第34話 魔女エリザベス後編
「私も憧れのデリンジャーギャング団になったはいいが、あと2日で俺達は冥界に帰らなきゃならん、どうすりゃいいんだガッデム! ベッドだ」
ロバートは参加料の1枚の銀貨に、もう1枚の銀貨をテーブルに置いた。
「ああ、兄弟それな。親分も俺も抜け道考えてんのよ。まず、秘策その1。なんのために召喚システムを、俺の世界で作らせたと思う? レイズだ、金貨1枚」
マサヨシは2枚の銀貨に上乗せし、1枚の金貨を置く。
「シミーズ、お前には秘策があるのか? コール」
アンリもマサヨシに倣って2枚の銀貨に1枚の金貨を置く。
「ああ、そういうわけじゃな。ほんとマサヨシは悪知恵だけは働くのう。レイズじゃ。金貨1枚」
ヤミーは見栄を張って、2枚の銀貨に2枚の金貨を置く。
たった5日で、フランソワ全土を荒らし回ったローズ・デリンジャーギャング団は、首都パリスに近い、ブリュヌ地方のブロッセリの森の中で馬車を止め、ポーカーゲームに興じる。
この世界のトランプにあたるポローンは、1から10の計40枚になる数字のカードに、1枚の鬼札を入れたもの。
場には、1と4、それに7が2枚、伏せられたカード1枚含めて、5枚のカードが置かれており、マリーは役とルールが、いまいちよくわかってなかったが、胴元になる。
そして転生前天使より授けられた豪運で、暫定1位となった。
全員が場にチップを出したあと、ドローを宣言して手持ちのカードを2枚捨てて、山札のカードを2枚引き、マリーは手持ちの銀貨に、銀貨1枚と金貨2枚を置く。
「えーと、先生は何を考えてるんですか? コール」
女神ヤミーと勇者マサヨシは、小人化の魔法が解けずにおり、魔法でカードを少し浮かせて手札を覗き込みながら、カード賭博に興じている。
「なるほど、君の世界の召喚システムを使えば、7日間過ぎたとしても、短時間ではあるが私もこの世界でまた活動出来るわけか。召喚システムならば神界法違反の範疇外。そして私達が一旦引く事でオーディン神の面目は立つ。その後、この世界の人間が望んで私達を呼び出すわけだから、我々の落ち度はない。ドロー……チッ、クズ札め。ドロップだ」
ロバートは役なしの手札を見て、勝負にならないと判断し、ゲームから降りる。
「そういう事。だが、召喚時間をもう少し伸ばすシステム改良の必要があるのと、この子がもう少し力をつけねえと、長時間の召喚と複数召喚は難しいがな、チェックだ」
――複数召喚なんて出来るんだ。
マリーは思いながら、2枚の手札を見る。
ポーカールールは、現在全米で主流となってる、テキサスホールデムルール。
プレイヤー共通のコミュニティカードが、場に3枚から5枚まで置かれて、2枚の手持ちカードでポーカー役を作る遊び。
比較的大人数で対戦可能で、賭け額に対して、残りのプレイヤーは同額のチップを出して同意か、降参するか、上乗せするかを決断し、相手の癖や思考、役、そしてハッタリを見抜くことが勝利につながる、心理戦に重きを置くカードゲームである。
なおゲームのチップは、フランソワの通貨フランソーの、銅貨、白銅貨、銀貨、金貨、白金貨を使用している。
「なるほど、それであんたらはこの世界で活動出来るってわけか。だが、それじゃあ短時間の活動になるぜ? マリー姫の負担にもなる。オールインだ」
手持ちのチップを全額賭ける男らしさに、マサヨシとロバートは口笛を吹く。
1930年代に死んだアンリことデリンジャーは、このスタイルのポーカーは初めてだったが、すぐに順応した。
現在の順位は、1位がマリー、2位がロバート、2位と僅差の3位マサヨシ、4位がアンリ、最下位がヤミーである。
