グレイ、誕生祭を満喫する
獣王国の【魔物大行進】が終息してからひと月。グレイは拠点がある【魔法都市アルベリオン】に戻っていた。
拠点に戻ってからは、いつものように錬金術をこなして商品を創り、時に冒険者ギルドの依頼をこなすという日々を送っている。
だが、グレイが錬金術で作製する商品は以前ほどは多くない。何故なら、このひと月でカナリアが錬金術の腕前をメキメキと上達させたからだ。今では【上級回復ポーション】を創るまでに彼女は成長しているようだ。
そして、今日も今日とて同じ日々を過ごそうとしたグレイはとある違和感に気づいた。まだ、朝が早いというのに、街が妙な活気に満ちているのだ。
「あれ?今日ってなんかあったっけか?」
そんなグレイの疑問にカナリアが答えた。
「今日は誕生祭だそうですよ。なんでも国王様の在位30周年を祝うのだそうです」
「ああ!そう言えば、獣王国にはその親書を届けに行ったんだったな!」
「ああ、そう言えばそうでしたね。あの時は【魔物大行進】があったので、そっちの印象ばかりが残っていました」
グレイは獣王国に行った時のことを思い出す。
「確かにあれはタイミングがピッタリだったな。いいか悪いか分からんけど。まるで俺が来るときに合わせたかのように【魔物大行進】が起きるとかさ。神の采配ってやつかね。結局あれが起きたせいで獣王は生誕祭を欠席するだろうから、獣王国に行くことになった本来の意味はなくなってしまったしな」
「でも結果的には良かったのではないでしょうか?グレイ様のおかげで誰も犠牲者が出なかった訳ですし」
「それもそうか。あっ!そうだ。今日は休業日にしよう。だからカナリアも祭を好きに見て回るといい」
「いいんですか⁈」
「ああ。いいよ」
「ありがとうございます!」
そして、時は過ぎていき、誕生祭の開催宣言が町中に響き渡った。
誕生祭は王都をはじめ、三大公爵家の領都で行われる。当然、【魔法都市アルベリオン】も開催都市の1つだ。
ここにおける誕生祭の主な催し物としては2つ。
1つ目は楽器を使った演奏会だ。なんでも本格的なオーケストラだとか。
そして、2つ目は【魔法都市アルベリオン】における誕生祭の目玉。魔法協会による新魔法発表会だ。毎年、謝肉祭において行われる新魔法発表会は、今年に限り、誕生祭で行われる。今回、発表される魔法は、闇魔法の【ドレイン】、火魔法の【炸裂】、光魔法の【陽光】の3つだ。
毎年、魔法協会による新魔法発表会はそれこそ有用な魔法から一切使えないクズ魔法まで様々な新魔法が発表されるらしい。
グレイはそんな話を聞き、「必ず行こう」と決意するのであった。
しかし、発表会まではまだ時間がある。そこでグレイは誕生祭に合わせて出店された店を回ることにした。
出店は主に食べ物屋で構成され、様々な地域の料理を楽しむことができる。グレイはまだ、多くの国に行ったことがないので、そうした料理を食べることで、ちょっとした旅行気分を味わうことができた。
そして時間は正午になった。この時間からは街の中央部にある舞台にてオーケストラの生演奏が始まる。
グレイもこの世界の音楽に興味があったので舞台に出向いた。舞台はほぼ満席で熱気に包まれていた。
やがて、演奏会が始まった。演奏会は長短10曲から構成されたプログラムをこなす形で進められた。
この世界の音楽は地球の音楽よりかは拙い印象を受けたが、それでも十分楽しむことができた。
演奏会が終わると、グレイは再び食べ歩きへと出かけた。まだまだ気になる料理があったからだ。
それからグレイは食べに食べ、本当に美味しいと思ったものについては大量に買い込んで、インベントリにしまっていく。
そうして誕生祭を楽しんだグレイは、最後の催し物、新魔法発表会の会場に来ていた。会場を見ると、カナリアやカイゼルをはじめ多くの知り合いが来ているのが見えた。
『これより!魔法協会による新魔法発表会を始めます!まず最初!闇魔法【ドレイン】です!開発者の方々どうぞ!』
『コホン!えぇーこれより我々が開発した魔法【ドレイン】を実演したいと思います!それでは始めます!』
開発者の号令とともに2人が前に出て来た。1人は魔法使用者で、もう1人は魔法被験者だろう。
『我が意に従いて かの者の力を吸収せよ【ドレイン】!』
……。
静寂が訪れた。というのも力を吸い取る魔法らしいので見ている人にとっては実感が湧かないのだ。
『えーと?どうなったんでしょうか?』
司会者の女性がたまらず助け舟を出した。
『魔法は問題なく発動されました。私が彼から吸収したのは”精力”です』
『えっ?』
『私は彼から”精力”を吸収しました。本当は体力や魔力を吸収する魔法として研究していたのですが、何故か精力しか吸収出来ないのです。ほら見てください私の股間を。彼の精力を吸収したことによってビンビンになっているでしょう?』
開発者の男性は自らの股間を指差し、見せつけるようにして司会者の女性に示した。完全なセクハラである。
『いーやー!!!』
バシン!
『ヘブシッ!』
開発者の男性が司会者の女性のビンタを食らって3mほど宙を舞い、舞台の上に倒れ伏した。
『よ、世の、中年男性に、オ、オススメで、す……ガフッ……』
「「「「主任!!!」」」」
他の研究者たちは一言言い残して気絶してしまった研究主任の男性を回収していった。
『コホン。失礼いたしました。少々取り乱してしまったようです。さて、気を取り直して次の発表です!次は火魔法の【炸裂】です!研究者のみなさんどうぞ!』
『えぇーこれよりー我輩たちが開発したー【炸裂】をー実演するー』
開発者の5人全員が前へと出た。
『夜空を照らす火の花となれ【炸裂】』
研究者5人は同じ詠唱を唱えると、両手を上空へと掲げた。やがて、両手に展開された魔法陣から玉のようなものが飛び出し、上空にて炸裂した。
ヒューン!ドォォォーン!
そんな音が響いたかと思うと、上空に美しい火の花が5輪咲いた。
『すごい綺麗ですねー!これは名物となりそうです!【炸裂】の研究者の方々ありがとうございました!では最後!【陽光】を開発した研究者の方々!どうぞ!』
『これから【陽光】の実演をするっす!よろしくっす!ただひとつ忠告があるっす!何が起きても、こちらは責任を取れないっす!もし、何か起きるのを避けたかったら退場することをオススメするっす!』
研究者の女性はそう言うと前に出て来た。研究者5人は目にサングラスをかけている。
(あっ、これヤバいやつだ)
グレイは半ば勘でこれから起きることを予測した。そして、インベントリから、とある物を取り出し装着しておく。
『では始めるっす!こほん。……光よ 闇夜の全てを照らし出し 闇を払う光となれ 【陽光】!』
ピカッ。
「「「あぁぁぁー!目がぁぁぁー!目がぁぁぁー!」」」
舞台から【陽光】が発動した瞬間、会場を中心に街の至る所から「目がぁぁぁー!」叫ぶ声が聞こえてくる。
「ふう。用意していて良かった」
グレイは密かに用意していた超強化サングラスによって被害を受けることはなかった。
こうして、【魔法都市アルベリオン】における誕生祭は終わりを迎えた。
そして翌日。
グレイがそんな便利アイテムを密かに使用し、【陽光】の被害を受けなかったことを知った知り合い全員には怨みがましい小言を言われるのであった。




