第99話 フランソワの薔薇 後編
ロバートさんの右手が光り輝いた瞬間、体を再生させて私達に襲いかかるゴーレム達が、先生の放った斬撃で、次々と空間ごと両断されていく。
そう、ロバートさんはあの女を消耗させた。
あとは入れ替わりにフルパワー状態の先生が来れば、この勝負に勝てる。
「へっ、ゴーレムか。コアをぶっ壊せば、ただの土塊に戻るだけよ。ようお前ら! その様子じゃあ苦戦中のようだが、安心しろ。俺が来てやったぜ!」
「先生!」
「シミーズ、すまねえ」
そして刀を装備した私の先生でもある、勇者マサヨシが召喚された。
いつもの着物姿じゃなくって、黒ストライプの白スーツに身を包んで、真っ赤な薔薇が刺繍してる黒地のネクタイに、白のエナメルっぽい靴にお洒落な中折れ帽子をかぶって。
「なんだよ、シカゴのギャング相手って言うから、ビシッと決めてきたのに。この魔力反応はいつぞやのマブい女共か?」
「ああ、相手はワルキューレだ。向こうの切り札は切らせたから、あとは詰めを頼む兄弟」
「おう、ご苦労さん兄弟。あとは俺達に任せろ」
先生とロバートさんは左手でハイタッチして、ロバートさんは召喚時間が切れて元の世界へ戻って行き、周囲を覆っていた冥界の結界魔法の効果も切れる。
「さて、その様子じゃデリンジャーは無事救出できたようだ。で、絵図描いていやがったのはワルキューレで間違いねえか? マリー」
「はい、デリンジャー誘拐事件の背後にいたのは、ワルキューレです。背後にいるのはオーディンとオーディンの使徒エドワードことアレクセイ!」
「なるほどな、あのいつぞやのカスにワルキューレはついたってわけかい。お? ヒュッー!」
先生はサングリーズを見て、口笛を吹く。
「なんだコノヤロー、暑苦しい鎧脱いで俺を待っててくれたのかい? まあ俺様クラスの男が来たら、女は脱いで待ってるからな」
えーと、違う気がするけど。
でもやっぱり、この人がいれば負ける気が全然してこないし、勇気や力が湧いてくる。
勇者とは勇気を持つ者じゃなく、場の空気を一変させて周りに勇気や希望を持たせる存在、それが先生、歴戦の勇者にして私のマサヨシ先生。
「いい、いいわあ! 現役最強クラスの勇者の一人と闘えるなんてなんて素敵……」
恍惚の表情を浮かべるサングリーズが隙だらけだったから、一気に間合いを詰めてギャラルホルンで頭をフルスイングしてやった。
そして天界魔法の時間操作を唱えて、あの女の前に詰め寄り、吹き飛ばされたサングリーズを、フルスイングのギャラルホルンでカチあげる。
「負けない!」
空高く舞い上がったサングリーズに、鎧の羽の力で一気にロケットブースターのように出力を上空で追いつき、思いっきり地面に叩きつけるスイングをしてやった。
サングリーズは頭から落ちたのか、地面に上半身をめり込ませて、まるで犬神家の死体みたいに、地面に足だけ出た状態になる。
「みんなのおかげで、体力を十分回復しました。そして先生のおかげで勇気が出た。もう私は、こんな女なんかに負けない」
先生は私を見てニヤリと笑ったあと、デリンジャーに、SF映画で出てきそうな感じの、不思議な形をしたマシンガンを手渡す。
「おう、デリンジャー。おめえさんの新しい道具だ。うちの世界の最新魔力反応機構のVシステム搭載にして、俺がケツモチしてる銀河連邦政府に作らせたブツだ。精霊魔法や属性魔法を魔力付与してぶっ放せる、超高威力の機関魔力銃ヴェクターよ」
デリンジャーが新しい武器を手に取った瞬間、真っ黒い銃本体に、まるで血管のようにオレンジ色の蛍光色が広がって、LEDライトのように光る。
「昔のトミーガンも味があっていいし、七色鉱石製のブツも応用効いていいが、男だったらイカつくて高威力の機関銃だろ。ロバートの兄弟の道具も合わせれば、香港映画みてえに二丁持ちも出来るぜ?」
