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転生したら楽をしたい ~召喚術師マリーの英雄伝~  作者: 風来坊 章
第二章 魔女は楽になりたい
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第44話 開戦 前編

 亜人国家ホランドの部族長の子で齢50歳、人間で言うと20代のハーフエルフのホランド王子レオは、ノルド帝国の支援で、仇敵フランソワの北部最大の町、占領したシャンペーニュー地方ランヌで、兵士達と警戒警備を行なっていた。


 ランヌは英雄ジークの子孫が興したフランソワ王家発足の地であり、ランヌの北部はフランソワから亜人国家と呼ばれる、ホランド国ワローンと呼ばれる地域であり、長年フランソワとの係争問題を繰り返していた。


 ホランドでは、フランソワの差別主義から逃れた平民と呼ばれるヒト種とエルフの混血が進み、エルフの特徴である耳の長さは、ハーフエルフの場合、通常のエルフの半分にも満たないが、容姿的に優れるものが多く生まれる。


 寿命は概ね長命であり、平均寿命はエルフの5分の1しかないが、それでも200歳を超え、2メートル以上の高身長かつ精霊魔法の使い手も多く、貴族階級の一部しか精霊魔法を使えないフランソワにとって長年の脅威であった。


「フランソワのヒューマン共は……確かに我々の兵や民を虐殺した。だけどこんな事間違ってる……」


「シーッ 聞こえるぞノルドの者達に! 俺達は大国ノルドが派遣してきた、バイキルト隊とフェアリー隊に従えばいいんだ」


 ホランド兵は吐き気を催しながら、フランソワ人達の死体を、肛門から槍で突き刺し、炎魔法で燃やして街頭に掲げていく。


 ホランドによるフランソワの侵攻作戦は、ランヌの貴族と騎士団を殲滅し、勝利に歓喜したのも束の間、ノルド帝国の将官エルダーエルフのヘルガーが、自分達にヒト種の虐殺を命じたためだ。


「我らが皇帝陛下と神フレイのご神託だ! 薄汚いヒト種を根絶せよ!」


「お、女子供もですか!?」


「若い女子供はワシらのところに連れて来い! 昔の文献に残されていた、ヒト種に有効な戦法があるからな! 他は殺す! お前達もヒト種のフランソワ軍を打ち倒していい気味だと言ってたろう?」


 司令官のヘルガーがアゴで合図すると、エルダードワーフ将官ビィゴーは、持っていた戦斧を一振りすると、集められたランヌの町民の首が、切り飛ばされて飛んでいく。


「あとは、こやつらの胴を丸焼きにして、串に刺して晒すのだ! ここにやって来るヒト種の軍めらへのいい見せしめになる。ヒト共は弱くて脆い下等生物だ。死に際も悪臭を漂わせ、汚らわしい。さっさとしろホランドの雑種めが!」


 ……雑種。


 彼らは人間国家と亜人国家からも差別された。


「フューマン共からも亜人呼ばわりされ、ノルド帝国からも雑種呼ばわり……父は……国王ウィレムは、何を思ってあんな奴らと!」


「堪えろレオ! こんな事俺達だってやりたくない! あのフランソワの虐殺王子、アンリ・シャルル・ド・フランソワのような非道なんて!」


 レオの従兄弟、ホランド貴族にして軍人バルテル公爵も目に涙を溜めながら、ノルド帝国の非道に憤慨していた。


 バルデルの領地リーシュには、ハーフエルフと融和して共に暮らす、フランソワからの亡命者もいたため、フランソワからの侵攻が無ければ、ヒトと戦う理由もなかった為である。


