グレイ、再び調査依頼を受ける
誕生祭が終わってから2ヶ月が経過した。
グレイは定期的に商品を店に卸し、たまに冒険者ギルドの依頼をこなすという、いつもの日常を過ごしていた。
そんなある日。また、グレイの店ーー【狼の祠】に、いつしかのようにギルド長のマーリンがやってきた。
グレイとマーリンは互いに簡単な挨拶を交わしつつ、早速本題へと入った。
「最近、魔力溜まりの報告件数が増えているのよ。異常とも言える程にね。それで、この街の近郊にもいくつか報告されていてね」
魔力溜まり。それは魔物を生み出す装置のようなもので、自然現象の1つだとされている。魔力溜まりはいくつかの程度に分けられており、魔力溜まりの魔力濃度が濃いほど強力な魔物が出現するため、危険の程度は高く設定されている。
「つまり、俺にその調査をして欲しい、と?」
「まあ、そうね。今、魔力溜まりの調査依頼を任せられるような高位の冒険者は全員出払っているのよ。無論、ほとんどが魔力溜まりの調査依頼で、だけどね」
「場所はどこですか?」
「【オーガの森】よ」
マーリンの言う【オーガの森】とは【魔法都市アルベリオン】のほど近くーーと言っても30kmほどは離れているーーにある森で、オーガ種が多く住まう場所だ。オーガ種は最下位種の”オーガ”でもDランクに分類される。そのため、【オーガの森】はBランク以上の実力を持つ者以外の立ち入りは制限されている。
「了解です。……それで魔力溜まりが増えた原因は分かっているんですか?
「いえ、全く。でも、かなりの緊急事態ではあるわ。魔力溜まりのせいで魔物が大規模的に発生したり、強い個体が出現したりと大変なのよ。それに加えて、最近魔物が活発になっていたりもするし。例えば、以前あなたが倒したアダマンタートルだけど、アレは本来出現するはずがなかったのよ」
「?100年に一度現れるんじゃないのか?」
「そうよ。でもね、まだ100年経っていないのよ。どういう理由かは分からないけど、四帝獣というのは100年ぴったりの周期で現れるのよね。で、今はまだ100年経っていない。つまり、アダマンタートルが出現したのが少し早いのよ。それに加え、これまた貴方が遭遇した獣王国での過去に例を見ない規模の魔物大行進。はっきり言って異常ね。今のこの状況は。でも、原因はサッパリ分かっていないわ」
(魔物の異常発生に、魔物の活発化か。……何処かで聞いたことのある現象だな。何処で聞いたんだったか?)
グレイはそれを聞き、引っ掛かりを覚えた。しかし、それを思い出すことは叶わなかった。もし、この時、思い出すことができ、すぐに行動に移すことが出来ていたら、この世界の未来は多少変わったものになっていたかもしれない。いや、”たらればの話”をしたところで意味などはないのだろう。グレイは思い出すことができなかった。それが全てなのだから……。
グレイはマーリンからもたらされた調査依頼をこなすべく、彼女が店を後にした直後には【オーガの森】目指して出発した。
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「ここが【オーガの森】か」
アルベリオンを出発して1時間。グレイは【オーガの森】の前に来ていた。
彼の前に広がる【オーガの森】は見た目は普通の森だ。しかし、一度中に入ってしまえば、実力がない者にとっては地獄が待っている。
オーガ種は一番弱い”オーガ”でさえ、Dランク。それ以上の種になると、”ハイオーガ”でCランク、”ジェネラルオーガ”でBランク、”キングオーガ”でAランク、”エンペラーオーガ”でSランクに相当する。ここーー【オーガの森】では、その全ての種が存在すると言われており、入った者が出てこないなんてことも多々ある。そうした事情から【オーガの森】は【帰らずの森】とも呼ばれている。
しかし、グレイは臆することはなく森の中へと進入していった。
グレイが森に進入して数分。やがて、彼の前方約30mほどの距離にオーガが現れた。彼はそれを見ると、右手にすでに持っていた刀ーー【新月】を握りなおしながら気配を消しながら走って近寄っていった。そして、すれ違いざまに刀を一閃。
オーガは、グレイの接近及び攻撃までの一切に全く気づくことはなく、その一太刀を受け、首と胴体が永遠にお別れすることになった。
グレイはオーガをインベントリに収納すると再び歩を進めた。
魔力溜まりがある場所は分からない。分からないが、魔物が多く出現する方向にいることには違いない。ということで、グレイは只管出てくるオーガを狩り続け、より多くが出現した方向へと歩きながら、魔力溜まりを探していく。その間にも、オーガを始め、ハイオーガやジェネラルオーガ、そしてキングオーガが通常ではあり得ない数出現したが、その悉くが、グレイが振るう刀で一刀のもとに斬り伏せられていった。
そして、魔力溜まりを探すこと2時間。グレイはようやく、魔力溜まりを発見した。しかし、彼はすぐには近寄らなかった。何故なら、オーガ種の最終形態であるエンペラーオーガがそこにいたからだ。
エンペラーオーガは魔力溜まりを守るように位置どっていた。オーガ種を始め、オーク種などの一部の魔物は自らの下位種に対して絶対命令権を持つ。そのため、エンペラーオーガは戦力が勝手に増えていく魔力溜まりを便利なものとして認識しているようだ。
エンペラーオーガはおそるべき膂力と防御力を持つ魔物だ。その実力は非常に高く、グレイでさえ、真面目に戦わざるを得ない。まあ、グレイの実力なら真面目に戦えさえすれば、それほど苦戦せずに倒せるのだが……。
グレイは刀を2本ーー【新月】と【黒陽】を抜くと、両手に持ち【風纏】を施す。エンペラーオーガのような防御力を持つ相手だと、刀自体の鋭利さだけでは斬り裂けない可能性があるからだ。
グレイは準備を終えると、エンペラーオーガの前に躍り出る。このレベルの魔物だと気付かれずに殺すことなどできない。それならば、正々堂々正面から打ち破るのみだ。
エンペラーオーガはすでにグレイの存在には気付いていた。そして、目の前に現れたグレイを見て、ニヤリと笑い雄叫びをあげると、手に持った大剣を振り下ろして攻撃してきた。
グレイはそれを軽々と躱し、そのまま一気に肉薄する。そして、両手の刀で斬りつけた。
エンペラーオーガは驚愕の表情をその顔に貼り付けたまま両断され、地に倒れ伏した。
グレイはエンペラーオーガをインベントリにしまうと、魔力溜まりに接近し、風魔法で魔力を散らす。
魔力溜まりはただ、魔力の濃度が濃くなっているだけなので、強い風を起こして強制的に散らしてやれば拡散させることができる。ただ、自然に吹く風では全く効果がないので、魔法を使って強い風を起こすか、魔力を使い切るまで魔物を生み出さないと魔力溜まりはなくなることはない。
グレイは魔力溜まりが完全に消滅したことを確認すると、他に魔力溜まりがないか一応確認してから森の外へと足を向けた。彼は帰り途中も適度にオーガ種を狩っていたので、増えすぎたオーガ種も問題ないだろうと結論づける。
そして【オーガの森】を後にした。




