第77話 織部のうつけもの 前編
大逆神クロヌスがエリザベスにより召喚されるより少し前、極東のジッポンの貿易港博田から離れ、奴隷船と化した自身の軍艦にてどこかに運ばれる浅黒い肌の男は、これから先の自分の運命を考えると、恐怖で涙目になり身震いしていた。
ロマーノ連合王国海軍中将にして、ヒスパニア出身の伯爵アントニオ・デ・ラツィーオである。
「おーおー、肌が黒い異人じゃ!」
「きっと薬として生き肝抜かれるんじゃろ?」
「奴隷として三川の港へ運ばれるらしいべ」
「純粋なヒト種らしいぞ」
アントニオは、甲冑を着込む武装船員たちに聞かれないよう、ぶつぶつと今の自分の境遇と、ジッポン人への恐怖を呟く。
大昔の都市国家間の紛争や、百年前のバブイールとの戦争以外、直接的な戦争を経験せず比較的平和な国で道徳心を育んだアントニオにとって、この国全てが野蛮に思えたからである。
「何が黄金の国だ……何が神秘だ。野蛮だ、ここは野蛮人たちの国だ。人の首を刈り取り、人肉を嗜み、人間を売り飛ばして売買するような……野蛮人たちだ。人の財産を力ずくで奪い取るような、心根が歪み切った野蛮な国だここは。いやだ、没落貴族から脱却し、せっかく軍の重役や伯爵に出世したのに……俺はまだ独身だぞ? 死にたくねえよ……」
彼は、連合王国暫定国王にして盟主、ジロー・ヴィトー・デ・ロマーノ・カルロの命令で、ジッポンの実態調査として最新鋭の魔道船、軍艦ガリバルディを航海中に海賊被害に遭う。
ロマーノ海軍は決して弱くはなく、ナーロッパ世界でも上位の練度を有しており、異国の地でトラブルに巻き込まれたとしても、最新鋭の魔道船ならば勝てると思ったアントニオは、まさか神話の伝承のような、空飛ぶ竜に乗ったジッポン人達に襲われるとは思っておらず、成すすべなくジッポン海上にて、大名大鳥宗竜の軍に囚われて、抵抗した乗員たちは首を刎ねられる。
その後アントニオは、筑摩の国を経由して、本来の目的地だった博田にて船ごと奴隷として競売にかけられ、水晶玉の通信を使って船ごと落札した、三川の国へ運ばれる途中だった。
「船底に隠した、非常用の水晶玉さえ手にできれば、こんな野蛮な国からは手を引くようヴィトー様に連絡取れるのに……くそう、嫌だよ、死にたくねえよ畜生……」
ジッポン人は、ナーロッパ人やチーノ皇国の人々よりも背が低く、地球世界の日本人に似た黒髪にアジア人のような肌の色をしてるが、厳密に言うと純粋なヒト種はこの国ではほぼ絶滅していた。
ニョルズ神が生み出した原初のヒト、フレイが生み出したハイエルフとレジェンドドワーフの精霊人、そしてかつてこの世界に呼び出された魔族達が混血を繰り返し、生まれたのがジッポン人と呼ばれる人種である。
これには理由があり、ジッポンは東の果てにあるため、ニュートピア古来より大陸の戦乱から逃れてきたものが多数住み着いた。
魂に傷がついて転生したのに、再びつらい目に遭う事に無常感を感じた魂が宿る人々、英雄ジークとの戦争に疲れ果てた魔界の悪魔達、ヒト種から差別されたエルフやドワーフなどの精霊人、そして希望を抱き島を訪れた遊牧民や開拓者達が集った、希望と悲しみが入り混じる島だった。
このジッポン諸島の構成は、エルゾ島、秋津洲、三国島、八州島、琉奄島からなる、日本列島と酷似した島国である。
おもな産業は絹糸と、良質な鉱山からとれる金、銀、銅と、大量生産はできないが優れた鋼を用いた金属加工品と、国内で大量にとれる米を貨幣とした、農作物の育成など。
寿命はおおむねナーロッパ人種の二倍から四倍の長寿で、魔力や身体能力が極めて高く、南の八州に行けばハヤテと呼ばれてドワーフ族の血が濃く、北のエルゾに行けばエルフ族の血が濃い容貌に生れ、首都中京にはこの国ではオニ種と呼ばれる魔族が、元々住んでいたヒト種と混血を繰り返し、千年以上長い時間をかけて民族統合の象徴として天帝家が統治するに至る。
