢話を聞かせてやろうかとな。新しいブツや女を手に入れたら、泥棒なら仲間に自慢したくなるものだろ? お前は違うのか?」


 通話先で声を抑えて鄭芝龍は含み笑いをした。


「ふふ、なるほど、それは確かにそうかもしれないな。私も舶来のギターや、カラクリ時計を手に入れた時、偉大な剣術師範に二刀流の技を授けられた時も、使い方含めて部下や仲間に、息子にも自慢してやった。そして、交易のルールや仁義を弁えぬ白痴(ペイチー)に力を示してやる事もな」


「ほう? 気が合うな、俺もだ。今度ギターを聞かせてくれ。ついでに、規律もないようなクソボケ(チョールト)共を潰し回ったお前の話も聞きたい。それと最後に教えてくれ、ジローは今何を?」


 イワネツの水晶玉が一瞬沈黙し、一拍置いた後、鄭芝龍は返答する。


「今、我が友が危機的状況にあるため、義理堅いジローは救いに行っている。本当は私も手伝いたいが、本調子ではなくてな。ちょっとしたヘマをして、外傷は癒えているが、毒が完治してない。だから君との連絡も含めてここの留守を任された」


「なるほど、ジローは仲間を救いに行ったという事か? 義理堅い盗賊は信頼に値する。その救いに行ったという、お前の友達とジローの仲間も盗賊か? まさかシミズか?」


「違う、彼じゃない。俺の友でもあり、皆の仲間でもあり、実質的な我らのリーダーにして、男の中の男だ」


――シミズが仕切れてねえだと? やつは自分から仕切りに行くような野郎だったはずなのに、なぜ? 野郎は自分の縄張り(テリトリー)に入れさせねえくせに、それでいて嬉々として、まわりくどい詭弁を使って他の縄張りを奪いに行くようなクズだった筈。

 

 イワネツは、勇者マサヨシが全て裏で手を引いてると思ったが、表立ってトップじゃないことに違和感を覚えた。


 そしてヤクザの清水正義は、日本国内だろうが海外だろうが部下達を使い、よその組織の縄張りに平気で踏み入れ、利権を奪いにくる男だったと記憶している。


――ロシアも、かなり極悪組のヤクザ共が仲介者を通じて入り込んでやがった。奴らヤクザは、日本だけじゃなくかなり広範囲で国際的に活動している。そして奴の行動原理は……縄張りの拡大と影響力の拡大、その目的は大抵金だ。やはり、やつは地球以外の世界に目を付けて……。


 イワネツは清水正義が転生した勇者マサヨシが、前世の生き方を恥じ、救いを求める人々の尊厳を守るため、弱きを助け強きを挫く生き方を選び、数多の世界を救済した事は知らない。


 むしろ前世に伝え聞いていた、凶暴で狡猾、極悪非道なヤクザの組長だった事実しか知り得なかった。


「君の言うシミズに私も会ったな、彼は英雄だ。前世における私の船団の創始者、偉大なる王直(ワンヂー)が信奉してた、弱きを助け、強きを挫く任侠を信条にしている。私も、この世界の救済を信条にしているのだ」


――人助け? いや、そんなはずは断じてねえ。奴は、はっきり言ってクズの部類だ。冷血だが信念を持ってるロバート・カルーゾほどの男ならわかるが、シミズは信念も美学も持っていない銭しか頭にないカスだった筈。それに、ジローも背後に奴がいるのは認めてた。こいつもジローも、おそらくもう一人関係を持っているという俺が知らねえ野郎も……。


「なるほど、つまり西側各国はお前とジロー、そしてお前の言う、友達とやらがチームを組んでる。そう言う事だろ? そしてジローは俺とビジネスを望んでいる。お前も自由交易と世界救済とやらのためにジローに手を貸してるという事か?」


「そう言う事だ。近いうちに、我が友にして我らがリーダーも加わり、君とその辺の会合を開きたい。ジローがお前を信用しているならば、君は私の信に値する男だと思っているからな。それに、君の心、いや魂だって人間の尊厳を、想いを、誇りを、生き方を……誰かを愛する気持ちを止められない。そう思ってるはずだろう?」


