第68話 古き英雄と新しき英雄 中編
私達に囲まれたフレイアとジークは互いに顔を見合わせた。
……こいつら何かする気だ。
するとフレイアの美しかった顔が、おぞましい角の生えた白い毛の山羊の顔になり、魔力が更に増して、小石が舞い上がり、カリーの街の残骸が魔力にあてられ宙に浮き、月夜の空に暗雲が立ち込めて雷が落ちてくる。
「チッ、あぬ不細工女……妖怪やん。山羊汁んすんどー、ぽってかすーが」
へ? ヒージャー汁って何? 沖縄料理?
なんかゲームで言う所の大ボスぽい第二形態にフレイアがなったのに、凄い気になる。
お腹減って来たし……いや、そんなこと考えてる暇はない。
「……もう、アタシを否定するような世界なんて知った事じゃないっ! ジークよ、私が魂召喚を唱える! 伝説の巨人王スリュムの魂をヘルヘイムから召喚するから、あなたは……ヨトゥンヘイムの奥底に封印してるそいつの亡骸を召喚して!」
伝説の巨人? まさか何か召喚する気?
確か、ロキも自分の軍団を巨人軍って言ってたけど、何か関係があるの?
「もうこんな世界いらない……アタシは……お前達なんかには絶対負けないっ!」
「我が愛する女神フレイアの仰せのままに。出でよ、伝説の霜の巨人よ!」
上空に幾重にも巨大な魔法陣が浮かび上がり、フレイアとジークの恥ずかしい映像がかき消えて、白い靄と共にソレは降りてきた。
全長10メートルを超し、青銅で出来たような鎧とマント、巨大な鉄塊のような大槌を持ったまさしく巨人。
ライオンのタテガミのような青白い炎のような髪に、同じく燃えるような長い髭をおさげにした、筋骨隆々の大男をジークが召喚する。
そして白目を剥いた目に、フレイアが手を掲げると真っ青な炎のような光が入る。
その瞬間、魂に悪寒が走るような化け物じみた魔力反応を感じると、辺り一面白い霧のようなものが立ち込めると同時に周囲の気温が低下し、港のコンクリートがひび割れて霜柱が立ち、周囲の空気自体が……。
うそでしょ、空気自体が真っ白に液化してモヤみたいになってる。
いつぞやの氷の賢者が放った、絶対零度どころじゃなく、これはこの世の物理法則を完全に無視してる極低温状態を越えた先にある現象。
「フレイア……我が愛しの女よ、俺を蘇らせてくれると信じていたぞ。今度こそ俺の妻になるんだな?」
「かつて神々と敵対した巨人王の一人よ、アタシに力を貸して! あいつらを殺したら、今度こそあんたの妻になってやってもいいから!」
先生の額から冷や汗が流れ落ちる。
「化物だ……おそらく力だけなら、竜王や鬼神……いやそれすら超えた最上級神クラスの化物を呼び出しやがった……あいつら世界を崩壊させる気か!?」
「ちょ!? 何それ!? やばいなんてもんじゃない!」
最上級神がどれくらい強いのかはわからないけど、とにかくヤバイ!