 すると、南方の平原の彼方から地響きと、聞いた事がないような音楽の音色がしたのを、聴力が発達した彼らが気がつく。


「なんだ……馬車の音じゃない。別の何かが……来る」


 すると、クラクションを鳴らした巨大なダンプカーが、地平線の彼方からハーフエルフ達の前に現れた。


「何だあれは!! 止めろおおおおおお! 街に突入する気だ!」


 ハーフエルフ達が道を塞ぐが、マサヨシはニヤリと笑い運転席の赤いボタンに両手をかける。


「へっへっへ、ぽちっとな」


「お、おいシミーズ何を!?」


 するとダンプが急加速して、弓と攻撃魔法を放とうとしたハーフエルフ達を、次々に跳ね飛ばした。


「うぎゃああああああ!」


「きゃああああああ、轢いてる、人を轢いてるってええええええ」


「はっはー、スペアやガター無しのヤクザな人間ボーリングだボケェ! オラオラ、レールにいるピンの野郎らは轢いちまうぞ! ローズ・デリンジャーギャング団、勇者マサヨシ様のお通りだ馬鹿野郎!」


 マリーの絶叫をよそに、ランスの街を巨大ダンプが疾走して次々とハーフエルフ達や警戒にあたっていた、ノルド帝国の兵士たちを蹂躙する。


 するとランヌ市街で突如大爆発が、あちこちで巻き起こり、上空にエルダーエルフのフェアリー隊が、一斉に精霊魔法を使い、哨戒活動に入る。


 するとエルダーエルフ達は、精霊眼の力で平原の先を見渡すと、見たことがない乗り物に乗った、黒いドワーフ集団や、エルフの集団、空飛ぶ船、竜に乗った何かや、ヒト種の集団がこちらにがなり立てる様に、真っ直ぐ向かって来るのを見た。


「ヘルガー司令官閣下に伝達! 正体不明の大軍団がこちらに向かっている!」


 地上では、エルダードワーフのバイキルト戦闘団が人質をくくりつけた大楯を構え、敵襲に備えていた。


「なんだ!? フェアリー隊! バイキルト偵察隊何が起きてる!! フランソワの軍が攻めてきたか!?」


「市街戦用意願います! ナーロッパ侵攻軍第二分遣大隊、バイキルト隊のヴィゴー副司令殿! フランソワの騎士団では無い! 別の敵意を持った何かが我々に攻めて……弓だ! これはエルフによる弓の狙撃! 攻撃魔法も……アレはドワーフ!? ちくしょう、なんなんだこいつら! 助けてくれ!」


「なんじゃとおおおおお! なぜエルフが!? 我らが同胞ドワーフが!? 我々と等しく皇帝陛下の臣民の筈だ!」


 すると巨大なダンプカーが街の広場にドリフトしながら街に突っ込み、大型バイクに跨ったドワーフ達が、バイクを空吹かしながら、この世界のドワーフ達の非道に激怒した。


「ゴラァ! 弱い者イジメしやがって! それでもワシらと同じドワーフかあああああ」


「親分! このドワーフの恥さらし共、ぶち殺す許可くだせえ! ワシらこいつら許せませんぜ!」

 

「なんじゃ、ドワーフのくせに金髪で生っ白い肌しおって! 皆殺しにするぞゴラァ!!」


 ルーン言語……。

 しかも黒髪に浅黒い肌に赤い瞳……。

 エルダードワーフ達は息を呑んだ。


 エルダードワーフと呼ばれる種族は、北方の氷穴生活に適応した個体であり、白い肌に金髪かつ、体躯も大型化して、平均身長は170センチ前後である。


 対する、勇者マサヨシの世界のドワーフは、ルーン語なる言葉を話し、ドワーフ達の始祖とも呼ばれる、伝説の存在(レジェンド・ドワーフ)


 自分達よりも体躯は低いが、強烈な酒のにおいを漂わせ、ずんぐりとした体躯。


 魔力と膂力が溢れ出る雄々しい姿に、エルダードワーフ達は身震いした。


 何より、自分達が装備する精霊銀(ミスリル)と鋼の合金よりも、武器の大きさが二回りほど大きく、その漆黒の重量感溢れる金属は、伝説の金属アダマンタイトを思わせる重厚感。


