第83話 ハブの大吉
私とジロー、そしてヨーク騎士団は、シシリー島のパレルモスからネアポリまで、風魔法を使って急行すると、すでに港はジローが護民官制度で警察機関にした、ネアポリの元ヤクザ組織のカモリースター達が取り囲んでいるようだ。
「王太子様、敵は湾岸労働者約100名、金で買収されてるようですぜ」
「捕縛に向かった我らの腕利きが、戦闘不能にされとります」
うわぁ、湾岸労働者ってよりもまるで軍隊だ。
そこかしこで、魔力ライフルの音が鳴ってるし。
私は、ジローと顔を見合わせる。
「あぬひゃー、死なすからよー。お前ら港囲めい!」
いつもの笑顔が一転して、すっごい怖い顔付きになったジローが、赤いスカーフを首に巻くカモリースターの顔役に命じると、港を包囲するように散っていく。
「ヨーク騎士団も続いてください! 労働者の人達は相手に金で雇われてるだけなんで、捕縛優先で」
「御意! 我らはアンリ閣下や、シミーズ殿と旅したデリンジャーギャング団ですよ? 殺人はご法度です。マリー殿下、お任せあれ!」
あちこちで散発的に戦闘が始まり、オーウェン卿率いるヨーク騎士団が、次々とライフルで武装した相手を戦闘不能にしていく。
「マリーちゃん、我から離れちゃ、駄目やくとぅやー」
あ、うん。
ていうか、半分何言ってるのかわかんないのよねー。
多分、俺から離れるなって言ってるだろうけど。
「えーと、ごめんなさいジロー。沖縄訛りっぽい発音、もう少し控えめで言ってくれると嬉しい」
「あい? 我ぬ言葉訛とーん?」
うん、すっごい訛ってる。
私達と打ち解けてから、めっちゃ訛ってる。
その……意味とか知らないと何か悪いし。
転生前のお母さんの実家が青森で津軽弁だったから、それと同じくらい沖縄弁難しい。
「ほら、私その、転生前は本土出身だし。私のお母さんは青森出身だったけど、おばあちゃんち行ったら、親戚の人達が半分何言ってるかわかんなくてその、ね?」
「うーん、悪っさびーんね。そういや兄貴からも言われてたさ。じゃあ、訛りちょっちゅ控えるよー。青森かー、リンゴ美味しいって聞いてたさー。今度うちの国でもリンゴいっぱい作ろうかねー」
すると、バロンがワンと一回吠えた。
「何かの薬品の臭いが港で充満してて、人間の臭いが薄れてしまってるな。お前達が探している奴の匂いがわからん。何か手掛かりがつかめるようなものはあるか?」
すると、ジローはハンカチをバロンに嗅がせる。
きっと、サルバトーレ伯こと比嘉大吉の臭いがついたものだろう。
「うむ、かすかにその匂いが、向こうの倉庫群からする。私についてこい!」
私とジローは、走り出すバロンを追って、港の倉庫へ小走りで向かう。
「さっすが、兄貴の兄分ぬシーサーさんやん。よろしく頼みます!」
へ? 何それ?
シージャーのシーサーってえっと……。
「シージャ?」
「ああ、マリーちゃん。シージャは、本土で言う所の兄貴とか、先輩て意味。転生前の府中で、盃交わした清水の兄貴は、本土のヤクザやん。けど本土では、シージャて言ってぃも周りがわかんないだろ? だから俺ぁと兄貴が舎弟関係だって分かりやすいよう、俺ぁが兄貴って呼んでるさー。沖縄では兄分のこと、シージャーて言うさー」
そんな事を走りながら会話してると、港の倉庫に近づくたびにこっちの銃撃が激しくなり、私が天界魔法の時間操作をかけたジローは、次々と魔力銃ウッズマンで、湾岸労働者を戦闘不能にしていく。
この人、空手だけじゃなくて銃の腕もかなりすごい。
きっと沖縄の暴力団抗争で、そういう技術を誰から習うわけでもなく身につけて行ったんだ。
まさしく、戦闘の天才と言ってもいい。
すると、バロンがある倉庫の前でピタリと動きを止める。
そこは港の前の倉庫で、お酢の臭いとおしっこの臭いを濃縮させたような、酸っぱいような変な臭いが漂い、近くにヒンダス船籍の船が泊まっていた。
「うん、なるほどねー。ヒンダスから医療目的で輸入したケシの実を盗んで、この工場の中で阿片作ってぃ精製してる、いわば製造工場やん」
ジローが呟くと、私たちの周囲が真っ赤な炎に包まれて、煙が漂い始めた。
「マリーちゃん! 早く口元をハンカチで覆うんさ! くれー阿片ぬ煙やん!」
ちょ!? やばいって!
