第13話。魔獣。
作者メモ。
作者は、勝手に曹操は織田信長に似ていると思っています。
(時系列的には、織田信長が曹操に似ていると言うべきかもしれません)
2人共革新的な事績で乱世に覇を唱え、しかし統一まであと一歩のところで亡くなりました。
身分などに捉われず優秀な部下を登用した人材コレクターで、時に非情な面なども良く似ています。
話は変わりますが、巷間「曹操(魏)は、中華を統一出来なかった」と言われる事があります。
しかし、これは原義的には誤りです。
曹操(魏)は、中華を統一しました。
いやいや、曹操存命時には、劉備の蜀や、孫権の呉があったでしょう?
その通りですが、何故「曹操(魏)は中華を統一した」のか謎解きをします。
「中華」は、「中夏」の翻字です。
中夏とは、中原(黄河流域の平原)一帯を支配した夏王朝に由来します。
つまり「中華=中原」。
Q.三国時代に中原に覇を唱えたのは?
A.曹操(魏)。
従って、「曹操(魏)は中華(中原)を統一した」という理屈なのです。
これも、織田信長と似ています。
信長は「天下を統一出来なかった」という言説がありますが、実は信長が権勢を誇った時代の「天下」は畿内一帯を意味していたという学説があります。
つまり、織田信長は「天下(畿内一帯)を統一した」という訳です。
こうなって来ると、もはや「織田信長は、曹操だ」と断言しても過言ではない!
……いいえ、それは過言ですね。
その時、開きっ放しにしているマップの端に何やら光る点が現れた。
その光点は、如何にも警告を発するように赤い光を点滅させながら、個体識別の名称表示がされている。
その識別された名称に何気なく注意を向けた私は驚いた。
えっ?
魔獣……何じゃそりゃ?
マップに現れた光点は、「魔獣」と表示されている。
魔の獣。
字面的に何かヤバそう……。
嫌な感じがする。
こっちに向かって来ているよね。
それも、結構なスピードだぞ。
1……2……3……秒速400mくらいか?
……って、音速を超えている!?
私は、魔獣の赤い光点が向かって来る北の方角を見た。
未だ遠過ぎて肉眼では姿が見えない。
マップを動かして、拡大。
いた、魔獣だ。
何これ?
背中に翼が生えた狼?
そんな動物いない……よね?
少なくとも、私は見た事も聞いた事もない。
それにしても、凶悪な顔をしている。
これは絶対にヤバい生き物だ。
鑑定すると、「翼狼」という魔獣である事が判明する。
転移。
私は、東に向かって50km転移した。
「翼狼」という表示は、そのままの進路を維持して動いている。
しばらくして魔獣は、私が元いた場所を猛スピードで通り過ぎて行った。
私に向かって来ている訳じゃなかったのか?
なら何処に向かっているんだろう?
魔獣が向かう先には……え〜っと、縮尺を変えると、大勢の人間と馬が行き交っていた。
人間は馬に乗っているらしい。
人間と馬の光点は、赤じゃなくて白なんだね。
……って、ヤバいかな?
この人達が、あの翼狼ってのに襲われちゃうかも。
「魔獣が来るから逃げろ!」って教えに行く?
私の転移は光速より速いので、音速で移動する翼狼も軽く追い越せる。
でも、そうしたら私が翼狼に襲われるかもしれない。
私は、「身体能力極限向上」や「肉体強度極限向上」の伏羲の加護で強化されているけれど、敵かもしれない翼狼の強さが分からないからね。
「翼狼」が、私の加護より圧倒的に強ければ……。
如何する?
良し、決めた。
ここは静観しよう。
敵(かもしれない魔獣の翼狼)の脅威判定と戦力評価が正確に出来ていない状況では、先ず情報収集をしなければならない。
もしかしたら、あの馬に乗った大勢の人間達が「翼狼」という魔獣に襲われるかもしれないけれど、私は自分の身が可愛いからね。
申し訳ないけれど、このまま見殺しにさせてもらおう。
悪く思わないでね。
私も死にたくないんだよ。
それにしても、あの馬に乗った集団は何をしているんだろう?
さっきからマップに表示されている騎馬の集団は、光点の動きが不自然だ。
騎馬の集団は目的地に向かって真っ直ぐ進んでいる訳ではなく、あっちに行ったり、こっちに戻ったりしている。
あ、人間の光点が1つ消えた。
また、消えた……。
マップに表示された光点が人間のマークだとするなら、光点が消えたら……。
人間が死んでいるって事?
もしかして行き交っている騎馬の集団は、戦っているのか?
