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転生したら楽をしたい ~召喚術師マリーの英雄伝~  作者: 風来坊 章
第三章 英雄達は楽ができない
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第84話 兄貴(シージャ)前編

 先生を召喚したことで、私の残りの魔法量は少ない。

 短期決戦を考えないと私の方がやられる。


 そしてこのハブの大吉と呼ばれた男、ジローでも手こずるくらいの強者。

 

 万が一こいつにダメージを与え過ぎて死なすと、ペチャラも死んじゃうから難しい戦いになる。


 戦闘不能か、身動きを封じなきゃ。


 杖ギャラルホルンの先端に土の魔力を込めると、先端が黒い黒曜石のような槍になった。


 ウンディーネとの戦いのように、これで石化させて動きを止める!


「ええい!」


 大吉へ向けて一気に杖を突いたが、ライフルの銃撃を受けて打突がそらされた。


「大吉シージャ―、くぬ(いなぐ)(ちゃー)やん!」


 私が小吉に気を取られたら、今度は大吉の高威力の魔力ライフルの銃撃を受ける。


 黄金の鎧の効果で威力は軽減できたが、二人からかなり離れた位置まで吹っ飛ばされる。


「うぬ手槍邪魔やんやー」


 いつの間にか大吉に背後を取られ、私が手にしたギャラルホルンを奪われた。

 

 こいつ、早い!


「小吉ぃ、手ぃー貸らしぇー!」

「おうシージャ」


 二人同時に私にかかってきて、パンチや蹴りが飛んできた。


 くそ、連携とられてる。


 この二人、コンビネーションがハンパじゃなく凄い。


 ダメージはたいしたことないけど、杖を奪われたせいでこちらの攻撃手段が……。


「金城、冥界魔法は後回しだ。マリーに加勢するぞ」


「わかったん兄貴、調子乗りやがってぃ馬鹿(ふらー)共が!」


 先生とジローが小吉に飛び掛かり、先生が右ストレートで殴り飛ばし、吹っ飛ばされた小吉の鳩尾にジローが思いっきり膝蹴りを繰り出した。


「あっがぁ……シージャ……」


 ジローにもたれかかるように、小吉が気絶して戦闘不能になる。


お前(やー)ぬ言い分ー後でぃ、よーんなー聞くぃーん。あんすくとぅ眠てぃれーや」


「小吉ぃ!」


 先生は瞬間移動の魔法を使い、私と対峙してた大吉から杖を奪い取った。


「先に弟を戦闘不能にしてやった。次はてめえだ!」


 先生は私に杖を投げ渡し、大吉に足払いをかけて転ばすと、サッカーボールみたいに大吉の体を思いっきり私の方まで蹴飛ばす。


 杖を手にした私は、心の中でペチャラに謝りながら、杖で思いっきりフルスイングして、ジローの方まで吹っ飛ばした。


「やっさ、オーライオーライやん……なぁ!」


 ジローの右足が白熱し、強烈な後ろ回し蹴りを大吉に繰り出して吹っ飛ばした。


 そして、私達は起き上がろうとする大吉を取り囲むと、物凄い怖い顔つきで私を睨んできた。


(いなぐ)のくせに我ーなめいてぃーるぬが? 死なすぞー」


 女のくせに?


 こいつ、ペチャラの体を乗っ取ってる卑怯者のくせに。


「あんたなんか、女の子の体を乗っ取って卑怯な真似して騙し討ちしようとした、卑劣漢じゃない!」


()ー?」


 毒蛇のような醜悪な目つきで私を睨みつける。


 転生前の私だったら、こんな怖そうなヤクザに睨まれたら泣いちゃうだろうけど、私はこの世界で、先生やカッコいい男の戦いや生き様を見てきた。


 こんな卑怯な卑劣漢なんかに私は負けない!


「ごらぁ! 卑怯者のカス野郎! てめえ、俺がまたぶっ潰してやろうか? 比嘉大吉!」


 大吉がビクリとして、怯えた表情で先生を見る。


 まさか転生前、この大吉って人、先生と関係がある?