私、麻薬中毒になっちゃう!
ジローと私は、口にマスク代わりにハンカチを巻いて、煙をガードする。
「待っちょーたんどー! くけいきききききき、我ぁ嵌めやがった、ヴィクトリーぬ薔薇姫! あんしぃ二郎ぬシージャさぁ! あの長髪ぬぽってかすーどこやん!」
煙が晴れると無精髭を生やし、ボロボロのロマーノ海軍服着たサルバトーレ伯が、長大な煙管を口に咥えながら、私たちを待ち受けていた。
「お前、沖縄人かー?」
間違いない、この人がおそらく閻魔大王様が言ってた討伐対象。
地獄から呼び出された比嘉大吉、凶悪な魂の1柱だ。
すると、比嘉が吐いた煙が蛇のようにとぐろを巻き、私たちを囲む。
「シージャや、くぬ世界っし前とぅ同じくとぅ我にんかいさん! 同じコザやたん我にやーや! くるさんどおおおおお」
ヤバイ!
この人ろれつ回ってないし、麻薬のやり過ぎでおかしくなってるんだきっと。
私は風魔法で煙を飛ばすと、ジローの顔色が見る見るうちに悪くなり、戦うのを躊躇してる様子。
「マリーちゃん、あいつー。俺ぁの前の故郷、沖縄のコザの誰かやん。俺ぁ、まだ前世の記憶蘇って無くてー、ネアポリの縄張り、陰謀企て奪おうと思ってぃたー……誰やん!? 名前言らりー!」
「思い出しらねいぬがさぁ! シージャー! 何ち我が事ぅ、思い出ちくぃらねいんやん……。あんぐとぅ、我が事ぅ、可愛がってくぃたしが!」
風で飛ばしたと思った煙が、ジローに巻き付くように纏わりつくと、炎の竜巻になって燃え上がる。
ダメだ、ジローは前の世界の罪悪感か何かで、全然動けてない。
確かジローは、前の世界で同じ地元の一派の人達とトラブルになって、怒ったジローが罰として縄張りを奪おうとしたから喧嘩になって、復讐されたって言ってた。
多分、恨んでいるんだ比嘉は……。
この世界でもジローは、魂の覚醒前に比嘉ことサルバトーレ伯の領土、ネアポリを奪おうとしたから……。
私は左手で鉄パイプのような魔法の杖を向けて、ジローにまとわりつく煙を、風で飛ばしながら魔力銃ルガーで比嘉へ撃ち込むが、炎のバリアではじかれる。
「ぐっ、妨ぎるな! やなかーぎー! 太陽幻日」
比嘉は、魔力を集中させると、炎の光の球を両手で具現化して、私に連続で撃ち込んでくる。
なんとかバリアーでガードするけど、以前先生と戦った時よりも、こいつ格段に強い。
まずい、ヘイムダルの力がないと……破れる。
「くぬ外道があああああ! 女かい、手ぃーあぎーんとぅー、何事ぅやん! お前、それでも沖縄人がああああああ!」
ジローの体から怒りの炎が吹き出して、黒かった髪の毛が真っ赤に光り輝き、周囲が光り輝き白熱した。
「行ちゅんどー! 外道!」
ジローはワンツーとパンチして、煙管を振り回してガードしようとした比嘉の鼻と、みぞおちを強打した後、足払いをかける。
「クソ汚れ!」
足払いで地面に倒れた比嘉の顔面に、ジローは右の下段突きを放つと、あまりの威力に骨が砕けたのだろうか、顔面が半分陥没してしまった。
すると、比嘉は体を起こし、顔面パンチしたジローの右腕に両足を絡みつかせて体全体を回転するように捻りこむと、ジローの右腕があらぬ方向に捻じ曲がり、腕立て伏せのように地面に両手を付いたと思ったら、今度は馬のような、右後ろ蹴りでジローを吹っ飛ばす。
「チッ、うぬ喧嘩ぬ仕方、見ーうびあんどー。お前や……」
ジローから間合いを離した比嘉は、煙管を思いっきり吸い込むと、ケタケタと笑い出した。
そして大量の煙を吐き出して、それが見る見るうちに人型になり、分身体を3体生み出す。
「死ねええええやああああ! シージャ!」
分身が一気にジローに襲いかかり、ジローも防御の構えを取ったけど、やはりあの分身体、本体と同様質量を持ってる。
それを証拠にどの分身体も、ジローを殴る蹴るの打撃してるけど、衝撃力やダメージを与えてるしおそらく土の魔法。
ならば!
