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転生したら楽をしたい ~召喚術師マリーの英雄伝~  作者: 風来坊 章
第三章 英雄達は楽ができない
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第85話 兄貴(シージャ)後編

(ぬー)やん! 理事会んかいん出らんてぃがろー大吉とぅ小吉ぃ! 那覇ぬ兄弟(ちょーでー)達とぅ、(むる)沖縄(うちなー)ってぃ、仲が良ーとぅそーんしが、我の面子潰りーんだる! なめいてぃーるぬが!」


 今度は、なんかめっちゃ恰幅が良くて、ポロシャツ姿のお腹とか出てる男の人が、怖い顔して怒鳴り散らしてる。


「金城ん親方、堪ねーてぃくぃみそーれー。比嘉ぬシージャー達ん、()ーが理由ぬあてぃぬくとぅでぃ……互ー話し合りー……」


()ー? 小僧ぬ癖んかい生意気抜かしねーいぃ! お前(やー)死なすどー清志ぃ! わじわじーするん! あったーよ、たっくるせ!」


 これは……ジローだ。


 どこかに茶目っ気があってカッコ良い感じの人から、年月が過ぎて嫌な顔つきになって、なんかすごい怖い人になってる。

 

 そして先生は、無表情でその映像を眺めていた。


「俺もそうだったが、立場が人を作る。いい意味でも悪い意味でもな。そして人は変わる、いい意味でも悪い意味でも。俺はそうした場面を何べんも見てきた。金城もわかってたろ? あれは自分でもよくなかったって」


 人は変わるか……確かに。

 私は前世でもそういうの少し見てきた。

 仲良かった子がいじめっ子に豹変するのを。

 優しかった父が殺人者に豹変したのを。


 そしてこの世界で、嫌な感じの顔付きをしてた各国の王子達が、本当の魂に目覚めてって、カッコいい男になった瞬間も。


「こっからが業との戦いの正念場だ。命と魂を賭けた、男と男の魂のぶつかり合い。俺の時は博徒としての意地と誇り、そして子分と舎弟への愛が試される場面だった」


「ジローの場合は……」


「ああ、金城の……アシバーのジローの、自由と地元を愛した男の美学と、強さと優しさが試される場面だ。信じろ、奴の強さを、優しさを。あいつならきっと乗り越えられる。きっと大吉の業も、救ってやれる」


 ジローは、悲壮な顔つきになって涙を流しながら大吉と戦ってる。


「シージャ! (わー)はシージャーにんかい憧がりとーたんしが! やしが、金とぅ女とぅ組織の面子しか頭んかい無ーなてぃ、我達(わったー)コザぬ者虐め(みみじ)てぃ……何故(ぬーん)やんシージャアアアアアア」


「ゆたさんどー大吉ぃ。己ぬ思い、我にんかい全部ぶちきてぃんーでー、来ーわさぁ!」


 ジローが呼びかけると大吉の打撃が、より激しさを増す。


 そして大吉の着ていたポロシャツも破けていき、毒蛇のような入れ墨が浮かび上がった。


 まるで手足が鞭のようにしなりジローを滅多打ちにしている。


 スナップを効かすとかそういうレベルじゃない、まるで全身が鞭のようにしならせて、パンチやキックしてて……。


 いやそれだけじゃない、ジローの体……いや魂か?


 ところどころ切れてて、鞭のような攻撃だけじゃなく、まるで刃物だ。


 鞭のような攻撃に加えて、指先や足先そのものをナイフや刀の様にしてジローを攻撃している。


「無茶苦茶な攻撃だな。だが、空手ってのはああいうことが出来ちまうらしい。極限まで指先を鍛え上げ、まるでドスや刀のようにしちまう。俺の子分にも空手の使い手はいたが、全身を鞭や刃物のようにしちまう野郎なんか見た事ねえぞ。あれが全盛期の、沖縄最強の殺し屋と言われた、ハブの大吉か……」


 沖縄最強の殺し屋か……。


「けど、その大吉も結局転生前に先生にやられたわけだし、彼が沖縄最強だったなら、日本最強の殺し屋なんてのもいたんでしょうか?」


「ん……日本最強の殺し屋ね。殺しの軍団ってのが前に俺の組織にあってな。時代とか組織によって違うと思うが、日本最強の殺し屋か……わからねえなあ……そんな奴いたか?」


