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転生したら楽をしたい ~召喚術師マリーの英雄伝~  作者: 風来坊 章
第四章 戦乙女は楽に勝利したい
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第159話 ジョンデリンジャーデイ 後編

「やっさあ、あの野郎達(あったーよ)たっくるせええええ」


 暴徒と化したジュー達を、ジローが先陣を切ってシュビーツ傭兵団と共に蹴散らし、戦乙女(ワルキューレ)エイラは宙に浮き、右手に火球、左手に銅の金属球を具現化させる。


「私ね、色はグリーンが好きなの」


 エイラは両手を重ね合わせると、銅の金属球が高熱でプラズマの火球となり、炎色反応で青みを帯びた緑色に変わった。


「このエメラルドみたいな光のシャワー、下にいる薄汚い雑種共もろとも、受けてみてくださらない? イケメンさんたち」


 液状化した金属の雨を降らせる範囲魔法である。


「クァァァッ! ファッキュー!」


 その時、八咫烏がエイラにまとわりつくように飛び回り、魔法詠唱を妨害し始めた。


「くっ、お父様の持つフギンとムニンのような、自立思考神器……これは高天原製のヤタガラス!?」


 クチバシが開いた瞬間、デリンジャーが仕掛けた七色鉱石製魔法銃B.A.Rのバレルが八咫烏の口から伸長し、強力な魔力弾を毎分600発放つ自立兵器と化した。


「チッ、水壁(ウォール)


 機関銃掃射の威力に、エイラはたまらず水壁のバリアを張るも、今度は漆黒の矢がマッハを超えた速度で次々とバリアに突き刺さり、咄嗟に風の魔法で矢を回避する。


「隙ありだ!!」


 超音速で飛び回るエルフのブロンドが、自らの手で土と炎の魔法で魔力形成した、グラスファイバー製の漆黒の矢を、文字通り矢継ぎ早にエイラに放つも、転移の魔法で再度回避した。


「やるわねあの子、的確に当てて来ようとする」


 ブロンドの真上に出現し、魔力を高めて魔法の詠唱を行う。


「エルフの僕ちゃん、これはどうかしら? 極光驟雨(オーロラシャワー)


 燃えさかる銅が、緑の光の炎を帯びた液体金属の雨を降らす。


「チッ!」


 広範囲魔法の熱気を察知したブロンドは、精霊魔法台風(タイフーン)を唱えて暴風雨と落雷で、エイラの動きを止めて、さらに魔法を詠唱する。


「今だ、くらえ空中竜巻(トルネード)


 エイラの周囲に風の魔力を最大限高め、エイラを高空まで巻き上げた。


 すぐさま弓を引き絞り、人間を超えた速度でグラスファイバーの矢を竜巻へ連射すると、魔力を帯びた矢が竜巻に吸い込まれて、エイラへ斬撃を与える。


「あはっ、やるわね」


 しかし転移の魔法で脱出されて、背後に現れたエイラはブロンドの背中を、ルーンのダガーで突き刺した。


「グッ、強い。この女」


「僕ちゃん、その苦悶の表情も素敵よ。さあさ、歌いましょう、踊りましょう? Gubben Noak♪ gubben Noakvar en heders man♪ När han gick ur arken♫ planterade han på marken♬ mycket vin, ja mycket vin, ja detta gjorde han♪」


 エイラは古語ノルド語で歌いながら、ルーンのダガーナイフ10本具現化すると、緑の炎をダガーが帯びて、エイラを守護するかのように周囲を飛び回る。


「クソ女!」


 ダークエルフのスルドが冥界魔法で重力攻撃を仕掛け、アダマンタイトのレイピアで斬りかかるが、転移の魔法で攻撃をかわされ、逆に高熱を発するダガーが、音速を超えてスルドのアダマンタイトの鎧を突き刺した。