「……俺は盗賊だ。善良な表の人間である事をやめたから、俺はソ連をぶっ壊せた。俺は盗賊の掟に従い、俺がしたい事をする。そして俺が今したい事は寝る事だ、じゃあな」


 イワネツはそれだけ言って一方的に通信を切る。


 ソ連の闇の中で生きてきた彼にとって、鄭芝龍の魂の光が込められた想いは、今のイワネツにとって眩しすぎる光だった。


「さあて明日は早起きだ。酒かっくらって、戦利品の胡蝶を抱いて寝るか」


 一方夜通しでヒデヨシは犬こと転生前は、ニコライ・ソバキンの自宅で着物に刺繍をしていた。


 自分も、イワネツの行う軍事パレードに参加させてくれるというので、自分が一番輝いていた暴走族に着ていた、白の着物を丈の短い特攻服に加工する。


「はい、お茶どうぞ」


 ヒンダスで仕入れたお茶の苗を織部では大量に栽培し、これを収穫後発酵させずに乾燥させた緑茶を、まだ10代前半のように見える耳が垂れた犬耳の少女が、刺繍していたヒデヨシに持ってきた。


「お、サンキュー! 君、名前は?」


「松子です」


 ヒデヨシは、かわいい子だなあこの世界で友人になった犬の妹なのかなと思った。


「犬ちゃんさ、妹ちゃん可愛いじゃん? あとお茶サンキューな」


「ああ猿、彼女は俺の妻だよ」


「え?」


「え?」


 ヒデヨシは絶句しながら犬の方を見て、思わず刺繍していた針を指にぶすりと刺し、犬千代は正直に話したのになんでそんな顔するの? 指に針が刺さってるよ? と思いながらお互い顔を見合わせた。


「えっと、何から突っ込んでいいかわかんねえけど、ま、まあいいわ。あといっでえええええ!」


 ヒデヨシは出血した左の人差し指を口に咥えて、血がしたたり落ちないよう唇に指を押し付けて出血を止める。


「これは何だい猿? なかなかカッコいいデザインだ。漢字ってのがいいね、ロシアや欧米では見たことないな」


 白のお手製の短ラン式特攻服には、ヒデヨシが前世で10代だった時に来ていた特攻服の通り、刺繍を入れていた。


 右肩に‶愛羅舞勇(あいらぶゆー)″、左肩に‶仏恥義理(ぶっちぎり)″、右胸には‶全国制覇″背中には縦に大きく‶威悪涅津(イワネツ)軍団見参″、その上に横文字で‶夜露死苦(ヨロシク)″と漢字の刺繍が入っている。


「ああ、特攻服さ! 俺の晴れの舞台だからよ、気合入れるために刺繍してんのよ!」


「いいなそれ、今度オレにも作ってよ。それと、イワネツ様にも作ってあげよう。赤の上等な反物があるんだ。あの人、赤が好きだから」


 二人は、年相応の少年のように笑いながら松子と一緒に特攻服を作り上げた。

 

 翌朝早朝、まだ日が昇り切っていない中、イワネツ軍団は巳濃に向けて出発準備を整え、ヒデヨシは手製の赤の特攻服をイワネツに差し出す。


「どうぞ、長ランタイプの特攻服です」


 イワネツは初めて見る日本の特攻服に、欧米にはない斬新なコートだと、金糸の刺繍が入った特攻服をまじまじと見つめる。


「ほう、ジッポンとチーノの使ってる字じゃねえ。前世で見た中国の漢字が入ってるな、意味は?」


 特攻服は長ランタイプで、右肩に‶喧嘩上等″、左肩に‶一騎当千″、右胸に‶世界制覇″背中に大きく‶威悪涅津(イワネツ)″、その上に横文字で‶夜露死苦(ヨロシク)″と入っていた。


「へい、その右肩には喧嘩売り買いします。左肩には人並み外れた力を持ってますという意味ですぜ。右胸には世界制覇と言う意味で、後ろにはイワネツ様の名を漢字で入れやした」 


「ハラショー、俺にぴったりのコートだ」


 イワネツは羽織っていた真っ赤な羽織を鬼髭こと柴木に投げ捨てるように渡し、欧米にはないデザインを気に入り、ヒデヨシの作った特攻服を羽織る様にして纏う。


「行くぞお前らあああああ! ぱれえどすんぞおおおおおお!」


 軍団長柴木の号令でヒデヨシは、バイクのエンジン音やアクセルコールに見立てて荒々しくほら貝を拭くと、ロケットカウルや三段シートのパーツを付けた馬に二人乗りした武者がこれに倣ってほら貝を拭く。