 なんか先生、鼻のあたりポリポリ掻いてる……。


 そういえば先生、戦いの最中やエリザベスとやり取りした時も、殺し専門の仕事した事あるって言ってたけど、まさか……この人……。


 いいや、聞くと怖そうだしやめとこう。


 一方、ジローは両足を八の字に開いて内股をしっかりと踏みしめ、両腕を体に引き付け、仁王立ちのような構えを取って、大吉の攻撃を全部受けて、あれは確かジローが私にも教えてくれた空手の型、三戦(さんちん)立ち。


 受けきる気だ、ジローは……大吉の魂を込めた力全てを。


 そして映像は、華やかなナイトクラブに変わり……。


「見るなマリー! 下ぁ……向いてろ。おめえさんは、見ちゃいけねえ」


 私は先生から言われた通り、下を向くと銃の発砲音が何発も聞こえて、悲鳴が聞こえてきた。


 私が、ジローの方を見ると、大吉の目からも涙が溢れ出てた。


 そうか、きっとさっきの映像は前世のジローが殺された時の……。


「大吉ぃ隙ありやん」


 ジローが渾身の後ろ回し蹴りで、大吉を吹っ飛ばす。 


 大吉は両手を砂浜について、大粒の涙を流してる。


「立てぃ大吉! まだやん! お前(やー)心根(ちむぐくる)全部(むる)受きてぃえーどー?」


「シージャ…… ()なーもう嫌やさ。シージャー殺ちくとぅ……()ーや小吉ー、沖縄(うちなー)中ぬ不良(アシバー)から殺されいそうんかいなたん。那覇んコザん、皆敵んかいなたん。あんすくとぅぁ、()ーは、殺ち殺ち殺しまくたん! すしたら皆死じゃんさ……小吉、弟分(うっとぅ)()ー庇ってぃくれたシージャー達ん皆死じゃんさ……沖縄(うちなー)にいられなくなたん……」


 精神世界の映像が一人称の視点になって、まるで自分がゲームのプレイヤーみたいな感じで、色んな人達が射殺されたり、刺殺された映像に切り替わる。


 酷い……こんな……。


 そして、大吉の味方だった人たちも、次々と殺されていって……。


 あれは、彼の弟の小吉だろうか?


 顔の形が無残に変わってて、浜辺に捨てられてる感じになってて、それを見た大吉が小吉にすがりついて慟哭している……。


 これが先生が言ってた、半世紀以上続いてたという沖縄の暴力団抗争の歴史。


「あれがハブの大吉、毒蛇の二つ名を持った沖縄最強の殺し屋とも言われた大吉の業だ。そして奴は沖縄にいられなくなり、殺しの腕を買われて、本土の俺の組織でも活動した。こいつが直接ぶっ殺した人数は、多分三桁以上越えてるはず」


 人はこれほどまで残忍になれるのか、こんなにも人がたくさん死んで……。


 同じ、人間同士なのに。


 けど、その業が彼の心を、死んで地獄に行った後も苦しめてるのかもしれない。


「まずいな、これ以上大吉の業の精神汚染が激しさを増すと、ペチャラちゃんの心と魂が壊されちまう。金城! そろそろ決めろ! やべえぞ!」


 そうか、ここはペチャラの精神世界。


 それに浜辺から離れた花畑で眠る、ペチャラもどことなく苦しそうな表情に。

 

 すると、ジローの体が真っ白のような炎のオーラが覆う。


「金城の野郎、限界を突破して真の力に目覚めやがった! 沖縄の自由と地元を守るために、拳を振るった遊び人としての侠気、英雄の力に」


 ジローの胸と背中には、真っ赤な二対のシーサーの入れ墨が入る。


 すると、彼の体が真っ白く輝き始めた。


「シージャ…… ()なーもう嫌やさ……くり以上戦いらん…… 勘弁しくぃーさぁ」


「構えれー大吉、(いきが)らーしく。ペチャラちゃん、ちゅらかーぎー(いなぐ)ぬ前っしはばーぐゎーし(いい格好)ーさねいでぃ、()ーが遊び人(アシバー)やん、なあ?」 


 ジローは半身になって、四股立ちのような構えを取る……これは。


「カウンターの型だ。おそらく剛柔流沖縄空手必殺のカウンターの構えだろう。ハブの大吉の技と魂を全て受けきり、己の想いもぶつけるつもりだな」

 

 大吉がフリッカージャブを繰り出し、ジローの顔面に当てたと思ったら、逆に右肘打ちが大吉のアゴを弾き飛ばし、負けじと右の正拳突きを大吉が繰り出した瞬間、突きの軌道をジローが左手で払いのけて、右の手刀を大吉に繰り出す。

 

