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転生したら楽をしたい ~召喚術師マリーの英雄伝~  作者: 風来坊 章
第二章 魔女は楽になりたい
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第35話 ブートキャンプ

 私の名前は、マリー・ロンディウム・ジーク・ローズ・ヴィクトリー……。


 舌が噛みそうな名前だから、マリーと呼んで欲しい。


 私は今、フランソワ首都パリスに近い森の中で、冥界から来たイケメン勇者で、元マフィアのロバートさんから、アンリと共に戦闘技術の訓練を受けている。


 転生前の若い時、3年間アメリカ陸軍の騎兵隊という部隊で、ベトナム戦争に従軍していた過去を持ち、魔法と剣以外の戦闘技術は、先生を上回る技量を持っているそうだ。


「同行してて、技量はだいたいわかってる。マリー君は予想以上に射撃が上手いな、天才だ。ミスターデリンジャーは、射撃コントロールや、構えの基本が出来ている。ミスターデリンジャーは、私がこの5日間君達のためと思い記した、教本に目を通してくれ。英語は忘れてないな? わからない単語や用語があったら聞いてほしい」 


 先生が本の虫ならば、この人はメモ魔というか、記録魔といった感じだ。


 この5日間思った事、感じた事をすぐにメモして、それを何度も読み返していた。


「了解した、ミスターロバート。あんたも、歴戦の勇者だそうだが、転生前の仕事(シノギ)は主にどんな事を? 確かアルカポネ達イタリア系は酒の密輸入で巨額の利益を得ていた筈」


「あなたから私に敬称は不要だ、ミスターデリンジャー。密輸入もそうだが、公共事業参入、労働者派遣、金融証券取引、土地ビジネス、資金洗浄、政治家の選挙活動、契約殺人など、その辺は兄弟マサヨシとあまり変わらない」


 ああ、この人も先生と同じで、ピカレスクな手段で異世界を救済してきたんだ。


「概ねその通りだ、マリー君。だが私と彼は手段はともかく、悲しい世界と人々のため、我らが神に祈りながら活動している。違いがあるとすれば、彼は己の意地(プライド)と任侠道のため。私は悲しき魂の救いと、名誉ある家族(ファミリー)達のため。だから私は、彼と対等な兄弟の誓いを立てた」


 この人も先生と女神同様、心が読めるらしい。

 

 先生もこの人も、転生前や多分転生後も、一般社会で言う、大企業の社長とか会長のような人達で、人を見る目を磨いてきたから、今までどんな戦いにも生き残ってきたんだ。


「まずは、君の銃の腕は天才と言ったが、基本が出来てない。例えば銃の構え方や型だ」


 ロバートさんは、魔法銃を拳銃に変えて私の前に、両手撃ち、片膝をつく膝撃ち、そして地面に寝そべる伏せ撃ちの構えを行う。


「だいたい型はこの3つ。他にも色々と応用の撃ち方はあるが、さっきの基本の構えを0コンマレベルでも素早くする事で、君の生存確率は上がる」


 えぇ……普通の撃ち方はともかく、膝撃ちと伏せ撃ちはちょっと……せっかく先生が裁縫して直してくれたドレスに、落ち葉と泥がつくし……今のロバートさんみたいに。


「……じゃあ伏せ撃ちは、風魔法で空に浮く事を君に許可しよう」


 こうして私は、小人化した先生が、私に渡してくれた、大型の回転式魔力銃パイソンを使い、素早く構えて撃つ反復練習を繰り返す。


 氷の賢者が渡してくれた、二丁の小型魔力銃デリンジャーは、一丁が私の護身用で、もう一丁はアンリの手元へと渡った。


 銃を素早く構えて撃つ動作は難しい。


 構える動作と、引き金に指をかけて撃つ動作を、両方やらなきゃいけないから、引き金を引く動作が雑になる時があって、狙った場所に当たらない時がある。


「咄嗟に襲って来た相手が人間ならば、両鎖骨とヘソを線で結ぶトライアングルゾーンを狙えばいい。君の腕なら、きちんと構えれば、無理に狙いをつけなくても当たる」


「はい」


 それにこの黒光りする大きいけん銃、何で出来てるかわからないが、すっごく重たくてデカ過ぎる。


 握る所、グリップが先生用に調節されてるのか、両手じゃないと握れないし、銃身に4つの長い穴が空いてて、ちょっとオシャレだけど、銃身が長いから、余計重たい。


 狙いをつけると、魔力反応で真っ赤なレーザーが銃身から出てきて、銃本体につけられた、小型で筒状の双眼鏡みたいなのが取り付けられてるから、かなり遠くまで狙いをつけて当てられる。


「魔力銃パイソン893、8インチモデルか。高威力で命中精度の高い銃。だが、6発撃ち尽くすとチャージが必要になるから、気をつけたまえ。次は魔法の杖の訓練だ」


 えぇ……何度も構え方の練習して、休憩は?