「ドラゴンの次は巨人かよ、クレイジーすぎるぜ!」
「兄貴ぃ、あのヒゲ……しにヤバイ!」
「まるで前の前世で聞いた言い伝えにある盤古、巨人のようだ」
巨人スリュムにジークは手をかざす。
「力を貸せ伝説の巨人よ、あの者どもを打ち倒すのだ」
すると巨人の着けてた胸甲が二つに割れて扉のように開くと、ジークの体を迎い入れ、まるで巨大ロボに乗り込むパイロットのように彼の下半身が収まった瞬間、地響きがして空が割れるような雄たけびを上げる。
「俺こそがニュートピアの英雄だ! この巨人の力で女神フレイアを否定する貴様らを粛清する!」
「アタシを本気で怒らせた事を後悔させてやる! 行くわよ!」
凄まじい渦のような魔力が巻き起こり、周囲がまるで竜巻が直撃したように風が吹きあがる。
「来るぜ! 全員総力戦だ、化物から世界を救うぞ!! そして……この世界の可哀そうな奴らを生み出した元凶、あのカス共ぶっ潰せえええええええええ!」
先生の号令で、空の艦隊から魔族の軍団や戦闘機や爆撃機が飛び、空飛ぶエルフやパラシュートで降下するドワーフ達や、体が大きくて屈強そうな魔族の部隊がこちらに降りてくる。
「なるほど、やはり魔界にあるどこかの魔王の軍勢か。だが巨人の力を得た俺の敵ではない!」
上空の艦隊から魔力砲やレーザー攻撃、攻撃魔法を巨人に繰り出すが、巨人がハンマーを雑に振りかざしたと思ったら稲光が瞬き、上空の戦闘機や艦隊が火を噴いて地上に落下していく。
「ホーリィシッ! あのやべえ武装の巨大戦艦が堕とされちまったぞ!」
「そんな、あのめっちゃやばそうな戦艦が……サラマンダーの攻撃でも堕ちなかったのに」
「くそがあああああ! あの戦艦こしらえたりメンテするのに、いくらかかると思ってんだ! おい、二代目バリア張りながらこっち援護しろ! おめえら極悪組全員で隙作れ、俺が何とかする!」
先生はスキル阿修羅一体化を使い、体を魔王化すると6本の手と手を合わせて魔力を練り上げる。
おそらく、今の現状ではこいつらに勝てないと先生は判断したんだ。
しかも上空の魔族達が、次々と攻撃魔法を放ったり、エルフ達が弓矢で攻撃するが全然効果がない。
「ドワーフ興行とベリアル組は俺に続け! あのでか物ぶっ潰す!」
ドワーフのガイさんが体をイフリート化して、ドワーフ達と魔族の人達がこっちになだれ込んできて、一斉に巨人に向かっていくが、巨人が思いっきり大槌を振るうと、ドワーフの軍勢や魔族達が吹っ飛ばされる。
「クソが! あれはミョルニル……別名トールハンマー! 多分オリジナルじゃねえとは思うが、気を付けろ! あのハンマーに直接触れたが最後、雷神の電撃で丸焦げにされるぞ! しかもあの大槌を薙ぎ払うだけで高圧電流と破壊のエネルギーで大ダメージだ! 俺も喧嘩で使った事がある」
ゲッ、そんな装備持ってるのかあの巨人。
ていうか……先生もアレ使ったことあるって、あんな凶悪な武器で何を相手にしたんだろう。
けど接近戦はこちらが圧倒的に不利なのはわかった、となると遠距離攻撃しかない!
私は魔力銃ルガーを杖と一体化させて、巨大な砲弾をイメージして杖を巨人に構える。
「マリーちゃん頭やん、頭狙えれえええええええええ!」
私の砲撃と同時に、デリンジャーも懐から銃を抜き、長大な魔力ライフルに変えると巨人の頭部を銃撃し、ジローもスコープ付きの魔力銃ウッズマンを連続発射するが、まったく通用しない。
「その鳥銃じゃ火力が足りん! 見せてやるぞ我が魔力を!」
すると、地面から巨大な緑青の大砲の筒が無数に花畑のように生えてくる。
おそらく、龍が生きていた時代の海戦とか戦争で使ってた代物。
青銅とか鉄の合金で出来た大砲で、魔力銃を使わなくても土の魔力で放てる魔導兵器。
「戦闘は火力が全てだ! 仏狼機砲……發射!!」
港全部の地面が爆ぜた思うくらいの轟音とともに、無数の大砲がさく裂して巨人を攻撃する。
「やったか!? いや……シット、逃げろみんな!」
デリンジャーがライフルの双眼鏡で確認したら、硝煙の向こうが光ったと思ったら、爆発が起きて私達は吹き飛ばされる。
「きゃあああああああああああああ!」
吹き飛ばされた私の体を、デリンジャーとジローが受け止め、龍が土魔法で作ったかまくらのような形の陣地の中に避難するように入りこみ、追撃をやり過ごす。
先生も私達から離れた位置で座禅しながら魔力を高めてて、砲撃の煙が晴れた先の巨人には、傷一つついてない。
「あんなに強力な魔法で砲撃したのに……」
「兄貴の組が抑えてる間に、回復するさー」
「くそっ、俺達はこのトーチカで見てる事しかできねえのか」
「考虑! やけになるな、必ず突破口は開けるはずだ」
そう、龍の言う通りきっとどこかに隙があって必ず勝てるはず。
こういう状況下だからこそ、落ち着いてまわりの状況を確認しなきゃ。
「あの巨人、無茶苦茶な防御力を持ってるし、あのハンマーがやばい。そしておそらくジークの能力で再生能力まである筈」
私の分析にみんなが頷く。
「ああ、だが生きてる以上弱点はある筈だ」
「じーぐいてぃる暇ねえさー、考げーぃるどー」
「いや、悠長に構えてる暇もないな、ここは私が突破口を開く!」
龍が陣地を飛び出して、二刀を構えて物凄い速さで斬りこんでいく。
「ふっ、二天一流、五法之太刀だったな。武蔵先生は兵法家で、師事した門下生や私に、型だけではなく勝つ事への心構えを述べるお方だった。その教えを思い出し、戦えながら考えるとしようか!」
巨人の大槌が薙ぎ払うように龍を標的に振り下ろすが、龍は左手の短剣の柄に鎖を具現化し、巨人の体に巻き付けて、地面に短剣を突き刺す。
すると、そのタイミングを見計らった炎の巨人が、巨大な鉄塊のような黒いハンマーを持って突っ込み、巨人を滅多撃ちにする。
あれはイフリートのドワーフのガイさん?