「サンクス、シミーズ! 香港映画とか見たことねえけどよ!」
デリンジャーは、いつの間にか体を起こして、ライフルを構えたレギンレイヴに新しい魔法銃を向けた。
「サングリーズも勝手な真似して、お前達も戦乙女である自分を馬鹿にしすぎなのであります! 命令違反でありますが……もう、知るもんか! お前達を殲滅する!」
黒いエネルギーが、レギンレイヴに乗り移ると迷彩服が燃え始め、迷彩柄のスポーツブラと、同じく迷彩柄のショートガードルのパンツ履いた狂戦士状態になった。
「状態確認」
私はスキルでレギンレイヴの状態を確認した。
レギンレイヴ レベル125(99)
クラス、戦乙女ワルキューレ
状態 限界突破 狂戦士化 鎧パージ
HP1950/41201(9999)
MP1530/3389(999)
総攻撃力5123(255) 防御力98
うん、めっちゃ強いわこれ。
さっきの同士討ちで体力が消耗してるとはいえ、やばい攻撃力してる。
狂戦士状態になったレギンレイヴが、垂直にフワッと浮遊し、でっかいライフルが姿形を変えて、真っ黒くて三角形の巨大な飛行機に変わっていき、乗り込んだ。
「お前たちまとめて、全部ぶっ壊してやるでありますううううううううう」
どうしよう……。
「先生がせっかく来てくれたのに、狂戦士が二人に増えた……」
「隙だらけですわああああ、ヴァルキリーいいい!」
私に向かって、サングリーズが猛スピードでパンチしてきたが、シーサーの入れ墨が見えたと思った瞬間、超スピードの誰かの回し蹴りでサングリーズの体が吹っ飛ばされた。
「へっ、クレイジーな状況だぜ。なあ、伊達男ジローよう!」
「へっへっへ、よくわかんねえ状況やしが、あの女ら、なんくるしぇーすりゃあいいんだる? なあ兄貴ぃ、マリーちゃん」
「ジロー!?」
そうか、ロバートさんが帰ったことで、周囲の結界が無くなったから、こっちの応援に来れたんだ。
今のジローは比嘉大吉戦で勝利した時のように、背中と胸に雌雄のシーサーの入れ墨が入った状態になってる。
魔力ライフルを持った、フランソワ精鋭の黄金竜騎士団も駆けつけてきて、上空を飛ぶレギンレイヴの戦闘機にライフルを構え始めた。
「あの真っ黒なよくわかんねえ飛行機を撃ち落とす。いいかみんな、チームワークだ」
「おう! ジョン、いや大統領」
「了解だ、リーダー」
「前世で刑務所にいた時の、ベースボールみたいにだろ?」
「よくわかんねえガールに、なめられてたまるか」
デリンジャーは、背広姿の騎士団を率いて新たな魔力銃ヴェクターに魔力を込め、私はデリンジャーの体に召喚魔法で呼んだサラマンダーの力を魔力付与させる。
「いくぜ! コウモリみたいな化物飛行機に、制圧射撃アアアア!」
デリンジャーが一瞬爆発したんじゃないかってくらいの火柱と、けたたましい発射音と共に、上空のレギンレイヴの真っ黒い戦闘機が炎上する。
あの新しい武器、めちゃくちゃな威力だ。
騎士団も銃撃してるけど、先生が渡した新しい魔力銃の威力、マジでハンパない感じ。
「やっぱりおめえはすげえぜ……ジョン。それと、なんだこの東洋人。おい、チャイナ野郎! お前もデリンジャーギャング団か? この世界の」
「あ? んだよ、こっちにもマブい女いるじゃねえか。背広がボロボロで下着見えてっけど、どうせなら全部脱いどけよ。気が利かねえなあ」
先生がレスターに日本語で独り言ちながら、私に黄金の鎖と薔薇状に加工した水晶玉がついたブレスレットを投げ渡し、私が手に取った瞬間、私の魔力と力のステータスが増す。
「おう、おめえにもプレゼントだ。こいつは天界の神龍の鱗を鎖に加工して、精霊銀と魔法金をコーティングしてフューリーの馬鹿……じゃねえ大精霊の加護を得た極上の精霊ブレスレットよ」
