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第25話。貸し借りチャラ。

 名前…牙無流(がむる)

 生年…143年

 性別…男性

 属性…智将

 統率…B

 知性…B

 行政…C

 軍事…B


 伐来(ばつらい)の副官。

 私は、宛てがわれた部屋の豪華さに戸惑いながら、楊文明(ようぶんめい)達と一緒に夕食を食べる為に食堂へと向かった。


 あの豪華な部屋は、所持金0の私の代わりに伐来(ばつらい)が支払いをしてくれるらしい。

 伐来(ばつらい)達は、私が「釈羅(しゃくら)」という名前の神が宿った存在だという事と、私が応竜(おうりゅう)という神獣を従えている事を知っている。


 だから、伐来(ばつらい)は、神の私に相応しい接遇をしてくれているんだろうけれど、私は別に偉くも何ともない。

 過分な特別待遇を受けるのは有難いけれど、同時に心苦しいんだよね。


 あの部屋の宿泊料金は、多分とんでもなく高いと思う。

 于闐(ホータン)の傭兵隊長である伐来(ばつらい)が、于闐(ホータン)王から幾らの報酬を貰っているのかは知らないけれど、伐来(ばつらい)は3000人の西羌(せいきょう)族を従えていて、彼らを養わなければならない。

 伐来(ばつらい)が沢山の報酬を貰っていても、西羌(せいきょう)族の暮らしを考えたら個人的な贅沢は出来ない筈だ。


 いずれ伐来(ばつらい)には、今夜の宿泊代を返すつもりだけれど、私は自分が支払うべきお金を一時的であれ誰かに立て替えてもらうのが好きじゃない。

 祖父は、いつも「他所様に貸す事があっても、他所様から借りてはいけない」と言っていたし、それが三国家(我が家)の家訓だからね。


 何とかお金を工面して、なるべく早く伐来(ばつらい)に返済したい。


 食堂に着くと、実唯紗(みいさ)が待っていた。


志織(しおり)様。こちらに如何(どう)ぞ。(よう)殿ご一家は、既にお待ちです」

 実唯紗(みいさ)は、そう言って歩き出す。


 ん?

 実唯紗(みいさ)は、大勢の客で賑わう食堂ではなく、廊下に案内した。


「食事は食堂でするんじゃないの?」

 私は、訊ねる。


「はい。特別なお客様用のお部屋がございますので……」


 VIPルーム的な個室があるらしい。

 もちろんVIPルームにもチャージ料金が掛かるよね?

 それも伐来(ばつらい)が立て替えてくれる訳だ。


 伐来(ばつらい)への借りが増えるのは、あんまり嬉しくないな……。


 実唯紗(みいさ)は、私を案内して通路を歩いて行く。

 所々通路には、陶器製のランプが置いてあって火が灯されていた。


 アラビアンナイトに出て来る魔法のランプみたいなやつ。

 日本人には急須と言った方が分かりやすいかもしれない。

 急須の中にオイルを容れて、注ぎ口のように見える部分に芯を刺して火を灯す。


 神様チート持ちの私は夜目が利くから意識しなかったけれど、そう言えば私の部屋や食堂にも灯火があった。


 ランプのような灯火器具は、紀元前からあるけれど燃料油は貴重だろう。

 タリム盆地で石油採掘が始まるのは、20世紀の話だ。

 こんな……と言ったら失礼だけれど、辺境の砂漠のオアシスにある宿屋にランプがあるなんて、正直意外。


 このランプの燃料は、臭気が余り気にならないから、植物性の油を使っているんだろう。

 動物油や、日本などで使われた魚油は結構匂いがするからね。


「へえ。ここにはランプがあるんだね?」

 私は、誰に問うともなく言った。


「はい」


「ランプのオイルって貴重だよね?」


「ええ。貴重ですが、この通路は暗いので足元を照らすには必要です。大切なお客様が転んだりしたら大変ですので」


 私は、神様チートで真っ暗闇でも見えるけれど、赤ちゃんを抱いた晶華(しょうか)さんが転んだりしたら大変だからね。


 ランプ……待てよ。

 オイル・ランプなら作れるんじゃね?