そして時が経つにつれて、自分達が経験した大陸の悲しみと虚しさを、この島で明るい希望に変えようとした多くの種族たちは、いつしか互いの容貌と価値観の違いから紛争を繰り返し、南北に天帝家が分裂して、100年以上続く戦国の世になったのがこのジッポンである。
アントニオが向かう三川の隣国、織部の国の勝鬨城内にて、イワネツの怒鳴り声が城内でこだまする。
「お゛い! どうなってんだヒライの爺や! ニワトリが送ってきたチーノやヒンダス共とやってる密輸の上がりが減ってんじゃねえかよ! いつの間に俺の子分共は間抜け共の集まりになってやがんだ!」
織部家の勘定監査役の丹羽が送ってきた、収支報告書を読んだイワネツは、密輸額の目減りを目にして激怒していた。
織部国は天然の港、地球世界の伊勢湾にも似た伊東湾には織部港があり、古来からチーノ大皇国との貿易で栄えている貿易港である。
元々、大陸での争いを嫌った人々を先祖に持つジッポン人は、凶悪かつ屈強で戦闘を好む残忍な人種に変貌しており、彼らジッポン人による海賊行為がジッポン海や東チーノ海で多発していた。
このため、チーノ大皇国は許可したヒンダス船やジッポン船以外は海禁政策をとっている。
また、ジッポン側の貿易には、中京北朝または八州南朝の天帝の許可が必要であり、チーノ大皇国側は、皇帝または地方代官が定められた交易船しか貿易を認められてない。
だがそんな事はお構いなしに、この国の各地に点在する戦国大名達が、チーノにいるジューの商人達と、密貿易を行なっているのが今のジッポンの実態である。
そして、内戦中とはいえチーノ大皇国の許可を得てないアントニオの魔導船が、海上でジッポンの大名勢力に拿捕されるのは当然であるとも言え、事情を知らぬとはいえ、異邦人であるアントニオには弁解の余地もなかった。
「若様、我が国の交易航路にて海賊被害が多発中でして。それに忍びの情報によると、海賊はどうやら南朝八州の大名達の手の者。そして我らと同じ北朝を支持しているはずだった、副将軍家今田公、三川の国は、南朝とつながり、我ら織部とチーノ大公国の航路を絶とうとしているやも知れぬと……」
織部家に代々仕える、爺やと呼ばれた老家老。
エルフの血が混じる白髪白髭の武士、平井長政が、イワネツにチーノ大皇国との密貿易の目減りの理由について弁明していた。
「ああん? やっぱりイマダのチョールト野郎か! それと南朝に群がる八州のカス共、あいつらまたぶち殺してやるぞ!」
この織部憲長こと、勇者イワネツは神官の一族である織部憲秀の実子ではないが、国の実権を若干20歳でほぼ手中に収めていた。
南北天帝と一部貴族、そして織部家と幾人かの大名家は、ジッポンから絶滅寸前の古のヒト種の末裔達であり、領民も純粋なヒト種がもはや存在しない。
そして肉体を再構築され、女神ヘルに投げ落とされるかのように、赤子にされて転生したヒトの子イワネツが、世継ぎがいない織部家に養子として迎え入れられたのはこれが理由である。
「ダメです若様! 何度も仰るように今田家は副将軍家にして、天帝陛下の外戚でございます。そのような事をすれば、織部家は他の大名家から攻め入られる大義名分が出来てしまいますぞ! お館様が同盟を結ぶ手筈ゆえ、何卒辛抱を」
「ざっけんな馬鹿野郎! この前も間抜け共に俺は狙われたんだぞ! イマダの野郎らのうちらへの嫌がらせが激しくなってきてる! ヒットマンを送り込んできた馬鹿はあいつだ! もういい加減皆殺しにするいい口実じゃねえか! 親父殿には俺が許可を取る。それが終わり次第、俺が三川行ってイマダ潰してくるからよお、爺やは黙って見て……」