「なあカス野郎? てめえ金城や沖縄の組織を裏切って、顔役をぶっ殺し回った後、英雄視されてた金城をぶっ殺したって事で、沖縄で居場所を無くしたカス野郎だったなあ? 極悪組の盃貰って逃げるように本土に来たけど、結局ヘタ打ちやらかして絶縁くらい、俺と沖縄の組織が消した野郎だもんな? おうコラ?」


お前(やー)……清水一家ぬ人斬りマサ……清水正義(まさよし)か……」


「おうよ、ハブの大吉。俺の一家総出でおめえを半殺しにした後、ケジメで沖縄の組織に身柄渡した清水だよ。俺はよお、身内をコケにしてぶち殺した野郎を、生かしてはおけねえ性分なんだわ。なあコラ? 前世でもてめえ暗殺稼業やシャブ弄ってたがヘタ打ちして、当時の本家から絶縁くらっても、本土で不良やめずに調子乗ってたカスのくせによう」


 悔しそうに大吉は毒蛇のような目付きで睨みつけるが、先生はより気迫を込めた目で睨み返す。


 そして隙が出来たっ!


敲金撃石(ストーン)!」


 ギャラルホルンの先端に土の魔力を込め、大吉の胸元目掛けて一気に突く。


「ぐっ、()ーが体ぬ!」


 大吉の体が石像のようになり、行動不能になった。


「見事だぜマリー、あとは……」


 先生は土の魔法で作った、黒い金属のような鎖で、気を失った小吉に縛りつける。


「こっからが本番だぞ、金城。この比嘉大吉からペチャラちゃんを取り戻す。マリー、おめえさんも手ぇ貸してやってくれ」


 先生は私とジローにそれぞれ手を差し伸べる。


「行くぜ、俺が冥界魔法をとなえる! 比嘉大吉の魂を地獄に送り返すぞ!」


 先生は冥界上級魔法の深淵(アビス)を唱え、私達はペチャラの魂の中に入り込んだ。


 ペチャラの精神世界は、オージーランドの青い海とヤシの木が生えた、南国の砂浜。


 彼女の故郷の記憶。


 ペチャラの魂だろうか?


 彼女は、砂浜から少し離れた花畑で仰向けに眠り込んでいた。


 そして、海を見つめて佇む男が一人。


 年齢は20代後半くらいに見えて、170センチに満たないくらいの背丈なのに腕が長く筋肉質で、日焼けした顔に無数の傷跡が浮かんだ、パンチパーマの強面の男が私達に振り返った。


 黒いポロシャツと黒いスラックス、蛇柄のベルトをしてて蛇柄の靴を履いてる。


「金城ぬ兄貴(しーじゃ)……」


「大吉ぃ、決着やん。清水の兄貴、マリーちゃん、手ぇださんでくれ……。こいつは、弟分(うっとぅ)は、俺ぁが始末をつけるー」


「おう、ケジメはおめえさんに任せたぜ、金城」


 ジローは、私達に微笑んだ後ポロシャツを脱ぎ捨て、大吉に振りむいた。


 彼らは、さざ波の音がする砂浜で空手の構えをお互いに取る。


「懐かしいなあ、大吉ぃ。弟分(うっとぅ)だったお前(やー)と小吉にぃ、こうして美しい海(ちゅらうみ)ぬ浜辺で空手ぬ稽古つけてやったさあ」


兄貴(しーじゃ)ー、どうしてやん! どうして、同じコザだった(わー)ぬ、縄張り奪ってぃ。同じコザなのに……(わー)と小吉を可愛がってくれたのにぃ! 本土(ないち)刑務所(むしょ)帰ってきてぃから、あんたうかしくなとーたんやん! 我の弟分(うっとぅ)もたっ殺した! 上原や嘉手納や翁長も宮城も……なんでやん! しいじゃあああああああああああ!」


 ジローは頬から涙が流れ落ちて、空手の構えを崩さずに大吉をじっと見つめる。


 これは、きっと比嘉大吉の魂の叫びだ。


 救いを求めて浄化を望んでる業深き魂の叫び。


 私が地獄で対峙した、邪鬼と化した転生前のお父さんみたいに……。


「悪っさびーん……大吉ぃ。我が……間違(はっぺ)えとーたん。やしが……くぬ世界でぃやなクスリばら撒きぃ、くぬ子を操ったん! お前(やー)、アシバーの流儀ー覚とーんばー?」


「コザぬ愚連隊(シンカ)ぬ流儀……格好(ハバ)()っさん不良(アシバー)は、げんこつ(めーごーさ)ーでわからすん……」


「だからよー……前の世でぃ(わー)にぃお前(やー)ん……アシバーの流儀ぃ忘とーたん……。あんしぃ、思い出さやー。なあ? 大吉ぃ……行ちゅんどおおおおおおおおおおおおおお!」


 先に動いたのはジローだった。


 まるで空を飛ぶように、左の正拳突きを大吉のアゴをとらえたその瞬間、まるでスナップを効かすような大吉の拳が先に入る。


「ありゃあ、フリッカージャブみてえな打ち方だ」


「フリッカージャブ?」


「ああ、ボクシングや空手の突きでもそうだが、普通は一直線に拳を突き出す。だが、フリッカージャブってのは腕全体を鞭のようにしならせて、スナップを効かせて斜め下から打ち込む打ち方。奴は持ち前の腕の長さ利用して、喧嘩で身に着けたんだろうよ」


 先生が解説すると、ジローの肘打ちが大吉に入った瞬間、ペチャラの精神世界が変質する。


 これは何?