なお女神と冥界の勇者は、冥界魔法で人の心が読めるが、それはイカサマにあたると言う事で、禁止している。
「さあどうする女神様、あんた受けるか?」
まるで美少女人形のように小さくなったヤミーは、こめかみに血管が浮き出て、手持ちの2枚のカードを、ちゃぶ台返しのように放り投げた。
「全然いいカード揃わんわい! 面白くないから我は降りる! こやつら神である我に全然気を使わんわ!」
神なのに短気で子供っぽい振る舞いに、マサヨシは爆笑し、他の面々は思わず苦笑いする。
「あ、じゃあ私もオールインで」
マリーはアンリのオールインを受けた。
彼女はカードの数字を揃えればいいかなあと思ったので、実際に揃ったから、勝負に出る。
一方、アンリの現在の手札は、1と4のツーペアで、場に伏せられたコミュニティカードの5枚次第で、3枚のカードが揃うスリーカードと、1ペアが合わさった役、フルハウスになる。
そして胴元のマリーが、コミュニティカードの5枚目をめくると、どんな数字にも出来る鬼札である事がわかった。
ポーカーフェイスのアンリは、内心勝利を確信したのか、おもわず一瞬口元が歪み、一方のマサヨシはアンリの些細な表情の変化を読み取り、アンリの役がかなり上位のものと判断した。
――これだからポーカー遊びは面白え、心理戦に重きを置いてるからな。デリンジャーの今の反応は、ハッタリやブラフじゃねえ。受かった目をして勝負の顔になったな。それも、かなり揃えるのが難しい役。ストレートか? いや今回の勝負、ブタが多いという事はカードが特定の誰かに2ゾロで集まってる流れだ。フルハウスかな? もしくはフォーカードか? 俺は1ペアでハッタリ効かせてて、今のでスリーカードになったが……降り時だな。
マサヨシは玄人の博徒である。
場の流れを理解したうえで、降りる時は降り、別の方法で勝ちを狙う事に決めた。
「フォールだ。よう兄弟、場外で2位争いしようや? 俺はマリーの勝ちにオールインする。おめえさんは?」
マサヨシとロバートは、マリーとアンリのオールイン勝負の熱に浮かされ、自分たちもオールイン勝負を行おうと考えた。
「面白い! それならば俺は、尊敬するミスターデリンジャーに、全チップを賭けてオールインしよう。勝負だ兄弟」
二人の勇者の男らしい勝負に、ヤミーは退屈そうに欠伸をし、指のドクロのマニュキアを見つめ、別のマニュキュアに変えようと考える。
「ショーダウン!」
マリーとアンリが2枚の手札をオープンする。
「俺はフルハウスだ! マリー姫は……な!?」
「えーと、7が2枚でそっちの手本のカードが7が2枚に鬼札あるから……ええと5枚揃っちゃった」
ファイブカード、ポーカー最強の役だった。
「NOOOOOO! ファァァアアック!」
ロバートが頭を抱えて叫び、アンリが大爆笑して、マサヨシはニヤリと笑う。
「よおし、2人飛んだから1位がマリーで、2位が俺、3位は……おい、暇そうにマニュキュア眺めてんじゃねえよボケ! 神様、3位だぞ?」
「ホントか!? 1位がマリーで2位がマサヨシなのは気に食わんが、3位ならば悪くないのう!」
マリーは、この冥界からの女神が苦手だった。
何かにつけて、自分が師と仰ぐマサヨシにイタズラを仕掛け、自分がマサヨシと一緒にいると、睨みつけてきて不機嫌になり、本当に冥界の上級神かと内心疑問に思っている。
「さあて、秘策その2とその3、その4だが……兄弟おめえデリンジャーに、持ってる指輪貸してくんね? そしたらデリンジャーも召喚システム使えるだろ?」