 自衛隊の時に使っていたオイル・ランプの構造なら分かる。


 私は、瞬時にストレージ内で、鋼鉄と石英ガラス製のオイル・ランプを生成した。

 鋼鉄には、腐食防止にメッキをしておく。

 もちろんメッキ覆膜は、猛毒の六価クロムではなく酸化クロムだ。


 でも、火を着ける芯材がないね。

 ま、芯は何かしら適当なものを使えば良い。

 満月亭で使われているランプの芯だって流用出来る。


 このランプを物納すれば、私は伐来(ばつらい)に宿代を立て替えさせなくても済むかもしれない。


 問題は燃料か……。

 私が作ったオイル・ランプは、自衛隊装備品の灯油ランプを元にしてある。


 満月亭で使われている植物油を使って、ちゃんと機能するのか?

 火は着くだろうけれど、燃料を植物油で代用すると不純物が固着したりすれば直ぐに故障するかもしれない。


 ランプ用のオイルか……。


 私のストレージには膨大な量の石油がある。

 ケロシン……所謂(いわゆる)灯油を古代人に使わせるのは、安全性の面で少し心配だ。


 ランプの使用時はもちろん、保管が問題になる。

 大量の灯油を保管してある場所が火事になったりしたら洒落にならない。


 灯油(ケロシン)より安全なのは……パラフィン・オイル。


 パラフィン・オイルは引火点が100度近くで、50度前後で引火する灯油(ケロシン)より安全だ。

 そして、パラフィン・オイルは基本的に揮発しないから、揮発性の灯油(ケロシン)と比較して保管も容易。

 パラフィン・オイルは引火性が低く不揮発性だから、仮に保管容器から流出しても発火の危険性も少ない。


 そして臭いと(すす)と皮膚接触毒性の問題もある。

 やっぱり灯油(ケロシン)は、あの臭いが気になるからね。

 (すす)も発生させるし、人体に有害だ。

 灯油(ケロシン)に長時間接触すると、人間は皮膚に炎症を起こし、最悪の場合は死ぬ。


 高純度のパラフィン・オイルは無臭。

 (すす)も皆無で、化粧品やベビー・オイルやクレヨンに含有されているくらいだから皮膚接触しても安全だ。


 現代(未来)では灯油(ケロシン)・オイルに比べてパラフィン・オイルは10倍以上高価だけれど、私の収納とストレージ内生成は採掘や分留や生産にリソースを必要としないから、コストの問題は無視出来る。