 道路っぽいかんじの通りだけど、全然舗装なんかされてなくて英語で書かれた看板とか掲げてる商店が、そこかしこにある感じ。


 凄い活気があって、洋服とか熱帯魚のような魚とか英語で書かれた缶詰とか売られてて、まるで路上にあるフリーマーケットみたい。


 すると、沢山のジープが止まって、あれは米軍?


 うわ、フリーマーケットとか蹴飛ばし始めて、人が逃げ惑ってる。


「This is U.S. Army MP! Monkeys who open the black market‼」


 警棒持った米兵が、次々に市場の人達を殴って酷い……。


 これは多分、ジローと大吉の記憶の沖縄だ。


「Fuck off Dung Americans‼」


 あ、アロハシャツみたいの着た一団が、米兵と喧嘩始めた。


 その中に、一人とびぬけて滅茶苦茶強いイケメンの男の子いる。


 日焼けした肌に、パーマがかった黒髪、黒いサングラスかけて極太の金のネックレスつけてて。


 歳は中学生くらい? めっちゃくちゃ強いし、なにこれ? 


 相手警棒とか持ってて体も大きい米兵なのに、笑いながら殴り飛ばしてる。


「ハイサイ、メリケンヤンキー!! 沖縄(うちなー)なめんなぽってかすーが! たっ殺すど!」


 ジローだ! これは、多分前世のジローの姿。


「ジローさんやん! ジローさんのシンカやん!」

「メリケンヤンキー、めーごーさーやー!」

「デージハバやん! チバリヨージローさん!」


 すごい、まるでヒーローショーみたい。

 相手米兵なのに、瞬く間に蹴散らしちゃった。


「これは、多分沖縄のコザの闇市だ。俺が生まれたガキの時代、本土にはもうなくなってたが、沖縄じゃあ普通にやってたようだ。そんで、あれは金城がケツモチしてた闇市だろう。こいつマジですげえな、あの歳で闇市仕切ってるとか。俺があいつと同い年くらいの時なんて、せいぜいが刃物使った喧嘩か、万引きみてえな商店狙いのかっぱらいとかしかしてなかったぞ」


 えーと……何から突っ込んでいいのかわからないけど、先生も凄い悪いと思う。


「そんでよ、戦後のヤクザが急速にでかくなった理由が闇市だ。闇市を仕切ってたのは、三国人って呼ばれた旧日本植民地出身の不良達や、愚連隊って呼ばれる今の半グレみてえな不良集団よ。それら滅茶苦茶悪さしてて警察も手を出せなかったが、日本の不良の頂点はヤクザだって力でわからして、傘下にしたのが、戦後の伝説のヤクザ達。俺の前の世代の、偉大な先人たちだった」


「つまり、戦後のヤクザは、悪さする不良集団をやっつけることで勢力を拡大していた……ですか?」


「ああ、地元の縄張り(しま)を守るため、米軍占領下にあった戦後の混乱期の日本社会を守るため、弱きを助けて強きを挫くをしたのさ。ヤクザが社会から必要とされてた時代、金筋者の侠客たちよ。だが、沖縄では本土で言うヤクザ組織なんかなかった。闇市の愚連隊集団が、本土で言うヤクザの役割をしたのさ」