例えば、騎兵戦とか?
マップの位置を動かして縮尺を拡大。
やっぱりそうだ。
騎馬弓兵同士が馬で駆けながら弓を射合って戦っている。
何だか、凄くクラシックなスタイルだね。
銃じゃなくて弓で戦うとか……。
それにモンゴルの遊牧民が着ていそうな服の上に鎧を着ている。
確かモンゴルには、今も昔ながらの遊牧生活をしている人達がいると聞いた事があるけれど……。
タクラマカン砂漠はモンゴルじゃない。
そもそも、弓と良い、服装や鎧と良い、何だか現代ではないような?
あ……ステータス画面の170年って、やっぱり西暦170年の事なのか?
中国大陸の西暦170年は後漢時代。
そして、その時代のタクラマカン砂漠は、西域と呼ばれる地域で、ホータンやローランなどのオアシス都市を中継地にして、遊牧民やシルクロード交易を行うキャラバンが行き交っていた筈だ。
マジか?
私は、タイム・トラベルしちゃったって事?
えっ?
つまり、これは家に帰れないんじゃ……。
だって、西暦170年の日本は古代で、私の自宅も実家も職場も何にもないんだから……。
えーーっ!?
これはマジでガチの異世界転移なのか?
如何もおかしいと思ったんだよ。
いきなり砂漠で目覚めるし、私は超能力的な謎の能力が使えるようになっているしさ。
はっ!
そんな事より、騎馬弓兵さん達、早く逃げた方が良いよ。
距離的には、もう騎馬の集団からも翼狼の姿が見えてもおかしくない筈なのに、何で気が付かないのかな?
そして、とうとう戦っている騎馬弓兵の集団は、翼狼と遭遇してしまった。
でも、別に翼狼は、人間を襲わないね……。
翼狼は、弓を射合って戦っている騎馬の集団の近くに到着すると着地して足を止めた。
人間との対比で見ると、あの翼狼はデカい。
3m以上はあるよね?
間違いなく白熊よりデカいよ。
翼狼は何かを食べている?
人間ではない。
何を食べているんだろう?
マップからでは良く分からないね。
翼狼は全く人間を襲っていないから、もしかして安全な生き物なのか?
騎馬弓兵達も全く翼狼に注意を向けていないし……。
いや、見えていないのか?
幻覚?
そりゃ、そうだよね。
もしも、古代中国にあんなバケモノが生息していたら、現代では既に絶滅していたとしても骨とかが発見されるだろう。
3mもある翼が生えた狼の骨なんかが中国で発見されたら、絶対に世界的なニュースになって、私が全く存在を知らないなんて事はない筈だ。
という事は、あの翼狼ってのは何なの?
いや、最初からマップには「魔獣」って表示されているんだけれどさ。
魔獣……。
人間には見えない謎生物?
なら何で私には見えるんだ?
「鑑定(天位)」とかのスキルを持っているからかな?
良く分からない。
もしも、あの翼狼が人間に対して実害がない生物だとするなら、もう少し近付いて様子を見てみようかな?
一応さっき造った鋼鉄剣を用意しておくか……。
あの如何見てもバケモノの翼狼に、こんな剣の攻撃が効くのかは分かんないけれどさ。
人間の騎馬弓兵の方は?
そっちは、全く問題ないっしょ。
私は、「肉体強度極限向上」の伏羲の加護のおかげで、上空1kmから落下しても擦り傷1つ付かない頑丈さだ。
物体が落下した時の運動エネルギーは、質量×速度の二乗で求められる。
これは、砲弾なんかの威力を表すマズル・エネルギーの求め方と基本的には同じだ。
体重……最高機密……kgの私が、上空1kmから落下して地面に激突した際の運動エネルギーは、空気抵抗やら初速など面倒な諸要素を無視して単純計算すれば……約49万J。
これは凄まじい威力だ。
何しろブローニングM2重機関銃から発射された12.7×99mmNATO弾のマズル・エネルギーが約18万Jなんだからね。
諸要素を無視して両者を単純比較すると、つまり私は、ブローニングM2重機関銃の0m至近距離射撃の2倍以上の破壊力を受けても体に傷1つ付かないという事だ。
厳密には、同じ威力値でも威力が掛かる面積によって打撃力や貫通力は変わるんだけれど、あくまでも単純比較をしている。
ブローニングM2重機関銃を0距離射撃を食らって問題ないなら、私は弓矢くらい如何って事ない。
良し、女は度胸だ……行こう!
私は、魔獣がいる騎馬弓兵達の戦いの方向に目視転移した。
・・・
「うわっ!ちょっ!」
ドカンッ!
