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転生したら楽をしたい ~召喚術師マリーの英雄伝~  作者: 風来坊 章
第三章 英雄達は楽ができない
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第86話 謀略者達 前編

 マリーが、ネアポリ港の戦いとバブイール王国、アヴドゥル・ビン・カリーフ前皇太子暗殺未遂事件が発覚する前の、同日早朝のヴィクトリー王国ヴィクトリー城内で、野太い声をした男がロキを抱きしめる。


「あらやだ、ロキちゃん今日もかわいいわねー。おはようのキッスさせてーん」


「え? やだよ。ていうか、くっつくなって……君が刑務所仲間じゃなかったら、殺してるところだよクロヌス」


 ヴィクトリー城玉座の間にて、エリザベスは自身が呼び出したクロヌスが、ロキに抱き着きキスをせがんでる状況を、呆気にとられながら見つめる。


「そういえばー、エリザベスちゃんもいつもの衣装じゃなくって、もっと女の子らしい素敵な服いた方がいいわよ~ん。私が、今度作ってあげようかしら?」


 天界指定4類、大逆神クロヌス。


 身長3メートルを超え、ウェーブがかかった金髪にティアラを付け、筋骨隆々の体をピンクのドレスで包みこみ、巨大な足にハイヒールを履いた、野太い声をした青髭おネエな大男にして、神域オリンポス出身の元最上級神である。


「クロヌスのおじ様、僕にも衣装が欲しいワン」


 自分もかわいい衣装が欲しいとせがむロキの娘、フェンリルをクロヌスはじろりと睨みつけた。


「おじ様? おネエさまでしょう? ちょっと~ロキちゃーん? ダメじゃないのフェンちゃんにあたしを、ちゃんとおネエって呼ぶよう教育しないと―」


「は? 知らないよそんなの。うちの娘の教育方針とかに口出ししないでくれる? 君はほんと面倒臭いよねー。そういうわけだからフェンリル、めんどくさいかもだけどこの化け物、おネエって言ってあげて」


「はい、お父様ワン」


 エリザベスは、ニブルヘルよりこの神を召喚した時、度肝を抜かれたことを思い出す。


 なんでこの神、トランスジェンダーなおネエ? と。


「ちょっとー化物って何よ? オネエにたいして失礼しちゃうわ。ところでロキちゃん、ティアマトちゃんは別にいいとして、セトもこっち呼ぶってホント? あの子性格悪いし、口も悪いし、スケベだし意地悪だからあたし苦手よーん」


「え? 僕とはウマが合うんだけどね。あいつも、あの世界飽きたって言ってたし、もう少ししたらあいつも呼ぼうと思ってるんだ。ね? エリザベスちゃん」


 どんどん、このヴィクトリー王国が化物の国になっていく。


 エリザベスは白目を剥きそうになりながら、とりあえずロキに頷いた。


「おっと、そろそろエリザベスちゃんのお気に入りが、朝の報告しに来る頃だね。じゃあねー、エリザベスちゃん。僕ら、ブルーランドで遊びに行ってるから」


「そうね、ピクニックいいわねー。久しぶりの人間界、エンジョイしないと―。どこかにいい男いないかしらーん。あ、あたしサンドイッチ作っといたからーん、みんなで食べましょ」


 玉座の間からロキたちが姿を消し、入れ違いに宰相兼外相を兼ねる護国卿となった黒騎士、エドワード公爵がエリザベスに謁見する。


――気のせいでなければ、だいぶ前からこの城に、人知を超えるような化物じみた複数の魔力反応を感じる気がする。我が神オーディンが降臨された際に報告すべきか? いや、報告にあった我が王国キエーブに舞い降りたという、オーディンの娘たちと名乗る女神たちならば何か知ってるか?


 エドワードは思いながら、玉座に座るエリザベスに跪く。


「女王陛下、朗報です。敵対関係にあったロレーヌ皇国より、この度相互連絡の外交チャンネルが繋がれ、かの国より同盟の申し出がございました。いかがいたしましょう?」


「わかりました、後で私がマリア猊下と、ジーク様に感謝の意を伝えます」


「かしこまりました。それと、お喜びください陛下。東方チーノ大皇国は、名を大幻ウルハーン皇国に変え、我が国と交易並びに外交チャンネルを開きたいと申しております。これで、我が国への大陸国からの海上封鎖の裏をかくことが可能かと」