「今ので隙出来た、くらえ火焔龍槌!」
イフリート化したガイさんが、白熱した炎を纏ったハンマーの連撃を食らわせる。
「鬱陶しい、ドワーフ風情が!」
トールハンマーの威力で数キロ先の海まで吹き飛ばされた。
「舎弟頭! くそ……スルド補佐、僕が風の魔法で空に浮かせた後、冥界魔法で叩きつけるんだ! 多重渦竜巻」
「耳長の少年達よ、手を貸そう。海と空よ……私に力を……台風!」
エルフのブロンドさんと龍が強力な風魔法を唱えるが、青白い巨人の動きは止まらず、逆に大槌を持って体が青白く光輝いた。
「嘘だろ!? こいつ我らが若頭の風魔法も効果がない……ええいっ! 重力波動!」
暴風雨や、幾重にも具現化した巨大竜巻と重力波で攻撃してるようだけど、巨人が竜巻を大槌でかき消したと思ったら、白熱するプラズマの火球が何個もこの場に現れ、ソフトボールの守備練習でやるようなノック打法で、プラズマの火球を打撃する。
「た、助けなきゃ!」
「野郎!」
私とデリンジャーが、トーチカから出ようとしたら、ジローに腕を掴まれる。
「冷静んかいならんだれー、戦争に勝てらねえ! 堪えれー! 腹立ちゅ、わじわじーすんのは我も一緒さあ! 勝つために考ーいんど! 兄貴のように!」
先生は座禅を組みながら、私達の方を向いてこっくりと頷く。
超高速で飛んできた火球に、龍やブロンドさんとイケメンダークエルフの男の子が、プラズマの焼かれるが、すぐに魔法効果を打ち消すようなバリアが張られ、銀色の閃光のような光が輝き、巨人の大槌を持った右手が切断される。
「何者だ、この巨人に傷をつけるとは」
巨人に取り込まれたジークが睨みつけた先に、日本刀を持った用心棒さんがたたずんでおり、巨人は右腕を左手で拾い上げて切断面にくっつけて、元通りになる。
「てめえ、よくもオイラの子分と舎弟やりやがったな。極悪組二代目、ニコ・マサト・ササキがおめえをぶっ飛ばしてやるぜ」
用心棒さんが日本刀を持って、青白い巨人と接近戦を繰り広げるが……すごい、剣も魔法も先生と同じくらい強い。
天界魔法を完全に使いこなして、時を止めたりバリアを張ったりして私達を守ってくれる。
「おめえら今のうちに体制整えろ、極悪組に負けは許されねえ! 親父、まだ普段の魔力は回復しねえのか!?」
「もう少しだ二代目……ちくしょう、この場にヤミーがいればこんなカス野郎には……」
先生は、まだ魔力を練っていて、ステータスで状態を見ると、スキル瞑想で魔力量を回復して力を回復していた。
レベルは……200を超えて300を超えたあたりから一気に文字化けして測定不能になり、おそらくこの勝負のカギは、先生の体力と魔力が回復するかにかかってる。
「人間め!」
剣を持つフレイアが用心棒さんに斬りかかるが、用心棒さんは懐から先生と色違いで銃身が少し短い銀色に輝く魔法銃パイソンを左手で抜いて、フレイアを迎撃する。
「くそ、こいつ天界の救世主や勇者の類よ!」
「俺と同類のようだが無駄だ! 不意打ちならともかく、この霜の巨人にこの程度の魔法や物理的な攻撃など一切受け付けん!」
すると、海から今度は巨大なモンスターの群れが現れた。
「よくもわっちが指揮する巨人軍のモンスターを退治してくれたでありんすね? わっちの名はミドガルズオルム。お父様の大事な巨人軍に歯向かう主さん達に、死を与える名でありんす。全員お死になんし」
なんだこいつら、新手!?