「なるほど、それはいい手だな。マリー君の負担が減る」
勇者マサヨシの秘策その2は、アンリにも召喚システムの指輪を与える事で、戦力増加を考えたものだった。
「秘策その3、その4は……なんだっけ? 戦乙女ってのが、俺らと交代でこっち来るわけだろ? なら……おめえら耳貸せ。スレイプニルの馬公に内緒だぜ?」
マサヨシは自分の秘策をマリー達に教える。
ヤクザな勇者ならではの手法を。
本当にうまく行くかなあと、マリーは小首を傾げ、アンリとロバートも呆れ顔になった。
「さあて、明日から首都パリスに行って、俺達の軍門に降らせたフランソワ貴族だけじゃなく、野面かまして闊歩してやがる、ロレーヌの連中も的にかけようや? 強盗やる候補は、デリンジャーに任せるぜ。それじゃあ俺はヨーク騎士団に剣の稽古つけるから、ロバートの兄弟は……」
「うむ、マリー君とミスターデリンジャーに銃の手ほどきだな。転生前、私がまだ若い時だが、合衆国陸軍精鋭部隊にいたんだ。お願いだから下士官で軍に残って、空挺またはレンジャー課程行くか、特殊部隊選抜受けてくれと、名誉除隊前に上官から口説かれたくらいの技量はある」
鬼教官が二人になったとマリーは戦慄し、アンリは薄ら笑いを浮かべる。
「へー、あんた陸軍出身か。俺も小僧だった時、自分を鍛え直そうと海軍にいた事があった。船酔いするし、性に合わんから軍務サボって懲罰受けたがな。結果、不名誉除隊になったが……こっちの世界じゃ、士官通り越して将軍指揮する王子様をやったがね」
ロバートが、マリーとアンリを相手に、合衆国騎兵隊の歴史と現代戦の講義から始まり、射撃や偵察技術、戦闘技術を教え込んだ。
マサヨシはヨーク騎士団への剣の稽古の前に、舎弟であるロマーノ連合王国暫定盟主、ヴィトーに連絡を取る。
水晶玉の通信先で、ヴィトーは上半身裸で剛柔流の三戦立ちを行い、力強い呼吸と、突きの動作を、筋肉を意識しながら力を込めてゆっくりと行い、己の肉体をいじめ抜いており、水晶玉の着信がワンコールすると、下半身にバネがついているかの如く、飛び出すように踏み込み、空手の突きのようにサッと水晶玉の通信を取った。
「もしもし、兄貴? 通信待ってたさー」
「おう、ロバートからの通信は聞いただろ? 俺から情報の補足だ。簡潔に話すぜ?」
マサヨシは、閻魔大王からの情報とロキとの戦闘、そして今現在の自分の状況を伝えた。
「よくわかったさ、兄貴。結構しにヤバイ状況ね、だいじょうぶ?」
「へっ、馬鹿野郎。俺様はよお、こんな場面なんか慣れっこよ。おめえが転生前に死んだ後も、東京に広島や九州連中と、喧嘩巻いてきて、極悪組の天辺取ったからな。転生後は、大邪神や魔皇に龍神、呪術師に銀河帝王とか、全部ケジメつけてやったぜ! その辺の奴らとは経験値がちげえよ」
神々が放棄するような世界で、手段はどうあれ、多くの人々の尊厳を守ってきたのが、このヤクザな勇者。
「やっぱ兄貴は、てーじスケールな男さ。けど、ロバートってやつ米国人の元軍人だろう? 我は信用ならん。嫌いさ」
「なんだとコラ? あいつはおめえと同様俺様が惚れて、他ならぬこの俺が五分の兄弟の契りを交わしたほどの男の中の男だ。転生前の器量じゃ、あいつの方が上だった。おめえ、転生前の何にこだわってんのよ?」
水晶玉の通信に沈黙が流れ、アシバ―のジローことヴィトーが口を開く。
「兄貴、我の転生前の故郷、琉球の歴史は知とーんだろ? 琉球の、沖縄の歴史は大国に翻弄された……その中で特に酷さたんのー米国やん。兄貴、俺ぁの転生前の苗字、きんじょうは、元はかなぐすくって歴史あん呼び名さ。何で変わったか……知とーんが?」