「ジロー、離れて! 最上位炎精霊!」
ジローは咄嗟にジャンプして避け、私は、体に召喚したサラマンダーの精霊力を両手に付与させて、分身体を焼き尽くし、背中に召喚した風精霊カラドリウスの羽を生やして私も空を飛ぶ。
あとは……。
「火炎旋風」
炎の竜巻を具現化して、麻薬工場と化した倉庫ごと火炎の竜巻で上空に巻き上げた。
精霊眼の目で、確認したから誰も中には居ないはずだ。
「上位水精霊」
ウンディーネを召喚して、水の波動で鎮火させると、港の一画で大火傷した比嘉が横たわっていた。
「ジロー、あの人……」
「うん、マリーちゃん……言わんでもわかってるさ。あいつー俺ぁの弟分やん」
ジローは風の魔力を解いて、私と一緒に比嘉の元へ降り立とうとした時、ロマーノ大学のアカデミックドレスを着たペチャラが比嘉に駆け寄り、信仰系回復魔法をかけ始めた。
「なぜ彼女がここに!? 私たちの後を付けてきた!?」
そうか、先生と一緒に戦ったネアポリの件の時も、彼女は怪我人だって言って、治療してた。
この子は、お医者さんを目指してるから助けようとして……。
すると比嘉は起き上がり、ペチャラを抱き寄せて、隠し持っていたフリントロックのようなピストル式魔力銃を、彼女のこめかみに押し当てた。
「彼女を放して!」
「動くな! お前ら全員たっ殺すど!」
こいつ、彼女を人質にしてその場をやり過ごす気だわ。
私はそっと比嘉の後ろに回り込もうとした。
すると比嘉は、まるで後ろに目がついているかのように私にピストルを向けてきて、ジローは……。
なんとも言えないような感じのやり切れない表情になってる。
すると、私達の周りを湾岸労働者たちを制圧した護民官たちや、ヨーク騎士団の面々が包囲し、次々と比嘉に向けてライフルを向ける。
「射るな! 命令やん!」
ジローが命じると、みんなライフルの射線を下に降ろす。
そして彼は、ペチャラに銃口をまた向け始めた比嘉に魔力銃を捨て、両手を広げてじりじりと少しずつ歩み寄る。
「なあ? 前世ぬ件ー、我が悪さたん。お前、我が事、かたくじらー、どぅっかっし覚えとーたるんだる? あんすくとぅ、くぬ世界やてぃん、弟分んかいなたん……」
言ってることは、ちょっと方言キツくてあれだけど、ジローの気持ちは心で理解できた。
お前は俺の事、どっかで覚えてたからこの世界でも自分の弟分になってくれたんだろって。
けど、それは違う。
だってこの人の魂は転生体じゃなくて、フレイアがあの時に地獄から呼び出したんだから。
「二郎ぬシージャア! 我の事……誰がわかてぃてぃ言ちてぃーるぬが! アンター薄情者やん! 何ち、何ち生まれ変ーたる我、前とぅいぬぐとーるみーんかい、いちゃらしみたるんやん!」
「悪ッサイビーン……小吉ぃ……我にんかい免じてぃ、うぬ女ー放ちくぃれー」
え……!? 小吉って!?
違う! この男は比嘉大吉じゃない! 別の誰かだ。
じゃあ、比嘉大吉はこの場には居ない?
……いや、嫌な予感がする。
先生が言ってた第六感と言うやつだろうか、胸騒ぎが……。
まるで、毒蛇のような何かが陰謀を企てているような。
いや落ち着け私。
この状況、何か見落としてる点はないか、考えるんだ。
何か違和感を私は感じてる筈。
そう、何か重大な違和感を……あ!?