「うふふ、ダークエルフのイケメン坊やとハイエルフの起源(オリジン)の子と、ダブルデートできるなんて、とっても素敵な戦場だわぁ」


「ファーック!」


 八咫烏が、エルフ二人を守るように口から放つ魔法の機関銃でダガーを迎撃する。


 見かけによらず、実戦経験が豊富であると二人のエルフは感じ、相手が男なら闘争心が湧くが、見た目が下着姿をした女性なため、組の綱領が彼らの本来の動きを縛っていた。


 初代である勇者マサヨシが唱えた極悪組八戒綱領は以下のもの。


 一、内を固むるに和親合一を最も尊ぶ。

 一、外は接するに愛念を持し、信義を重んず。

 一、長幼の序を弁え礼に依って終始す。

 一、世に処するに己の節を守り譏を招かず。

 一、先人の智を聞き仁格の向上をはかる。

 一、暴を忌避し、理智と仁義を優先せよ。

 一、五常を是とし婦女子を守護すべし。

 一、任侠道を邁進するため、己を律せよ。


 綱領施行規則としては、五条とは仁、義、礼、智、信であると定められる。


「親父さんのように転移の魔法が使えるようだスルド」


「尋常じゃないくらいの魔法量です若頭(カシラ)、なんとしても隙を見つけないと」


 すると、上空からサタナキア軍と銀河連邦軍のガンシップと戦闘機群が出現し、エイラに魔導ミサイルやレーザー攻撃を放つ。


「あーっはっはっは最高だな、この戦場は!」


 真っ赤なレオタード姿になった戦乙女(ワルキューレ)ゲイラは、所持する二又のルーンランスに魔力を込め、上空に向け始めるとランスが電磁力を帯び始める。


 ルーンランスが金属片を放つ電磁加速機、いわゆるレールガンと化して、アルベス山脈上空に展開する戦闘機群に次々乱射して撃墜していく。


この野郎(くぬひゃー)!」


 如意棒を手にしたジローが、突きを放つもゲイラは首を傾けてかわし、カウンターでジローの膝を狙い、突きを放つが、エルメスの靴でサッと間合いを離す。


「うふふ、見たことが無い槍術……いや棒術か。やるじゃないか黒いイケメン」


「くぬ状況でぃ、(いなぐ)からー褒みらってぃん、嬉しくねえさぁ」


 地表のダヴォス村では闇の波動で狂信者化したジューの貴族達を、シュビーツの傭兵団が蹴散らして回り、戦乙女(ワルキューレ)の軍勢と、エルフの乙女達が弓の射ち合う戦場と化し、エルフの乙女達に加勢する形でデリンジャーギャング団と勇者ロバートは応戦する。


「へっ、クレイジー状況だぜ。いつかのフランソワでの戦いみてえに、あの女共イカレてやがる。しかも大勢の手下ども連れてきやがって、クレイジーだ」


 デリンジャーと勇者ロバートは背中合わせになり、襲い掛かって来るワルキューレに銃撃を放つと、奇妙な事に光の粒子と化して消滅する。


「おかしい、ミスター。我々に攻撃して来るワルキューレ達、無尽蔵に湧いてきやがるし、致命傷じゃねえ攻撃がカス当たりしただけでも消滅する……いや待てよ」


 犬並みの嗅覚を持つ勇者ロバートが彼女たちの臭いを嗅ぐも、生体が発する汗の臭いも女性特有のフェロモンの香りもしないのに違和感を覚える。


 クローンのように同じ顔と鎧をした、漆黒の鎧に天使の羽を生やし、エルフのように耳が尖るプラチナブロンドで碧眼の少女のような姿をしたワルキューレに、七色鉱石魔力銃をミニミ軽機関銃のような形に変え、炎と金属の魔力弾で消滅させた。


 しかし上空の暗雲から大量のワルキューレ達が再び降りてくる。


「やはりな、分身か。おそらくは指揮官がいるはずだが、そいつを叩かねば」


 ロバートが呟いた瞬間、上空から大型の魔道空母が出現し、女の鼻歌がスピーカーから流れ始める。


「二代目極悪組特務、初代魔導会エイム参上だにゃあ! 親分の命令で、デリンジャーって人にうちの企業舎弟が急いで作ったブツのプレゼントするにゃよー」


 極悪組サタナキアブロック長、セーラー服を着た魔族の化け猫族出身のエイムが、車体が長くジェット噴射して空を飛ぶ、魔法防御を施されたリムジンを運転し、エルフの乙女たちや女魔族達が車体を守る様に取り囲んで、地表に着陸させた。