 そしてイワネツ専用車の山車の太鼓が鳴り響き、早朝の東山道を一直線に行軍を開始し、その騒音は、異世界に突如として現れた暴走族そのもの。


 無数の提灯が光り輝き、太鼓の音がリズミカルに地面を揺らし、無秩序に奏でられた無数のほら貝の音色は、まさに暴走族が奏でるバイクのエンジン音と言った形。


 歩兵が魔力ライフルを両手に掲げ、軍竜が空を飛び、馬車を改造した大砲を装備した戦車や、族車のようなパーツを付けた騎馬隊が行進する。


 山車の最上段の金箔の三段シートに腰掛けたイワネツは両腕を組み、ヒンダスから仕入れた長大な金のキセルを咥えて、神も恐怖するような容貌になり煙を吐き出す。


 この光景に、街道沿いに配置されていた、巳濃の忍者たちは絶句し、騒音を立てて提灯で光り輝く族車など見たことがないため、恐慌状態に陥いってしまう。


 暴走族は元々、カミナリ族と言われる日本の昭和30年代から40年代頃のオートバイを用いた不良グループから端を発し、昭和40年代後半になると、若者の多くが高校に入ると同時に二輪車運転免許を取得するようになる。


 昭和50年代に入って若者でも買えるオートバイが発売されると、自動車やオートバイが特別好きなわけではない若者にも爆発的に普及し、オートバイを乗り回すのが当たり前の風景となるほど大衆化、低年齢化していく。


 この頃すでにヤクザであった清水正義こと勇者マサヨシの年代のヤクザ達は、この少年達の不良グループを、ツッパリとかヤンキーとか自称する、よくわからない小煩い小僧たちと言う事で面倒見、いわゆる金と暴力を用いて準構成員に仕立て上げていき、暴走族からヤクザになるというレールを敷いた世代であったため、暴走族にはそれほど強い思い入れはない。


 しかし、昭和50年代から平成一桁世代のヒデヨシのようなヤクザ達は、暴走族(こども)時代を経て大人(ヤクザ)になると言った段階を経ているため、ツッパリやヤンキーといったものは、自身のアイデンティーや青春とする文化的な側面になっていたのである。


「盗んだバイクで走り出す~♪ 行先も、わからぬまま~♪ 暗い夜の帳~の中へ~~~~♪」


 ヒデヨシはロケットカウルを模した馬に跨り、自身が好きだった前世の歌を口ずさむ。


 前世のヤクザ時代ではなく、自分が一番輝いていた暴走族時代を懐かしむかのように。


 しばらくすると、巳濃まで10キロの国境の街道で、イワネツの右手を挙げる合図で暴走族は立ち止まり、突如行軍を停止する。


 これに恐慌状態になったのが佐藤道山配下の忍者集団で、彼らは土の魔法を使い、街道の林や岩に偽装することで隙を見つけ、イワネツを暗殺しようと企んでいたからだ。


「ふいー、朝日が昇って来やがったか。朝が来るとよお、いつものアレしねえとなあ」


 イワネツは、高さ5メートルはあろう愛車にした山車から飛び降り、着ていた袴をずりさげて身長160センチには似つかわしくないような巨大な逸物を出すと、忍者が偽装している岩目掛けて小便をする。


 そして織部軍の一団も、忍者たちが化けた木々や岩目掛けて小便を放った。


――うわぁ、汚いこいつら! だがしかし隙だらけ。お命頂戴っ!


 忍者たちが一斉に暴走族のような織部軍に襲い掛かろうとした時、イワネツはおもいっきり岩に化けた忍者を蹴っ飛ばすと、忍者は一瞬で天高く舞い上がって空の彼方に消えて行った。


盗賊(ブラトノイ)なめやがって、殺気漏れてバレバレだ阿呆(アショール)!」


 イワネツ専用車運転手の犬千代が、無表情で魔力銃‶多根が島″に土の魔力を込めた徹甲弾を連射し、岩や木々に化けた忍者たちを次々屠り去り、他のイワネツの家臣達も、襲い掛かる忍者達を瞬く間に蹴散らす。