マサヨシは、転生前の琉球と呼ばれた美しい島の歴史を思い出す。
古くは中国の冊封体制という大陸の主従関係から、日本の旧鹿児島、薩摩藩への隷属、そして大日本帝国への編入と、第二次大戦の際起きた、泥沼の沖縄戦で多くの県民が命を落とした事。
米軍占領下、反米暴動がきっかけで本土復帰するも、出稼ぎにくる沖縄県人への差別や反米基地闘争、本土との年収の格差といった、美しい沖縄の負の側面。
「かなぐすくってぃ名前が変わったのは、戦前本土で働く沖縄人が、内地人から馬鹿されらんためんかい、東京で名乗たんが最初。そんで大戦後に占領下の沖縄のコザで、我らを下に見た米国が、我らを日本人の猿て差別してぃ、親の名前がきんじょう読みんなった……。父も兄貴も米軍の攻撃でぃ死んで……だから我は米国が嫌いや」
ヴィトーの魂は傷がついたままである。
転生後の顛末を、ロバートから聞いたアンリことデリンジャーは、魂の傷が癒えつつあったが、ヴィトーは、沖縄の悲しい過去の歴史と自身の不遇の死により、転生前の魂の傷が癒えぬままである。
「あいつら、米国軍人は、心根の優しい女を、素直で純朴な子供達をビッチだの、モンキーだの下に見た! 我は、そんな非道を、差別を許せんかった! 自由を愛する琉球人の尊厳を取り戻したかった!」
金城ことヴィトーの魂の叫びを聞いた、マサヨシは全てを受け止め、転生後に知った自身の生い立ちを語ろうと考えた。
「おめえの気持ちはよくわかった。じゃあ俺から一つ、哀れな男の話をしてやろう。その男は、父親を知らねえで、戦前におっ建てられ住民はクズしかいねえ、集合団地で生まれた。てめえを純な日本人と思い、ヤクザ稼業でヤクザに生きてヤクザに死んだ、最低のクズがいたのさ。そんで、蓋を開けたらそのクズの父親は、売春婦に本気で惚れちまった、駐屯米国将校だったってオチさ。笑えるだろ?」
マサヨシの話に、ヴィトーはそれがマサヨシ自身の生い立ちであることに気が付く。
「でよ、今おめえと話をしてるそのクズが俺だ。おめえさ、俺の父親を米国軍人だからって、恨み節と憎しみをぶつけて、アメリカ人と日本人の合いの子の俺を差別すんのかい? ロバートに抱いてる思いみてえによ」
ヴィトーは、激しく首を横に振る。
「違う! 兄貴は、内地とか米国とか関係なく、俺ぁ兄貴に惚れた。兄貴が、格好良くて人情味あったから、我は、俺ぁ弟になりたかった……他ならぬ兄貴に」
二人の通信に沈黙が訪れる。
一人は魂深く傷を負った男と、もう一人は自分の魂のあり方全てを理解したうえで、人の世を愛し、人の持つ可能性や、光を信じる男。
「それとな、金城。あのロバートだって米国で差別されてたんだ」
マサヨシは、イタリア系移民の苦難の歴史をヴィトーに告げる。
転生前の兄弟分の不遇の人生と、名誉を守るために。
イタリア系移民は、当初米国ではイタリア南部出身者が多く、英語が話せず肌が浅黒くて貧しく無学な不法移民集団って、固定観念で見られるようになった。
極貧のイタリア人街で育った彼らは、芸能産業や飲食業、スポーツ選手、軍人に職が固定され、それ以外はギャングにならざるを得ず、第二次大戦で危険分子と見なされたイタリア系アメリカ人が逮捕され、強制収容や強制送還された悲しい歴史がある。
「その現状を変えるため、第二次大戦中のイタリアのファシスト共を、やっつける力を貸したのが、ロバートの前の世代のニューヨークのマフィア。そして大戦中、イタリア系の軍人が活躍して米国で一定の市民権を得た。だが、底辺のイタリア系移民の処遇は改善されなかった」
「兄貴、米国ってやはり酷い国さ」