先生がブレスレットについて説明した瞬間、上空から燃え盛る戦闘機から、おびただしい数のミサイルが発射され、真っ直ぐこっちに向かってくる。
「殲滅殲滅殲滅殲滅殲滅殲滅殲滅ううううう」
狂ったようにレギンレイヴが地上の私達を攻撃してきたけど、先生は鼻で笑いながら、刀に手をかけて物凄いスピードで居合抜きを繰り出すと、ミサイルが次々と爆発して、夜空が眩しく光り輝く。
「たかが戦闘機持ってきたくれえで、勇者を倒せるわけねえだろ、アホアマが。マリー、わからせてやんな」
「はい、虹星極光」
私は上空の戦闘機に向けて、ギャラルホルンに天界の魔力を込め、ホーミンレーザーのような魔法を次々と放つと、戦闘機がバランスを崩す。
「よっしゃ、これで狙いやすくなったなあ!」
先生が、魔力銃パイソンを6連射するとレギンレイヴの戦闘機が墜落し、大爆発を起こした。
「ああん、レギン姉様! 墜落するとは情けな……」
「お前もな!」
ジローの正拳突きを受けたサングリーズは、大爆発を起こして炎上する戦闘機まで、吹っ飛ばされる。
「やったか!?」
デリンジャー達が、爆発炎上を起こす方向に銃を構え、私はスキル状態確認で、ワルキューレ達のHPを確認してみたら、残り3桁になってたが、あいつらはまだ戦闘不能になってない……。
すると地響きがしたと思ったら、大統領宮殿の庭園が突如地面ごと持ち上がり、10階建てのビルくらいありそうな大きさの、薔薇のツタを纏ったゴーレムが出現した。
これは……間違いない、私達が相手にしたサングリーズのゴーレムも、さっきの戦闘機も、この超大型ゴーレムも召喚魔法。
ワルキューレ達は召喚魔法の使い手。
「オーマイガッ! 俺の庭をこいつら!」
「チッ、しぶてえ女共だぜ。しかもコア部分はガッチリガードしやがってて、それで弱点と隙を無くしたつもりかよ」
「やべえのが出てきやがったぜジョン! まるでガキの時に見たロストワールドみてえだ! いや、死ぬ前に見たキングコングよりもやべえ!」
確かにヤバイこれ、なんて魔力。
まるで巨大な薔薇のような植物の巨人みたいになってて、ゴーレムの胸部にはサングリーズが水晶玉のバリア張ってて、レギンレイヴが操縦席に座っているような感じで、ゴーレムを操作してるように見えた。
「エネルギー充填、30%、32%、34%! サングリーズうううう、アースゴーレムでこの国の人間共をヴァルハラ送りにできるエネルギー充填まで、もうしばらくかかるであります!」
「おほほほほ、レギン姉様! 戦争はこうでなくてはいけません! さあさあヴァルキリー、私達を止めてご覧なさいなあああああいいいい」
こいつら……このゴーレムで虐殺する気だ。
この国を、フランソワをこの世界から消すつもりだろうけども……。
「まあ、そんな事はさせねえけどな。どれ、じゃあ俺様の本気モードで、あのデカブツ無間地獄へ放り込んでぶっ潰し……!? 伏せろおめえら!」
私達が身を屈めると、強烈な光が瞬いたと思ったら、大統領宮殿が粉々に吹き飛ばされた。
「ファアアアアアアアック! 俺の大統領宮殿があああああ、ガッデムシット!」
デリンジャーは、銃を右手に持ちながら、頭を抱えて絶叫する。
ゴーレムじゃない、強烈な魔力反応を感じて見上げると、憤怒の表情を浮かべたブリュンヒルデことサキエルが空を飛んで私達を見下ろすように、睨みつけている。
「よくもやってくれましたね、高山真里と冥界の勇者。神界法違反なんかして、私の妹達をよくも!」
私はサキエルのステータスをみると、本気を出した先生と同様、ステータスの数値がバグってるような感じで文字化けして読み取れない。
「けっ、てめえの妹の教育がなってねえからだろボケ。マリー、今のおめえらの力ならばあのデカブツを止められるだろ? 俺は、あの女をなんとかする!」
「わかりました!」
