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転生したら楽をしたい ~召喚術師マリーの英雄伝~  作者: 風来坊 章
第二章 魔女は楽になりたい
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第45話 開戦 中編

 一方上空では、手傷を負ったエルダーエルフのフェアリー隊も、次々と地上に降下し、追撃して来た戦闘車両(テクニカル)に乗るエルフ達を見て、顔が真っ青になる。


「あれは……伝説で語り継がれた我らが祖、ハイエルフとダークエルフの戦士達だ……なぜ我らを……」


 エルダーエルフの先祖は、光のハイエルフと闇のダークエルフが雄和して混血を繰り返し、先祖返りした存在であり、両方の種族の特性を併せ持つ。


 寿命はハイエルフほど長命ではなく、肌の色は概ね白いが、銀髪で左右の瞳が違うのと、ハイエルフやダークエルフほど身長は高くなく、ダークエルフ同様男性は筋肉質に、女性は豊満な体つきになる。


「くそ!? 何がどうなってるんだ!? まるで別の世界からやってきたような凶悪な暴力と強烈な悪意が、我々を覆いつくしてるような……私も出撃する! バイキルト隊にランヌの市街戦を任せ、我々フェアリー隊は、街から南方の森に移動せよ! 森林戦ならば、我らフィンのエルフに負けはない!」


 ノルド帝国ナーロッパ侵攻軍第二分遣大隊、大隊長司令官ヘルガーが命じると、フランソワ北部の森林地帯モーゼルに転身して身を隠す。


「本国と連絡を取らなければ。見たこともないドワーフ達とハイエルフやダークエルフ、そしてまるで伝承に残ってる悪魔のような軍勢が、我らを攻撃してきた事実を、ヨハン陛下や元老院の長老へ」


 すると、森のあちこちでエルダーエルフ達の悲鳴が轟く。


 エルダードワーフのフィン領域は、北方の森林地帯かつ豊かな大森林で、精霊界と交信できる精霊力を得た自分達が、森の戦闘ならば自分達が絶対有利とハイエルフ達を完全に侮っていた。


 勇者マサヨシの世界で暮らすハイエルフ達は、過酷なジャングル、トワの大森林で、凶悪なモンスターやドワーフ達と、血で血を洗う仁義なき闘争を何世代も続けてきた、ゲリラ戦を得意とする歴戦の弓兵達。


 そしてダークエルフ達も、凶悪で巨大なモンスターしかいない、過酷な砂漠の大陸で、ホビットが設立したノーマと呼ばれる巨大企業の侵略と戦ってきた、歴戦の魔法戦士揃い。


 彼らを支援するのは、ブラウニーと呼ばれる小人達。


 元々は、勇者ロバートが救済した暗黒と悪徳の世界の住人たちであり、神と精霊界に見放された世界で、それでも祈りを捧げてきた人々にして、勇者ロバートが最初に救済した者達。


 これに加えて、かつて魔王軍と呼ばれた、サタナキア軍の軍勢相手に、この世界のエルダーエルフ達に成すすべがなかった。


「こちら空母バエル隊本部より、ブロンド様へ。航空偵察隊からの情報。敵司令部は森林南西、ポイント1、3、5の地点、竜魔兵団によるナパームの爆撃は必要ですか? おくれ」


「必要ありません、森が焼けるのは悲しい事です。敵の首魁がいるならば、僕が対処します」


「こちらバエル隊本部ライガー将軍了解。健闘を祈ります、以上(オーヴァー)


 勇者マサヨシが創設した、極悪組二代目ナンバー2、風のシルフことハイエルフのブロンドは、ダークエルフの魔法戦士かつ自身の片腕、銀髪のスルドを伴い、森の木々を縫うように、ノルド帝国の司令官ヘルガーの元へと向かう。


 音も気配もなく現れた美しい二人のエルフに、エルダーエルフの一団は呆然としながら、その姿を見つめる。


 一人は、和服を模した柳緑の長着に、菱形に悪一文字が入った黒の羽織を羽織る、金髪碧眼のハイエルフの美少年。


 もう一人は、肩甲と膝甲に棘がついた漆黒の鎧に、白地に菱に悪一文字が入ったマントを装着する、銀髪で蛍光色のマゼンダのような、紫色の瞳を持つダークエルフの美少年。


――両目が、別々の色じゃない!?


 エルダードワーフ達は、基本的に緑か紫と灰色のオッドアイであり、両目の色が揃って生まれたエルダーエルフは、1万年に1人の天才と称され、崇拝の対象になる。


若頭(カシラ)、我々と同じエルフのようですが、彼らは醜い。卑怯と卑劣さが顔ににじみ出て、酷く醜悪な容貌をしている様子」


「スルド補佐、君の意見は正しい。僕達が唾棄すべき、醜い集団のようです」


――古語ルーン語? やつらは我らを醜い集団と侮辱した! 我々エルダーエルフを! 私の半分にも満たぬような年頃の若造共め!


