エピローグ
世界中に不可侵条約が知れ渡り、そこかしこで魔物と人間が話し合っている光景を見るようになった頃、一層賑やかになったダイン村の外れでは、ある家族と二匹の魔物が話し合っていた。
「本当にいくのかい?」
「戻って来たばかりなのに、寂しくなるね。」
「ごめんなさい。でも、サタンと一緒に世界を回りたいの。」
フランクとサイは、愛娘の旅立ちを寂しがり、目の端に涙を浮かべていた。送られるリリィも寂しさはあったが、これからの旅を考えると、やはりわくわく感の方が先立っていた。
そんな彼女の後ろで、彼女の旅の供であるサタンと、なぜかいるメアがいちゃついていた。
「ねえ、サタン様~。まずは夢魔の里へ行きましょうよぉ。もう、皆には連絡取ってあるんですよ?」
「まずはマイルズの村へ行く事になっているのだ。すまんな。」
「ぶ~!マイルズって誰ですか!?まさか……他にまだ女が!?」
せっかくの感動の旅立ちを邪魔するような会話に、リリィは青筋を立たせるが、あれらの会話に絡むと、親子の別れ際を自らぶち壊してしまうような気がしたので、無視する事に努めた。
「じゃあ、行ってくるね!」
リリィは満面の笑みで両親に手を振ると、彼女を苛立たせていた二匹の方へと駆け寄る。彼女が近付いてきたのを見ると、サタンは足元に置いてあった荷物を背負う。
「別れは済んだか?」
「ええ。あんたらのおかげで、本当に最高の別れになったわ。」
「…?そうか。私達が何をしたか分からんが、それなら幸いだ。」
相も変わらず皮肉の通じない彼に、リリィは深く肩を落としながらも、彼の腕に取り付いているメアを引き剥がしにかかる。
「あんたも、さっさと離れなさいよ!」
「何よ?もしかして嫉妬ぉ?」
「うっさい!いいから離れろ!」
リリィが本気で怒りだす前に、メアはさっさとサタンから離れる。そんな二人の喧嘩の原因が、まさか自分だとは思ってもいないサタンは、その喧騒を鬱陶しがるように顔をしかめる。
「おい、さっさと行くぞ。このままでは、村に着く前に日が暮れる。」
「あっ、そうだね。ごめんごめん。」
「あなたが五月蠅いからよ、もう。」
「…………」
ここで言い返すと、また延々と言い合いを繰り返しそうだったので、リリィは必死で心を大人にして、隣でにやにやしているメアを無視する。
「では、行くとするか。」
「うん!」
「はぁ~い!」
こうして、魔王と召使い、夢魔の姫による旅が幕を開けた。
自分のせいで長くなりましたが、これにてこの話も終わりです。
思いつきで書き始めたこれも、最後は思い入れが強くなって、終わるのが少し寂しいです…
ですが、最後はきれいに終わらせることができたので、自分としては満足です。
ここまで読んでくださった方々、本当にありがとうございました!