「イワネツ様は当然なんだけど、犬ちゃんハンパねえ。やべえよ、顔色一つ変えずに流れ作業みてえにチャカぶっ放して相手ぶっ殺してんよ……ロシアンマフィア強すぎだろ」


 ヒデヨシは思わず白目を剥きそうになりながら、忍者達が瞬殺される状況を馬に跨って眺めていた。


 そしてもう一人、その様子を国境の民家から感覚強化の魔法で眺めていた佐藤道山は、織部軍の軍勢とイワネツと配下の者達の強さ、装備と兵力の質と量に絶句する。


――あやつら……ワシの配置した忍者たちをこうもあっさりと。しかもチーノ大皇国や、おそらくヒンダス製の最新鋭の火器……であるなあれは? なんて馬鹿げだ武装じゃ。あんなにも鉄砲や、大筒を大量に備えておるとなると……。おそらく副将軍今田も、将軍家の東條も、最強の騎馬隊を持つ甲猪の高田も、軍神とうたわれる越弧の植杉であったとしても……勝てぬ! 


 佐藤道山こと勘九郎は国盗りをする前の忍者時代、諸国を傭兵として小間使いしたこともあり、各国の武装と将の力に関して頭には入っていたが、その大名各国の兵力をイワネツの組織した織部軍は遥かに凌駕していた。


――しかも今来ているのは全軍団ではないはず。だとしたら、その総力は計り知れぬ。それに何なのだ? まるで狙ってくれと言わんばかりの、奇妙奇天烈な軍は。意味が解らぬし、それにあの憲長の恰好、奇妙な陣羽織を羽織って……頭がおかしいにもほどがあるし、理解できぬ。


 合理的思考の塊である道山は、イワネツの着ている派手な特攻服や、騒音を立てて無駄の塊のようにも見える暴走族のような行軍、その一方で自分の巳濃の国や周辺各国の武力を遥かに凌駕する織部軍の力に、理解が及ばず困惑したが、ある結論に達すると道山の顔面は蒼白となる。


――まさか……奴は我ら巳濃を油断させ攻撃させるため、あんなにも目立ちながら隙だらけの行軍をしたのか!? で、あるとしたらワシら巳濃は奴に滅ぼされ……これは、憲長の策ではないな? あやつか、奴の親である織部の虎、織部憲秀の策か!?


 道山は、織部の虎とも言われたこの世界のイワネツの父親、織部憲秀の策にこちらはまんまと引っ掛かり、巳濃が攻め入られる大義名分を作ってしまったのではないかと思い、呆然となって膝から崩れ落ちた。


「ハッハッハー、ニューヨークのゲーセンでメダルつぎ込んだバー●ャコップみてえだ! シューティングゲームは大好きなんだ。特に酒飲みながらやるとよお!」


 イワネツは、岩陰や林から次々と姿を現し、手裏剣を投げてくる巳濃の忍者達目掛けて魔法の短筒を乱射していく。


 酒を飲みながらゲーム感覚で殺人するイワネツにヒデヨシはドン引きし、イワネツ軍団の圧倒的な火力に忍者達は成すすべもなく、周りの景色に同化して岩や木々の陰に隠れた。


 だが今度は巨大なクレーンが魔法で具現化し、忍者達をキャッチして持ち上げると、鬼髭こと柴木の号令で、軍竜が火焔のブレス攻撃を繰り出して忍者達を燃やし尽くす。


「ハッハーお次はクレーンゲームだぜ! ホレホレ、お前らニンジャだろ? 多分巳濃のもんだろうが、このイワネツ様に少しは骨のある抵抗して見せろ!」


――えぇ……この人、忍者っぽいのに襲われてるのに、ゲーセンで遊ぶ中坊みてえな感覚で撃退してんよ。やべえよ、ロシアンマフィア怖すぎるって。


 ヒデヨシは、イワネツ達の圧倒的な暴力を目の当たりにし、白目を剥いて呆然としながら馬に跨っており、一方の道山は特大のため息を吐く。


「街道に待機させた配下の忍者達を撤収させよ、もはや無意味じゃ。稲波山で狼煙を上げさせよ、それと織部に捕まった忍びに自害させるのじゃ」


「ははー! 大殿様」


――もはや是非も無し。やはり、やつめを暗殺するのは無理じゃ。ワシが聖得神社の会合にて、このワシの存在を認めさせ、ワシの作り上げた巳濃を認めさせるしか道は無い。


 道山は、民家の裏から護衛たちに囲まれて街道の戦場から脱出した。


 道山が会合に選んだ聖徳神社は、古来より古の神である海神ニョルズを祀る神社であり、元は天帝家に仕える神官の一族であった織部家ゆかりの社であったが、道山が国盗りをする前の時代、戦乱渦巻くジッポンの歴史の流れで巳濃により奪われ、これが元で織部と巳濃は長年対立関係にある。