 金属加工技術が廃れたこの世界のドワーフ達でもわかるくらい、金属加工に長けた集団だった。


「な、なんじゃ一体!? 装備しているのも、今や失われたルーン武器で見たこともない剣や槍……しかも、あの肌の色と髪は……我らが始祖たる伝説の……」


 一方、ダンプの中で女子供を大楯に括り付けた、文字通り人間の盾にしているノルド帝国の卑劣さに、デリンジャーと、マリーは激怒する。


「あ、あいつらあああああああ。許さねえ! 俺が行って今すぐ助け出してやる!」


「私も、許せない! なんて卑劣で卑怯な……助けなきゃ!」


 ダンプから降りようとする二人を、マサヨシは制止する。


「おめえらは、頭だ! 冷静になれ、こういう抗争の時ほど頭を水のようにして事にあたるのよ。それに俺が呼んだ、俺が作った最強の任侠集団、二代目極悪組に負けはねえ。見てな、すぐに終わるぜ? 俺のかわいい子分達が、あいつらをぶちのめしに出張ったようだ」


 すると、頭をモヒカンにした3人のドワーフ達が、エルダードワーフ達に歩み寄る。


 一人は真っ赤な甲冑に身を包み、もう二人は光沢が鈍く光る漆黒の甲冑姿。


 3人とも白地に悪一文字のマントを見に纏い、他のドワーフと違い兜の類はつけてない。


――あれは……我らがドワーフの伝承にあったルーン文字が刻まれた、伝説のヒヒイロカネとアダマンタイトの合金……。


 ノルド帝国ナーロッパ侵攻軍第一分遣大隊副司令官、ビィゴーは、自分達の白鋼の鎧とは一線を画す伝説の装備に、冷や汗が流す。


 ビィゴーはノルド帝国スーデン領域の貴族出身。

 古語である、ルーン語は辛うじて話せたので、彼らの正体を確かめようとした。


「アナタガタはナニモノか? ワタシはノルド帝国スーデン大公が子の一人、ビィゴー・グスタフ・ファン・スーデン! 名を名乗ラレヨ!」


 すると、ヒヒイロカネ製甲冑のドワーフが前に出て、中腰になり、左手の掌を見せた。


 よく見ると、ヒゲもそれほど長く伸びていない、若者達のようだったが、威厳やオーラは王族……いや、十中八九この三人のうち赤い甲冑に身を包んだ男が、レジェンド・ドワーフの王であると、ビィゴーは確信する。


「お控ぇなすって! 手前生国はドワーフ王国、偉大なるドワーフ王ガルフが子にして、ドワーフ王国国王! 常務取締役! その他正業、役職名は数多くありやすが、稼業については、二代目極悪組舎弟頭、通称ドワーフ興業総長! 人呼んで実直のガイと申しやす!」


「ガイ兄者、手が逆。所作キチンとしないと親分と親父さんが怒る」


「マシュ兄者、仕事中はガイ兄者を叔父貴と呼ばなきゃダメ。仕事とプライベートきっちりするの大事」


――やはり、王……それもこの三人のドワーフ、かなりの手練れ。


 ビィゴーが戦斧を構えた瞬間、右手に衝撃を感じて戦斧が宙を飛び、右手の骨が砕けて思わずその場で跪く。


「ガイが兄弟達よ、そんドワーフの風上にも置けんゲス共はワシらがやっちゃるけ!」


 声の方向をヴィゴーが見ると、黒曜石のような漆黒の肌に金色の瞳、ドワーフのガイ達よりも背丈が低くて銃器と魔法防御効果の高い背広とマジックアイテムを装備した、ドワーフ達が姿を現す。


 勇者ロバートの世界のダークドワーフの面々だった。


「クソ……右手が……なんじゃあれは、見たことのない服に見たことがないドワーフ……」


 ビィゴーは骨が砕けた右手を、怒りのアドレナリンで、無痛覚状態にして、漆黒のドワーフ集団を見る。


 彼らダークドワーフは、かつて暗黒と悪徳の世界と呼ばれた、悪徳の軍団ブラックライト所属のヒットマンチームであり、膂力はレジェンド・ドワーフとエルダー・ドワーフに劣るが、器用さと知能がずば抜けて高く、銃器や機械なども容易に扱える。


 そしてエルダードワーフ達の背後から、地中より姿を現した、異世界マフィアのカルーゾマフィア所属のモグラ獣人達が、鋭い爪の一撃を加えて、堪らずエルダードワーフ達が怯む。