 東方ナージアにあるこの世界の覇権国家、チーノ大皇国は内戦の末、ジューの商人やルーシーランドキエーフ国が密かに支援した遊牧民の一団、ハーン一族が首都の中都を陥落させ、皇族を皆殺しにして大皇国を簒奪したのだ。


 黒騎士エドワードは、世界地図を風の魔法で浮かべて、レイピアで東方ナージア、チーノ大皇国改め、大幻ウルハーン皇国の位置を指した。


「陛下もご存知でしょうか、この東方沿岸部から北に迂回し、北極を抜けてナーロッパ大陸の敵対国を迂回することで、東方より我が国との交易が可能な、北極海航路が完成いたします。ルーシーランド諸国とは、すでに協力関係にありますゆえ、ノルド帝国圏を迂回し、あとは我が国の北方クラスゴの港を整備すれば、河川にて迅速な王都ロンディウムへ物資の輸送可能です」


「素晴らしい案です、これで我が国の物資不足を補えます。さすがは我が護国卿エドワード」


 このエドワードの正体は、世界崩壊を目論むルーシーランドのキエーブ王子、アレクセイ・イゴール・ルーシーである。


 そしてこの航路は一見、ヴィクトリー王国の物資不足を救済するようにも見えるが、これには裏があり、西方と東方の航路の中継地点となるルーシーランドが、複数の航路中継地点になることで、東方と西方から関税を取り、不毛の大地と呼ばれた地を富ませるための、この男の謀略。


 全ては、ルーシーランドに富を集中させて力をつけ、オーディンの意向でこの世界の人類を抹殺するための布石である。


「は! お褒め預かり恐悦至極。しかしながら、この案には障壁がございます。一つは、突如皇位の退位を表明し、外交チャンネルを打ち切ったノルド帝国。帝国の協力があれば交易期間を短縮させることが可能でありますので、現在外交チャンネルを模索中でございます。もう一つは、チーノの東にある謎に包まれたジッポン」


 大陸より東の果ての日本列島と酷似した、列島をエドワードがレイピアで指し示す。


「彼の国は、東方の大幻ウルハーン皇国を塞ぐかのような、交易の障害になる位置にございます。伝え聞くところによると、王家を二分する内戦を起こしており、とても協力や交易を結べる状況にないとのこと」


 エリザベスはジッポン諸島を一瞥し、転生前の生まれ故郷日本を思い出すと、嫌悪感を抱く。


 いっそ、自分の元に集まってきた化物達と手を組み、滅してやって植民地としてもいいと考える。


「なるほど、かしこまりました。ジッポンの内情と武力はいかほどかしら?」


「は、これは私の推測ですが、今は亡き、かのチーノ大皇国をして、独立を保っていたことを見るに、その武力はかなりのものかと。ジューの商人達の噂によれば、魑魅魍魎が跋扈し、人心が乱れ、首を刈り、殺人と強奪を尊ぶ蛮族共と聞き及んでおります」


 エリザベスは、日本の歴史を思い出す。


――まるで、南北朝時代みたい。武士だって、もとは日本各地の山賊のような豪族だったという。この世界で言う地球のモンゴル帝国が出現したとあれば、我が国が取るべき手段は。


「わかりました。ジッポンには一応使者を送り、交易を結べるか試しましょう。ダメなら私に考えがあります。それと東方大幻皇国とは交易と同盟を結び……ロレーヌのジーク帝と交渉して、大同盟と成し、忌々しい大陸国家へ侵攻させれば良いのでは?」


 エリザベスの案に、思わず笑みを浮かべそうになったエドワードは、感情を押し殺し心の中で笑う。


 たまにはこの女も気が利く事を言う、凶暴かつ極悪な蛮族ハーン共を金で唆し、この大陸全土を血の海に変えてやると。


 そして真っ先に潰すのは、古代ロマーノ帝国と手を組み、先祖達を奴隷身分にして物のように売買した、憎きバブイール王国からとも思いながら。


 一方ロレーヌ皇国では、困惑している男が一人、この世界では14歳の皇太子フレドリッヒ・ジーク・フォン・ロレーヌ、地球世界ではアッティラと呼ばれ、この世界ではジークフリードと呼ばれた男。