 雪のように白い肌をした、300歳のエルダーエルフ、白いローブを身に纏ったヘルガーが、顔を紅潮させて二人のエルフを睨みつけた。


 するとブロンドはヘルガーを嘲笑し、スルドはゴミを見るような侮蔑の眼差しをヘルガーに向ける。


「おい、何だその目は? ゲスのくせに、我らが極悪組若頭かつエルフ騎士団長にして、全てのエルフを統べる王に対して頭が高い!」


 スルドは冥界魔法、高重力(グラビティ)を発動させ、エルダーエルフ全員を地面にめり込ませた。


「ぬおおおおおおおおお、動けん! 何をした! 小僧!」


 地面にめり込んだヘルガーが見上げると、ブロンドが宝石のような青く輝く瞳で見つめる。


 ハイエルフの中でも、起源(オリジン)とされる、王の中の王と伝承でうたわれた眼光に、エルダーエルフのヘルガーは、本能的に畏怖する。


「君達の本国の連絡先と、軍事作戦の内容を教えて欲しい。あまり僕は酷いことをしたくない、暴力は嫌いだから」


 ヘルガーは、ブロンドが着た和服を模した緑の長着につばを吐きかけた。


 この行いに、怒りに燃えたスルドが魔力の出力を高めると、エルダーエルフ達の全身の骨がきしみ始め、全身の骨が砕けそうになる。


「ぎゃあああああああ! 何だこの魔法は!? 世界には4元素の属性魔法と精霊魔法しかないはず! 何をしたあああああああ」


 ダークエルフは、冥界との契約により冥界魔法を使用でき、この世界の理と大きく外れた、強力な闇の魔法である。


「僕は暴力的な事はしたくないと言ったはずだ。だが、君達が弱者の尊厳を弄び、僕らを侮辱するのならば、考えがある」


 ブロンドは、袖の下から濃い赤黄色の液体が入った瓶を取り出すと、蓋を外してヘルガーにとろみがついた中身の液体をかける。


「なんだこれは? ……あまっ! 甘いこれ! はちみつか!? なぜ!?」


「その通り、森のキラービーから入手した、トワのはちみつ……その加工前のものだ。そして、これは空気に触れると危険な劇物のようなもので、ハーブを加えて処理しないと酷いことになる」


 すると、風味豊か過ぎる甘い香りが漂い、森中から大量の虫が湧き始め、地面にめり込んだヘルガーの上半身に毒虫や羽虫の類が纏わりつく。


「うぎゃああああああああああああああああああああ、助け! お助け! やめてください!」


「君達も、やめてくれと言った人々を惨たらしく殺し、死者の尊厳を冒涜したじゃないか。死にはしないと思うけど、発狂しないうちに降伏してくれるとありがたい。そうすれば、あなた以外の誰かも、こういう目に遭わずに済むと思うのですが?」


 ブロンドが凍てつく様な青い瞳を、他のエルダードワーフに向けると、一斉に目を伏せる。

 

「わかった! 話すから魔法を解いてくれ! いや解いてください」


 ヘルガーは、纏わりつく虫の恐怖に怯えながら、本国の作戦概要についてブロンドに伝えた。


 そしてあらかた情報を収集した後、極悪組若頭補佐のスルドは、ブロンドに魔法の水晶玉を手渡す。


「二代目、終わりました。ええ、彼らの本隊はオード・フランソワ地方の、カリー海峡ともドーハ海峡とも呼ばれる都市カリーに侵攻し、この国の首都へ進撃し、陥落させようとしてる模様です。ええ、敵勢力の名前はノルド帝国、ホランド公国、ヴィクトリー王国で間違いありません。ええ、マサヨシの親父さんにお伝えください」


 水晶玉の通信が終えると、ブロンドはため息を吐き、半ば発狂したヘルガーを侮蔑の眼差しで見つめる。


「お助けを御慈悲を……」


 ヘルガーの命乞いに、ブロンドは纏わりついた虫を精霊魔法で、掃除機のような小型の竜巻を起こして吸い取る。


 そしてダークエルフのスルドが、冥界魔法の効果を解くも、狡猾なヘルガーは自分が隷属したふりをして、土の精霊魔法で、自身を小型精霊化した。


 まるで、金属で出来た白アリのような姿になり、魔力で無数の分身体に分裂した。


「ハッハッハ若造共め! 土の精霊ノームと一体化した私に、勝てる筈がない! くらえ弾機孔針(シェルニードル)