平井が無言で首を横に振ると、イワネツは舌打ちしながら、無表情に平井を見つめる。
「チッ、すまねえ言い過ぎたよ爺や。親父殿と話してくる」
イワネツは、平井の矢傷のある頬をペシペシと、愛情込めて軽く叩いた。
「若……今は辛抱ですぞ。若は……この国の、ジッポンの希望なのです。きっとお館様が今田との和睦を執り行うはず」
踵を返して当主の間へ赴くイワネツに、平井は無言で頭を下げた。
イワネツは転生先の織部にて、かつてうつけ者呼ばわりされ忌避されていた過去がある。
20年前にこの地に転生したイワネツは、純粋なヒト種として赤子の時に織部家に迎えられ、幼名を奇妙丸とされ、その時から異常性を示したとされる。
曰く、乳母だった侍女の乳首を噛み切る。
与えた玩具を全て破壊する。
泣き声で、壺や陶器が粉砕されるほどの声量など。
ジッポン人をして悪鬼の子とまで言われ、物心つくとさらに奇妙な行動をとるようになる。
この世界では全く通用しないロシア語を喋り出し、意味が通じないとわかると小姓達に暴力を振るうようになり、齢7歳にして周りの状況を全て理解し、自身が前世で何者かを思い出したある日のこと。
「どうやら俺は生まれ変わったらしい。前世でカスのような家で育った、クソッタレのソ連と違って、ここは日本みてえな国の、サムライの家のようだ」
イワネツは自身の着物を脱ぎ捨て、ボディビルダーのようにポーズして、体の隅々を鏡で確認する。
「うーん、7歳の時のガキの俺そのものだ。それにこの年代のガキとは思えねえ筋肉してやがるな。思い返せば、生まれ変わって物心がついた時から物とかぶっ壊してた気がするし。どうやら今回は生まれた時から、前世のあの‶力″を持ってるっぽいな」
イワネツは前世の子供の頃の事を思い出す。
彼の家庭は第二次大戦の影響で崩壊していた。
自分が生れた年にソ連モスクワはナチスドイツとの戦火に見舞われ、妊娠してた母親はドイツ兵に強姦されたという。
疎開先のウラジオストクで生を受けたイワネツは、母の生まれ故郷モスクワの街に帰り、物心ついた5歳のころ、優しかった母は戦争の恐怖で酒浸りになり、神の祈りを呟く以外は自分のやることなすことに、物盗られ妄想を抱く妄執家となってしまった。
そして軍から帰ってきた父親は、アル中のろくでなしに成り果てていた。
「お前は、くそったれのナチ公の誰かが、そこのあばずれを胎ませたガキなんだろう! クソガキめ!」
酔って暴れ出しては、自分と母を殴る父親に幼い時のイワネツは恐怖し、その鬱憤を晴らすかのようにスポーツスクールで、柔道とボクシングに取り組むようになる。
コーチからはいずれこの子は、祖国にメダルをもたらすと言われた。
運動神経抜群だったイワネツは、自身の優れた身体能力で人々を喜ばせたいという希望を抱いて、全寮制の国立サーカススクールに推薦入学する。
彼は武道も好きだったが、次第に体操選手に憧れを抱き、運動神経が並外れていたため、体操のトップアスリートのソ連代表としていずれはオリンピックの舞台に出る予定だった。
しかし運命はそれをイワネツに許さず、ソリの合わないコーチの無茶な練習で、鉄棒で高難度技に挑戦した。
イワネツは、一瞬周りの景色がスローモーションになったような感覚となり、技の成功を確信したが、着地をミスして転倒して頭部を強打する。
「動かない、僕の体が! 助けてコーチ! 助けてください!」
イワネツは体に異変を感じて、頭部からの出血で体温が低下していく中、必死に助けを呼ぶ。
「ガキが調子に乗るからだ馬鹿めが。お前の代わりに党本部の御子息が、我が祖国の代表になる。お前みたいな生意気なガキなんざ死んじまえ」
だがそのコーチに、ヘラヘラ笑いながら放って置かれ、イワネツは意識不明の重体になった。