 そして前蹴り、肘打ちを連続で繰り出していき、大吉の突きを次々と払いのけていき、ジローは右手で払うように、下から上へ金的打ちする。


「己ぬ思い、我にんかいぶちまきれえええええ! 大吉いいいいいい!」


 大吉がジローに渾身の顔面への正拳突きをヒットさせ、組みついて投げようとした瞬間、両手でジローは大吉を払いのけ、目にも止まらぬ足払いで倒した大吉に両手突きを繰り出した。


「剛柔流奥義 十八手(セーパイ)


 ジローは下段払いで残心を取る。

 この勝負、ジローの勝ちだ。


 そして次に流れてきた精神世界の映像は、紺色の高級そうなダブルのスーツ着てる、スキンヘッドで顔中傷だらけの、体がでっかいプロレスラーみたいな怖い人が、ガリガリにやせ細った大吉を、薄暗い地下室みたいなところで殴り飛ばしてる場面。


 ていうか、空手や殺人術の達人の大吉を、殴り飛ばしてるとか、この人ヤバいくらい強い。


「お前みてえな、絶縁者がうちの縄張り(しま)で、なんでシャブ弄ってんだ? 縄張り(しま)荒らしだろうが。ここら一帯、誰の縄張りだと思ってんだ!」


 スキンヘッドの人だけじゃなく、他にもヤクザっぽい人達に囲まれて、大吉はピクリとも動かない感じで、これは……一体。


「おう、この野郎か。状回ってんのにうちの縄張りで、勝手に殺しの請負や、チャイナの組織とシャブの売してた比嘉ってのはよヤス?」


 うわぁ、今度はサングラスかけて咥え煙草の、頭が大仏様みたいなパンチパーマしてる、スマートそうだけど背の高い、めっちゃ怖そうな人が出てきた。


 顔の彫とか深くて歳の感じが、40歳くらいだろうか?

 

 黒ストライプの高級っぽい、スリーピースのスーツ着てて、まっ金、金の腕時計して、仕立ての良さそうなシルクっぽい白いシャツに、金ぴかのよくわかんない柄のネクタイつけてて、ポケットに手を突っ込んで、いかにもその……ザ・ヤクザって出で立ち。


「へい、兄貴。この野郎です」


 すると、パンチパーマの怖い人は、仰向けに横たわってる大吉にものすごい勢いで駆け寄って、サッカーのドリブルみたいに、めっちゃキックし始めた。


「てめえこの野郎ぉ! 俺の縄張りで勝手に断りもなく、殺しの請負やシャブ弄りやがって! ぶち殺すぞゴラァ!」


 うわぁ……怖すぎる。


 なんか、存在そのものが暴力って感じで、ちょっと関わりたくない感じ。


 10数発くらい蹴った後、パンチパーマの人がサングラス外すと、めっちゃ怖い目付きで大吉を睨みつけてる……。


 なんか目の上とか頬にも傷跡とかあるし、もう気迫がやばい。


「眼鏡、時計!」


「へい、預かります」


 あ、パンチパーマの怖い人が、金ピカの時計とサングラスをスキンヘッドの男に手渡した。


道具(ドス)!」


「はい、どうぞ」


 え?


 なんでドスって単語だけで、医療ドラマで医者が全然顔も上げずに、看護師がメスを手渡すみたいな感じで、ドスが普通に出てくるの?


 意味わかんないし、怖すぎるんですけど、このやりとり。


「そういや、風の噂で聞いたんだ。てめえがうちの本家の兄貴の組の枝から盃貰う前、沖縄で不良してたそうじゃねえか? さっき電話で向こうの琉道会に頭下げて、てめえの身元洗ったよ。したらかなり前だが、てめえ向こうの理事や、若いもんを何人もぶっ殺したって事で、手配かかってるよな? でよ、そのうちの一人がよう、俺様の兄弟分なんだ……言ってる意味わかるよな?」


 ハッとして私は先生の方を見た。

 あれは……。


「あのー、あれもしかして」


「ああ、見た目はカッコいいだろ? 昔の俺様はよ」


 いやいやいやいや、カッコいいとかカッコ悪いとかそんな次元じゃないって!