感覚強化すると、海龍の頭の上に緑の鱗のような鎧を付けた女の子が見えるが……。
「くそおおおおおお、ロキめ! 用済みのアタシをこの場でジークも一緒に始末する気か!」
うそ、こんな時に終える者ロキの巨人軍が来ちゃった?
なんだこの状況……最悪すぎてわけがわからない。
「敵の援軍だ、迎え撃て!」
旧魔王軍の戦闘機と、黒い羽の生えた軍団が、でっかいクジラのようなモンスターや、ウミヘビのようなモンスターと交戦状態になる。
「おやおや、これはこれは魔界の雑魚魔族達が勢揃いでありんす。なぜかは知りんせんが、遊んであげなんしょう」
緑の鎧を着た女の子が、緑色の蛇のような鞭を持つと、目にもとまらぬ速さで鞭を操って上空の戦闘機に鞭を絡めて、まるで鎖がついた鉄球のように、空を飛ぶ黒い羽の魔族に攻撃を始める。
「くそ、ただでさえあの巨人の相手だけでも厄介なのに!」
「我が行ちゅん! マリーちゃんやアンリ君は援護くぃらん? なあに蛇とかハブぬ扱んかえー、慣れたるもんやん」
ジローが、海上に現れたミドガルズオルムの元へ駆けだそうとした時、上空から音速を越えた速度で赤く光り輝く何かが煌めき、落下したと思ったら海上のモンスターがあまりの衝撃に宙くと、何かの魔法で大爆発した。
「ひゅるるるるるるる、どーーーーんなのだ!」
そして赤い光の輝きがまっすぐこちらにやってきたと思ったら、うっすら見えた赤い輝きは、ピンクの髪の色をした水着のような格好の女の子で、巨人とフレイアを回し蹴りで吹き飛ばしちゃった。
「極悪組総本部長ベリアル参上なのだ」
「やっと俺達の本部長来た」
「寝坊助もいいところ」
ええと、全然理解が追い付かないが、今現れた小さいけどめっちゃ強そうな女の子は、私達の味方なの?
あとガイさんとそっくりだけど、色違いの鎧着たドワーフの二人が女の子の傍らに立つ。
「うんうん、神っぽいのや巨人っぽいのに蛇っぽいのもこの場にいるようなのだ。ここの周りにいる人っぽいのは味方っぽいから、それ以外は全部ぶっ飛ばせばいいのか?」
すると、用心棒さんがベリアルって子の元へ駆け寄り、頭をわしゃわしゃとなでる。
「ベリアル、よく来てくれたぜ! おめえは、海から来たあの魔獣共をやっつけてくれ! オイラはこの巨人と山羊女をぶっ飛ばす!」
「わかったのだ! あの海の奴らぶっ潰しに行くのだ!」
ベリアルと言う女の子が海の方まで飛んでいくと、大爆発が起きた。
強いとかもうそんな次元じゃない、モンスターが次々と討伐されていき、ミドガルズオルムと一騎打ちを始めてる。
「なんで……あんた達は、アタシを否定するの? アタシから生まれた子供たちなのに、なんで」
フレイアが用心棒さんに対峙して剣を向けるが、用心棒さんは気迫を込めた眼差しでフレイアを逆に見据えた。
「あんたが最初に作った世界、転生後のオイラの生まれ育った村……今は大きくなって町だけど、みんな誰かの物を盗んだり、誰かをぶっ殺して食いつないでた……。オイラは人間として生まれたのに、人間として生きられなかったんだ。あんたは、そんなオイラ達に今まで気にかけてくれたことはあったのかよ?」
「そ、それはあんた達が、アタシのせいにされても……」
「オイラ達は魔界と呼ばれた魔族達に支配されて、盗賊やりながら暮らしてた。国の貴族や王族と呼ばれた奴らは、平民や農奴と呼ばれた人たち殺して、人間の尊厳を奪って楽しんでた。そんな世界を救ってくれたのが親父と、女神ヤミー様だ! 神が助けてくれねえ見捨てられた世界を救いまわって、親父はこの世界も助けようとしてる!」
力を回復してる先生は、フッと笑い優しげな顔で用心棒さんを見た。