 キツイ……もう3時間位ぶっ通しで練習してるんですけど。


「マリー君、君が男か自分の部下だったら、罵声を飛ばす所だ。だが君が女の子だから、酷い言い方はしない。私は君にこの世界で生き残って欲しいから、技術を教えるんだ……。あまり私を怒らせないでくれたまえ」


「あ……はい」


 直接罵声が飛んでくる先生よりも、このロバートと言う人の方が怖い……なんか翡翠のようなロバートさんの目の色が、今すっごい暗く輝いてた。


 私は、ロバートさんから無言の圧力を受け、鉄パイプみたいな魔法の杖を右手に持つ。


「君に銃剣術を教えたいが、まずは槍のインストラクターが欲しいな。それにミスターが、教本を見ながら手を上げてるから、私が解説しなければ。うむ、彼らならば適役か。マリー君、緋色の皇帝を呼びたまえ。それと、ミスターは、死の司祭を頼む」


「はい、出でよ緋色の皇帝!」

「死の司祭よ姿を現せ!」


 私が召喚したのは、すごい恰幅が良くて、怖い顔した真っ赤な着物を着た男の人。


 一方アンリは、黒いローブを着てて、鎌がついてる槍を持った神経質そうな男の人を呼び出した。


「うむ、また余が知らない世界に来たようだが、誰か説明を頼む」


 この緋色の皇帝、すごい威厳たっぷりな感じで、なんだろう?


 大きい十字の刃の槍を持ってて、すごい強そうなオーラを醸し出してる。


 それと先生と違って顔が(いかめ)しくて、髭を生やしてて眉毛が薄くて……顔が怖い……。


「な、何かご、ご、ございましたでしょうか?」 


 こっちの黒いローブの死の司祭は、優男っぽいけど痩せこけた死神みたいな感じで、ちょっと声がどもって、なんか気弱そうな感じだ。


「すまない、あなた方も忙しいのに、こちらの召喚に応じてくれて感謝申し上げる。お久しぶりですね、ロン皇帝陛下とデッドリー司祭様。彼女があなた方を呼び出しました」


 ロバートさんが欧米風の丁寧なお辞儀をすると、二人は私の方を見る。


「なんだ? マサヨシの兄弟はまた他所の困った世界で、女を作ったのか!? 余にも公務があるのに、いつぞやの尻拭いはごめんだぞ!」


「お、お、おい女! なぜ私を呼び出した! マ、マ、マサヨシ様は!? 我らが任侠・道教の教祖様は何処だ!? 迷える子羊たちへの説法の原稿を書いてたのだぞ!?」


 ああ……先生の関係者かこの人達。

 きっと何処かの世界の偉い人達だ。


 そして、この訓練のために呼び出された、武術の達人達。


「私は、あなた方を召喚いたしました、マリー・ロンディウム・ジーク・ローズ・ヴィクトリ……っ……痛! いった! 舌噛んだっ! もうっ! この長い名前……嫌っ!」


 すると、ロンと言う人とデッドリーさんが、私を見て含み笑いをする。


「なるほど、名前から察するに王族と見た。召喚時間が短いので端的に受け応えるが、その右手に持った杖で何がしたいのだ?」


「あの、槍の使い方を教わりたいです、初心者です!」


 ロンさんとデッドリーさんが、お互い顔を見合わせて頷き合った。


「そ、そ、そうか。よかろう、女よ、教えてやろう」


 私が魔力を込めると、鉄パイプのような建築資材が、黄金の輝きを放ちながらU字に曲がった先端から、赤い宝玉が具現化する。


 そして、私が衆合地獄の戦闘で具現化したイメージを杖に込めると、炎の魔力で長さ30センチほどの、ガスバーナーみたいな槍の穂先が出現する。


「ふむ、槍の基本はだな、まず狙う場所は急所一択だ。相手の急所を一突きし、戦闘不能にできる殺傷力が高い武器。突きを行う場合、人間ならば、首、胸を狙うのが肝要! 槍とは相手の急所を一点集中で突ける武器也」