 良し、ランプの燃料はパラフィン・オイルで決定。

 石油から簡単にパラフィン・オイルが作れた。


実唯紗(みいさ)さん。このランプを買い取って、私と楊文明(ようぶんめい)一家の宿代にしてくれない?1個で足りなければ、幾つでも売るよ。もちろん燃料も込みでね」

 私は、ストレージからパラフィン・オイル・ランプを取り出して言う。


「こ、これは、いつの間に!?」

 実唯紗(みいさ)さんは、驚いた。


 あ……私の馬鹿。

 手ぶらの私が、いきなり虚空からランプを出したら驚くよね。


「え〜っと、魔法……かな?」


「ま、魔法っ!?」


「あ〜……私が、魔法を使えるのは内緒にして欲しいな……」


「なるほど。あの伐来(ばつらい)殿程の御仁が高貴な御方と言うのは、そういう事か……。畏まりました。この事は、誰にも話しません」

 実唯紗(みいさ)は、何やら納得してくれたようだ。


 科学が未発達な古代人にとって、魔法は驚くべきものではあっても、「魔法的な何かはあるかもしれない」と信じてもらえる概念なのかのかもしれない。

 そうでなければ、宗教なんて胡散臭いものが世界中に広まらなかった筈だからね。


 ステータス画面を確認すると、「実唯紗(みいさ)が、私の能力について秘匿する」という盟約が追加されている。


 私は、実唯紗(みいさ)に事情を話して通路に置いてあった陶器製ランプから芯を拝借した。

 ランプの芯は、一度収納してからストレージ内生成で良い具合に調整した上で、オイル・ランプに装着した。


 着火。


 うん、問題ないね。


「明るい!」

 実唯紗(みいさ)は驚いた。


「このガラスという透明な素材が風を防ぐから火が消えないし、屋外でも使えるんだよ」


「素晴らしいものですね?」


「燃料は、ここを開けて注ぎ足す。火を消してから給油してね。燃料のストックは……はい、これ」


 ガコン、ガコン、ガコン。


 私は、鋼鉄に(すず)をメッキしたブリキの一斗缶入りパラフィン・オイルを3個ストレージから取り出した。


「ランプの油ですか?こんなに沢山。それに、この容器も凄い……」

 実唯紗(みいさ)は、目をパチクリする。


「3つ注意して欲しい事がある。まずは、当たり前だけれど火気厳禁。火事にならないようにランプと燃料の取り扱いには十分に気を付けてね。2つ目は、この燃料は動物や植物を原料にしたものではないから飲んだり食べたり出来ない。手で触るくらいなら問題ないけれど、体の中に入ったら毒だから絶対に舐めてみたり料理なんかに使ったらダメだよ。3つ目の注意点は、この燃料は火を燃やすと微量だけれど一酸化炭素という毒ガスが出る。これは色や匂いがしないけれど、吸い込むと死ぬからね」


「死ぬのですかっ!?」


「あ、いや、沢山吸い込むと危ない。だから、換気……部屋の広さや密閉の程度にもよるけれど、時々室内の空気を入れ替えて、一酸化炭素が室内に溜まらないように気を付けて使えば大丈夫だよ」


「ああ、空気の淀みですね?それは、厨房の窯や室内で暖を取る場合などでも同じですので、心得ております」

 実唯紗(みいさ)は、得心したように頷いた。


 それは、そうだよね。

 厨房設備や暖房などで屋内で火を燃やせば一酸化炭素は出る。

 だから古代人も煙突などの排煙設備を使っているのだ。

 一酸化炭素自体や一酸化炭素中毒のメカニズムを知らなくても、それを彼らは経験から学んでいる。

 古代人だって馬鹿じゃない。


「その注意点を、このランプと燃料を扱う全員に周知徹底してね?」


「畏まりました」


「で、如何(どう)かな?これで、宿代になる?」


「もちろんですとも。こんな素晴らしい灯火器具を頂けるなら、何日でもお泊まり下さい」


楊文明(ようぶんめい)の一家の宿泊代にもなる?」


「はい。結構でございます」


「ランプは1個で足りる?」


「あの……このような素晴らしいものですから、1つだけでも十分ですが、欲を言えば、あと1つか2つあると……」

 実唯紗(みいさ)は、モジモジしながら言った。


「なら、取り敢えず30個あげるよ。それから、燃料も10缶あげる。燃料がなくなったら言ってくれれば、また追加する。次からは、お金を貰うけれどね」


「ありがとうございます」


「あ、それから、このランプの入手先は秘匿する事。私が、このランプを作れるって知ったら、良からぬ事を考える奴がいるかもしれないからね。誰かに訊かれたら、『遙か遠方から来た謎の旅人から買った。旅人は、もういない』とでも言って誤魔化しておいて。ま、私は超強いから、私を捕まえて無理矢理ランプを作らせようとしても国ごと滅ぼせるけれど、私は平和主義だから、なるべく面倒事は避けたいんだよ」


「く、国ごと滅ぼす……。畏まりました。絶対に口外致しません」


 実唯紗(みいさ)との「盟約」が増える。


「それと、何か布切れとか糸クズとかがないかな?捨てるようなボロで良いんだけれど、あれば欲しいな」

 私は、実唯紗(みいさ)に芯材の素材を用意してもらえるようにお願いした。


「布切れですか?」

 実唯紗(みいさ)は、怪訝な顔をする。


「さっきもランプの芯を交換したけれど、手持ちにランプの芯がないんだよ。この陶器製ランプの芯でも代用出来るけれど、私ならボロ布からでもランプの芯が作れるから、そっちの方が良いかと思って……」