「オイラの弟分のドワーフや子分のエルフ、そしてかつて魔界の悪魔と呼ばれた連中もそうだ! みんながみんな……憎しみ合い殺し合ってきた負の螺旋を断ち切ったのが、偉大な初代でありオイラのお父ちゃんの勇者マサヨシだ!」
用心棒さんの体が光り輝き、グレーの着物がはだけて背中に菩薩の入れ墨が入り、体が白く光り輝いた。
光り輝く用心棒さんが、フレイアの剣を日本刀で受け止めながら戦う状況に、ジローがヌンチャクを持ちトーチカから出る。
「兄貴ぃ! 我は決めたさぁ! 俺ぁ、兄貴の弟分やん! くぬ世界の悲かしー戦ぬ螺旋止みーん! 我も勇者に、英雄になる!」
すると、ジローの前にデリンジャーが拳銃を持ってフレイアに銃を構える。
「俺もだ、俺も……人が人を殺さねえでもいい社会を作りてえ! 俺が英雄として目指すのは……人殺しを、悪を憎む社会だ!」
そして、そのデリンジャーの前に二刀を構えた龍が立った。
「誰かを、人を愛する気持ちと友情はどんな時代でも、どんな世界でも……紡いでいくものだ。私は、見知らぬ人々同士で、手と手を繋いで笑い合う世界を目指してやるぞ!」
そして私は龍の前に立ち、人としての心を忘れたフレイアの前に立つ。
「私は楽がしたいって言って、この世界に、陰謀渦巻いていて悲しい世界に生まれ変わった。そして、私は楽とは程遠いけど、みんなで楽しく暮らして笑い合いたい! それが今の私の‶楽”だ!」
私達が前に立つとフレイアが理解できないような顔で私達を見つめる。
「どうして、お前達は……私が全て運命を決めてあげてあげるのに、アタシを否定して……」
「我が神フレイアよ、こやつらの戯言に耳を貸す必要はありません! 私がこやつらめを!」
今度は巨人がこちらに向けて、巨大な鉄塊のような大槌を振りかざしてきたが、先生が私達を庇うように前に立つ。
「まあああああ、さああああ、よおおおしぃぃぃぃぃ……」
6本の腕で魔力を練った先生が巨人の懐に入り、組み合わせた6本腕から青白く輝く魔力を収束させていくが、これどっかで見たような……。
「波あああああああああああああああああああ!」
先生が気合と共に、青白い光線を上に向けて発射すると、眩い光と共に一気に熱風が吹き上がり、巨人の体に風穴があき、巨人の体を貫通した光が空の彼方に消えていく。
あれだ、ドラゴ●ボールのアレとそっくり。
「先生それ、か●はめ波のパクリじゃ……」
「うっせえ! 恒星の出す光熱を収束した、マサヨシ波もとい地獄の火炎を、更に魔力を加えて高めた氣炎萬丈、炎の最強魔法だ。俺の極悪組と勇者なめんじゃねえぞ化物!」
「貴様こそ化物だ! 俺が戦った魔王共を越えた化物そのもの! 霜の巨人の体にこれほどのダメージを与えるなど……だが! 完全再生」
高温で燃え上がった巨人の体と一体化したジークは、回復魔法を唱えて巨人の体の穴を塞ぐが、先生はニヤリと笑いながら長ドスを片手上段に構える。
「器用な真似できるじゃねえか、ええカス? 俺の弟子や舎弟、俺が認めた男達の……。この世界の、美しくも悲しい思いを理解できねえボンクラ。美しく輝く人の光を、魂の輝きを理解できねえワル共め」
先生が右手の長ドスを掲げると、上空の暗雲が消えて光り輝く無数のドスを具現化していく。
夜空の無数の星のように加速度的に刀の数が増していき巨人の周囲を囲んでいく。
「てめえ回復魔法極めた再生能力持ってんだっけ? じゃあ10万の刃の斬撃はどうかな? 洛叉斬棘!」
「ミストルテイン!」
無数の雨のような剣が巨人に降り注ぐが、フレイアが剣をかざして光のドスを打ち払う。
「アースラあああああああ、お前のせいだっ! お前さえいなければ! アタシは神としてっ!」
すると、風の魔力を帯びたジローが空を飛び、フレイアの後頭部に飛び膝蹴りを繰り出した。
