第54話 精霊神フレイ 前編
私達の前に、物凄いイケメンが現れた。
メラルドグリーンの長髪を髪留めで束ね、瞳が虹色に輝き、エルフの美貌を凌ぐほどの中性的な感じの超絶イケメン。
なんか歩いただけで、虹が出来てとか花が咲くようなそんな感じで……。
うわ、歩いたら本当に花が咲いたし、やばいってこの人。
しかもエメラルドのような髪が、本当の宝石のようににキラキラ光り輝いてて、瞳の色がジルコニアと言うか、動く宝石のような感じ。
思わず私がうっとりしてしまうこの美貌、間違いない……神。
マジでイケメンというか、もう形容できないくらい……凄いとしか言いようがない。
「我が子らよ、私が生み出したエルフ、ドワーフ、ホビット……いやこのホビットはフレイアの作った薄汚いヒトの血が流れて……」
イケメン神が言い終わる前に、ダッシュで駆けてきた先生が、思いっきりグーで殴り飛ばした。
「……ちょ!」
いきなりイケメンの神が現れたと思ったら、先生が殴って……。
何これ? 理解が追いつかない。
「俺の義理の娘を薄汚えだとコラァ! てめえがヨゴレだクソ野郎!!」
そうか、土のタイタンのメリアさんは先生の義理の娘さんだった。
先生は身内と認識した人たちや子供には、すごく面倒見が良くて優しいけれど、身内を傷つけたり馬鹿にした態度をとった場合は、口よりも先に手が出る。
あ、ジローがピストルをしまってメリケンサックをはめて、仰向けに倒れたイケメン神に、馬乗りになって顔面を殴り始めた。
「糞汚ねえ外道が! 兄貴の身内に上から差別っし、物ん言うなお前! 死なすぞ!」
この人もそうだ。
先生は確かこんな事を言ってた。
「いいかいマリー、ヴィトー……転生前は金城って言ってたがな、明るくて社交的に見えるけどそうじゃねえんだ。あいつ実は結構人見知りでよお、明るく話しながら、相手の人となりを観察してる思慮深い奴なんだ」
「そうなんですか? 全然気にしてませんでした」
「ああ、それで真っすぐだが不器用、よく言えばマイペースとも言えるがね。ぶっちゃけ人見知りで、本当の意味で打ち解けるのは時間がいる」
私は、先生のような冥界魔法で心を読んだり、人の本質を見抜くような力はまだない。
けど、先生が本来の彼の魂を呼び起こそうとしたほど、転生前の彼が、男として先生が認めて信じていた人間性と言うか人となりがあるのだろうと思う。
「だがなあ、あいつは自分の身内や仲間と思ったら、それこそ命がけで守ろうって言う、男としての強さと、優しさと、義理堅さと、美しさを持ってる野郎なもんで、だから俺はあいつに惚れた。純粋に、あいつの腕っぷしの強さにも惚れた部分があるがね」
先生が言ってた、男が男に惚れるという感覚。
肉体的な意味ではなく、精神的に相手の男の人に惚れるという事。
なんか私がネットで見た、BLとかやおいに通じるものがあるのかな?
いやいや、そんな事じゃないか。
「あいつは、転生前はアシバーだの愚連隊だの暴力団だの言われたがなあ、あいつが戦果アギャーと周りから慕われたのは、空手の腕っぷしもそうだが、地元を守ろうと、命がけで人間の尊厳を証明してきた侠気から来てる。あいつの性根は、強くて優しい男だ。俺が言うから間違いねえ」
ジローはきっと、先生の身内の人を差別して、馬鹿にした言動を許せなかったんだろう。
たとえ相手が神であっても。
すると、イケメン神が馬乗りしてきたジローに右手をかざすと、ジローが壁に吹き飛ばされ、思いっきり叩きつけられ、頭部から出血した。
このフレイと言う神、ダメージも全然負ってないし、今まで私達が戦ってきた相手とは全然レベルも次元も違う、まさに神。
「貴様ら! 我らが神に対して!」
皇帝ヨハンが、エルフ達を連れてフレイに駆け付けようとするのを、先生が魔法で弾き飛ばす。
「すっこんでろ! 殺すぞ!」
怖い……。
これは脅しではなく、本気の殺気。
先生は本気でこの神に怒ってる。
すると、今まで押し黙っていたデリンジャーが、フレイを見ながら身震いする。
「やべえ……身動き一つとれねえ。くそ! どうしちまったんだ俺は! 仲間の身内が、コケにされたってのに……ガッデムシット!」
デリンジャーの、フランソワ王家や、フランソワ人の血筋には、亜人とも精霊人とも呼ばれる血が流れてて、この神に抗えないようにされている?