 なんていうか近寄りがたい感じで、あんな人が半径10メートル以内にいたら、ダッシュで逃げるって、ほんとマジであんな人いたら怖いもん。


「わかるよなって聞いてんだ! なめんじゃねえぞチンピラァ! この人斬りマサ様をよ!」


「うぎゃああああああああああ!」


 うっ……動けなくなった大吉の右腕とか執拗に刺しまくってるし怖すぎる、なんなのこれ気分悪くなってきた。


「この右手か! 俺の兄弟やった手は! てめえふざけんじゃねえぞこの野郎!」


 するとスキンヘッドの人が、先生の傍らに立った。


「兄貴、こいつ左利きですぜ?」


「何だとこの野郎? じゃあ左腕出せゴラァ! それと両指全部置いてけオラァ!」


「あっがああああああああああああ!」


 げっ、今度は左腕とか何度も何度も刺しまくって、転生前の先生、怖すぎる……。


「おめえには、あんまり見てほしくねえが、あれが前の俺だ。暴力に生きて暴力で死んだ、哀れな外道の姿だよ」


 あ……うん。


 そうだよね、こんな暴力繰り返してたらいずれはその暴力は……。


 すると、その時の恐怖を思い出したのか、大吉が頭を抱えてうずくまった。


 確かにあんなことされたら、トラウマになるだろう。


「兄貴ぃ、ちょっといいかー」

「おう、いいぞ。やれ」


 ジローが先生と対峙すると、思いっきり正拳突きして先生を吹っ飛ばした。


「いくら兄貴だろうと、俺ぁが死んでたとしても、あいつー俺ぁの弟分(うっとぅ)やん! こんな事して俺ぁが喜ぶとでも思ったんか兄貴!」


「……すまねえ、兄弟」


 先生は起き上がった後ジローに頭を深々と下げた。


 そしてジローは、恐怖で震える大吉を見下ろす。


「大吉ぃ……お前(やー)ん……辛さたんだるうやー、痛さたんだるうやー。なー、もー大丈夫やん、我が居ぅん、なあ?」


 すると、大吉はジローに抱き着いた。


「シージャああああああ、わっさいびーん! わっさいびーんよおおおおおお!」


 まるで本当の肉親同士のように、二人とも抱きしめ合って、毒蛇みたいな目付きだった大吉が、子供みたいに泣いてる。


 するとペチャラの精神世界の風景が、陽気な音楽で老若男女が躍っていたり、戦後荒れ果てていた沖縄の街が、人々が笑いないながら町を行き交い、浜辺で子供達が遊んでて、サトウキビ畑でお年寄りがニコニコしてる、私が知っているような美しい沖縄の映像に切り替わる。


 そしてジローと比嘉兄弟が肩を組んで、夜の街で歌いながらお酒に酔って千鳥足で歩く姿も。


 私も、目からも一筋の涙がこぼれ落ちた。


「その後、俺が半殺しにしたハブの大吉はよ、船で沖縄組織の人間が俺に頭下げて連れてった。どうなったか結末は知らねえが……多分ケジメとらされたんだろう」


 そうか、それで先に死んだ小吉の方は、魂に傷がついててこの世界に転生してた。


 そして大吉の方は、殺人とか繰り返す殺し屋だったから、小吉より罪が重くて長期刑の地獄に入ってたんだ。


「金城、そろそろいいな?」


「ああ、兄貴頼むー……。大吉ぃ、小吉の事ー(わん)が面倒見ーん。もしも次に生まれ変わっても……お前(やー)んまた弟分(うっとぅ)にしてぃやるから……な」


「金城んシージャー……シージャ、やっぱりーんちゃ、格好いいさんやー。有難うございます(にふぇーでーびる)兄貴(シージャ)


 先生は冥界魔法を唱え、大吉はジローに微笑みながら、元の地獄へと還って行く。


 すると景色が反転して、海に夕日が差し込むネアポリの港に戻り、私も元のドレスに戻っていた。


 ペチャラは、徐々に石化が解け始め、気を失った状態で、サルバトーレ伯こと小吉の方は、大吉が敗れ去ったことを確信したのか、金属の鎖で縛られながらうな垂れている。


「マリーちゃん、兄貴ぃ……もう一人、俺ぁの弟分の心、救ってくるん」


 ジローは、小吉の側によって頭を優しく撫でた。


「小吉ぃ、大吉は地獄ぬ懲役行ったさー。お前(やー)、阿片ぬ禁断症状辛さたんだるうやー。やしが耐えれー、薬抜ぎてぃ反省しーねー。すしたらまた、弟分(うっとぅ)んかいしてぃ面倒見ーん、なあ?」


兄貴(シージャ)……ごめんなさい(わっさいびーん)……」


 そして、目覚めたペチャラにジローは振り返り、ニコリと笑う。


「ジロー様、私、とても悲しい夢を見てました。大好きだった人と喧嘩別れして、殺してしまって、最後に恐ろしい目に遭って……けど、その人が優しく抱きしめてくれて」


「そうかー、俺ぁもそんな夢見たさー。けど、最後は楽しい気持ちになって、救われた夢だったろー?」


 大吉の魂が地獄に戻ったことで、護民官たちやロマーノ海兵、それに傭兵団達も、大吉の魔法効果が切れて私達のもとに集まってきて、周りを囲む。


「みんなーこの場は、俺ぁが事を収めた。このロマーノで人々がいがみ合い、武器を向け合うんのも、これで終わりやん。命どぅ宝……戦世は、お前達も嫌いだろ? だから俺ぁは、俺ぁ、この国みんなが楽しくなる、夢のような存在になりとーん、みんなで笑い合いたーいさあ」