私が目視転移した所に丁度馬が突進して来て激突する。
「痛ぁ〜……くはないね」
私は、無傷。
馬は吹き飛んだ。
ひっくり返った馬は前脚で虚空を掻いてビクビク痙攣している。
あ……やっちゃった……。
鑑定すると、馬の首の骨が折れていた。
「ぐ、ぐぁ……」
倒れた馬に乗っていた騎兵が地面に投げ出されて悶絶している。
騎兵も致命傷だ。
騎兵の背骨や肋骨が折れて、折れた肋骨が内臓に突き刺さっているみたい。
このままだと死ぬね。
え〜っと、多分これなら治療出来るんじゃないかな?
「回復……これで如何かな?」
私は、落馬した騎兵に「回復(天位)」を試す。
「ぐ……あれっ?痛みが消えた?」
落馬した騎兵は、言った。
鑑定すると、骨折や臓器の損傷が一瞬で治ってしまった。
「回復(天位)」……ヤバいね。
私は、ついでに首の骨が折れた馬も回復で治療した。
こっちも一瞬で致命傷が治ってしまう。
どんな理屈かは分からないけれど、この「回復(天位)」は即死以外なら瞬時に完全治療出来てしまうらしい。
兎に角、私の所為で誰も死なせなくて良かったよ。
「き、貴様は何者だ!?」
え〜っと、翼狼は?
あ、いたいた。
あいつ、さっきから何を食べているんだろう。
翼狼は、私には目もくれずに先程からずっと、何だか分からないものを貪るように食べていた。
う〜ん……。
翼狼は、モヤモヤした光みたいなものをムシャムシャ食べているんだよね。
「お、おいっ!貴様は、何者だっ!?」
「あ、えっ?私の事?」
私は、誰かから声を掛けられている事に気付いて振り返った。
「そうだっ!貴様は何者だ?妖の類か?」
1人の騎兵が弓で私を狙いながら馬の上から訊ねる。
周りを見回すと、今までお互いに射撃し合っていた敵同士の騎馬弓兵達は、遠巻きに馬を走らせながら唖然とした様子で私を注視していた。
何人かは、私に弓を向けている。
「私は、三国志織。如何ぞ宜しく」
私は、自己紹介をした。
挨拶は、人間関係の基本だからね。
「お、おう。俺は、現在于闐国の禄を食む、傭兵隊長の伐来だ。貴様は、何者だ?」
伐来は、繰り返し訊ねる。
つまり、この伐来が、タイム・スリップ後に初めて遭遇した第一村人だね。
村人じゃなくて、傭兵隊長らしいけれど。
そして、私が推測した通り、如何やら「言語(天位)」スキルのおかげで、言葉は自動的に翻訳されるみたいだ。
口の動きは明らかに日本語ではないけれど、言葉は完璧に理解出来る。
「だから、三国志織だって名乗ったでしょう?聞こえなかった?」
私は、翼狼の方に注意を払いながら言った。
明らかに脅威になりそうなのは、翼狼だからね。
でも、相変わらず翼狼は、私を無視してお食事に夢中だ。
「いや、それは聞いたが……貴様は、突然出現したではないか?人間なのか?」
伐来は、訊ねる。
「そうだよ」
一応、私は人間だと思うけれど……確信はない。
普通の人間は、高度1kmから落下して地上に激突して無傷な訳がないからね。
異世界転移してチート能力を手に入れた現代人が、魔王になったりするネタは、ラノベのテンプレだ。
「……そ、そうか……」
伐来は、困惑している。
いきなり現れた私の目的が分からないという表情だ。
それに、私のパジャマ代わりの部屋着姿が物珍しいのかもしれない。
「取り敢えず、そのまま、ちょっと待っててね。あれを確認して来るから……」
如何考えても、翼狼を放置しておけないからね。
脅威ではないかもしれないけれど、一応確認はしたい。
「あれとは何だ?」
「あれだよ」
私は、翼狼を指差した。
「何もいないが?」
伐来は、私が指差した方向を見て言う。
やっぱり、伐来達には翼狼が見えていないようだ。
普通に考えて、あんなにデカい凶悪な姿の生き物が見えない訳はないから、あれが私にしか見えていないのは確定だろう。
すると、私が指差して見ている事に気付いたのか、翼狼が顔を上げて驚いたように私の顔を凝視した。
あ……目が合っちゃったよ。
翼狼は、私に姿が見えている事に気付いたね。
それにしても、おっかない顔をしているな〜。
「グルルルル……」
翼狼が喉を鳴らして私を威嚇する。
「えっ?魔獣は、人間とは敵対しない設定なんじゃないの?」
私は、予想が外れて焦った。
「グゥオーーッ!」
翼狼は、地面を蹴って飛び掛かって来る。
マジか!?