魔王阿修羅の姿になった先生は、上空でサキエルと激しい魔法戦を繰り広げ、私は杖に魔力を込める。
「神様、優しい光の神様、あのゴーレムを倒す力を。世界を、みんなを守るための力を私に……」
すると、ゴーレムから一気にツタが触手のように伸びてきて、私の足に絡みつく。
「きゃあああああああああ」
物凄い力で絡みとられて、触手のイバラが鎧に刺さったと思ったら、私の体を弄ぶかのように地面に叩きつけられた。
「マリーちゃん、クソ汚れ!」
ジローの体が真っ白く光り輝き、飛び上がって私を拘束する触手を、炎を纏った飛び蹴りで切断するけど、別の触手が伸びてきて私たちの体が拘束される。
「マリー!? 金城!? てめえ馬鹿アマ共! 俺の仲間や舎弟、可愛い弟子に何しやがんだゴラァ!」
「うるさい! 人の世の闇が生み出した暗黒街出身の化物め! お前さえいなければ、この世界をお父様の言う通り、救世主アレクセイや父の望む理想の世界にしてやれる!」
「罪なきカタギを巻き込む事や、この世界に転生した可哀そうな奴らをてめえの利益だけに使う事がか? ふざけんじゃねえぞ、何が神の望む世界だ馬鹿野郎! そんな事は俺が望まねえ! 俺をなめるな、ワルキューレ!」
先生がサキエルの攻撃魔法をかわしながら、空間ごと切り裂くような斬撃をゴーレムに繰り出して、私達に絡みつくツタを切り裂いてく。
「まったくクレイジーな状況だぜ! 庭が荒らされるわ家がぶっ壊されるわ、いくぜデカブツ」
デリンジャーと騎士団は、マシンガンでゴーレムを攻撃し始め、ジローも魔力銃で援護射撃する。
「ありやん、あの胸の中央部狙うさー!」
「そこに目掛けてぶっ放してるが、このマシンガンでも貫通しねえ。クソが、シミーズは親玉っぽい女とクレイジーなバトルしてるから、俺達でやるしか……!? マジか、魔力が切れやがった! この銃、魔力消費やべえ!」
げっ、デリンジャーのMPが切れたんだ。
するとデリンジャー目掛けて、先端が鋭利に尖った触手が彼の体を貫こうとする。
「させるかああああ!」
「ジョン!」
デリンジャーを突き飛ばし、レスターの体が串刺しにされた。
「ネルソン! アンナ!」
レスターは体を串刺しにされ、触手は彼……いや彼女の体を持ち上げて、ゴーレムの頭部まで引き寄せていく。
「この現地人、なかなかの魔力量であります! こいつをアースゴーレムの養分にしてやります!」
ゴーレムの頭部が、まるで食虫植物のハエトリグサのようにカパッと割れて開くと、その中にレスターを放り込もうとした。
「へっ、なめるなよ俺を」
レスターは、隠し持ってた魔力ライフルをアースゴーレムの剥き出しの頭部に乱射する。
「もう、あたしは彼が死ぬのなんて見たくないっ!」
ゴーレムの頭部が、ズタズタにされて火を吹きだし、レスターの体は触手によって放り投げられた。
「魔力って言うのか? 空っけつだ。ジョン……俺は、またおめえに……会えてよかった」
「ジョン、あたしが大好きな人……ごめんなさい……そして、さようなら」
彼らの体が地面に落ちる瞬間、デリンジャーが受け止めて庇うように抱きしめる。
「あらあら、イケメンさん? 動きが止まってましてよ、針千本」
ゴーレムの体の所々が爆ぜて、デリンジャー目掛けて、無数のトゲが彼の体を突き刺し始めた。
「やらせねえええええええ! 仲間を、ネルソンを、アンナを俺は死なせねえっ!」
背広姿の騎士団達も、デリンジャーに駆け寄り、土の魔法で障壁を作り、ヌンチャクを持ったジローも加わり、デリンジャーを守るために援護し始める。
「リーダー! ネルソンをやらせるな!」
「クソが! 綺麗な女にはトゲがあるって言うが、トゲ出しすぎだろ」
「リーダー、ネルソン、今度は俺達が助ける!」
私もデリンジャーのもとに行こうとしたが、この触手みたいなツタが邪魔してっ!