「なるほど。ご用意しましょう」

 実唯紗(みいさ)は、了解した。


「あれば、あるだけ欲しいな。本当に捨てるようなので良いからね。まだ使えるものは勿体ないから。ボロ布で芯を作り次第、ランプ30個は納品するよ」


「畏まりました」


 取引成立。

 これで満月亭の宿泊費用は、貸し借りチャラになったね。


 ・・・


 私は、楊文明(ようぶんめい)達が待つ個室に案内される。


「お待たせしました」

 私は、遅くなった事を謝罪した。


「ああ、志織(しおり)様」

 楊文明(ようぶんめい)が立ち上がって迎える。


 実唯紗(みいさ)は、今さっき私が作ったオイル・ランプ第1号を私達のテーブルの真ん中に置いた。

 パラフィン・オイルは、燃焼しても煙が(ほとん)ど出ないし無臭だから料理の邪魔にならず、食卓の灯火としては最適かもしれない。


「では、お料理をお持ちしますね」

 実唯紗(みいさ)が会釈して退出する。


「何だか豪華な場所に案内されて気遅れします。お部屋も上等でしたし、無料で泊まれるなんて」

 赤ちゃんを抱いた晶華(しょうか)さんが苦笑いする。


 赤ちゃんは、スヤスヤ眠っていた。


「私の部屋も広くて、床はフカフカの絨毯が敷かれていたし、家具や調度は全部黒檀製だったよ」


 楊文明(ようぶんめい)達の部屋は、私の部屋よりはグレードが低いらしいけれど、それでも商売をしに来た隊商(キャラバン)が宿泊する部屋としては相当に高級だったらしい。


「このランプは……凄い」

 楊文明(ようぶんめい)は、さっきからパラフィン・オイル・ランプを凝視したままだ。


「それは私が作って、満月亭の宿代として実唯紗(みいさ)さんにあげたんだよ。楊文明(ようぶんめい)達の宿代も、このランプで支払ったから」


「何と!それは、ありがとうございます。で、志織(しおり)様は、このランプを幾つでも作れるのですか?」


「まあね……」


「是非売って下さい!いえ、私に、このランプの販売をお任せ下さい!」

 楊文明(ようぶんめい)が言った。


「また、旦那様の悪い癖が……。志織(しおり)様、申し訳ありません」

 晶華(しょうか)さんが呆れながら私に謝罪する。


「あははは……」

 私は、苦笑した。


主上(しゅじょう)。今後の活動資金は必要です。楊璞(ようはく)楊文明(ようぶんめい))は、我が見る限り商才はともかく信用出来る人間です。主上(しゅじょう)の知識や技術によって製造された各種製品の販売を任せる代理店として、楊璞(ようはく)を使う手は悪くありません』

 応竜(おうりゅう)が思念で伝えて来る。


『確かに、これから私は砂漠に都市国家を作ったり、混沌(こんとん)の勢力と戦ったりで色々と忙しくなりそうだから、経済活動による資金調達を誰かに任せるのはありだね』


『実は、我が于闐(ホータン)主上(しゅじょう)を導いた理由は、この楊璞(ようはく)徐昌(じょしょう)晶華(しょうか))を主上(しゅじょう)の陣営に加える事も目的の1つでした。別の世界線で、2人は重要な役割を果たす神の眷属となっています」


『目的の1つという事は、他にもあるんだね?それは何?』


『今は御教えしない方が良いでしょう。主上(しゅじょう)には、なるべく先入観なく御判断頂きたいと考えております』


『あっそう……ま、良いけれど』


 簡単に詐欺師に騙されちゃう楊文明(ようぶんめい)はともかく、剣の達人である晶華(しょうか)さんは滅茶苦茶強いから、味方にしておけば役に立ちそうではある。

お読み頂き、ありがとうございます。

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・・・


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心より感謝申し上げます。

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