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グレイ、内乱の後始末をする2

 


「グレイ様!私たちに恩返しをさせて下さい!お願いします!」


「「お願いします!」」


 グレイは今、猫獣人三人組に迫られていた。もちろん”関係を”ではなく”恩返しを”である。なんでも、もうダメかもしれないと思っていた矢先にグレイに救われ、そして自らの肌の傷を【エリクサー】という伝説的な妙薬まで使って治してくれた。そんなことをされて、「恩を返さずに帰ることなんてできない!」ということらしい。


「うーむ、恩返しか。……なんかあったかな……」


 グレイはそんな猫獣人三人組の気持ちは理解しており、無下にはできないとは思っているのだが、如何いかんせん恩返しに何を求めていいのか分からなかった。そんなグレイを見兼ねたのか、レンブラントが助け舟を出す。


「それなら【狼の祠】で従業員として働いてもらったらどうだ?確か人足りねーって言ってただろう?」


「ああ!そうだったそうだった!」


 というのも最近、【狼の祠】の評判が広がり、カナリア1人では手が回らなくなってきたのだ。グレイもそんな話をカナリアから聞いていたため近々従業員を、と考えていたところであった。


「よし!君達には俺の店で従業員として働いて欲しいんだけど、どうかな?」


「「「はい!精一杯働かせて頂きます!」」」


「そうか、ありがとう。これからよろしくな」


「「「こちらこそ、どうぞよろしくお願いします!」」」


 猫獣人三人組は満面の笑みで答えた。


「レンブラント助かった」


「まぁ、礼を言われるほどのことじゃねーよ」


「その割に嬉しそうだな」


「……うるせー」


 その後グレイは、獣人3人娘と一旦帝城を後にし、【魔法都市アルベリオン】に転移魔法陣で戻る。現従業員であるカナリアに事を説明するためだ。


「カナリア。今いいか?」


 作業室にいたカナリアに声をかける。どうやら丁度昼の休憩時間だったらしく、合間の時間で錬金術に勤しんでいたようだ。


「グレイ様?!何故ここに?!帝国にいるはずじゃ……って、あっ!転移魔法陣ですか。えっと、どうされました?」


「前に人手が足りないって言っていたよな?」


「?はい。最近、お客さんが少し増えてきたので、1人で切り盛りするのが大変にはなってきましたけど……」


「新しい店員見つけてきた」


「えっ?!本当ですか?!」


「ああ。……いいぞ!こっちに来てくれ!」


 グレイがそう呼びかけると、作業室の前にいた猫獣人三人組が入ってきた。


「紹介するよ。帝国に行ってた時に色々あって知り合った……そう言えば、まだ名前知らなかった」


「……」


 グレイに何か言いたげなカナリアの視線が突き刺さる。彼は多少居心地悪くなったのを誤魔化すかのように猫獣人三人組に自己紹介するように求めた。


「えっと、私はリリと言います。これからよろしくお願いします!」


「私はタチアナと言います。お願いします」


「私はマリーと言います。以後よろしくお願いします」


 その後、グレイは帝国での護衛依頼中に起きた内乱のこと、そしてリリたちと知り合った経緯について、カナリアに説明した。彼女は内乱の話を聞き、その顔に驚愕の表情を貼り付けたかと思うと、リリたちの話を今度は聞き涙ぐんだり、かと思えばリリたちを攫った連中に怒り出したり、と忙しく表情を変えていた。


「じゃあ、カナリア。あとは頼んだ。俺は帝国に戻る。まだ、やることがあるからな」


「分かりました。後はおまかせください」


「リリたちはカナリアに仕事を教えてもらってくれ」


「「「分かりました!」」」


 グレイは、転移魔法陣で帝国へと戻っていった。



 ♦︎♦︎♦︎



 帝国では今、保護した獣人たちの扱いに困っていた。何故なら、彼らは不当に帝国へ連れてこられた違法奴隷であるからだ。


 帝国では基本的に人族ヒューマン至上主義がとられているが、獣人の勢力ーー【レティーア獣王国】とて無視できる国ではない。そんな国の国民を不当に攫い、あまつさえ道具のように扱っていたのだから、獣王国からの帝国への心象は最悪に近いだろう。


 もし、ここで保護した獣人たちの扱いを間違えれば、ただでさえギリギリのラインなのに間違いなく国際問題に発展してしまう。現在の帝国は内乱の直後とあって、未だに混乱の渦の中にいる。そんな中で獣王国の機嫌を損ねて攻められては目も当てられない。


 そこで国の重鎮たちは獣王国の機嫌を取り、更には扱いに困っている保護した獣人たちの問題を解決するために一計を案じた。それはーー



 ♦︎♦︎♦︎



 グレイがリリたちを自宅兼店に転移魔法陣で送った日から2日後。グレイたち冒険者組は、帝城の謁見の間にいた。というのも一昨日、突然に表彰を行う旨を伝えられたのだ。そして今日。その表彰式の日を迎えていた。


 その場には皇帝を始めとした国の重鎮たち、帝国の近衛兵、そしてグレイたち冒険者4人がいた。


 そして荘厳な雰囲気の中、表彰式が開催された。


「これより先日の帝国内乱に際し、我らが帝国を救った英雄たちに表彰を行う。……レンブラント殿、グレイ殿、サンドラ殿、メリナ殿。前へお願いいたします」


 式の進行役を任されている近衛騎士団長がグレイたちに前へ出るよう促した。4人が前に出ると、勲章を4つ乗せた盆を持つ近衛兵と帝国皇帝がグレイたちの前にやってきた。そして、レンブラント、グレイ、サンドラ、メリナの順に胸に勲章を付けた。ちなみに今のグレイたちの格好は、式を前にして支給された騎士服なので勲章をつける場所が用意されている。


 皇帝は4つ全てを付け終わると口を開いた。


「この度は誠に大義であった。お主らがいなければ、この国は逆賊供の手に落ちていたかもしれん。改めて礼を言わせて欲しい。本当に感謝する」


 グレイには皇帝が心の底からそう言っているように見えた。現に皇帝はグレイたちに深く感謝はしている。


 しかし、この表彰式に内包された意味はそうした純粋な感謝の気持ちによるものだけではない。


 それは獣王国の王家と関係が深く、獣人でもあるグレイを表彰し、帝国で1番の勲章である”勲一等黒鷲大綬章”を授与することで、間接的に”私たちは獣王国に敵対する意思はないですよ〜”という対外的なアピールをするためでもあるからだ。


 そして、皇帝はグレイたちに勲章を授与した後、もうひとつの目的を切り出した。


「グレイ殿。グレイ殿には獣人たちを獣王国に送る助力をお願いしたい。なんでも貴殿は転移魔法陣を扱えるらしいではないか。こんなことを恩人に頼むのは些か気がひける話であり、厚かましいことは重々承知の上ではあるのだが、どうか頼みたい。無論、礼はさせてもらう」


「承知いたしました。承りましょう」


「感謝する」


 グレイは皇帝のお願いを快く引き受けた。彼からしてみれば、もとより獣人たちを獣王国に送り届けることは考えていたので、渡りに船な話であった。これで、態々許可を取る必要も無くなったというものだ。


 そして、表彰式は終了し、それぞれは謁見の間を後にするのだった。



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