「しかし毎回思うがなんだ、この宮廷衣装は……女官と変わらぬ服を、この俺に……俺の子孫であるマリア・ジーク・フォン・ロレーヌと言ったな? あやつめ、うつけ者か?」


 貴族女性が着るような、真っ赤な色に袖が広く、帯が長く垂れ下がり、長めのロングスカートのような宮廷衣装に、地球世界では遊牧民の大王であったジークは困惑する。


「ああ……皇太子殿下、今日もなんと凛々しくも見目麗しい……」


「だめですわよ、そんな目で殿下を見つめたら……教皇猊下に知られたら……」


「ですが……並の女性よりも華やかで清潔感もあって……あぁ、いま、わたくしめを見つめて……素敵」


 ジークは、この分では子孫を増やすのは容易ではあるが、何故この宮殿には女官ばかりなのかと、ため息を吐く。


「こんな環境で育っては、俺の転生体も未熟な腑抜けに育つわけだ」


 千年前のジークフリード帝国においては、一騎当千の自慢の騎士団達。


 地球世界のフン帝国においては革鎧に毛皮を羽織った、自身を慕う歴戦の戦士達に囲まれていたので、男達だけの方が、色々と命令系統的なコミュニケーションがとりやすく、自身の宮殿と(まつりごと)に、女は邪魔であるとジークは考える。


 地球の現代社会では差別的な思想だが、厳格な王にして、硬派で根が真面目な彼はそう思っていた。


「あら、フレドリッヒ。お怪我はもう癒えて? 貴方ったら勝手にフランソワで降臨された伝説の女神フレイア様と、他国の蛮族共と戦ったくせに、おめおめと敗北し女神様も討伐されるなんて、男子として恥ずかしくありません?」


 二つ上の姉にして、第一皇女のブレタが嫌味を言いに現れると、鼻で笑ったジークは、一瞥して一言だけ述べた。


「どけ、男の戦と政に口出すな無能な女」


 ハンカチを噛み締めながら、地団駄を踏む癇癪を起こしたブレタを無視し、宮殿の中庭に出る。


「殿下、お待ちしておりました。お怪我が癒えた事、このフェルデナント、大変嬉しく思います」


 女官ばかりの聖堂兼宮廷のベルン宮に、ようやく男臭い話ができる、2メートル半の長身が目立つ、使える部下が来たと思い、ジークは口元に笑みを浮かべる。


 皇国最強の騎士、大公ヨハン・ベルン・フォン・フェルデナントである。


「ふむ、貴様も息災のようだな。ここでは息が詰まる。貴様が使えると思う諸侯達を呼び、合間に狩りでも行いながら、軍議を執り行いたいのだが如何に?」


「ははー。軍議に相応しい具足と衣服も新調させました、殿下」


「うむ、貴様の領内クロイツベルンにて、テントを設置せよ。今日からそこを俺の仮住まいとする。母上との交信は水晶玉で十分であろう? あと体が鈍っている。狩りと軍議の後、剣と弓の稽古に付き合え」


「ははー!」


 ジッポンを除く、全世界上空に浮かんだ映像から、伝説の英雄の魂を覚醒させた自身の主君が、瀕死状態から立ち直り、男子に相応しい立ち振る舞いを取っている事に、フェルデナント大公は歓喜し、自身の領地へ若き主君を連れ出す。


