第67話 古き英雄と新しき英雄 前編
突如現れた、アヴドゥル・ビン・カリーフ。
二刀で構えるその姿は、まさしく覚醒した英雄そのものといった感じ。
目にもとまらぬ速さで、ヤマタノオロチの首を次々と切断していき、まるで次元すら両断するかのような風の斬撃で、ヤマタノオロチを瀕死状態に追い込む。
「やはりただのトカゲではないか? たわいない」
転生前に倭寇の大海賊だった彼が援軍に来て、上空を旧魔王軍の艦隊が、首が残り一つになったヤマタノオロチを取り囲むように旋回し、戦闘は膠着状態になる。
「勇者様及び救世主ニコ様、対象については魔王級ドラゴン及び上級神相当クラス! 我が艦隊の戦力で十分可能! サタナキア最強精鋭の堕天使攻撃隊及び、極悪組本部ベリアル組の面々も投入可能です! 対象にあっては勇者様に対する無駄な抵抗はやめて投降せよ! 繰り返す、無駄な抵抗はやめて投降せよ!」
「ちょ!? うそでしょ、旧魔王軍とかって神クラスや英雄とかにも対抗できるの?」
旧魔王軍サタナキアの船から放送されるけど、改めて考えると無茶苦茶ヤバイ戦力だ。
先生、どうやってこんな戦力に勝ったんだろう……。
いや……先生の事だからきっと、勝つために様々な陰謀を企てたり、根性とかでなんとかしたんだろう。
元々転生前の地球時代は「人斬りマサ」の二つ名持ってたくらい、暴力と喧嘩が凄かった人だから。
「オラァ! 弱虫フレイア!! よくもオイラ達の世界を、弄ぶだけ弄んで無責任に放置しやがったな!? 仁愛の世界代表のオイラ達がケジメ取りに来たぜ!」
「何でよ……アタシは神よ! あんた達やこの世界の人間と社会を作ったのはアタシなのに、何で逆らうのよ!?」
女神フレイアは、弓から剣に武器を構えて私達を憎悪のこもった目で睨みつける。
「ならば問おう、あなたが神ならば、なぜ我らをなぜ作り出されたのだ?」
アヴドゥルいや、龍と呼んだ方がいいか。
彼の問いに、フレイアは苦虫を噛み潰したような顔になって沈黙した。
すると先生はジローと顔を見合わせて、悪い顔になって笑う。
絶対なんか企んでる……。
多分、この馬鹿女を嵌めるための何かを。
「当ててやろうか? こいつはよ、前の担当してた世界で失敗してて、自尊心とやらがズタズタになってた。そんでオーディンの部下にして神になった時の父神、まあ保証人みてえなもんのニョルズってやつに泣きついたのよ」
「えーと、何ででしょう先生」
「そりゃあアレよ、もう一度世界を担当する事で、自分の失敗を帳消しにしようと考えたのさ。それで、もともと、この世界の人間はこいつが一から作ったわけじゃねえ」
え!?
そうなの!?