 車体を見たデリンジャーは思わず口笛を吹く。


「ヒュー♪ シミーズが作らせたのか。こいつは、俺の愛車だったV8フォードだ。車体が伸びてやがるが、黒光りするボディ、丸目のライトと大口開けたフロントグリル、紛れもなく俺の愛車だぜ」


 デリンジャーギャング団は鼻歌交じりで、空飛ぶV8フォードのリムジンに、トンプソン機関銃を手にリムジンに乗り込む。


「ロバート様、あとはエイムがあの緑の馬鹿女やっつけるにゃ。運転任せましたニャ」


「うむ、まあ君なら問題はあるまい。助太刀してやりなさい」


 ロバートは運転席に乗り込み、アクセルを思いっきり踏み込みシフトレバーを操作すると、ガスバーナーのような炎がマフラーから吹き出して一気に空を飛ぶ。


「ふふ、フォードか。死ぬ前は子分にヨーロッパな香りがするベンツのマイバッハやマセラッティを買わせたが、やはりアメリカンなマッスルカーが最高だ。でけえ図体にアホみてえな馬力と、トルクの力で空かっ飛ばしてやる!! エコとか低燃費、排ガス規制なんざくそくらえ!」


「ハッハー、空飛ぶV8フォードとか最高にクレイジーだ!! 飛ばせロバート、敵の本体はあの暗雲の向こうにいやがる」


 V8フォードのリムジンが空を飛び、地上では槍の戦乙女ゲイラと、如意棒を持つジローとの一騎打ちが行われていた。


 琉球武術は、琉球王家や上級士族が受けついできた門外不出の武術であったが、琉球王朝の尚真王の方針や、横暴な薩摩藩士に武装を禁じられた結果、身の回りで利用できる武器術を発展させ、例えば船の櫂などを利用して鍛錬方法と型を残すことで、己自身と弱き者を守るための技術として、沖縄武術は存続した歴史がある。


 空手に先手無し。


 後の先、すなわち横暴を振るう者へのカウンター攻撃を極める技術を、琉球空手の本質の一つとするが、武術本来の本質は先の先、打たれる前に打つのが基本。


 暴力団と呼ばれた遊び人(アシバー)のジローは、縄張りのコザを守るため、かつての大戦で日本軍師範をする傍ら、フィリピン戦線で武勇を馳せた、宜野湾にいる琉球王家の秘術を伝える師範の噂を聞きつけ、先の先たる武術の本質を身につけるため、師事した事を思い出す。


「くっ、槍術とも違う。貴様、もっと私を愉しませろぉ!! 小手先だけの見せかけの演舞の武術かぁ!!」


 ジローは手の内を自在に変えながら、如意棒とランスの打ち合いでゲイラは違和感を覚える。


遊び人(アシバー)ぬ極めんエイサーとぅ、舞踊、武術とぅー表裏一体やん。すりとぅ……」

 

 彼女の動きに合わせて、ジローは手の内を自在に変化して、文字通り舞を踊るような足捌きで困惑させた。


「女焦らすしぇー、男ぬ特権さぁ!」


 如意棒に魔力を込めて手の内をそのままに、伸長した棒の先端をゲイラの喉元にヒットさせる。


「ぐっ!」


 槍術や棒術は、原則的に急に得物が伸びる事はない。


 手の内を変幻自在に変化させる琉球武術に慣れさせ、得物自体を変化させて、棒自体が変化するという、想定不可能な一撃をジローは狙っていた。


 日本の戦国時代、管槍という柄の前方に真鍮製で移動式の管が付いていたギミックを施し、摩擦が軽減されて素早い突きが可能である槍が存在したが、古武術と空手の達人のジローは、魔力で伸長する如意棒を使い、その妙技を繰り出したのだ。