 しかしこの主君が、騎士道精神を重んじる自分の期待を、悪い意味で裏切る事に、この時の彼はまだ思ってもみなかった。


 一方、隣国フランソワ。


 地獄から甦りし魂を宿したものは、日が落ちる街の中央広場で、自身の親友と再び会える事を待ち望んでいた。


「きったねえ街並みだぜ。ドブとクソの入り混じった臭いだ。クソみてえなクソの国で大統領なんかになりやがって。ジョンのやつ何考えてやがんだ。なあ? アンナ」


「……」


 彼は、自問自答しながら広場の噴水に腰掛ける。


 地獄から甦り、地球世界と同様、強盗と殺人を繰り返す日々を再び送り、満足げに微笑む。


「お嬢さん、私とお食事にも?」


 そして、中央広場で声をかけてくるフランソワの男達にもうんざりしてた。


 それもそのはず、地獄から甦った魂が宿った依代は、亜人と混血して美人が多いと周辺国から噂される、見目麗しい17歳のフランソワの乙女である。


 そして依代の貴族子女の趣味である、シルクのドレスに、水色の髪を隠すようにスカーフを頭に巻いている。


 小顔で、整った顔立ちは年齢よりも幼く感じさせ、男性の保護欲を掻き立たせる可憐な乙女の顔をしていた。


 ただし思考は1930年代アメリカの大都市シカゴで、最も凶暴と呼ばれたギャングである。


 無視を決め込んでいても、しつこく声をかける元貴族の男へ、頭突きをくらわした。


「FUCK.YOU‼︎ てめえ、俺を誰だと思ってんだよ。くせえから声かけてくんじゃねえ」


 倒れた男へ金的蹴りを入れると、睾丸が一個破裂したのか、男は泡を吹いて失神した。


 そこへ旧憲兵騎士団、現在は連邦保安局と呼ばれる騎士隊が、サーベルを持って現れる。


「この殿方が、私にしつこく言い寄って、体を触ってきたので、お手を煩わせて申し訳ございません」


 すぐさま依代の魂に切り替わり、自身の紋章入りハンカチを出して取り繕うと、連邦保安局騎士隊が、機敏な動作でサーベルを掲げて敬礼した。


「はっ! 不届き者は我らが手で牢にぶち込んで起きます! 元アンザス大公もといアンザス知事令嬢、ルイーズ・ド・アンザス・ザグゼンブルー様」


 元貴族の男が引きずられていくと、ルイーズと呼ばれた女は、溜め息をついた。


「何がルイーズ嬢だ。元不法移民のアバズレのくせしてなあ? アンナ」


「うるさいわよ……ろくでなしのギャングのくせに」


 彼女の中で二つの魂が脳内で会話する。


 男からアンナと呼ばれた女は、ヴィクトリー王国の亡命王女に、嫉妬心を抱く。


「ようやく彼の事を、あの広場で行われた、ロレーヌの皇太子との決闘を見て、前世の記憶を全て思い出したのに……ジョンなんで? 私の王子様。あたしを忘れちゃったの? あの女が彼を狂わせてしまったの?」


「うるせえアバズレ。前世で俺の親友を裏切ったアバズレのくせして。ジョンがどこの女を口説こうが好きになろうが、あいつの勝手だろアバズレ」


「……」


 すると、元貴族令嬢ルイーズ・ド・アンザス・ザグゼンブルーの前に、真っ黒のセビーロに身を包み、ハット帽を被った集団が、噴水前に現れた。


 世界有数の都市パリスで暗躍する、表向き身分制度を撤廃した事で、没落した元貴族子弟達の不良集団である。


「リーダー、次はどこの銀行を狙うんだ?」


「ジュー共の銀行襲うのも飽きたしな」


「まだ俺たちが強盗に入ってねえあそこ、パリス中央金庫ならどうだ? 金や宝石なんかも沢山ありそうだろ?」


「元バカ王子の大統領閣下のせいで、俺たち貴族は平民と同じ身分になって、貧乏生活。ふざけんなってんだよ。平民がする仕事なんかした事ねえってのに、何が英雄だ」


 ルイーズこと転生前にアンナと呼ばれた女は、魂の主導権をレスター・ジョージ・ギリスに明け渡す。


「おい、あいつを馬鹿王子とかなんとかって言った気がするが、オレの最愛の友達を馬鹿にしてんのか? なあポール、冗談だよな?」


 ロマーノ製の魔力ピストル、ベレッタンを貴族子弟ポールに向けると、恐怖に震えてポールはうなずいた。


 自分達のリーダーは、例え相手が誰であろうが、簡単に引き金を引いて殺してしまう事を知っていたからだ。


「ならいいんだ。それと、まだオレたちが強盗に入ってねえあそこならどうだ? 金は沢山ありそうだろ? 大統領宮殿にはよ」


「さ……さすがだぜリーダー」

「ああ、やっちまおうぜ」

「俺達の麗しきリーダー、ネルソン」


 レスター・ジョージ・ギリスが彼の本名であるが、彼には本名よりも有名な通り名がある。


 かつてシカゴギャング大ボス、アルカポネ配下の殺し屋だったが、その凶暴さゆえ一家を追い出された後、デリンジャーギャング団に入団した、シカゴ最強の童顔ギャング、通称ベイビーフェイス・ネルソンである。


「なかなか見つけてくれねえからよ、挨拶しに行ってやるぜジョン。おめえは王子やら大統領なんかやるよりも、ギャングが性に合ってるだろ? なあ、アバズレのアンナ」


「うるさいわよ、ろくでなし。それに、彼はあたしのものよ。あんなどこの誰ともわからない小娘なんかに、彼を渡すもんか」


 この世界で記憶を蘇らせた、デリンジャー最愛の恋人アンナの転生体ルイーズと、当時シカゴ最強のギャングと言われたかつてのデリンジャーの親友ネルソンが、次なる強盗先をフランソワ大統領宮殿に狙いを定めた。

続きます

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