「そ、そ、その刃、高温の炎で相手を焼き切る穂先。他にも、払う、切る、そして柄で叩くというこ、事もできる。だ、だ、だが初心者ならばまずは突く、つ、突いて突いて突きまくれば隙はカバーできる」


 するとロンと言う人が、森の木に魔法で具現化した鎖の先に、ドーナツのような穴が空いた、丸い金属板を吊す。


 ああ、そういえば、転生してからドーナツを食べてない……クリームたっぷりのミスタードーナツか、生地が美味しい都内のドーナツ食べたいなあ……。


「うむ、槍の構えの基本は上段、中段、下段が基本である。これが上段で、槍を頭上に構えて穂先を相手の眉間に合わせる。そしてこれが中段で、槍を水平に構える。最後にこれが下段で、相手のすねに穂先を向けて構えるのだ。突く時はこう! ええええええい!」


 ロンさんが半身で槍を水平に構え、声を上げて右足を踏み込みながら、槍を突き出してドーナツの穴を通すように、綺麗に穂先で突いた。


 穂先がドーナツを貫通して、すぐに槍を手元に戻す。


「槍を突いたら、すぐに手元に戻す! 突くよりも引くことを心掛けるのだ。柄をシゴいてシゴいて繰り返す事、これが基礎の基なり! これを日に最低千回だ」


 うわぁ、また反復練習だ。

 全然楽じゃないし、これもキツイ。


 ていうかゲームとかなら、不思議な力でスキルと奥儀ゲットな流れなのに、なんなのこれ?


 ええい! やればいいんでしょ、やれば!


「ええい!」


 私が突くと、ドーナツの穴に入るどころか、的に擦りもしない。


「り、り、力みすぎ。左手は支えるように軽く握り手元を楽にする。右手は小指と薬指に力を込める。突くときに右手に捻りを加える。突いたら手元を素早く引く」


 デッドリーさんが右手で槍を持ちながら、左手をシュッシュと、上下に動かした。


「お主、見事なしごき! 余も平和な世界になって妃と婚姻する前は、男の修行のため、日に何度も鍛錬に励んだものだ!」


「……」


 ロンさんの掛け合いに、デッドリーさんの白い顔が赤くなったけど、何を言ってるんだろう?


 1日に何度も鍛錬して、槍の腕を上げたって事なのかな?


 こうして何度も何度も、ドーナツ穴に槍を通す動作を繰り返すと、なんとか魔法の穂先がドーナツ穴に入った。


 もうヘトヘトで、力まずに前に突き出したら、うまく行ったようだった。


「ふむ、見事。その感覚を忘れるな。マサヨシの兄弟によろしく」


「つ、突きはイマイチだが、足捌きはいい。腕の突きよりも下半身が強くなければ、いい突きは放てない……教祖マサヨシ様に栄光あれ」


 ロンさんとデッドリーさんは、召喚時間が切れたのか、元の世界に戻っていった。


 一方、ロバートさんとアンリはと言うと……。


「ハッハーすげえなこの銃! なんて言うんだ? でっかくて、いかつくてハイポットがついてる、俺の時代になかった銃だ!」


「ああ、これは魔力装填式対物狙撃銃バレットだ。魔力徹甲焼夷弾で装甲の堅い相手や、大型モンスターの急所を撃ち抜ける。トンプソンもいい銃だが、あなたが得意な制圧射撃ならば、この魔力式軽機関銃、ミニミだ。トンプソン同様、ドラム式魔力充填弾倉にあらかじめ魔力を込めれば、かなりの数の弾をばらまける」


「うほほ、すげえなどれも。あんたが開発した7色鉱石式魔力銃だっけ? イメージした色んな魔力銃が出来上がっちまう! さすが勇者だ!」


 人がめっちゃきつい訓練してるのに、掃除の時間サボって遊んでる、中学時代見た不良男子たちみたいな感じで、遊んでるようにしか見えない……。


「おお、マリー君! その分じゃ二人にかなりしごかれたようだな。座学をする、こちらに来たまえ」


「マリー姫、見てくれこの銃! オート・アサルトと言う魔力銃で、魔力回路を変えれば、強力な散弾やさく裂弾なんかも、自動で連射出来るんだ!」


「……そう」


 人がヘトヘトで苦しい訓練してるのに、そっちは教科書ばっかり読んでて、なんか楽しそうなのにイラッとして、ついそっけなく答えた。


「おう、こっちは剣の稽古終わったぞ! おめえらも、ロバートの兄弟の話聞いて勉強しとけ」


「はい! マサヨシ先生」


 ヨーク騎士団もよっぽど先生の稽古がキツかったのか、肩で息してる。


「チッ、こいつら全般的に体力不足だなあ。体力が足りねえと、魔力回復が遅くなる。技教えたあと、地上戦と空中戦の、掛かり稽古1時間ぶっ通しでやらしただけでこのザマとは。根性なしが」