 道山は神社中殿に勢揃いした家臣団達に、声を荒立てながらイワネツを迎い入れる準備をしていた。


「急ぎ会合の仕度せい! 周囲の鉄砲隊も下がらせるのじゃ! もはや憲長めには無意味!」


「しかし親父殿! 織部に放った草の情報によれば、当主の憲秀は胃を患い、長くはない筈。あとは憲長さえ亡き者にすれば、織部は我らの手に……」


 鹿のような角を頭部に生やした長男の辰興(たつおき)に対し、道山は彼の横っ面へ裏拳を放って吹っ飛ばし、毒蛇のような眼光で睨みつけながら何度も足蹴にする。


「お前などに言われなくとも、もう手は尽くしたわ! もはやあやつにはかなわぬ! 貴様も巳濃佐藤家の当主となるからには、その辺の機微を読めぬでどうするか阿呆めが!」


 道山は、この辰興にせめて10分の1ほどでもよいから、知略と器量の才覚が遺伝すればよかったのにと、自分の一族の行く末に不安を覚える。


 そして自分が築いた、ジッポンに虐げられしオニの血を引くと言われる、自分と同様、被差別階級出身者の為の国を作ったのに、戦国の世に倣いイワネツこと織部憲長に滅ぼされるであろう未来が脳裏に思い浮かび、涙目となった。


 すると、爆音のようなほら貝の音色と、大地を揺らす太鼓の音がこの神社に近づいているのを感じ、事情を知らない佐藤家臣達は、お互い顔を見合わせて何事かと困惑する。


「そうれ、来おったぞ……大うつけが。皆の者よ、丁重に織部憲長殿を迎い入れるのじゃ。これより、我が巳濃と織部国の同盟の儀を執り行う」


「ははー!」


 一時間後、聖徳神社境内の中殿にイワネツが姿を現す。


 いつもの派手な着物姿や、雑に結った髪型ではなく、ジッポンの伝統に則った正装姿をして。


 織部家の家紋である、五瓜に蓮花の木瓜紋が入ったえんじ色の大紋直垂(ひたたれ)に長袴を履き、椿油で髪をとかして髷を結ったうえで烏帽子を被った出で立ちは、イワネツの肌がジッポン人と異なりやや色白で、どこか涼し気で気品ある顔をした美青年振りを際立てていた。


 この姿に、うつけと聞いていた巳濃佐藤家の家臣団が思わず見惚れ、道山も表情は崩さなかったが、先ほど忍者を相手に野蛮な殺戮をしていた男と、同一人物にはとても見えぬ身の変りぶりに、顔を腫らしてふてくされる自分の長男を見比べると、もはや巳濃はこの男の物になるであろうと悟るに至る。


「わしが巳濃佐藤家当主の佐藤道山である。そちが、織部憲長か?」


「いかにも」


 この装いは、一流の盗賊と認めた道山に対するイワネツの敬意の現れ。


 それと、普段着る服に無頓着なロシア人らしいイワネツだが、ロシアを出てアメリカで活動した際、東欧の野蛮人と馬鹿にされ下に見られる事がないよう、ロシア以外の海外組織との会合で、一流のオーダーメイドスーツに身を包んだ経験によるものだった。