「あれ……ペチャラって右利きだったのに、なぜさっき左手で回復魔法で手当てし……まさか! 離れて、ジロー!」
私が違和感に気づいた瞬間、小吉とジローが言った男に近寄った瞬間、ペチャラの目付きが邪悪に歪んだような表情となり、隠し持っていたピストルを左手でジローに向け……。
物凄い威力の魔力銃の発砲音がしたと思ったら、ジローのいた場所が爆発して吹っ飛ばされた。
「ジ、ジロー!?」
私が呼びかけると、ペチャラと小吉という男もろともジローは電光石火のような速さの回し蹴りを放って、吹っ飛ばす。
よかった、今のタイミング絶対死んだかもしれないと思ってたから。
「流石ー、金城ぬしーじゃーさ。いち気がついたんやん?」
蹴りで吹き飛ばされながらも、体制を整えたペチャラは歪んだ顔付で笑いながら、魔力を一気に高めた。
「大叫喚地獄」
ペチャラからどす黒い情念のような魔法が発現すると、私達の周りを取り囲んだロマーノ海兵やカモリースター、ヨーク騎士団が頭を一斉に抱え……。
「ぎゃあああああああああああああ!」
「い、いやだくるな……死神があああああ!」
「燃える俺の体がああああああ」
これは、何をしたんだコイツ!?
黒い情念が私にも憑りつきそうになったから、光のバリアを発現させて身を守った。
ペチャラは醜い表情になって、ジローに銃口を向ける。
「お前がシシリー島うでぃ見したる正拳突きとぅ肘打ちやん。我がならーちゃるとおり、技ぬキレ抜群やたんどー? 大吉」
比嘉大吉の魂は、ペチャラに憑りついていたんだ。
そしてジローも違和感を感じてた。
ペチャラが、シシリー島で本来の彼女じゃあり得ないような、パンチとか肘打ちの形を見せた時から、多分なんかおかしいって感じてたんだろう。
そしてサルバトーレ伯は、小吉と言う人が転生した姿で、多分二人は転生前に兄弟だった?
「なー? 止みらやー大吉シージャ……謝っとるばー? 二郎のシージャー……詫びとーん。もう……嫌さー、くんなくとぅ……」
サルバトーレ伯こと、小吉が涙を流しながらジローに銃口を向ける。
「あびらんけー小吉ぃ! くぬ根性無しがぁ! もう少しっしーくぬ外道、また地獄んかい落とぅしーるどー!」
ていうかこいつ、よりにもよってペチャラに!
「何で、なんであなたはこの子に」
「あー? 日本語? お前、本土人かー。くぬ女ー、大学で勉強してた時、いろいろ気を使ってくれてる金城ぬ兄貴に少しばっかり惚れとん。あんすくとぅ油断させるためばー? なんも知らない本土人が、沖縄ぬ喧嘩に出しゃばるな!」
なんて奴だ。
人の心を利用して、なんて身勝手な。
こいつ……許せない!
「あんたとジローの間に、沖縄で何があったのか知らないわよ! けど、それはもう大昔の話じゃないのよ!」
「くぬ馬鹿が! ぬーあびとーが? 金城の外道、我の可愛い弟ぬ縄張り、奪おうとぅさるどー! 前とぅ一緒やん! 我が憧りてぃ、格好良かったん、しーじゃーやもう無ーん! 前もーこっちでもー思い上がたるただぬクソやん! また無様にこいつー死なすからよー」
そうか、牢屋に入ってた小吉の転生体、サルバトーレ伯を脱獄させたのが、今ペチャラに取り憑いた大吉の方。
この世界で魂を覚醒させる前のジローの所業に怒って、小吉に手を貸したんだきっと。
医療知識があるペチャラの体を乗っ取ったのも、ジローに対抗するためにケシの実から麻薬を作って、それを資金源にするためだ。
それに、ペチャラに宿ったこの男の目付きが、怖い。
まるで毒蛇のような、人間の醜い情念が宿った執念の塊。
これが、地獄に堕ちた人間の業の醜さと罪深さ……。
「大吉ぃ……小吉ぃ……」
ジローは二人の名を呟くと、目に涙をためて二人を見つめ、剛柔流空手の組手構えを取り、前後にステップを踏むようにフットワークを取り始める。
「マリーちゃん、こいつら……比嘉兄弟は……俺ぁの大事な弟分やん。手ぇださんでくれ、俺が……奴ら止みーん! くぬ拳骨で!」
「はん? 何言ちんやん? 前ん世でぃ我にんかい無様に殺さったるくしんかい……汚れのクソ雑魚が」