 その隙に、モグラ獣人は女子供が貼り付けられた大盾を奪い去り、かつて悪魔と呼ばれた狐顔の迷彩服の集団がスモークを焚き、煙に紛れて女や子供達を無事保護した。


「ライの兄弟! そこの外道達は俺達がぶちのめす。ライの兄弟達の手がヨゴレるからここは俺達に」


「いやいや、ガイの兄弟らが手ぇヨゴレるき、ここはワシらが」


「いやいやいや、俺達がこのヨゴレ共を」


「いやいやいやいや」


 自分達エルダードワーフをよそに、どちらが先に戦うか押し問答をしている、敵対するドワーフに、イラつきが頂点に達したビィゴーは、折れた右腕で予備の武器である大型ナイフを腰から抜く。


「なんじゃああああああ貴様ら! 揃いも揃ってワシら栄えあるノルド帝国、スーデンのバイキルト戦士団をなめおって!」


 ビィゴーが激怒した瞬間、ドワーフ王ガイが一気に間合いに詰め寄り、右ストレートで殴り飛ばした。


「ゴチャゴチャうるさい白いの。こいつら面倒くさい! ここはライの兄弟達も一緒に喧嘩! 口でモノを言うより喧嘩で決着させるのがドワーフの流儀!」


 ガイの一撃で、レジェンド・ドワーフ達が次々にエルダードワーフに殴りかかり、周囲が一気に喧騒に包まれる。


「うぉぉぉぉらぁぁぁ! 喧嘩じゃああああ」

「白いのぶちのめせええええ!」

「うだらぁ! ゴラァァァ! 男を見せてやらあああ!」

「女子供イジメる弱虫集団が! オラァァァァ!」


 レジェンド・ドワーフのあまりの荒々しさに、エルダードワーフ達がなす術もないまま、次々と殴る蹴るされる。


 マサヨシの世界、今は仁愛の世界と言われるドワーフ達は、元は血で血を洗うような仁義なき異種族間戦争や、数々の世界救済の戦いに勝利してきた古強者ばかりであり、体格で勝る筈のエルダードワーフが、得意の精霊魔法も発揮できず、気迫で圧倒され、成すすべなく殴り倒されていく。


「よっしゃ、ガイが兄弟らん続け! あんヨゴレ相手に道具は必要にゃあ! じゃけん殺すなと我らが親分(カポ)ドン・ロバートの命令やき、それ以外は何してもええ!」


 ダークドワーフのソルジャーライの命令で、殴り倒されたエルダードワーフを、ダークドワーフ達が蹴りや踏みつけ攻撃、スリーパーホールドで首絞めを行い、マフィアなリンチを加えて行った。


 その様子を、ダンプに乗ったマリーの肩に乗るマサヨシとヤミーが、にやにや笑いながら、鼻歌気分で観戦している。


「すごい……相手のドワーフの方が体が大きいのに、どんどん倒してく」


「あいつら無茶苦茶だな、喧嘩中に酒なんてかっくらってて……クレイジーだ」


「当然じゃ、我の担当する世界の最高の戦士達。愛と人の尊厳に祈りを捧げる最強の軍団じゃ」


 マサヨシはニヤつきながら、ダンプの無線機を両手で取った。


「おい、ガイ達はイフリートにすら変身せず、勝負決めちまいそうだぞ? ブロンド、おめえらもさっさと上空のハエ共打ち落としとけ」


――え? あの赤い甲冑来たドワーフが炎のイフリート? さっきの戦いは全然本気じゃないって事なの?


 マリーがダンプの外で行われてるドワーフ同士の殴り合いを見つめていると、剣と槍と弓を装備するハーフエルフの集団が、怒りの表情でダンプを取り囲む。


「ほう? さっきダンプで轢いてやったのに根性あるじゃねえか。おう、サタナキアの野郎ら、俺のダンプにいる雑魚共、排除し……」


 無線を飛ばそうとしたマサヨシを、右手でアンリ・デリンジャーが制止する。


「シミーズ、彼らは俺の客だ」


 デリンジャーは、トンプソンマシンガンを運転席に置き車から降りると、羽織っていたコートを脱ぎ捨て、怒りに燃えるハーフエルフ達と対峙した。

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