奇跡的に一命を取り留めたイワネツは、病室で目を覚ますと怒り狂い、涙を流しながら室内の全てを破壊し尽くす。
怪我で医者からは、頭を打ったせいで凶暴になったとか後遺症とか言われて、体操選手としての生命が絶たれ、絶望したイワネツは14歳で学校を自主退学する。
その後、家にも帰れずにイワネツは大道芸をしながら、モスクワの街でその日暮らしをしていた。
彼は美少年だった為、日銭を稼いで闇市で食い物を買うために、影で男娼のような事もする屈辱的な経験もする。
そしてソビエト民警に見つかっては、憂さ晴らしで殴られたり、芸の上がりを掠め取られる日々を送り、次第にソビエト社会を憎むようになった。
ある日、自分に嫌がらせのように、無理な技の練習をさせたコーチを夜の街で偶然見つける。
「くたばれクソ野郎!」
発作的に血が上り、イワネツはパンチをお見舞いしたが、たった一撃でコーチを脳挫傷させて殴り殺してしまったのだ。
これが彼の人生最初の殺人だったが、この時に彼は自身にある異変に気が付いた。
「やっぱりだ。病室の件もそうだった。事故から生還してから……俺の力が人間離れしてやがる。チョット強めに殴っただけなのに、相手が死んじまったぜ。頭を打った影響なのか?」
試しに事切れた死体を、思いっきり蹴飛ばすと、まるで人間がサッカーボールのように宙を舞い、上空でバラバラになった後、街路樹に肉片がぶら下がった。
「これじゃあ、ボクシングや柔道でメダル狙うのは無理だな。試合で相手ぶっ殺したら、なんちゃら分子呼ばわりされて、この国から消されて意味ねえし。それに……俺の未来を奪った社会と、この国が憎い!」
こうして彼は夜のモスクワの街で、強盗をしながら生計を立てる、アウトローとなったのだった。
そんな事を思い出していたら、彼は鏡に映った自分の体に何か物足りなさを感じていた。
「サムライは俺の憧れだったけど、なんか微妙に日本とちょっと違うんだよなあ。耳が尖ってるやついるし、なんか瞳孔が縦になってるやつもいるし。それに俺になんか足りねえなあ……そうだ! アレがねえよアレが!」
イワネツは城にあった針と墨汁を使って、転生前と同様、両胸の襟骨のすぐ下に、自身に相応しい八芒星の入れ墨を入れた。
「よう、爺や! こいつを見てくれ! 俺に相応しいタトゥーだろ?」
「若あああああああああああああああああ!」
この入れ墨を見たノリナガことイワネツの世話係かつ、織部家重臣の平井は、泡を吹きながら卒倒して、切腹すらも考えた。
ロシアの入れ墨文化は3種類に大別される。
一つ目は欧米的なファッション感覚。
ロマノフ王朝皇帝ニコライ二世は皇太子時代に日本に滞在した際、右腕に和彫りの龍の入れ墨を入れたことで知られ、この事で和彫りが初めて欧州で広まり、王侯貴族の間で流行したファッションとしての入れ墨文化が挙げられ、一時期断絶したが現在のロシアではこれが一般的である。
そして二つ目が、帝政時代から今のロシアまでに至る、軍人の間で行われる入れ墨。
ソ連の政治将校が禁止したが、そんなことはお構いなしに、部隊間の結束や、戦友との絆、国家への忠誠目的で、軍人たちは入れ墨を入れたという。
また軍規違反者を罰する際は、屈辱的な入れ墨も入れられた。
こういった入れ墨の文化は、ソ連では表向き違法とされ、これらを入れる者は概ね筋金入りのアウトロー達に限られ、これが三つ目である。
1950年代、ニキータ・フルシチョフはソ連社会からの犯罪撲滅政策を宣言し、ロシアで人気が高まった入れ墨文化及び、組織犯罪を非難する声明を出し、反組織犯罪のプロパガンダが行われると、官憲達の行う刑務所での処罰が激化したため、これに反発するようにアウトロー達は、反共産主義を標榜して入れ墨を入れたのだ。
共産党政府に反発したこの命知らずのアウトロー達は、帝政ロシア時代に生れた反政府武装集団、盗賊達の系譜である。