私は、状態確認で自分の生命力と魔法量を確認する。
さっき召喚魔法を連発してHPとMPが結構消費されていた。
それは普通に勝てそうな流れだったけど、今は全然違う状況。
小吉の方は、おそらく私とジローの二人がかりなら倒せるけど、大吉は……。
「行ちゅんど! 大吉ぃ!」
ジローが一気に踏み込んで右の正拳突きを繰り出すけど、大吉の右手がしなるように伸びて、ジローのかけてたサングラスを弾き飛ばし、左手に持ったピストルを押し当てた。
「金城シージャー忘たるぬが? 喧嘩や我ぬ方が強さん」
連続で発砲して、ジローが大ダメージを受ける。
間合いに詰めてきた小吉の方が、ジローに足払いをかけて転倒させた。
間髪入れずに、躊躇なんか一切なく大吉が倒れたジローに連続で、港を覆うコンクリートごと吹っ飛ばす物凄い威力の銃撃を何度も撃ちだす。
転がりながらジローは銃撃を避けて、薙ぎ払うように、大吉の足に寝ながら蹴りを放つ。
バランスを崩した大吉の鳩尾に正拳突きを繰り出し、流れるような動きで思いっきり大吉の額に頭突きし、お互い少し間合いを離した。
「弟分のくせにー偉くなたんなあお前……誰んかい大口叩いちょん! くぬぽってかすーが!」
ジローの靴が真っ赤に白熱して、上段回し蹴りを大吉の頭に放とうとした時だった。
「ジロー様……酷いです、私に……」
「!?」
ペチャラのふりをした大吉に、ジローが蹴りをピタリと止めると、また大吉の左手がしなるように動き、じゃんけんのチョキのようにての形を作ってジローの両目に入れる。
いや、目潰しとかそんなレベルじゃない。
ジローを失明させる気で、指を槍のようにして突き刺したんだ、この男。
「あいっ! くぬ外道!」
大吉鼻で笑うと、怯んだジローが寸止めする形となった右の蹴り足を左手で掴む。
小吉の方が足払いをかけて倒すと、二人は持っていたライフル銃の銃口をジローに向けた。
「あんた女んかい昔から甘さたん。じゃあなシージャ」
「時間操作」
私は天界魔法を唱えて、手に持った杖で思いっきり大吉の頭をフルスイングする。
「許せない……女の子の気持ちを踏みにじって……。ジローの優しい気持ちの心根に付け込んで、麻薬で人をおかしくさせる悪党! あんたなんかに私達は負けない!」
私がジローを、ペチャラを救いたいと思うと、着ていたドレスが黄金の鎧に姿を変えていく。
「な、なんだばー!? お前!」
光神召喚という魔法陣と共に、ヘイムダルの力を身に纏った。
そして、ペチャラに憑りついた大吉を何とかするには……あの人の力がいるっ!
「出でよ勇者マサヨシ! 弱きを助け! 強きを挫く力をここに!」
私は左手の親指にした召喚システムの指輪を発動させた。
この姿の私なら……光の神様の力を得た私のHPとMPなら、最初に呼び出した時の先生じゃなくて、パワーMAX、最強状態のあの人を召喚できる。
すると、阿修羅刀を帯に挿した、和服姿の先生が召喚された。
先生は周りの状況を見渡すと、さりげなくジローに回復魔法を唱え、ペチャラに憑りついた大吉を、気迫を込めた目で睨みつける。
「てめえこの野郎、よくも俺様の舎弟や弟子に手ぇだしやがったな? ペチャラちゃんに憑りつきやがって、地獄の懲役も終えてねえような半端者のクサレ外道コラ。てめえ覚悟はできてんだよな? 比嘉大吉ことハブの大吉よお……地獄に送り返してやるぞこのクズ野郎おおおおおおおおおお!」
周囲がビリビリとするような先生の気迫に、比嘉兄弟は思わずたじろぎ、私は鉄パイプのような杖を黄金のギャラルホルンに変えて、杖の先端で弾き飛ばすように打撃し、回復したジローはライフルを構えた小吉の顔面に正拳突きを放って吹っ飛ばす。
「私があいつらを何とかします! 先生は、あのペチャラに憑りついた、地獄の亡者の魂を何とかする魔法を!」
「おう、俺の召喚時間は短いから手早くいくぜ! 金城、俺の手を握れ! マリーがあの馬鹿共を何とかしている隙に、冥界魔法の深淵で、ペチャラちゃんに憑いた、比嘉大吉の魂の大元を探り出すぞ」
「わかったん! 兄貴ぃ!」
続きます