「早く、私の杖にありったけの魔力をチャージしないと、ゴーレムが……きゃあああああ」
その時ゴーレムのツタが両手両足に絡みつき、私の手足を引き裂くような物凄い力で引っ張り始めた。
「隙ありよヴァルキリー! このままバラバラにしてあげる」
「薔薇だけにであります、あっはっはっはっは」
クッソ寒いんですけど、そのギャグ。
なんて考えてる場合じゃない。
考えろ私、戦いを有利にする何かや隙や、周りの環境を利用できる何かがあるはず。
いや……待てよ。
「トリアード、ウンディーネ、魔力付与」
私の黄金の鎧が、薔薇をイメージした鎧に変わり、巻きついたツタに私はあるイメージをする。
「黒点病」
私に絡まったイバラのツタに黒点がつき始め、葉も枯れて私にかかってた力が弱まり、私はツタを魔力で千切って脱出し、地面に降り立つ。
黒点病とも黒星病とも呼ばれ、カビの一種が悪さをして葉が枯れちゃったり、植物を弱らせるって果樹園とか持ってる領民の人から聞いていたことあった。
これを咄嗟に思い出した私は、トリアードの力とウンディーネの力で、ゴーレムの体を構成する土の中にいるカビを一気に繁殖させて、ゴーレムを包み込んだ。
「ああああああサングリーズ! ゴーレムの水分が急速に失われてるであります! 頭部損壊も相まってエネルギー充填に支障が!」
「素敵な薔薇を枯らしてしまうなんて! レギン姉様、あのヴァルキリーの血の花を咲かせてやりましょ」
薔薇のゴーレムはイバラだらけの茶色くて枯れ木のような姿にかわっていき、とげとげしい恐ろしい姿に変わった。
そして……このヴァルキリーの状態についてわかった事がある。
「今のこのヴァルキリー状態、私の精神力と思いの強さ……何かを守ろうとする意思の力で、この状態は強さを増すんだ。ならば私はこんな女達に負けない!」
私が杖、ギャラルホルンに念じると、空気中の電子、陽子、重イオンが吸収されていき、電磁波で空間が歪み始め、掲げた杖を中心に、魔法陣が幾重にも具現化していく。
狙いは……ゴーレムの胸部!
バリアーで覆われた、ワルキューレ達!
「レギン姉様ああああ、やっちゃいましょう!」
「エネルギー58%! この辺り一帯を更地にするのに十分であります! くらえっ! 土石龍弾砲」
「いけえええええ、超荷電粒子砲」
ゴーレムの両手から大量の土砂が勢いよく発射され、私の最強魔法の電子の光が、押されて……なんて力!