この世界の神話や伝説では、フレイアがこの世界の人類を作った事になってる筈。
「ニョルズって神は、すでに地球で言うところの5大文明を作りあげてた。元々この世界は地球世界の傷ついた魂を癒す目的で創造神さんが作られた世界。後から来たフレイは一応ニョルズにスジ通して北方のノルドの担当をやった……そうだよな?」
「……」
この沈黙はおそらく、肯定の沈黙。
おそらくこの世界の成り立ちについて、先生はあの馬鹿女の心を読んだんだろう。
「で、てめえは何したかって言ったら、勝手にこの世界の人間の魂を掌握して、自分を神と崇めさせる絵図を目論んだ。冥界や天界に無断で、地球世界からこっそりてめえを信奉する魂を召喚して、元いた人間の魂に混ぜ込んで転生させたのさ。魂に傷がついててなかなか転生できない可哀そうな魂に目を付けてよ。それがこの世界の人類の生まれた真相だ。それに手を貸したのが、オーディン……違うか?」
「だから何よ……」
「まあそういうのは縄張り荒らしって言うんだが、そうやって徐々に世界を掌握していくが、ニョルズって神もアホじゃねえから、バレるだろ? 人間達がフレイアって神を信仰し始めてると。当然自分の縄張りにスジ通さねえで、勝手に手をつけられたニョルズはブチ切れんよな? オーディンとかいう主神が決めた方針とはいえ、喧嘩になったわけさ」
「なんて女」
思わず私は呟いたが、自分の世界が欲しいからって他の神の領域に手を出すなんて……。
「でよ、おめえは兄貴のフレイに頼み込んで、自分がこの世界の担当になるため、父神ニョルズの排除を目論んだ。フレイがオーディンの意向に逆らえねえことをいいことによお。例えば、バブイールの人間達の魂を操って東方に英雄を作り出した。カンビナス? だっけ」
「ああ、カンビナスだ。二千年前現れたバブイールの王家の開祖にして英雄の名。転生後の私の国に伝わる英雄だが……まさかこの女は!?」
「そう、そいつを魅了したフレイアは、亜人って呼ばれるエルフとかドワーフの力を得させて、バブイールを掌握した。そして、バブイールは大陸東西の交流地点だから、おめえの女神伝説は一気に広まる。こうして大陸全土で信仰されたおめえは力を付けた……そうだな?」
この世界の英雄伝説を作ったのが、フレイアというわけか。
だいたいの流れが私にも読めてきた。
つまり今この世界の人類史に干渉して、この女が人類社会を作ったに等しいという事。
「……アタシは愛されたかったのよ。再び世界を担当する事で、人間達からの愛がほしかったの! 女は愛するよりも愛されたい、それが何が悪いのよ!」
まあ、私も女だからこいつの気持ちはわからないでもないけど……。
すると先生含めた男性陣は、まるで汚物を見るような顔でフレイアを見る。
「婊子が……人間を何だと思ってる!」
「くたばれよ、ビッチ」
「やな女やん……顔はチュラカーギ―が汚れやん」
一応世界を作ったこの元女神に、無茶苦茶言ってるこの人達……。
デリンジャーに至っては中指とか立ててるし。
「それでこのアホ女に協力したフレイは、ニョルズと敵対状態になり、ニョルズは見せしめに、ロマーノの人間を操って亜人勢力を滅ぼしにかかった。そうなりゃもう戦争よ、さぞかしオーディンとか言うクソ馬鹿も、戦乱が生まれて喜んだろうぜ」
酷すぎる……。
神々の身勝手さで、この世界がこんなに弄ばれていたなんて。
「最後の仕上げでこの女は、そこのカスの魂を召喚した。ニョルズを排除してロマーノって国を奪い取るためになあ。予想外だったのは、このカスが魔界の魔王連中やモンスターを召喚した事。このアホ女は気付かなかったみてえだが……神に恨み持ってる魔王連中が、ニュルズを殺すか封印したか知らねえが、消しちまったから結果オーライだったんじゃねえか?」
「くぬひゃー最低やん。くんなむんが女神英雄てぃがろー、終わっとーんさー」