 風の力で貫通力を高めた無数の小型金属針を、矢のように撃ち出すヘルガーへ、ブロンドはカウンターで竜巻を発生させ、幾千にも分身したヘルガーを、小型金属針ごと上空数100メートルまで巻き上げる。


「うぎゃああああ! 風の力で針が逆に私を襲って! クソ、この分身体では巻き上げられて……なんて魔力だ! 元の姿に戻らなくては!」


 ブロンドが生み出した竜巻の力に抵抗するため、精霊化と分身化を解いて踏ん張ろうとするヘルガーに対して、ブロンドはため息を吐きながら、竜巻に続いて強力な風魔法を繰り出す。


下降気流(ダウンバースト)


 ヘルガーは、瞬間風速100メートル以上の下降気流の力で、森の木々に叩きつけられ、まるで航空機事故に遭ったような、手足が千切れて全身を打撲した無残な姿になる。


 そして、ブロンドは瓶に残ったハチミツを、ヘルガーに向けて投げつけ、瓶が割れると再び大量の虫が湧き出した。


「ぎゃああああああああ、また虫があああああ」


 ブロンドの傍らに立ったスルドは、土の魔法で地面に穴を作り、絶叫するヘルガーを落とした後、魔法で落ち葉や土を被せた。


「卑怯者め。多くの人々の尊厳を奪い、生命を侮辱した者にはもはや死すら生ぬるい。そのハチミツには生命力回復の効果があるし、森の中ならば精霊力の精気のおかげで、エルフである君はその状態でも、数10年は生きながらえるだろう。そこで、そのまま虫に食われながら朽ちていけ」


 エルダーエルフ達は、伝承通りの凄まじい力を持つ、このハイエルフの王の暴力が、自分達に向きませんようにと、虫に纏わりつかれて狂ったように叫び続ける、司令官ヘルガーの末路を見て、ブロンドに服従する。


 ブロンドはエルダーエルフ達を捕虜として、森を後にした。


 一方ランス市街地では、極悪組舎弟頭ドワーフ王のガイ達の戦闘が、終盤に差し掛かろうとしていた。


 エルダードワーフのビィゴー達は、風の精霊ニンフ化して、精霊銀(ミスリル)の大斧で、レジェンド・ドワーフ達に風の斬撃で攻撃するも、ガイ率いるドワーフ達は、暴風雪とかまいたちにものともせず、ビィゴーの配下全て戦闘不能にされた。


「なぜじゃああああ! ワシらエルダードワーフは、精霊人の中でも選ばれし優秀民族の筈なのに、なぜあんな原始人のような野蛮な連中に!」


 上半身がはだけて、真っ白い体に白い翼が生えて精霊ニンフ化したビィゴーは、一時撤退を決断する。


 戦線から離脱しようとしたビィゴーの前に、ガイと二代目極悪組本部長補佐のマシュとオルテのレジェンド・ドワーフ達が立ち塞がった。

 

「マシュ、オルテ、ジェットアタックだ。三位一体の打撃で、あの一番デカくて偉そうなヨゴレぶっ倒す!」


 三人のドワーフが宙を飛び、ガイがビィゴーのアゴ、マシュがみぞおち、オルテが金的をくらわし、ビィゴーを昏倒させた。


「おい、こいつら盾に括りつけろ」


 ガイの命令で、全身打撲の重傷を負い、命乞いをするエルダードワーフ達を、大盾に張り付けてさらに殴る蹴るの暴力を加えていく。


「モウ……ヤメテ……助ケ……オ助ケ! 同ジ、ドワーフノヨシミデ、ドウカ……」


 涙目で命乞いをする、ビィゴーだったが、ガイは助走をつけて右ストレートを叩き込むと、ビィゴーの前歯全てが砕け散る。


「お前、やめてください、助けてくださいと言ってた、抵抗できない弱い女子供いじめた。お前は男じゃない、俺達と同族じゃない」


「ワシらはいごっそう、男ん中ん男じゃ。おまんらヨゴレ共と同族じゃないき! 名誉あん行いも男らしさもかけらもねえ、ファック野郎!」


 レジェンド・ドワーフ達とダークドワーフ達の暴力に、エルダードワーフ達は怯え切っていた。


 それ以上に、保護されたランヌの街の多くの女性や子供達は、心的外傷性ショックで口がきけなくなっており、女魔族たちや戦闘に参加していない女性エルフ達が対応しており、それを見たガイの瞳が怒りで焔色に染まる。

 