「親父さん、ここは僕らが……ケジメをつけますんで」
「親父さん、ヤミー様、拒魔犬様、金城の叔父貴……俺達、この神に言うべきことある」
そんな人知を超えた相手に、先生の子分の人達、風のシルフのブロンドさんや、炎のイフリートのガイさんが、フレイの前に立つ。
「……わかった、おめえらのケジメ、親であり初代極悪組組長にして相談役、勇者マサヨシが見届ける。金城、いいな?」
「わかったん兄貴……子供ら、頑張りよー」
ケジメ?
わかんない、転生前でそんな言葉リアルで聞いたことがないし、何をしようとしてるのか、私には全然見当がつかない。
そしてその様子を、睨みつけるかのように女神ヤミーがじっと見据えていた。
この女神、まるで精神的に恋する年下の女の子のようでいて、意地悪そうな子供っぽい感じがしたけど、相手のフレイを見据える姿は、まさしく女神と言った風格を感じさせた。
「我が子らよ、なぜだ? なぜお前たちは同じ我が子である、この者達に攻め入ったのだ……。私は、お前達を……生み出した親として、今まで一時たりとも忘れたことはなかった。私が、どれほどお前達との再会を心待ちにしたか……」
「エルフのグルゴンとして、我らが生みの親フレイに問います。なぜあなたは我々の先祖を、捨て置いたのですか? 教えていただいてもよろしいでしょうか?」
この人達は、先生が救った世界の人達。
その世界の元々の神でもあり、エルフやドワーフとかの生みの親が、このフレイと言う神なんだろう。
この人達、言葉を出すだけでも苦しそうだし、この神の前に立つだけでも、脂汗のようなものを掻いてる。
「私は、精霊界を守った実績がある精霊、フューリーを……愚妹フレイアと共に素晴らしき世界にするためにお前達を愛して、美しい世界にしようとした。だが、フューリーは心を病んでいた。そして飽きっぽいフレイアはお前達とヒト種を放任し、世界のバランスを取ることもせず……」
「詭弁です、そんな話は! かつて魔界と言われた世界の魔族が、我々の世界に攻め入った時、あなた方は……私達を助けてくれなかったではないですか!」
「仕方がなかったのだ! 我々には管理能力がないと言われ、そのかわり数多の神がお前達を救おうとした! だが結局お前達を救えなかったのだ……。お前達に、親として私がどれだけ無念だったかわかるのか!? お前達を救えずに、別の世界に担当を代えられて……それでも私はお前達を愛していたんだ!」
自分の子供のような存在を、救いたくとも救えなかった神の告白に、今度はガイさんがフレイの目の前に立つ。
「精霊神よ、俺はあんたに生み出されたことを感謝してる! だが、だからこそ解せない! あんた、俺の世界以外にもいろんな世界で精霊種生み出した。けど、俺の知ってる奴ら、酷い世界で争い合ってた。俺達がまるで戦いの道具にされているような感じ」
ん?
気のせいだろうか、フレイの宝石のような瞳が、一瞬視線が泳いだような……。
先生と一緒に経験した、賭博場でイカサマしようとした人の目に似てるような気がする。
先生は心が読めるから、イカサマを見破ってボコボコにした後、賭け金全部没収してたけど。
「俺はそこのブロンドよりも頭良くないけど、俺達は戦うために生まれてきたんじゃない! あんた人間達を争うように仕向けてる!」
「それは……違う! お前達はそんな……」
「ゴラァ!」
先生が、物凄く怖い顔でフレイを一喝したが心を読んだんだ……フレイの心の奥底を。
「はっきり言いやがれ! てめえの親分が描いてる絵図を!」
フレイは、何を隠しているが、その理由を私達は知ってる。
先生がサラマンダーの心を読んで入手した、ユグドラシルの神々が企てた陰謀の中心にいるのは、オーディンで、その使者が……私もちょっといいかもって、勝手に片思いを抱いていた黒騎士エドワード。
「お前達の因子は、我らが念じれば互いに競い合い、争うように作ったのだ。我らが主神オーディンの為に……。フレイアのヒトもそうだ。我らがユグドラシルの繁栄のため……お前達が生み出す、戦場で戦った魂が召される時のエネルギーと、祈りのエネルギーを糧にするために……」
……酷い!