「まあそこのカスも、こいつの意向を汲んで、自分の利害が一致したって感じさ。そんでフレイとも敵対してただろ? そこのカスがノルドに攻め入ったのがその理由だ。そしてフレイアがこの世界の担当神になり、オーディンは創造神さんの許可を取り付けた……そんなとこだろ?」
そうか、この世界の亜人と呼ばれる精霊人と人類が敵対してたのは、そう言う理由があったからか。
「しょうがないじゃない! お兄様は前の世界での失敗含め、全部アタシのせいだって言って。アタシの人間達の領域に精霊人の手先を送り込んで来て、混血とかさせたのよ? まるで前の世界のように! 姿形と魂のあり方が違う奴らを混ぜ合わせたら、うまく行きっこない!」
「何だとコラ? ふざけんなクソアマ! てめえ、俺が救ってやった世界の奴ら侮辱してんのかよ! 何が神だ偉そうにしやがって、てめえだって元は人間だったくせに!」
「そんなつもりじゃ……アタシは」
「言ってんじゃねえかよ! てめえふざけんじゃねえぞ!! あいつらを生み出した神のくせに……てめえ何て事抜かしやがる!」
そうか、先生が最初に救った世界もこんな感じで生まれたんだ。
フレイとフレイアが最初に作った世界が、先生が勇者として転生した世界。
そして、この世界で生まれたのがホランドとかフランソワの人々と言う事。
「ビッチめ! お前が言ってんのは、生まれ変わった俺や俺の国を侮辱してんのと一緒だ。こんな……こんなson of a bitchを神として崇めてた俺の国や、民衆達が……馬鹿みてえじゃねえか!」
デリンジャーが目に涙を溜めながら、怒りの眼差しでフレイアを睨みつける。
「で、ホランドやフランソワが戦争になったのも、それが理由だろ? 旧ロマーノ帝国圏とジーク帝国圏、そしてバブイールとかの東方で戦乱と陰謀渦巻く世界になった。それがこの世界の真相だ!」
「……アタシのせいだけじゃないわよ。オーディンや、フレイ兄様にニョルズ様だって、魔界のモンスターや悪魔共も、まるであの世界で起きたような事になったのは、アタシだけのせいじゃ……」
「うるせえ! てめえは結局前の……俺が転生した仁義のねえ最悪の世界のように、この世界が荒れちまって収拾できなくなったんだ! だから創造神さんにケジメ取られて人間としてこの世界に堕とされた。それなのにてめえは……魂に傷を負った可哀想な奴らの世界を、無茶苦茶にしやがった! 俺が立ち向かった中で最低のワルだ! 覚悟しろクソアマ!」
そして私も鉄パイプのような杖をフレイアに向ける。
「今こそ、あんたの罪を……過ちを清算する時よ! 私の人生を、この世界の悲しい人達の魂も、世界を弄んだ……最低女! 元は人間だったくせに……人の心を無くして身勝手なあんたなんかに、私達は負けない!」
涙を流し始めたフレイアの前に、巨大なヤマタノオロチがフレイアを庇うように前に立った。
「貴様ら言わせておけば……。俺の神を淫売呼ばわりして侮辱するなどと……」
「なんだこのチンカス野郎? てめえがこの世界で名乗ったジークフリードだって、元はと言えばてめえが地球時代、ゲルマン人の王朝を簒奪する為に、陰謀巡らせてゲルマン人の王族の話組み合わせて作った英雄の名じゃねえか。その名前パクってこの世界で偉そうにしてんじゃねえよボケ!」
「くっ……貴様も地球出身か。何者だ! 只者ではあるまいっ!」
まあこの似非英雄がそう思うのは、無理もないかも知れない。
この人は……。
「俺か? 日本のヤクザだよ。かつて世界最大の組員の数を誇り、最強の戦闘力と最高の資金力を誇ってた組織のトップだった男だ。任侠道って言う道を極めるため、世界を救う勇者稼業やってる極道よ!」
「はは、まさか任侠の徒だったとはな。なるほど、弱きを助けて強きを挫く……だったな。そして情を施されれば命をかけて恩義を返すことにより義理を果たす……。私の船団、一官党の創始者たる偉大な王直の教えも任侠道だった」
