グレイ、国王の護衛をする
建国祭当日を迎えた。
グレイたち冒険者組は、近衛騎士団と魔法騎士団、そして騎士団の面々と共に城のとある一室にいた。護衛の仕方について打ち合わせをするためだ。
打ち合わせは近衛騎士団長が進行役となって進められた。
「では、我々近衛騎士団は陛下の身辺に張り付いて護衛をする」
「「はっ」」
「魔法騎士団は少し離れた場所で陛下を護衛してくれ」
「「「「「「承知致しました!」」」」」」
「騎士団は陛下の身辺に限らず周囲の警戒を行ってくれ」
「「「「了解であります!」」」」
「冒険者の方々は陛下からあまり離れない程度に自由に行動しながら護衛を」
「おう」
「了解です」
「「分かりました」」
「建国祭まであと1時間ある。今のうちに済ますべきことは済ましておいてほしい。30分後、またここに集まってくれ。陛下も準備をお願いいたします。では解散」
各々は部屋に戻り準備を始めた。
グレイも城内に与えられた自分の部屋に戻り、装備の確認を行う。まずは愛刀の【新月】と【黒陽】のふた振り。アダマンタートルの素材から作り出した軽くて丈夫な防具。各属性魔法に対する高い耐性と認識阻害効果があるフード付きのコート。万が一の時のための【エリクサー】と【最上級回復ポーション】、そして【解毒ポーション】。
これらを一式を装備し終えると、先ほどまで打ち合わせを行っていた一室へと戻った。
すると、すでに準備を終えていたらしいレンブラントが部屋の一角で暇そうに腕を組みながら佇んでいた。グレイはちょっとしたイタズラ心と、現実でのコートの性能を確かめるためにレンブラントの背後をとった。
「レンブラント」
「うぉっ。グレイか。気づかんかったわ」
レンブラントは突然声をかけられたことに驚き飛び上がった。流石のSランク冒険者にもゲーム時代の最強装備の1つは十分な効力を発するようだ。
「あぁこのコートは認識阻害効果があるからな」
「なんてもん持ってんだよ」
「ダンジョンで手に入れた。護衛するならちょうどいいと思ったから着てみた」
間違いではない。グレイが着ている認識阻害効果付きのフード付きのコートは確かにダンジョンのドロップアイテムだったからだ。ただ、手に入れたのはゲーム時代の話であって現実ではない、というだけだ。
「いいなそれ。そうだ。今度一緒にダンジョン潜ろうぜ?」
「気が向いたらな」
「そこは行くって言えよ……。俺は悲しいぞ」
「あっそ。オッサンの悲しい顔なんざ需要ないぞ」
「おまっ!容赦ねーな!ってか俺はオッサンじゃねーよ!まだ30代だ!」
レンブラント38歳。難しいお年頃なのである。
そんなこんなでレンブラントと話しながら時間を潰していると、やがて全員が部屋に揃った。
「では、これより護衛任務に移る。陛下。陛下もよろしくお願いいたします」
「うむ。では皆よろしく頼む」
一行は部屋を出て式典の会場へと向かう。
式典は帝都中心部にほど近い、文化会館という場所で行われる。文化会館は、普段は音楽の式典や新魔法発表会などが行われる場所だ。
城の建物を出た一行は馬車に乗り込み、前日と同じような体制で会場へと出発した。
元々、城は帝都の中心部にあったので数分後には会場に到着した。
街中で、且つこの距離なら歩いた方が早いのだが、そこは王族。歩くわけにはいかないのだ。
会場に到着すると、貴賓席へと案内された。しかし、冒険者であるグレイたち4人組と魔法騎士団員、騎士団員は、貴賓席への立ち入りは許可されていない。入れるのは王族の本来の護衛である近衛騎士だけだ。
仕方がないので貴賓席の周囲に魔法騎士団員と騎士団員は陣取った。
グレイたち冒険者4人組は適当にばらけた。
会場入りして30分。建国祭記念式典が開催された。来賓の紹介や帝国の歴史の簡単な説明、建国祭のプログラムについて文官と思しき、ひょろ長のメガネ青年が話していく。
『では、次に【ガーランド帝国】皇帝陛下よりお声を頂きます。バルバドス皇帝陛下。よろしくお願いいたします』
『うむ。余はバルバドス・フォン・ガーランドだ。本日は我が国の建国祭によく訪れてくれた。来賓の方々もよく来ていただいた。是非とも楽しんでいってほしい』
『ありがとうございます!それでは建国祭開催をここに宣言いたします!』
『わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
開催宣言を受けて、観客たちを始め、帝都を訪れていた人々のボルテージは一気に上昇した。
まず、行われるのは建国祭一番の目玉。軍隊による集団行動だ。一挙手一投足が全て揃った一糸乱れぬ行進は多くの人の目を集め、感嘆の声を漏らさせるほどの素晴らしい見せ物だ。
「集団行動って……絶対に転移者か転生者の仕業だろ」
だが、現代日本で住んでいたグレイからすれば、それは某大学の二番煎じでしかないが……。
その後、建国祭は順調にプログラムを消化していき、やがて1日目の終了が近づいてきた。
そんな時、会場周囲にて悲鳴が上がった。
その悲鳴を皮切りに、会場には武装した獣人、人の私兵に護衛された貴族らしい風貌の男が現れた。
獣人たちはあり得ないほどの身体能力を有しており、あっという間に会場の警備兵を無力化していく。戦い方は拙いものの、それを補うに余りある身体能力を持っているようだ。しかし、それは通常の獣人の身体能力以上であった。何かしらの強化がされているようだ。
そんな獣人たちを尻目に私兵に護衛された男が皇帝の前まで来ていた。
「皇帝陛下。お久しぶりでございます」
男が皇帝に告げた。
「ゲーリック!貴様!何をしているのか分かっておるのかっ!」
「ええ。存じ上げておりますよ?」
男の名はゲーリック・フォン・ランゲルト。帝国で公爵の地位につく男だ。
彼は20年前の【フランツ王国】との陸戦【アウステル会戦】で帝国軍を率いた将であった。
しかし、その戦いに敗北して影響力を失ってしまった。また、敗北以後も、帝国の対王国協調路線に反対し続けていた。
そのため、今では役職にも就けず、名ばかりの公爵となっている。
今回、公爵は【フランツ王国】国王が来た建国祭のタイミングでクーデターを起こそうという腹づもりのようだ。
「では拘束させていただきます。3日後、帝国民の前で処刑し、私が玉座につくことになります」
「ふざけるな!」
「抵抗しても無駄ですよ。私はこの日のために20年近く準備し入念に計画を立ててきました。ご存知ですか?陛下。20年前の敗北を知る貴族は皆、本心ではあなたの政策には反対だったのですよ」
「なに?」
「今、あなたに本心からついている貴族は3割ほどでしょうか。ちなみに私たちについている貴族は4割です。まぁ、残り3割の中立派はこれから切り崩す予定ですが、ね」
皇帝はその言葉を聞いたのを最後に昏倒させられた。
「さて、次は【フランツ王国】国王だな。流石に楽ではないようだが……。恨みは忘れんぞ王国」
ゲーリックの視線の先には、獣人たち及び私兵が国王の護衛に苦戦しているのが見えていた。