 すると、米兵を蹴散らしたジローがしゃがみ込んで、小学校低学年くらいの二人の少年に優しく微笑む。


無事(ふぃーじー)が? 怪我ーねーんが? 名前(なめー)は?」


「大吉……すりとぅコイツー小吉……」


 かっこいい、まるで正義のヒーローのようだ。


 あ、女の子たちがジローの周りにキャーキャー言いながら駆け寄ってきた。


 うん、あれはモテるって。


 強くて優しいイケメンは、どんな時代でも女の子が放っておかないから。


「野郎、若い時の俺と同じくらい女にモテてんな。まあ、今の俺様も女にモテモテだけどよ」


 いや、そりゃあ先生も、その姿が若い時と同じ顔と言うのが本当なら、モテたんだろうけど。


 なんか、ジローに張り合ってて先生カッコ悪い。


 次々と記憶の断片が流れる中で、空手の達人同士が戦っていた。


 一人は、弟分の魂の叫びに涙しながら。


 もう一人は、兄貴分の心の内を確かめるように。


 そしたら、また精神世界で別の映像が流れる。

 今度は、夜の米軍基地っ近くのフェンスとかある道路っぽい所。


「ハンズアップやん。()ーが戦勝国やん、ぽってかすー共が……沖縄(うちなー)なめんなよー」


 噓でしょ、転生前のジローやばすぎる。


 大勢の少年達と米軍基地に勝手に入り込んで、米兵をライフルとかで脅して、米軍のトラックごと強盗してるよこれ……少年犯罪とかの域をはるかに超えてる。


「すげえなこいつ。俺もガキの時、ヤクザもんのキャディラックとか、おまわりの覆面パトをがめたりしてたけど、米軍のトラックがめるとか、やべえな。そうか、米軍のトラックの荷抜きやら何やらやって、闇市に物資を流してたんだ。戦果アギャーってやつだ」


 あ、いや……先生もかなりヤバいと思う。


 そうか、戦勝国って威張ってた米軍相手に、こんな感じで戦果を挙げてたから、戦果アギャーって呼ばれてたんだ、前世のジローは。


 今度は、別の場面に切り替わった。


 うげっ今度は昼間の街中で銃撃戦とかやって、おかしいでしょ? 

 

 バンバン音鳴ってるし、ここ沖縄だよね?


 まるでアメリカ映画の銃撃戦みたいに、アロハシャツみたいなのを着た集団が撃ち合いしてるし。


「なあにが那覇派やん、ぽってかすーが! コザなめんな外道(ゲレン)らあ!」


「金城兄貴(しーじゃー)、もう弾ねーん。小吉ぃ、どうやー」


「ハッハー! シージャー、くまぬライフルーなーら弾ぬあさぁ」


 うわぁ……街中なのに笑いながら平気で暴力団抗争とかしてるよ。


 ていうか、ジローが持ってる機関銃とかなにこれ?

 

 暴力団抗争ってよりも、戦争で使う道具とかだよね?


「うわぁ……さすがの俺でも引くわぁ……。多分、那覇縄張りにしてる極道と金城の抗争なんだろうけど、噂でも聞いてたが無茶苦茶だろこれ……真昼間だし街中じゃねえか」


 あ、うん。

 さすがに先生もドン引きしてる。


 すると、街の建物からほうきとか持ったお婆ちゃん達がいっぱい出てきた。


「かしましぃ! 悪餓鬼共(やなわらばーら)! 爆竹鳴らすん喧嘩(おーえー)やれー他所っししぇー!」


 あ、お婆ちゃん達が一喝すると銃撃戦がピタッと止まって、ダッシュでジローや敵対関係の人達みんなが、お婆ちゃん達の方に駆け寄って、ペコペコ頭下げてる。


 なんていうか、抗争とか止めちゃう沖縄の女性と言うか、おばあちゃんすごい。


「すげぇな、沖縄ヤクザよりも婆ちゃんらの方が力持ってるなー」

「あ、うん。すごいですよね、沖縄のおばあって」


 すると場面がまた切り替わる。


 今度も、戦場のような沖縄のどっかの夜の街の映像だった。


「ホーリーシッ!」

「オーマイガッ!」

「ヘルプミー!」


 うわっ、街中で米軍の車両に石とか火炎瓶投げ込まれて、火を付けられたりしてる。


 私が思ってた沖縄のイメージとか、かけ離れてる映像が次々流れてくる。


 普段、沖縄の人ってニコニコしてて、ジローみたいに優しくておおらかな人ばかりってイメージだったけど、怒るとこんなに怖いんだ。


「わじわじーするば! たっ殺すぞヤンキー!」

「そうやん! たっくるせえええええ」

「燃ーちくぃれえええええ」


 ていうか、相手米軍なのに怒った人たちが殴る蹴るしてる。


 あ、ジローがライフル持った米兵を次から次へと殴り飛ばしてるし。


 すごい、これはまるで……。


「ああ、暴動だ。コザの大暴動、沖縄本土復帰のきっかけになった大事件だ」


 ジローと大吉の互いのハイキック同士がぶつかり合い、そしてまた場面が切り替わる。


 これは……。

後編に続きます

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