「ぬうううううううう、この土石流みたいな土砂の塊に、電子の光が……通用しない! ダメ、このままじゃ押されて……」
相手の土砂を白熱化させて、塵に戻してるけど、このままじゃ押されて……。
「無間地獄」
その時、私とゴーレムを挟んで暗黒空間が具現化した。
そうか、先生は女神ヤミーのように暗黒空間を場に作り出して、土砂を吸い取ってしまったんだ。
「サングリーズうううう、目の前に冥界魔法が出現し、土石龍弾砲が!」
「レギン姉様、ならばアースゴーレムの全てのトゲを射出し、全方位360度! オールレンジの針百万本を!」
嘘、こいつらまだ切り札を……。
天界魔法のバリアーを……いやダメ、さっきの必殺魔法で魔力量を消費した私にはもう使えない。
絶対防御? だめだ、レスターとの戦いで使用してしまったから使えない。
考えろ私、絶対に状況を打開できる何かがある筈。
「クソが! まわりにマリー達もいて、あのゴーレム無間地獄に放り込めねえ! てめえ馬鹿アマ! やめさせろ!」
「あの子達、私の断りもなく狂戦士化して……冥界の勇者よ! ああなっては致し方ない! あなたは神界法違反の現行犯で天界に引き渡します!」
私を助けようとした先生が、サキエルの発動したリング状の魔法で拘束されてしまい、私の電子の光が消えてしまった。
「うおおおおおおおおおおお!」
背中に無数のトゲが突き刺さったデリンジャーが、奇しくも彼と同じ名前の小型魔力銃を右手に持って、私の前に立つ。
ステータスを見たら、ヒットポイントが残り二桁の42……ダメだ、今の彼は瀕死状態。
「みんな死なせねえ! このフランソワで、理不尽な暴力と人殺しなんか二度とさせねえっ! 俺はデリンジャーだ! 人々を守る銃であり弾丸だ! みんなは俺が守る!」
ダメだ、さっきのトゲの攻撃よりも凄い技をまともに受けたら、デリンジャーが潰されて死んじゃう!
「ダメだデリンジャー、あなたが!」
その時、デリンジャーの体が真っ白く光り輝き、小型魔力銃の銃身が一気に1メートルくらい伸びたと思ったら、腕全体を漆黒の金属らしいものが覆っていき、手甲……いや無骨な盾のようになって、あれはまるで右腕全体が、大盾がついたマシンガン。
「全方位360度! 針百万本発射ああああああ」
「うおおおおおおおおおお!」
デリンジャーが雄叫びを上げた瞬間、ゴーレムから破裂音がして、無数のトゲが地上に降り注ごうとした時だった。
私たちの周囲、いや、トゲが降り注ごうとした大統領宮殿やパリス市街地を守るかのように、緑のオーロラのような光が発光して、トゲの攻撃が消滅する。
「こ、これは一体?」
私達は呆然として、デリンジャーを見つめる。
「邪魔ってえ腰縄だぜ!」
先生は、体を拘束していた光のリングを引きちぎり、私たちの元へと降りてくる。
「これは、イリアステルだ」
「イリアステル……ですか?」
「ああ、エーテルともマテリアルとも呼ばれる、魂に反応する、冥界や天界に存在するこの世ならざる物資。おめえの鎧の原理と多分同じだ。デリンジャーの不屈の精神と、魂に反応したんだ。金城の入れ墨もそうだが……そうか、冥界におわす親分の授けた力が発動したか!」
周囲に展開したオーロラのような光が、今度はデリンジャーの大楯に収縮していき、右腕の砲身が真っ白く光り輝く。
「デリンジャー、その右腕の力はおめえの切り札。使い方はおめえの魂が知っている筈だ! 誰かを守りたいと思う人間としての光が、敵意を持った相手の力を奪い、己の力に変える! さあ、派手に頼むぜ! ローズ・デリンジャーギャングのリーダーさんよお!」
デリンジャーは口元を吊り上げて、右腕をゴーレムに向けて左腕を砲身に添える。
「あの力は……逃げて、レギンレイヴ、サングリーズ! まるでこれは、人間界に何百億人に一人出るかどうかの、英雄の力」
「余所見そーんとぅ隙だらけいさぁ!」