 喉を突かれた一撃に、動きが止まったゲイラの隙を、達人のジローが見過ごす筈もなく、魔力の質量を増して、ゲイラの後頭部を強打する一撃を放つ。


 意識を失う前にゲイラは、ジローの腹に胸を突き刺すも、心臓までは届かず力無く失神した。


「武術ぬ基本、手ぬ内ん、隙ん晒ししーじーやん。先手必勝が無理ならー我慢んかい我慢重びてぃ、奥ぬ手ぃーが勝利ぬ道。なあ?」


 ジローは左の指を鳴らしてエルフの乙女を呼び寄せ、戦闘不能になったゲイラを捕虜にしてズボンから取り出した煙草に火をつける。


「ふうー、一服すんばー。あとー皆んかい任すんさー」


 胸の傷を止血して、回復魔法で傷を回復しながら、ジローは周囲を見回した後、空を見上げニコリと微笑む。


 シュビーツの傭兵団とダークエルフの騎士団は、暴徒と化したジューの貴族達を次々と拘束していき、上空では戦乙女相手に二人のエルフが奮戦する。


「ミャーオ」


 その時、エイラの背中に、黒猫ケットシーの二つ名を持つエイムが背中に爪を立てた。


「ぐっ、お前は!? 魔界の悪魔」


「うちの若頭(かしら)と補佐は組の顔役、顔も心もイケメンなんだニャ。勝手な連れ出しデートはお断りなんだにゃあ。そうにゃよね、みんなー」


 ブロンドとスルドを信奉する、女魔族達とエルフの乙女達が、憤怒の表情で一斉にエイラに襲いかかる。


「チッ、女の嫉妬は怖いわねえ!!」


 ルーンのダガーでエイラは応戦するも、多勢に無勢で圧倒されていき、最後の気力を振り絞り、エイラの魔力を帯びたダガー攻撃が、魔族エイムの頭を吹き飛ばす。


「ヤったわ。指揮官クラスを討伐……」


ーーそれくらいじゃエイム死なないんだにゃ。


 首無し状態で、空中を駆け回るエイムの爪の攻撃でエイラは一瞬で切り裂かれ、ボロボロにされた。


 すぐさま容赦ない乙女達の追い討ち、矢と魔法の集中攻撃で、エイラは失神。


 地面に墜落し、戦闘不能になった。


 頭部を瞬時に再生させたエイムは、地面に降り立ちエイラを嘲笑する。


「お前調子こきすぎだにゃ。こう見えてもエイムは旧魔界最強の特殊戦隊にいたニャ。今はなき不死隊の中でも、近接戦闘だけなら、勇者にして初代様にも遅れとったことなかったにゃよ」


 かつて魔界最強の特殊戦隊と呼ばれた、魔神の私兵戦闘団不死隊の中でも、彼女は精鋭中の精鋭、エース隊員だった。


 魔王クラスの力を持つエイムにとって、最初からこのワルキューレが勝てる可能性など0に等しく、エイムは自身の部下達やエルフ連合の乙女達に手招きする。


「みんなー、こいつ縛って拐って、とりあえずヤキと尋問だにゃ」


「ブロック長の言う通り、私達の若頭と若頭補佐に手を出すなんて10年早いわね」


「あたし達の若頭をあんた如きが」


「ぶっ殺すわよブサイク女め」


 気を失ったエイラに、じゃれつくような猫パンチのビンタを、何度も繰り出すエイムを見たエルフのブロンドは思わず苦笑いし、組の女達の強さを垣間見た若頭補佐スルドは、その情念に背筋をゾッとさせた。


 地面に降り立ったブロンドが見上げた先では、多数のワルキューレを、空飛ぶV8フォードリムジンが跳ね飛ばしながら、ギャング団が窓から銃撃するドライブバイ攻撃を行い、八咫烏に導かれるよう、徐々に高度を上げていく。


「見つけたぜ、多分このあたりだ」


 デリンジャーはV8フォードから飛び降り、風の精霊魔法で宙を浮き、稲光する暗雲の中で、本体の戦乙女を見つけ、銃口を向ける。


「あらあら、あなたヒトのくせになかなかやるわね。それにいい男、エルフの血もかなり薄いけど入ってるのね、名前は?」


「デリンジャーだぜレディ。好きなものは野球と車、それにうめえ酒さ。あんたは?」


「ふふ、私の名前はスクルド。オーディン親衛隊とは別の、特別攻撃隊(ノルニル)って言った方がいいかしら? 盾の戦乙女にして、戦乙女最年長の一人。ヒトにしては強いようだけど、私やノルニル隊はもっと強いわよ。あそこで無様を晒してるブリュンヒルデ隊のゲイラとエイラよりも」