「俺が生きてた時代は、あんたの時代からは400年くらい経ってるが、概ねそうだよな? それは俺達アウトローが、どんな時代だろうが変えちゃいけねえ普遍的な道理、仁義とも言う。まあ俺の時代の中国や、中国組織には仁義や任侠なんて、残念ながらほとんど残ってねえけどよ。そして……クソアマとカス野郎! 上見ろごらぁ!」
先生がジローにアゴで合図すると、にやりと笑ったジローが、隠し持ってた魔法の水晶玉を空に放り投げて、上空の戦艦から光が差し込み水晶玉を回収していく。
すると空の雲にさっきの映像と音声、そしてフレイアの記憶のような断片が流れ始め、フレイアの顔が真っ青になった。
ご丁寧に字幕まで着いてて、まるでニコ動やつべ動画みたい。
「さっきぬブサイク女の話、全世界ぬ空でぃ特別ロードショウさー。我が兄貴の組の連中んかい、頼んでちゃんさー。ついでに、アヴドゥルとも話し合って、ジューの連中にも金融制裁するさー……ぽってかすー共が……くぬ世界なめんなや!」
「はっはっは、マジでお前酷いやつだよな! この世界におあつらえ向けの夜のレイドショーだぜ。俺も昔、国立銀行強盗しまくって、世界恐慌なのに合衆国政府や州政府の馬鹿共が、こんな金貯め込んでやったって、影で新聞記者連中に情報流しまくってやったのを思い出すぜ!」
そうか、今のやり取りを全世界に暴露して、フレイアへの信仰心を失わせるんだ。
「けっけっけ、チキチキ馬鹿女の暴露大会、ポロリもあるぜっと」
先生がニヤニヤ笑いながら、上空を指さすと、かつてこの世界の英雄と呼ばれた男を、服とか脱いで誘惑してる映像が空に映る。
「カンビナス、前の世界ではオッタルとも呼ばれた愛しい僕よ、アタシの事を思い出したかしら?」
「おお……愛しの女神様、この私は何をすれば」
「一緒に寝ましょ。そのあと枕元でアタシの言う事を聞いて欲しいの」
……なんか見てて気まずい。
「や……やめてえええええええ! こんなの勝手に映さないでええええええ」
あ、フレイア顔面真っ赤になって空に魔法撃ちはじめて、光の魔法や爆発でモザイクみたいになった。
なんか喘ぎ声とか聞こえてきて……見てるこっちが恥ずかしくなってきた私は、空から視線を外して男どもの方向いたら、いやらしそうな顔で薄笑いで空眺めてて、ジローが指笛吹いてて思いっきりあの馬鹿女を茶化してる。
「ひゃっはっは、夜空いっぱいに日活ロマンポルノやエロビデオみてえなの上映とか最高だな!」
「そうだろー兄貴、日活ロマンポルノとかゆたさんどーねー。我も団地妻シリーズ見てたさー」
「夜のレイドショーって言えば、コレだよな。モラル・コードとか言う、くだらねえもんを頭リベラルな国会議員連中が思いつくまでは、最高の娯楽だった」
最低すぎる……。
イケメンなだけに、残念すぎるこの人達。
あ、今度はジークとのやり取りも流れだした。
「貴様らああああああああああああ、よくも! よくも英雄である俺と女神に恥を!」
ヤマタノオロチが残っ頭で熱線を口から吐き出そうとしたら、上空の艦隊からレーザーとか魔力砲とかが降り注ぎ、大爆発を起こした。
「くそ……レジェンドヒュドラが……上空にいるのは魔界の軍勢……何なんだ一体!?」
そして私達は、ヤマタノオロチから降り立った二人を、私達は取り囲み、私は胸のペンダントに手を触れると、魔力を回復した私は黄金の鎧状態になった。
「さあて、ケジメの時間だぜ?」
「俺達が英雄だ、stupid!」
「調子のるんもここまでさー、ぶっ潰してやる!」
「この世界に……偽物の神も英雄もいらぬ……坏蛋め」
皆が各々の武器を構え、私も鉄パイプのような杖を黄金のステッキに変えた。
「もう……あんた達は……英雄でも神でもない!」
続きます