戦場で生まれるエネルギーを糧にするのが、そのオーディンと言う神。
そしてこの世界で巻き起こる戦乱も、オーディンが仕組んだ陰謀。
「言質とったな、ヤミー」
「うむ……此奴らめ……世界や人々を……何だと思ってるのじゃ!」
そしてこの妖精神フレイは、オーディンの意向で、様々な世界で戦乱になるよう、仕組んでいたんだ。
自分達のために、人々を弄んで……許せない!
「あなたたち神は、私達を作って戦わせたエネルギーで、神なんて気取って……そのせいでこの世界も、この人達も苦しい思いをして、あなたが、この人達に親なんて言う資格なんかない!」
私が言うと、フレイが恐ろしい形相になり、私を睨みつけるが、絶対に目を逸らしてなるものか!
だって私は間違った事を言ってない!
「私は親から殺されて、この世界に転生した。だからわかる、あなたは自分達の都合で生んだ人々を身勝手な理由で、振り回して虐待してる!」
「違う! 私は……それでも私は、我が子を」
私がフレイに自分の思いをぶつけると、メリアさんが私の前に立った。
「私も人の親です、自分の子供のように思っていた者達を、自分達の利益のためだけに、命や魂を弄ぶ存在は、親なんかじゃありません。私たちの親は勇者マサヨシ様です! 我らが神は、女神ヤミー様です! あなたなんか……っ親なんかじゃないっ!」
メリアさんは、フレイに自分の想いを告げた後泣き崩れ、ドワーフのガイさんも、うつむいて涙目になり、怒りと悲しみを押し殺していた。
「あなたは……もう親でもなんでもありません。精霊神フレイ、僕たちの世界はあなた方と絶縁させていただきます。この世界も、あなた方の陰謀で酷い有様になってるならば……この非道、正すべきです。それをあなたに会って直接言うのが、親であった貴方への決別のケジメだ!」
ブロンドさんが絶縁を宣言した瞬間、強烈な波動で、ブロンドさんたちの動きが封じられる。
「嫌だ! お前たちは私の子供達だ! お前達に我らの何がわかるのか!? 私が主神オーディンに逆らえないよう、お前達にも絶対服従の呪法を遺伝子に刻んで……」
フレイが言い終わる前に、先生がかっ飛ぶようにこっちに来て、フレイの顔面をぶち抜くように頭突きして吹っ飛ばした。
「クソ野郎!! 聞いての通り、てめえはもうこいつらの親じゃねえ! 俺が親だ、こいつらの!! 親である俺が……どんなことをしてもこいつら守ってやる! この世界も! 俺の命を賭けて!」
先生の体が光り輝いた。
ステータスを確認すると、先生の基礎ステータスとレベルが、意地の輝きと博徒の美学で、一気に跳ね上がり、レベル換算で……うそ、私のレベルが上がったとはいえ、基礎レベルが一気に90以上とかになって……。
「数多の世界で、てめえらの力をつけるため、ワザと戦争起こして、神界に流れるはずの祈りのエネルギーも、カスリ取ってやがったろ? 裁いてやるぜ、勇者マサヨシ様がよお!」
「我、女神ヤミーが告げる。フレイよ、この者達の神はお主ではない。仁愛の世界の神は我じゃ! 勇者よ、こやつは我らが滅ぼす悪! 神界法特別指定3類、邪神フレイめに鉄槌を下す事、上級神である我ヤミーが命ずる! 勇者よ、その力を解放せよ!」
女神ヤミーが宣言した瞬間、スキル閻魔王の加護で、先生の本来の力が解放されたのか、はだけた着物の背中どころか、体中に入れ墨が先生を覆いつくす。
基礎レベルが……200オーバーしたと思ったら、一気に文字化けし始めて……。
チートとかそんなもんじゃない!