「うるせえ汚れ! くぬ世界を……お前ぬぐとうる……汚れぬ思い通りんさせんばあああああああああ!」
私も杖を持って空を飛び、今ので隙が出来たフレイアの頭に野球のバットのようにフルスイングした。
「あんたなんか、もう神なんかじゃないっ! 多くの人達を、世界を、魂を弄んだ馬鹿女!」
「うるさい、しぶとい女め! 死ね!」
フレイアはこちらに振り返り、剣を振りかざして私に斬りかかるが、龍が左手の刀でフレイアの剣を受ける。
「この美しくも悲しい世界は、お前の物じゃない! 悪が栄えた試しなど……もはやこの世界にはないのだ!」
龍が袈裟切りでフレイアを地面まで吹っ飛ばす。
吹き飛ばされた先には、帽子のつばを人差し指でくいっと上げた後、不敵な笑みを浮かべるデリンジャーが、全長10メートル以上はありそうな巨大な大砲の間前にたたずんでいた。
「オーライ、このままじゃセンターフライだぜ? 確か120mm高射砲だっけか? こんなもん作るとは合衆国はクレイジーだぜ。くらえ! 成層圏の大砲……発射!」
物凄い轟音とともに、デリンジャーの魔力砲弾がフレイアを吹っ飛ばした。
「ハッハアッ! ホームランだ!」
やったか?
すると私の体に怖気が走る。
「いや……まだだ、まだあの女の強烈な魔力反応が空の彼方で……青白い星のような光が夜空で煌めいて……まずい!」
私は黄金の鎧に、風の精霊鳥カラドリウスの羽を背中に具現化し、上空を飛ぶ。
上空何万メートルかわからないけど、あの女は涙を流しながら、またあの長大の弓を、青く光り輝く地球のような惑星世界ニュートピアに向けて構えていた。
あの女、カリーの街を吹き飛ばした核爆発のような攻撃を地上に行おうとしているんだ。
きっと世界を滅ぼすつもりで……。
「なんで……なんでみんなアタシを愛してくれないの? あの世界の子達も、この世界も、社会や形や歴史を作ったのもアタシなのに……」
この女は、そんな事もわからないで神なんて名乗ってたのか。
わからせてやるっ!
「あなただって、人間として最初に生れてきたのに、神になって自分が生み出した子供を信じられなかったからでしょ。自分が生み出した人や生き物達の尊厳も、魂の尊さも理解できなかったから……」
「うるさい! あんた達人間の事なんてもう知るもんか! 人間になったアースラや、元は大魔王だったくせに偉そうにしてるヤマも、知った風な事を言ってアタシを貶めて、ユグドラシルの連中誰も助けてくれなかった! 創造神様もあいつらに唆されて……また人間にされて……」
「逆恨みじゃないそんなの! 人間らしさを無くしたあんたが、私たち人間をわからないままで、人に愛されるようにしなかったから……」
「黙れえええええええええええええええ」
フレイアは青白い弓矢を私に向けてきた。
だめだ、あんなもの直撃したら私が消滅する……どうすれば。
……いやそれでいい、矛先が私に向けば地上にいるみんなが、この女を倒してくれるはず!
「いいわ、上等じゃない……撃ってみろ! 人の気持ちを理解できない馬鹿女なんかの魔法に……今の私は負けないっ!」
「ほざけええええええ、原子の光に分解されて消滅しろ! 原子崩壊矢」
青白い光が私の周囲を包み込み、私が身に纏っていた黄金の鎧が剥がれ落ちていく。
私が死を覚悟した瞬間、まるで時間が止まったかのような感覚に陥った。
なんだろう、死ぬときにスローモーションになるって言うけど、これがそうなのか?
前世でお父さんに殺された時、そんな感じにはならなかったけど……。
でも、この世界に転生して私は良かった……。
カッコいい男達に出会えたし、女勇者みたいなことも出来て……。
果たして主人公はこのまま死んでしまうのか?
後編に続きます