 デリンジャーのサポートに、ブロンド、スルド、戦場に駆けつけたエルダーエルフの女帝だったヨハン、耳が魚のヒレを思わせる、アマゾネスのようなシーエルフの女傑ラミアも駆けつけると、ブロンドの碧眼が青い光を放ち、スクルドの碧眼と共鳴を起こす。


 エルダーエルフのヨハンも、自身と同じ髪色と肌の色をしたエルフに、本能的な恐怖を覚え、怯え始める。


「あなたも……エルフか」


「うふふ、坊や。そうね、私こそが真なるエルフ。何万、何十万年前かも忘れたけど、生まれてすぐオーディン様の戦乙女となり、フレイに協力してあなた達を生み出したオリジナルよ」


 スクルドは、大樹のような神域ユグドラシルの根本で生まれた、天使のような羽を持つ始祖のオリジナルエルフ。


 彼女の持つ闘争本能と、特殊能力をオーディンより買われて、側近となった存在である。


「あなたは初期モデルかしら? 色素の違いや様々な環境的な要因で、色んな子が生まれたようだけど、なかなか多様性を感じるわ」


 感慨深く、エルフ達を見つめるスクルドに、エルフのブロンドは思いを素直に述べようと問いを投げかけようとした。


「そうですか。あなたが我々すべての祖であるならば、なぜこの世界で苦しむ我らが同胞の血を引く彼らを、こんな非道に」


 ブロンドの問いに、スクルドが笑い出す。


「なぜ? ですって。あなた達を精霊界の眷属として里子に出したのは我が主、オーディンの勢力拡大と、人間界を楽園(ヴァルハラ)とするため。あなた達はそのための道具。道具がなぜ? ですって、超ウケる」


 ブロンドの目に怒りの青い炎が灯り、デリンジャーは黄金銃ヴァジュラをスクルドに向ける。


「オーケーレディ。生みの親であるあんたが、クソ女って事はよくわかった。この世界のジューの奴らも俺たちも、てめえの道具じゃねえ。俺が革命起こしてやるぜ、Fuck you‼︎! son of a bitch‼︎」


「あなたは、我々を道具と言った! 我々は道具じゃない、人間だ! 人間としての誇りを、侠客としての意地を見せてやる!」


 デリンジャーは、黄金銃ヴァジュラを連射し、エルフ達が魔法を放つも、スクルドが具現化した鏡のような大盾に全ての攻撃が吸収された。


「ふふ、無駄よ。私は最強の神盾スヴェルを所持してるの。そして……全ての行いはあなた達に降りかかる!!」


 鏡のようなスクルドの大盾が発光し、さきの攻撃の倍以上を超えた極太のレーザーが具現化し、デリンジャーやエルフ達を焼き始める。


「ジーザス! やべえぞ、こいつに魔法の力は通じねえ! 跳ね返される!! クロウ!」


「オーケーマイマスター! ファックユー!」


 八咫烏の羽が硬質化して、スクルドに斬りかかるも、大盾の一撃で打ち払われ、スクルドが一気にデリンジャーの間合いまで詰めて、大楯を前に突き出し、体当たりで吹っ飛ばす。


「ぐぉ!」


「リーダー!!」


 デリンジャーギャング団が、空飛ぶV8フォードからドライブバイの銃撃を放つが、全て盾により防がれて、倍の速度で銃弾が跳ね返る。


「ホーリーシッ! あの女やべえ! デリンジャーの攻撃や俺達のガンが効かんぞ! 無敵か!?」


「デリンジャーギャング団のミスター達、攻略法がわからない。今は距離をまず離す!!」


 吹き飛ばされたデリンジャーは、頭部から出血しながら、黄金銃ヴァジュラを盾の死角から攻撃するも、オートガードのような機能を持つのか、盾に魔力銃のエネルギーが全て吸収された。