今までの先生とは、オーラとか全然違う。
これが、幾多の世界で、戦い抜いてきた最強の勇者の本当の姿?
「俺の子分らは立派にケジメつけた。てめえへのケジメは、親である俺がとってやる」
白いオーラに包まれた先生から、青白い6本腕のオーラが羽のように具現化し、オーラの手がフレイに対して中指を立てる。
あれは……先生の前世、魔王の意思が宿ったオーラだ……6本の手で中指立てるとか、ガラが悪いにも程がある。
「させぬ! 我らが神をお守りするのだ!」
皇帝ヨハンが巨大な弓を持って、私達に立ちはだかり、空間が歪んだと思ったら、真っ白い翼を拡げると5メートルはあるような、巨大な白鳥にも似た鳥が姿を現した。
「やらせないよ、フレイ様を。神界や精霊界なんて知るもんか! 精霊カラドリウス、我が神フレイをお守りする。乗るが良い、エルフよ」
精霊が出現し、皇帝ヨハンが巨大な白鳥に跨り、弓を構える。
すると雪崩れ込むように、広大な皇帝の間にエルフの弓兵や、ドワーフの重装兵士、そしてホビットらの魔導士が入ってきた。
「我らがノルドを、陛下をお守りするのだ! 貴様らなんぞの好きにはさせぬ者どもかかれ………」
将軍っぽいエルフの人が言い終わる前に、銃撃や魔法攻撃が、亜人達の集団に加えられた。
「待たせたな兄弟、ヤミー様。我らがファミリーが、そこの集団をお相手しよう」
多種族で構成された背広を着た軍団、ロバートさんの異世界マフィア達が、私達の救援に入ってくると、床に草が生い茂ったと思ったら、皇居の天井を突き破るかのように樹が具現化した。
「私は樹木の精霊、ドリアード! フレイ様を守るのが、私達精霊の使命! エルフ達よ、私達の力で存分に力を発揮しなさい!」
髪の毛が葉っぱで、体が木で出来たような女の子の精霊も出てきて、フレイに加勢する。
どうしよう、先生と子分の人達は精霊神フレイとの戦闘が始まりそうだし、私はこの場合どうすればいいのか……。
「くっそおおおおおお、神がなんだ! 俺はデリンジャーだ! このくだらねえ戦争を終わらすために来たんだ! びびるな、俺! こんなもんじゃねえぞ俺は!」
デリンジャーは銃を取り出して、身体強化の魔法を唱え、フレイへの恐怖を払拭しようとしている。
まわりで様々な情念が渦巻き、私は場に呑まれそうになる。
神との戦いなんて……精霊との戦いですらあんなにキツかったのに、私も勝てるかどうか不安になってきちゃったよ。
「マリーちゃん、なんくるないさー。清水の兄貴は負きねぇー、兄貴のわらびらも。俺ぁ達は、あの鳥に乗った女と木の精霊を、やっつけるさ」
ジローは私に勇気づけるよう、親指を立てながら笑いかけ、デリンジャーの方を向く。
「アンリ君、兄貴にあの馬鹿任せて、俺ぁ達は、巫女っぽい不細工女と精霊共、やっつけらー」
「わかった、シミーズに任せよう。ていうか最近お前、なんか発音がおかしくねえか?」
「そうかー? 普通さー。俺ぁよー、飛行機の窓の外から……鎖に繋がれて裸に剥かれて売られてた女や、子供達見たー。かわいそうやん……。我は……うんな差別ー許せん!」
「ああ、かましてやろうぜ! この豚野郎達に! ゲームは二回裏でこっちの大量リードだ! このゲーム、終わらしちまおう、俺達の力で!」
そうだ、どんな時でもどんな状況でも諦めちゃだめだ。
自分を信じて、みんなを信じて勝利するんだ。
私がペンダントに手をかけた瞬間、黄金の鎧の装備になった。
そして、怒りの形相で私達を見つめる、皇帝ヨハンへ私は杖を向ける。
「行こう、終わらそう……こんな悲しい事! 私たちの手で!」