「そうだな。だが奴は、米国政府や世界各国に影響力持つため、暴力団と呼ばれようが、政府やサツに目をつけられようが、イタリア系移民の尊厳を守った。しかしマフィアの天辺取るのと引き換えに、家族と名誉の全て失った可哀想な奴だ。そして勇者になり、異世界で自分の家族と、己の名誉を取り戻した男の中の男だ」
ロバートの過去にヴィトーは涙を流した。
そして、地球世界の負の歴史に憤りを抱く。
アメリカ合衆国の歴史は、コロンブスが新大陸を発見して以降、欧州の大国が原住民を虐殺した負の歴史から始まる。
欧州で迫害されていた、清教徒達や植民地民が、アメリカ大陸で大規模農業を実施する過程で、奴隷にしたネイティブアメリカンや、アフリカの黒人奴隷を働かせて豊かになった。
しかし宗主国だったイギリスからの、植民地差別や過酷な収奪を行った結果、独立戦争が勃発し、アメリカ合衆国が独立。
その後、南北格差と黒人奴隷の処遇を巡って南北戦争が勃発。
歴史が下り欧州からの新移民、アイルランド人やユダヤ人、東欧人の大量移民達が差別されるようになり、日系人も差別され強制収容所に送られた歴史がある。
公民権運動を経た黒人や、メキシコがルーツのヒスパニック系の人々も差別を受けている。
アメリカの歴史とはすなわち、移民差別とその克服を繰り返す歴史と言える。
「兄貴、俺ぁが生まれた地球の歴史はクソだ! 強くて悪い奴のせいで、どこかで誰かが、悲しい思いをして……誰かが虐げられてる! 弱い人達が!」
「……ああそれな、元凶がいやがったのよ。そいつ一人がワルかったわけじゃねえが、弱きを助け強きを挫く、俺の信念のもとにブチ殺しといたぜ」
地球人類の祖でありながら、人類を呪う祟神となり、地球人類史を歪め、最後の最後で自分の愚かさと過ちに気が付き、死を願った男の魂を消滅させたのを、マサヨシは思い出す。
「兄貴ーすげえやー。それと21世紀の、今ぬ沖縄ちゃーなっとん?」
「ああ、沖縄の歌手とか芸能人とか超人気で、若い奴らがよく行く観光地になってる。綺麗な海がうたい文句でよ、国内最大の水族館なんかも出来たね。米軍基地も徐々に沖縄に返還され始めてて、日本全国から、おめえの転生前の地元は愛されてるよ」
ヴィトーは目を伏せて大粒の涙を流した。
本土復帰した地元が愛されてると知って、魂の傷が徐々にふさがっていく。
「沖縄の極道は何度も衝突を繰り返してたが、一本化された。中里っていい男で、おめえの可愛がってた子分だ。おめえの仇をとって頭角を現し、大抗争を集結させて、沖縄の極道統一した金筋の極道よ。極悪組が表立って看板掲げられねえのは、広島と北九州と沖縄だけだ。おめえの人生は、無駄じゃねえ!」
「清士……あいつー内地で勉強したけど、失敗してぃ、帰ってぃきた。頭が良くてぃ、優しい男子。内地で柔道やってぃいてぃ、我が空手教えたらすげえ強くなたん。我の自慢ぬ弟やん……そうか、あの清士が」
マサヨシは、この中里清士からヴィトーこと金城二郎の最期を聞いており、沖縄組織間の仁義なき戦いの果て、沖縄の抗争の手打ち式を、関東や九州のヤクザ達と取り持ったのが、このヤクザな勇者だった。
金城二郎の最期は、行きつけのナイトクラブの中で、女を連れてトイレに立とうとした金城に、クラブに隠れていたヒットマンから不意打ちのように、銃弾を浴びせられたという話。
運転手兼ボディーガードだった中里の目の前で、胸と頭を至近距離から大口径のけん銃で撃たれた金城の頭は割れ、ナイトクラブの床で息絶えたという。
中里は慟哭しながら着ていた背広を脱いで、床に散らばった金城の血と脳漿をスーツで覆うようにかき集めて、金城の亡骸を抱きしめたという話に、転生前の勇者は涙を流した。