「あはは、無駄。エルフの血を引く者よ。あなた達はオリジナルである私にも、この盾にも勝てない。それにー、油断してると……」


 スクルドから分身したワルキューレ達が、手に持ったランスやナイフを、次々とデリンジャーに突き刺していく。


「シィィット」


 デリンジャーは、口から吐血して一気に生命力を奪われていき、サラマンダーの精霊力を魔力付与させて分身体を焼く。


「デリンジャーさん!」

「ミスター!!」


 なんとか隙を作るために、この場にいる者がスクルドに銃撃と矢を放つが、全て防がれる。


「ガッデムシット! これじゃこっちがジリ貧だ。打開するには、彼の知恵が必要か。俺の全魔力でなら応じてくれるだろう。勇者ラーマよ! 我らに知恵と勇気を!!」


 ロバートが指輪の召喚を行うと、V8フォード助手席に薔薇色の瞳を持ち、弓と剣を持つ勇者ラーマが現れた。


「僕の出番ってわけか。相手は……エルフ? いやちょっと違うな、反逆神の一味かな?」


「イエッサー! ミスターラーマ。相手は我々の攻撃を防ぐ最強の盾を持ってます」


「ふーん、最強の盾ね」


 助手席から乗り出したラーマは、インドラの弓を最大出力にし、スクルドに対して魔神すら一撃で屠りさる光の矢を放つ。


 それは矢と言うよりも、亜光速で発射されたプラズマが尾を引く流星のような、神の域にも達する魔法弓である。


「オーマイガッ」

「ホーリーリーシッ!」

「ワッツァ!!」


 あまりの衝撃でV8フォードリムジンが空中でスピンして、なんとかロバートはハンドルを切り返して飛行を保つ。


 インドラの矢の直撃を受けたはずのスクルドは、盾で矢のエネルギーを吸収した。


「ああ、あれヤバいね。僕の必殺の弓が全然効かないんだけど。多分近接戦でも剣が弾かれるか。いや、あの盾に負荷をかけ続ければいけるか。じゃあ、ここは一つ僕の戦闘形態、ブラフマーで一気に……」


 ラーマが神剣ブラフマーを握り、スクルドを討伐しようと助手席から飛び出そうとした時、デリンジャーは口角を上げてスクルドに対して不敵に笑う。


「へっ、じゃあこういうのはどうだい? みんな、このビッチにありったけの魔法と弾丸くれてやれ」


「ミスター、それは……わかった!! 諸君、一斉攻撃だ。強力な攻撃を! 反撃の余地もないくらい放ち続けるんだ」


「ああ、なるほど。ふふ、お前をヤマが選んだだけはあるな、この世界の英雄!」


 ラーマは剣を鞘にしまいインドラの矢を連射、エルフ達は嵐のような攻撃魔法や、デリンジャーギャング団がスクルドの動きを止める制圧射撃を加えていく。


 デリンジャーは、ヴァジュラから超高威力の魔力機関銃ヴェクターに持ち替えて、魔力が尽きかけるまで乱射した。


「あーあ、無駄無駄。魔力尽きるわよ? あんた達の。なんか歴戦っぽい勇者もいるようだけど、私には一瞬だけど未来が読めるの。未来予想図では、ためた盾のエネルギーが、あのデリンジャーって子に全部炸裂して……」