ジローが空高く飛び上がり、空中で一回転して、あびせ蹴りをサキエルの脳天にヒットさせる。
「うぐっ、この人間も英雄の力。こんなのあり得ない! まるで最上級神が加護を与えてるような……!?」
サキエルは背中の羽を羽ばたかせて、空中で体制を整えようとしたが、先生が背中から生えた四本の手を組んで、サキエルに振り下ろし、地面に激突させた。
「ブリュンお姉様、サングリーズ! ありえないであります! 全方位攻撃を身を呈するようにいいいいい! こんなの……」
「クレイジーとでも言いてえか? いいねえ、クレイジーは俺への最高の褒め言葉だ! お前達のデカブツのエネルギーは強奪させてもらった。返してやるぜお嬢さん達、こいつが俺のクレイジーキャノンよ!」
デリンジャーの右腕の大砲から、極太のレーザービームのような光が発射され、ゴーレムに命中した瞬間、光の粒子が空に舞い上がったようになり、ゴーレムが消滅する。
そしてデリンジャーの右腕は、小型魔力拳銃デリンジャーを握りしめたままの元の姿になって、消滅したゴーレムから一輪の薔薇の花が降ってきたと思ったら、デリンジャーの背広の胸ポケットに入った。
「こ、こんな……我々のゴーレムが」
「ありえないであります! 人間が……」
「へっ、お前達はマリーみてえに鎧に身を包んで男っぽい事するよりも、年頃っぽい女の子みてえな服着て、可愛らしく着飾った方が似合いだぜ? この花のようによ」
デリンジャーは胸ポケットに入った薔薇を左手で摘むと、ワルキューレにサッと放り投げ、彼女達が花に視線が釘付けになった隙に、私は残りの魔力で天界魔法の時間操作を唱えた。
私は杖を握り締めて、ダッシュで駆け寄り、起きあがろうとするレギンレイヴの頭に振り下ろし、戦闘不能にする。
「うふふヴァルキリー、なかなかやる……」
サングリーズが言い終わる前に、思いっきりほっぺたに、スイングしたギャラルホルンの一撃をくらわした。
「何が戦争は楽しいよ。ロバートさんの言う通り、こんな暴力なんかちっとも楽しくない」
私は、気を失ったサングリーズを見下ろしながら独り言ち、先生は、魔力銃パイソンを鼻歌しながら、戦闘不能になったサングリーズとレギンレイヴに向ける。
「おう、サキエルだかブリュンヒルデだか知らねえがよう。てめえ、よくもうちらに喧嘩売ってくれたな。落とし前、つけてもらおうか?」
鎧が土まみれになったサキエルは、彼女達が人質になったことで、悔しそうに先生を睨みつけると、まるでジェット機のような騒音が空からしたと思ったら、いつぞやの丸メガネのワルキューレと、背が高い金髪の頭悪そうなスルーズって名前のワルキューレがこの場に現れた。
「お姉様ぁぁぁぁ、フリックが、フリックが敵に捕らえましたぁ」
「姉貴、化物が来る。早くこの場から逃げようぜ! やつの足止めはしたが、ロキの娘達も相手した後の、今のあたしじゃきつい!」
彼女達がサキエルに何か言ったのと同時に、時空にノイズのようなものが入ったと思ったら、スルーズは戦闘不能になったサングリーズとレギンレイヴを両脇に抱え、空を飛ぶ。
おそらくサキエルが天界魔法で時を止めたんだ。
「くっ、ヴィクトリーへの威力偵察は失敗です! ロキの他にあんな化物がこの世界にいるなんて聞いてない。一時撤退! みんな、早く!」
「待ちやがれ、スケ共!」
先生がサキエルへパイソンを構えたが、おぞましい魔力反応が一瞬上空から降りてきたと思ったら、地面が爆発して地響きする。
「あら〜ん、生意気な小娘共を追って来たら……いや〜ん、イケメンたくさんいるじゃないの! まるでイケメンパラダイス」
ワルキューレ達の言う通り、野太い声の化物が降りて来た。
肩まで伸びたウェーブの金髪に、身長3メートル以上、筋骨隆々の体をピンクのドレスに包み込み、でっかいハイヒール履いた、化粧が濃くてそれと同じくらい濃い青髭を生やした化物が、私たちの前に姿を現わす。
続きます