彼らは、刑務所で独自の戒律を作り、秘密結社的な側面を持っていた。
刑務所の囚人達から認められ、尊敬を集めた盗賊は、規律ある泥棒と呼ばれ、独自の盗賊の戒律を順守せねばならない。
代表的な戒律は、以下のものである。
1 盗賊にとって刑務所は家である
2 盗賊は仲間とその両親、兄弟姉妹、親戚を守り愛さなければならない
3 盗賊は妻子を持ってはならないが、恋人はこれに含まれない
4 盗賊同士は互いに助け合う事
5 盗賊は他の盗賊を招集する権利が与えられる
6 仲間の間で紛争が発生した場合すみやかに盗賊達の会合を招集する事
7 招集された盗賊達は他の盗賊に罰則を与える権限を持つ
8 会合により罰則の判決を下された盗賊はこれに応じなければならない
8 盗賊の秘密は絶対に厳守すべし
9 やむを得ない場合を除き、仲間の秘密を最優先せよ
10 秘密を仲間とかわす場合は暗号を用いよ
11 盗賊稼業の損失はギャンブルで補ってはならない
12 盗賊は若き初心者を導く義務がある
13 盗賊はアルコールを飲む際、理性を失ってはならない
14 盗賊はいかなる政治活動やコミュニティの参加を禁ずる
15 盗賊は官憲と関係してはならない
16 盗賊は国軍に入ることを禁ずる
17 盗賊は他の盗賊と契約を交わした場合、これを厳守する事
18 どんな状況下でも、どんなに困難がもたらされても、盗賊稼業で集めた金銭手段だけで生きる事
そして、彼ら盗賊は刑務所で、靴墨または燃料油と、自身の小便を混ぜたインクを、顔役の盗賊に差し出すと、親分立会いの下、刑務所にいる入れ墨職人たちの手によって、まるで水墨画の芸術作品のように仕上げられる。
不衛生で劣悪な環境で入れ墨が彫られた事で、破傷風や壊疽、梅毒や肝炎に罹患して死ぬ者も中にはいたが、それは運が悪いやつという事で済まされた。
例えば、虎、ヒョウ、オオカミ、猛犬の入れ墨はソ連当局や司法への反抗の意志。
蜘蛛の入れ墨は窃盗犯罪歴。
首にする蛇の入れ墨は薬物犯罪者。
髑髏やナイフの入れ墨は殺人犯。
双頭の鷲はソ連への怒りと上位の犯罪者の証。
龍や鮫は政府高官の所有財産を奪った称号。
帽子を被った猫は職業泥棒。
短剣を囲んだ花は18歳誕生日を刑務所で迎えた証。
塔と教会の入れ墨は刑務所の犯罪歴と服役経験と刑期など。
塔と教会の入れ墨以外にも、指にリングや文字で刑期や犯罪歴を示す場合もある。
例えば、丸に頭蓋骨の指輪のような入れ墨があれば、それは強盗犯であるという証。
一番オーソドックスな入れ墨は、胸に入れる大きな十字架。
これは盗賊の十字架とされ、盗賊組織所属の盗賊と言う意味である。
このように盗賊達の入れ墨は、一人一人入れる入れ墨が異なり、その人間の人と成りを現すものとして意味を持ち、これらを勝手に無断で入れた者や、入れ墨に相応しくない行いをしたものは、盗賊達から罰が与えられた。
例を挙げると、額にメス犬と彫られたり、または同性愛者であるという文言や、女性や人魚の入れ墨を体に入れられた後、刑務所内で性奴隷に堕とされ、その者が自身を盗賊であると入れ墨で偽った場合、他の囚人たちから刑務所内でガラスの破片または煉瓦の塊を尖らせたもので、入れ墨ごと生皮をはぎ取られる。
最悪の場合は盗賊達の判決で死刑となり、刑務所にいても殺されてしまうという。
そして、イワネツが転生前も転生後もいれた八芒星の入れ墨は、盗賊の王を指す星の入れ墨。
すなわち、ロシア裏社会の最上位、規律ある泥棒であることを示す入れ墨である。
「平井の爺やも頭が固いぜ。ま、イマダぶっ殺して、財産ふんだくる計画はもう立ててんだ。あとは親父殿の許可を取るだけよ」
イワネツは、半ば隠居状態にあるこの世界の父親、織部憲秀に謁見した。
続きます