 魔力が切れて、高空から落下しそうになったデリンジャーを、八咫烏が背中を掴み、かろうじて宙に浮きながらスクルドと対峙する。


「そうかい、みんな撃ち方やめだ。俺の切り札を見せてやる!!」


 デリンジャーの体が白く光り輝き、彼の名を冠した小型魔力銃(デリンジャー)を懐から取り出し、スクルドに向けた。


 すると銃身が一気に1メートル以上伸び、彼の右腕全体を漆黒の金属が覆っていき、右腕全体が無骨な大楯付きの魔力砲になる。


「それがあなたの切り札ってわけ? なかなかすごい変化したけど、イリアステル?」


「さあ、盾に貯めたエネルギーを撃ってこい。どっちの力が上か勝負しようぜビッチ!」


 スクルドは、未来予知するとエネルギーをもろにくらったデリンジャーの姿を見てほくそ笑む。


「そう、じゃあ今までのエネルギー、あなたに返してあげる」


 間もなく召喚時間を終えようとしたラーマが、ニコリと笑い、勝利を確信するスクルドへ、なんらかの精神作用の魔法をかけた。


「ふふ、もう少し見てみたかったけど僕はこれで帰ろう。人類を守護する英雄に薔薇の祝福を、悪しき存在には災いあれ」


 ラーマの姿がV8フォードの助手席から姿を消し、勇者ロバートは、懐から取り出した魔力回復ポーションを一気飲みし、窓からスクルドに投げつける。


 盾に当たった瓶が粉々に砕けるのと同時に、スクルドの盾が輝きだし、惑星どころか銀河そのものを消してしまうような、摂氏10兆度、10の48乗、1極ジュールにも達っしうる強烈な光を放つ。


極熱光炎(ラグナフレイム)


「うおおおおおおおお!!」


 光に包まれたデリンジャーは咆哮し、自身の大楯に念じると、緑のオーロラのような光が発光して攻撃を無効化した。


「は? え? 嘘? ちょ私の盾が……だって未来予知では、う、嘘? 未来が見えない。さっき何かされた……」


 そして真っ白く光り輝くデリンジャーが、右腕の魔導砲をスクルドに向ける。


「さあて、俺の番だ。俺の魂と生命力のクレイジーキャノンとそっちの盾、どっちが強いかチキンレースと行こうぜ」


 デリンジャーが右腕の砲身に左腕を添えると、先程の倍以上の質量を持った極太のレーザービームを放ち、スクルドの盾は全てを受け切るも、盾が振動し始め軋む音がした。


「デリンジャーターイム! ファッキンクレイジータイム!! Awesome! 」


 八咫烏が騒ぎ立てる中、スクルドは、さらに倍化させたエネルギーをデリンジャーに放つも、緑のオーロラの光が虹の輝きに変わり、全て吸収される。


「こ、こんなのおかしいわよ! まさに矛盾! あんたの魂だって無事じゃ済まない筈なのに、イカレてんのあんた!?」


「イカレてるだって? そうだよ、俺にとっちゃクレイジーは褒め言葉だああああああ」


 デリンジャーが、さらに倍化された極太のエネルギー波を放つと、スクルドの盾にヒビが入った。


「こんなの無理よ! 宇宙創生じみたエネルギーなんて、私には受け切れない!!」


 スクルドが盾を上空に放り投げた瞬間、内臓されたエネルギーに耐えきれなくなった盾は、粉々に砕け散り、中国の故事の語源の通り、最強の砲撃エネルギーと共に盾はこの世から消滅した。


「そんな……私の盾が。あらゆる攻撃を防ぐはずの、私の……」


 盾と共にプライドも粉々に砕かれたスクルドの漆黒の胸甲を貫く、風の魔力で螺旋状に回転する、一本の鎧通しのアダマンタイトの矢が突き刺さる。


 ブロンドが弓を引き絞り、盾の無くなったスクルドに、トドメの一撃を刺したのだ。


 矢が刺さった瞬間、強烈な眠気に彼女の意識は微睡み、朦朧とするスクルドをロバートが運転するV8フォードの後部ドアが開き、デリンジャーギャング団がスクルドを拉致した。


「トワの大森林で生成した睡眠の矢です。あなたはもう、エルフの秘術たる着付け薬を服用しなければ目覚める事はない。全てのエルフの祖よ、あなたの負けだ。我らが女神の冥界に身柄を引き渡します」


 暗雲がアルペス山脈から消えて、暴徒と化したジューの貴族達が全員取り押さえられており、アルペス山脈における戦闘は決着を迎える。


 そして英雄デリンジャーに導かれ、エルフのブロンド、本名をグルゴン・トワ・エルフヘイムが、眼下のジュー達を見やり、勇者を継ぐ者として覚醒を果たそうとしていた。

このお話は、お気付きの方もいるかも分かりませんが、家族と民族差別が裏のテーマになってます。

次回は勇者を目指す者のお話といたします

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