「よう、もう転生前の未練は残ってるか?」
「無-ん! うんなむん無ーん! 俺ぁロマーノの、こん国ぬ人々を幸せにすん! くぬ国ぬ人々ー沖縄と同じやん! 争いが嫌いで歴史とぅ文化があん心根が素晴らしさ人々やん! この国ぬ人々豊かんして、みんなが笑い合いーたい!」
ヴィトーはもはや、魂に傷を負った男ではなく、一国の主として覚醒した男になった。
そして、勇者であるマサヨシはニヤリと笑う。
魂の傷が吹っ切れたと。
「わりぃ、兄貴。訛りすぎてたさー。俺ぁ、このナーロッパ以外にも交易してる。例えば、ナージア地方のヒンダスって大国と、香辛料関連で交易してる。インドみたいな国さ」
「おう、で?」
「ヒンダスには色々情報が集まってくる。チーノ大皇国てぃ、中国に似た超大国が内戦してて、しにヤバイ血に飢えてるような奴が頭角を表しているという話や、東の果のジッポンという国、こっちの世界の日本のような国に、英雄が現れた話を聞いた」
マサヨシはヴィトーの話に唸り、思考を巡らせ、ヴィトーが何を言いたいのか探る。
「兄貴ぃ、閻魔大王様が送り込んだんは、我とアンリ、アヴドゥルだけじゃない。情報が少ないが、ジッポンに現れた英雄、地球世界の歴史と技術を知ってるとしか思えねえ、天才さ。名前がノリナガらしいが、自分ではイワネツって名乗ってるらしい」
マサヨシは思わず舌打ちした。
その名前は勇者もロバートも知っており、ロバートと相談すべき案件であると判断した。
「それが事実なら、厄介だな。多分野郎は、転生前の記憶を思い出した。金城、おめえ交易装ってジッポンで情報収集できるか? 奴が味方ならいいが、魂の傷が悪さしてたら、やべえ野郎だ」
「わかった。それと兄貴、フランソワのパリスに来てるロレーヌの連中は、そう数は多くない。占領に向かってる本隊は、アルペス山脈とシュビーツを通る必要がある。そして俺ぁ、シュビーツの雇主。兄貴ぃ、言ってる事わかるね?」
マサヨシはヴィトーの絵図に気付き、ニヤリと悪い顔で笑った。
一方、ヴィクトリー城のエリザベス。
間者と駐在武官の情報により、フランソワがロレーヌに簒奪されて、ロレーヌ主導でヴィクトリーへの戦争準備がなされてる事を知る。
「せっかく、フランソワのアンリをガルーダで始末したのに……これではまるで意味がない。どうすれば……」
苦悶するエリザベスを見て、破滅神ロキはいい表情してるなあと、邪悪な笑みを浮かべていた。
エリザベスは、性悪な破滅神が見つめる中、玉座の間で、現在の状況を打破しようと考えるが、王女時代に助言をしてくれた、父であるジョージもいない。
そんな悩める彼女に、黒騎士の集団が謁見する。
「我らがクイーン、お任せ下さい。このエドワードの呼びかけで、亜人国家ホランドがフランソワへの大規模侵攻を計画中です。ノルド帝国の精鋭、バイキルト戦闘団も参戦する模様」
「わかりました。ノルド帝国皇帝、エルダーエルフの称号を持つ、ヨハン・クラウス・ファン・アルフヘルム陛下に感謝いたします」
ナーロッパの中心と呼ばれるフランソワを舞台に、大戦争の幕が開こうとしていた。
「マリーの陰謀で、私を魔女呼ばわりしたナーロッパを、絶対に許さない!」
「ふふ、そうだね。君に力を貸そうか? こう見えて僕、手先が器用で物作り得意なんだ。君の基礎レベルも上げなきゃね」
エリザベスが戦争の決意をする中、破滅神ロキは、どうせ魔女って言われてるのだから、もっと魔女っぽくしようと思い、邪悪な笑みを浮かべる。
次回は主人公視点に戻ります