 彼らも王国近衛なんですけど……ちょっとやそっとじゃへばらない筈だけど、何をさせたんだろう。


「それでは、戦闘講義に移らせていただく。兄弟マサヨシ、補助願いたい」


 ロバートさんはテントの中で、土魔法で黒板を作り、手には石灰を濃縮したチョークを持つ。


 ロキによって体を10分の1サイズにされた先生が、洗車用の雑巾を持って補助についた。


「私は冥界の加護によって、この世界の言葉と文字が理解できている。私は、元々騎兵と言う兵科で経験を積んだ兵士だったが、この世界の騎兵は様々な種類に大別される……そうだな? ミスターデリンジャー」


「そうだ、フランソワ軍では概ね3種類。軽騎兵は防具を身に着けず、機動力を以て相手の後方かく乱や、弓による奇襲攻撃に用いる魔法騎士団。重騎兵は胸甲(アーマー)と兜を被り、槍や剣によって相手を殲滅する決戦兵科。そして俺が王子時代に作った対亜人用兵科が、竜騎兵。旧イリア製の魔法銃とレイピアを装備し、軽騎兵のように軽装備で縦横無尽に戦場を駆ける特殊兵科だ」


 大陸最大の戦力を有するフランソワは、多くの騎士団を保有してて、騎兵は騎士の華と大陸では言われている。


 私がいたヴィクトリー王国では、騎兵はあまり重要視されず、弓兵と魔導士、そして重装備の騎士が陸戦を担当し、四方を海に囲まれてるため、魔力式マスケット銃とロングサーベルを装備した、王国海兵と軍艦の数が多い。


 そして騎士の質と装備が西方最強と呼ばれるロレーヌの場合、弓兵は重要視されず、ジークフリート騎士団のように馬で移動し、戦闘の際は歩兵戦術で相手を殲滅する、重装備装甲騎士の猟騎兵や、卓越した魔道技術を持つ軽騎兵の、鉄十字騎士団に大別されるという。


「なるほど、私がいた現代騎兵と言われる兵種は、空飛ぶ乗り物、この世界にはまだないヘリコプターという乗り物に乗って、地上目標に攻撃をしたり、ヘリから降下する偵察任務や、最前線まで行き、味方の救援に駆け付けるのが主任務だった」


「ああ……地獄の黙示録って映画だったか? 見たことあるわ。おめえさんよく生き残ったな」 


 地獄の黙示録?

 ベトナム戦争の映画だっけ?


 ワルキューレの騎行を奏でながら、村々を爆破したり、銃撃したり、焼き払ってるシーンをネットの動画で見たことある。 


「たくさん死んだよ……戦友たちもベトコンと呼ばれた人々も、いい奴も敵もみんなだ。俺はあの地獄のような戦場で、死生観が変った。多くの若者を戦場に送るだけ送って、野面かまして敗北しやがった、合衆国政府のクソ共に今でも腹が立つ!」


 ベトナム戦争は、アメリカが敗北を喫した戦争だったといわれてる。


 何がどういう理由で敗北したのか、私は良く知らないけれど。


「まあ、そんな話はどうでもいい。あの戦争で銅星章(ブロンズスター)名誉負傷章(パープルハート)、従軍記章を授与された私が体験し、実際に敵が使っていた戦術や騎兵隊の偵察戦術。それと私が戦後に体験したマフィア時代の、敵対組織と警察との抗争の話をしよう」


 ロバートさんは色々な話をし始めた。


 まず偵察戦術の話。


 偵察には、威力偵察というものがある。


 敵にわざと攻撃して情報を収集するのが威力偵察で、敵の戦力がわからない場合に用いられる手法。


「ああ、俺もやったわそれ。広島や東京の縄張り(シマ)に喧嘩しに行った時や、魔王軍とか竜王軍との喧嘩でそれやった。これは引き際が重要で、想定以上に相手が手強い場合、敵から反撃食らうから、かなり危険な手法だよな」


「兄弟マサヨシの言う通り、危険な手法ではある。私も暗黒と悪徳の世界で死にかけて、冥界で十分成長するまで悔しい思いをしたこともあった。だが、生きて帰れば得られる情報が仲間を救う事になり、仲間を救う事が世界救済につながる」 