「お前達、自分達の力に溺れた。力が強かったら大勢の誰かの役に立たせるために使うのに、お前達男じゃない! おいオルテ、俺の道具よこせ」


 ドワーフ王ガイに、巨大なアダマンタイト・チタン製の大槌が手渡される。


 ハンマーのヘッド部分は、攻城用の破壊槌のような形をしており、エルダードワーフが二人がかりで持ち運ぶような重量かつ、柄はドラゴンの骨、いわゆる竜骨で作られて打撃力を極限まで高めた逸品。


 柄にミスリル銀とヒヒイロカネで細工した、二つのハンマーが交差して、炎を縁取ったドワーフ王家の紋章が入っており、ガイは炎の精霊イフリートに変化する。


 身の丈3メートル以上の、炎の魔人になったガイの姿に、エルダードワーフ達は絶望して、恐怖のあまり身を震わせた。


「ヤメテ……ソンナモノデ、ソノ力デ殴ラレタラ死ヌ。暴力振ルワナイデ!」


「隊長ヲ助ケテ下サイ」


「本国ノ命令デ仕方ナク……」


 助命の声を無視してハンマーを両手で構えたガイは振りかぶると、死を覚悟したビィゴーの顔面すれすれで寸止めして、ハンマーをその場に投げ捨て、イフリート化を解いた。


 地響きと共に凶悪な得物が地面にめり込み、大楯に縛り付けられたビィゴーの髪の毛をガイは両手で掴む。


「自分がされて嫌な事を、無抵抗な女子供にするのは男じゃない! お前らのような奴ら、俺の世界のドワーフに1人もいない! ライの兄弟の世界にも! お前たちそれでも男か!? ドワーフか!?」


 ガイの侠気に触れた、ビィゴーは目に涙が溢れてうな垂れた。


 エルダーエルフの長老たちや皇帝、そして背後にいる自分たちの神フレイにビィゴーは初めて疑問を持ち、己のあり方を見つめ直すと、地面に涙がこぼれ落ちる。


 その心境を悟ったガイは、腰に下げてた金属製魔法瓶に入った、スピリタスウォッカのような火酒を一口含んで飲むと、配下のドワーフにエルダードワーフ達の縄を解かせ、魔法瓶を差し向ける。


「飲め! 俺達ドワーフの流儀! 一番強い奴がドワーフを率いる王! 俺に負けたお前達は俺の子分、俺についてこい!」


 ビィゴー含むエルダードワーフ達は全員、ガイの火酒を回し飲みして忠誠を誓った。


「やはりまっことすごい男や、ガイが兄弟。ドン・ロバートが親分(カポ)やなく、ガイに先に出会うちょったら、ワシら全員子分になっちょる、のう?」


「ほんに、ほに」


 ロバート配下のダークドワーフ達が、ガイに賞賛を贈る一方、ハーフエルフの一団に囲まれたアンリことデリンジャーは、丸腰の状態で殴る蹴るされて罵声を浴びせられていた。


「何しに来たんだ虐殺王子め」

「まだ我々を殺し足りないのか」

「フランソワは俺達を亜人だって言って、侵略しに来て、お前は俺達の同胞を!」


 デリンジャーはうずくまり、殴る蹴るされながら、転生前のある出来事を思い出す。


 自分が転生前に起こした、、オハイオ州イーストシカゴのファースト・ナショナル銀行を襲った時、仲間を守るために殺した警察官の事を。

 

――そうだったな、シカゴ市警の奴らも俺をパクる時、俺がぶっ殺しちまった警官が、いかに人間的に素晴らしい男で、その命を奪った俺に対し、罵声を浴びせてきて……おまわり達から殴る蹴るされたっけか。そして俺は……同じ過ち以上の事をこの世界で起こした。てめえが英雄になりてえって理由で、多くのハーフエルフって呼ばれる人々の命を、ギロチンで次々と首を刎ねて……。


 アンリがハーフエルフ達からリンチを受けている様を見たマリーは、鉄パイプのような魔法の杖を持ち、駆けつけようとする。


「た、助けなきゃ。このままじゃデリンジャーが、アンリが殺されちゃう!」


 ダンプカーの助手席から降りようとした、マリーを勇者マサヨシが手で制した。


「何で!? 先生!」 


「あいつは男になろうとしてる……止めてやるなマリーよ。男としてのけじめをつけようとする野郎を止めるのは、野暮ってもんだ。信じろ、あいつを、奴の魂を」


 マリーの肩に腰掛けるマサヨシの傍らに、ヤミーが寄り添うように腰掛ける。


「マサヨシよ、あの男を信じてるのじゃな? 人間としても、男としても」


「そうだ、奴は俺が今まで出会った中でも指折りの、男の中の男よ。奴の男気と器量、この目に焼き付けてやる」

後編に続きます

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