 ジローがみんなに言い終わると、周りを囲んだ全員が、手に持ったライフルや剣を掲げて、ジローに笑顔を向けた。


 英雄……。


 ジローもまた、己の前世の業に決着をつけて、人を救う優しさと、強さを持つ英雄になりつつある。


「そろそろ時間か。じゃあな、マリー。また困った時は俺を呼び出せ。多分、この分だとデリンジャーも、龍の野郎もかなり苦戦するはずだろうから」


「はい、先生。それと、先生が言ってたジッポンのノリナガことイワネツとも連絡取れました」


「はあ? マジかよ。あの野郎どんな感じだった?」


 私は、時間がないので手短に先生に事情を話す。


 ジッポンが今、戦国時代を迎えている事と、ロレーヌ皇国の動向がなんかおかしい感じの事。


「なるほど、イワネツの方は引き続き金城に渉外担当させとけ。あと決して油断するなよ、野郎がかつて地球最悪と言われたヤクザ者ってのを忘れるな。それとロレーヌの方は嫌な予感がするな。そっち重点的に情報収集しねえと、やべえ気がするぞ」


「はい。それに、ワルキューレ達の動向も全然掴めません。先生、もしかして彼女たちは……」


「ああ、言わんとする事はわかる。東方ナージア全体がきな臭い感じだな。多分、奴らが介入してくるとなると東方からだろ。すまねえ時間だ、じゃあな」


 先生の召喚効果が切れて、元の世界へ帰って行った。


 召喚システムは、召喚された対象が、力を使えばそれだけ時間が短くなるし、先生クラスの勇者だと、破壊神召喚の時と同様、膨大なHPとMPを消費する。


 黄金の鎧姿になった時にしか、指輪の力でも戦闘形態の先生を召喚できないから、いわば私の切り札、先生の召喚は。


 その時、水晶玉から通信が入った。

 これは……デリンジャーからだ!


 緊急通信のコール連絡だから、多分レスターという男絡みの案件かも。


 私は水晶玉の通話機能をONにした。


「すまねえ、マリー。偽デリンジャーと思ってた犯罪者は、どうやら俺の元仲間で本物のデリンジャーギャング団かもしれねえ」


 嘘? だってデリンジャーギャング団は、殺人を禁じてた筈なのに、一体誰が?


「今はどんな姿をしてるかがわからねえ。だが、フランソワの南東部のルグドゥヌムの金融センターが強奪されて、英語で置き手紙されてた。親愛なる友よ、俺はこの世界に蘇った。今度二人きりで話をしよう、俺はそうしなきゃならないと」


「心当たりあるの? その人物に」


 多分、その人物こそがレスターという男。


 地獄から蘇った魂を持つ、デリンジャーと縁のある凶悪な犯罪者。


「奴は……多分俺よりも強いぜマリー」


 嘘でしょ、デリンジャーより強いって。

 そんなの化物だってそいつ。


「あいつは……仲間だった。すまねえが、お前らを巻き込みたくねえ、連絡を断たせてもらう。じゃあな」


「ちょ、ちょっと待って!」


 通話が切れてしまった。


 どうしよう、彼は自分一人で決着をつける気だ。


 私も、今からフランソワまで言って彼を助け……。


 すると、私達の前に男が一人落ちてきた。


 身に着けていた白衣がボロボロにされて、体中傷だらけにされて……。


 嘘でしょ! 何でこの人が!?


「龍さん!?」


 生きてはいるが、意識はない。

 めちゃくちゃ強い彼を、誰がこんなに……。


「マリーちゃん、なんでさ!? なぜこいつーが、アヴドゥルがここに!?」


「わかんない、けど……早く手当てしないとこの人が死んじゃう!」


 そう、今から思えば私と先生の戦略ミスだったのかもしれない。


 彼らに、自分達と関係深い業の魂の話をしなかったことは。


 そして、私達が終わらせたはずの世界大戦は、ただ形を変えただけで全然終わってなくて、東のナージアと西のナーロッパ間で、間もなく大戦争が勃発することも、この時の私はまだ気が付いてなかった。

次回は三人称の世界情勢に入ります

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