「そうだなあ、あん時おめえさん転生後の13歳で、世界を牛耳るワルの秘密結社、ブラックライトとかいう人でなし共のアジトに乗り込んで、危うくぶっ殺されかけたもんな。そんで冥界で成長するため、5年も辛抱しなきゃならなかったっけ? まあ俺も転生後の仁義なき世界で、あそこで居眠りぶっこいてるちんちくりんが来ねえから、17年間身を潜めて己の力を高める修業したし」


 経験者は語るというが、この人達の場合は話のスケールが大きすぎる。


 でも、こういう人たちじゃ無ければ世界救済なんかできないかもしれない。


「懐かしい話だ。私が言いたいのは情報の重要性と、必ず生き残る事の2点を諸君らに徹底してほしい。死んだら何にもならない……魂が天界か冥界行かは我々が判断する事じゃないが、魂のどこかで悔いを残すだろう。次に、他の戦術の話だ」


 今度は、様々な戦術や戦法の話だった。


 例えばワイヤーの使い方や、空き瓶に魔力を込めた、さく裂弾や火炎瓶の作り方から始まり、火炎魔法と水魔法に現地の燃料とガラス片や釘を鍋に入れた時限爆弾。


 土魔法で作ったアルミニウム粉末に、酸化鉄を加えて超高温発火させるテルミット反応などなど。


 これらを使ってブービートラップや、落とし穴とか作る手法も教わったけど、学校の授業と違って、全力で相手を倒しに行くような戦術の授業でちょっと怖い。


 そして、ロバートさんには悪いけど……抑揚のない語り口だから……眠たくなってきた。


 私が見まわすと、オーウェン卿以外の騎士団の面々も、立ったまま舟を漕ぐように、うつらうつらと体を揺らして居眠りし始める者も出てきた。


 アンリも、立ちながら豪快にいびきかいてるし。


 そうだよね……この5日間ずっと強盗してるか、憲兵騎士団の追跡振り切ったり、身を隠したり、緊張の連続だったし……眠い……欠伸が出てきて……。


「チッ」


 先生の特大の舌打ちがテントの中で響き、ロバートさんが、黒板を殴りつけて粉々にする。


「ファック野郎共! 寝てんじゃねえよ! てめえら人が大事な話してやってんのになめやがって! 全員、ケツの穴に銃弾ぶち込んで森の中に埋めちまうぞ!!」


 ああ、この人が学校の先生じゃなくて、マフィアなのを私も忘れてた。


 それにこの人、普段は優雅だけど怒ると先生よりも口が悪くなる。


「まったく、我が勇者達がせっかく貴様らに講義してるのに、どうしょうもないのう」


 ちょ!? いやいやいや、あなたロバートさんが授業している中、ずっと寝てたじゃない!


 ああ、なんだろう……嫌な予感がする……凄い嫌な予感が。


「ヘイ、てめえら馬車の前に集合しろ。ちょっとした駆けっこしようぜ?」


 私とヨーク騎士団とアンリは、重い鎧を着せられて、森の中にある泉まで移動して、泉の外周を馬車で追い立てられながら、夕日が差し込む中、ヨーク騎士団は剣を、アンリはでっかい狙撃銃を、私は杖を掲げて走り始める。


「おらぁ! とろとろしてんじゃねえよ! 馬車で轢いちまうぞこの野郎共! 身体強化の魔法は教えたよなあ? ああ!?」


「歌えてめえら! 俺が陸軍のブートキャンプで歌ったケイデンスソングのように! 夕日と共に、走る騎士団!」


「夕日と共に走る騎士団!」


「俺達がする事は、駆け足なんだ!」


「俺達がする事は駆け足なんだ!」


 無茶苦茶すぎる……中学の時やってた、ソフトボール部のランニングよりきついんですけど!


「人から聞いた話では、マリーのでかぱい、ロケットおっぱい!」


「マリーのでかぱい、ロケットおっぱい!」


 ちょおおおおおおおおおおおおおおお!

 なんなのこれ! やめてって! ちょっと!


「すげえよし」

「すげえよし」

「お前にヨシ」

「お前にヨシ」

「俺によし!」

「俺によし!」


「ちょっとなんなのこれ!? 最低なんですけど!!」


 こうして私たちは、ブロッセリの森、サンジャルムの泉の前で、卑猥な歌を歌いながら走り回った。


 それがフランソワに身を潜めた、伝説の精霊の召喚儀式とは知らずに。

次回は戦闘回です

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