「ふむ、ワシは国盗りなどと言われるが、そちから今、大事なものを盗られた」


「ほう?」


 自分の娘を戦利品として盗られた事についてなのかとイワネツは考え、道山がもしつまらない物言いをするのであれば、この場にいる巳濃の者達を皆殺しにしようかと考える。


「それは心じゃ。今いるそなたにワシを含め、家臣の者ども全員が心奪われた。古式に則った素晴らしい装いと、香り立つ男振りに、我が目も奪われたわ」


 道山の回答に、イワネツはさすがは一流の盗賊の言い回しであると感心し、優雅に中殿の畳の上を滑るように歩き、道山の前で平伏して顔を上げた。


「さすがは巳濃の佐藤道山殿。今の言葉で、私も含めてこの場にいる者達が皆、心よりも大事なものを奪われましたぞ?」


「ほう? それはなんじゃ」


 イワネツは右手の人差し指で、天井を指さすと全員が一瞬上を向くが、何もないとわかるとすぐに視線を道山の方へ移す。


「時だ。道山殿の一流の返答と今の私の所作で、この場にいる者全員が、今ほんの数秒ほど時を奪われました」


 この切り返しに、道山も大うつけという評価から一転、イワネツを稀代の切れ者かつその力と器量は、いずれジッポンそのものを手中に収めてしまうであろうと予感する。


 そして二人の間に、もはやこれ以上の会話は無用であった。


「稲波よ、これより織部との同盟の儀に入るゆえ、盃を持て」


「はっ!」


 こうして、互いに満足気な面持ちで二人の男は互いに盃を交わす。


 元ロシアンマフィアの頭目は、また一人自身が手を組むに値する男を見つけたことに歓喜し、もう一方の国盗りと呼ばれる男は、ようやくこの目の前にいる男の理解にいたり、恐怖が晴れて安堵した表情となった。


「さて、織部の次期当主よ、この聖徳神社は古来よりそちらの縁ある神社と聞いておる。和睦と同盟の証にて、佐藤家が奪ったこの神社をそちらに返還したいのじゃがいかに?」


「ありがたい申し出だ。それじゃあ同盟を組んだ佐藤殿に、良いものをお見せしようか。全員、神社から出てくれ、この場にいる全員だ。そうだな、10町(約1.1キロメートル)いや、念には念をで一里(約4キロ)ほど離れよう」


 イワネツは十分の距離を取るよう、この場にいる者達に命じる。


 そして離れた位置で、ロキから手に入れた腕輪ドラウプニルの効果を発動させて魔力を練り始め、自分の身長より倍以上大きい長さの、直径22センチの円筒状金属を具現化させる。


 その形はロケット砲戦車に用いられるようなロケット弾頭で、重さが170キロを超えていたが、イワネツは片手で軽々と右手に持ち、先ほど同盟の儀が行われた聖徳神社へ狙いを定めた。


「織部と巳濃が争った原因はこいつだろ? ならば今後のビジネスの邪魔になるようなものは、俺の縄張りにはいらねえ! 吹っ飛べ、気化爆弾(エーデーベー)!」


 イワネツは約4キロ離れた聖徳神社へ、気化弾頭のロケット弾を砲丸投げのように投げつける。


 ロケット弾は風の魔力に乗って聖徳神社に命中後、弾頭から勢いよくハロゲン酸化剤の可燃性ガスと共にアルミニウムやマグネシウム粉末が一瞬で噴霧され、投じたイワネツが指を鳴らすと、金属粉に冥界の炎が着火された瞬間、周囲の酸素を取り込むようにして一瞬無音となった後、神社が跡形もなく吹き飛ぶ。


 その効果は瞬間温度が3千度にも上昇し、気圧の変化と衝撃波による内臓破裂、無酸素状態にしてから一酸化中毒によって死に至らしめる効果を持つ。


 ロシアではTOS(トス)-1「ブラチーノ」と呼ばれる、ソ連アフガン戦争の秘密兵器、多段式弾頭戦車に主に用いられた、サーモバリック弾頭をイワネツは具現化したのだ。


 ジッポン建国の神ニョルズの神社を吹き飛ばしたイワネツの無軌道さと、忍者も真っ青な超威力の爆発系高等魔法をやってのけた事で、巳濃の面々とヒデヨシは顔面蒼白となる。


「ふう、すっきりしたぜ。おう、お前ら同盟結んで用も済んだからさっさと帰るぞ」


 爆音を奏でながら、イワネツ軍団は織部の国へ帰還した。


「親父殿、あいつは悪魔だ!」

「左様、如流頭神の罰が下りますぞ!」

「恐ろしい、なんて奴だ」


 しかし、その意味を合理的な思考を持つ道山は理解した。


 この男はジッポンの古き慣習や、この島国の在り方全てを変えてしまう気なのだと。

次回は主人公視点に話が戻ります

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。