襲って来やがった。
……って、速いっ!
「うわっ!転移っ!」
私は、翼狼の攻撃を身体能力では躱しきれないと判断して、目視転移で回避した。
翼狼は、今まで私がいた空中に噛み付く。
おっと、どっこい。
再び、翼狼が襲い掛かって来た。
私は、目視転移を繰り返して、翼狼の攻撃を躱す。
転移、転移、転移……。
ちっ、逃げてばっかりじゃ埒が開かないね。
反撃手段は……。
えっと、剣を……。
私は、転移で翼狼の攻撃を小さく躱し、すれ違い様に剣を翼狼の胴体に横薙ぎした。
スカッ……。
えっ?
空振った?
いや、今の距離感なら絶対に当たったよね?
擦り抜けた?
まさか、翼狼には実体がない?
「ガオォオオーーッ!」
「ちょっ……待った。タイム、タイム……」
私は、転移を繰り返して、翼狼の連続噛み付き攻撃を躱しながら言う。
剣が全く当たらない。
攻撃が当たらないとか、狡〜っ!
「おいっ!貴様は、さっきから何をしているっ!それに、姿が消えたり現れたり、それは何だ?」
伐来が訊ねた。
今は、その質問に答えている余裕はない。
転移、転移、転移……。
……待てよ。
実体がないなら、翼狼の攻撃も私には当たらないよね。
な〜んだ、ビビって損したよ。
私は、足を止めた。
ガブッ!
えっ?
普通に噛まれたんだけれど……。
私は、翼狼に頭からパックリ噛まれてしまった。
でも、全く痛くないね。
良かった。
如何やら私の伏羲の加護は、翼狼より強かったらしい。
へえ、翼狼の口の中って、こうなっているんだね〜。
奥歯が2列並んでいるのと、舌先が蛇みたいに二股に分かれている。
進化生物学的には、狼とは違う生物なのかもしれない。
あ、そんな事を考えている場合じゃないよね。
「よっこいっしょ……」
私は、翼狼の上顎と下顎を両手で押さえて、口を無理矢理開かせて、噛み付きから逃れた。
「なっ!そそそ、そのバケモノは一体何だっ!」
伐来が戦慄して声を上げる。
「ん?この翼狼の姿が見えるの?」
私は、翼狼の口を捕まえたまま訊ねた。
「当たり前だろうっ!そんな恐ろしいバケモノは、一体何処から現れたっ!?」
伐来は、翼狼を指差して言う。
「いや、この翼狼は、ずっと、あなた達の近くにいたんだよ。でも、あなた達には見えてなかったみたい」
「よ、翼狼?」
「そう。この魔獣の種族名……だと思う」
「まさか、そのバケモノは、俺達を狙っていたのか?」
「良く分からないけれど、その可能性はあるね」
もしかしたら、翼狼は、私に触れられて実体を現したのかもしれない。
そして、剣では触れられないけれど、素手なら触れられる。
「フーーッ!フーーッ!」
翼狼は、怒りを滲ませた唸り声を上げていた。
「これ、如何しよっかな?対処に困るね。ずっと口を押さえたままって訳にも行かないし……。私に勝てないと悟って、このまま放したら逃げて行ったりしてくれないかな?」
「そんなの殺せっ!ここで放されても困る。拘束を解いたら、俺達に襲い掛かって来るかもしれないだろっ!殺せ……いや、頼むから殺してくれっ!」
伐来は、必死に懇願する。
「ならさ、あなた達は、何か戦っていたみたいだけれど、『一時休戦する』と約束するなら、私の方で翼狼は如何にかしておくけれど?」
「するっ!一時休戦をするっ!だから、今直ぐ、そのバケモノの息の根を止めてくれっ!」
伐来は、言った。
「他の皆さんも、それで良いかな?」
私は、周囲にいる騎兵達に訊ねる。
一同は、激しく頷いた。
「なら、分かった。翼狼、お前は私に先制攻撃を仕掛けて来た。だから、これは正当防衛だから恨まないでよねっと!」
グリンッ!……ビキビキッ!……ドサッ!
私が翼狼の上顎と下顎を掴んだ両手を勢い良く回転させて、梃子の原理で力を込めると、翼狼の首が3周半捻れて、翼狼はダランと脱力する。
鑑定……死亡確認。
私は、翼狼を倒した。
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