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第11話。三国志織、砂漠に立つ。

作者メモ。


 三国志とは、三国時代の蜀(しょく)と晋(しん)に仕えた陳寿(ちんじゅ)が、後漢最後の皇帝・献帝(けんてい)が魏王・曹丕(そうひ)に帝位を禅譲(ぜんじょう)した後に、皇帝を僭称(せんしょう)した蜀(しょく)の劉備(りゅうび)と、呉(ご)の孫権(そんけん)、三人の(正当性があるかどうかはともかく)皇帝を擁する魏(ぎ)・蜀(しょく)・呉(ご)の三国が天下を争覇した時代前後の出来事を記した歴史書です。


 おや?曹操(そうそう)がいない。


 そうです。

 事実上の三国時代の勝者である魏(ぎ)の創業者である曹操(そうそう)は皇帝にはならなかったのです。(なれなかった訳ではない)

 しかし、三国志において目次の一番最初に登場するのは、曹操(そうそう)。

 正史三国志において、主人公は曹操(そうそう)なのです。

「あっれ〜……如何(どう)してこうなった?」

 私は、困惑していた。


 昨夜も仕事を終え、帰宅して、いつもと同じルーティンを経由してベッドまで到着した筈なんだけれど……。

 なのに、目が覚めた私は、荒凉たる砂漠に佇んでいた。


 クソ熱(あち)ぃ……。


 東京都内の自宅から、この砂漠まで辿り着いた経緯が全く思い出せん。


 数分前、私は何だか寝苦しさを感じ、また瞼(まぶた)の向こう側が妙に明るいと気付き、「ハッ」と飛び起きた。


「やっちまった〜っ!寝過ごしたっ!寝坊だなんて、学生時代以来だよ。も〜、何で目覚ましが鳴らないんだよ〜っ!」


 ヤバイ、ヤバイ、ヤバイッ!

 大遅刻だ。

 今何時だ?

 明るいから、まさか昼近く?

 朝一の会議が〜っ!


 ……とパニクッてるから、私は明らかに普通じゃない周囲の状況を数秒間理解出来なかった。


「えっ?……って、これ……どゆこと?」


 砂漠?

 え〜っと……如何(どう)やら、これは夢……じゃね〜な。


 頭の中で、私の生存本能が「これは明晰夢なんかじゃなく現実だ」と激しく警鐘を鳴らしている。


 何でか分かんないけれど、コンタクトをしなくても見えるね……。

 私は、重度の近眼だ。


 さてと、このおかしな状況の謎が分かると思われる事がある。

 それは、私が砂漠で目覚めた瞬間から視界の中に見えていた。

 如何(どう)やらこ(・)れ(・)が何かしらのヒントである事は間違いないよね?


 私の視界には、ステータス画面が浮かんでいる。

 そう、ゲームとかでありがちな、あのステータス画面だ。


 ・・・


 170年。


 姓名…三国志織(みくにしおり)(釈羅(しゃくら))

 生年…原初

 性別…超越

 属性…自然

 統率…無限

 知性…無限

 行政…無限

 軍事…無限

 加護…根源

 使役…万象

 神力…99


【常時能力】

 神威(天位)・啓示(天位)・君臨(天位)

 魅力(天位)・言語(天位)・記録(天位)

 集配(天位)・看破(天位)・盟約(天位)

 解析(天位)・収納(天位)・地理(天位)


【任意能力】

 回復(天位)・転送(天位)・召喚(天位)「!」


【加護】

 伏羲(ふっき)の加護

 肉体強化(天位)

 肉体強度・身体能力・疾病耐性・毒物耐性・精神耐性が極限まで向上する。

 鎮護国家(ちんごこっか)(天位)

 庇護領域の災禍を防ぎ、調和と安定をもたらす。

 庇護領民の戦闘力と士気が極限まで向上する。


 女媧(じょか)の加護

 天命強化(天位)

 天帝(てんてい)から授かった使命の成就率が極限まで向上する。

 豊穣肥沃(ほうじょうひよく)

 庇護領域の生産力が極限まで向上する。

 庇護領民の寿命・健康・繁殖力が極限まで向上する。


 神農(しんのう)の加護

 知性強化(天位)

 演算能力・記憶力が極限まで向上する。

 英知開明(えいちかいめい)

 庇護領域の発展力が極限まで向上する。

 庇護領民の勤勉性・誠実性が極限まで向上する。


 ・・・


「何じゃこりゃ?」


 はは〜ん、これは、あれだな。

 異世界転移的な、あれ。


 賢い(自認)私は、瞬時に状況を悟った。


 170年……西暦か?


 三国志織(みくにしおり)……私の名前だ。


 でも、(釈羅(しゃくら))って何?

 私のハンドル・ネーム的なものか?


 そんなハンドルネームを登録した身に覚えが全くないんだが?

 そもそも初めて見る字面だ。


 生年……生まれた年?

 原初?

「永遠の17歳」なら、「おいおい」と突っ込むところだけれど、原初って何?


 全く意味が分からん。

 私は1995年生まれだ。


 アラサー?


 喧(やかま)しい!


 属性…自然。

 自然て、ネイチャー?

 いや、私はインドア派だよ。


 統率…無限。

 知性…無限。

 行政…無限。

 軍事…無限。


 この4項目は、ゲームにありがちな所謂(いわゆる)ステータスっぽい。

 でも数値やバー表示ではなくて、無限?


 加護…根源。

 使役…万象。


 加護って、何らかのバフが付いているのか?

 だとしても、根源て何だよ。


 使役は、何かを使役可能って事かな?

 サモナーとかテイマー的な事?

 万象……読み方は、万象(ばんしょう)だよね?

 森羅万象とかの……。


 たぶん「1万頭の象を使役出来る」って意味ではないと思う。


 神力…99。

 これは、レベル的な事かな?

 レベル99は高いのか、低いのか?

 そもそも最初はレベル1からじゃないんだね?


 神力?

 神の力……分からん?


【常時能力】

 神威(天位)・啓示(天位)・君臨(天位)

 魅力(天位)・言語(天位)・記録(天位)

 集配(天位)・看破(天位)・盟約(天位)

 解析(天位)・収納(天位)・地理(天位)


 これは、パッシブ・スキルか?

 説明文も何もないから分かんね〜よ。

 取り敢えず、放置で……。


【任意能力】

 回復(天位)・転送(天位)・召喚(天位)「!」


 こっちは、アクティブ・スキルかな?

 召喚(天位)……やっぱり、私のジョブは召喚士……サモナー系なのかもね?


(天位(てんい))……と読むのか?

 如何(どう)いう意味だろう?

 分からん。

 これも、一旦放置。


 伏羲(ふっき)の加護、女媧(じょか)の加護、神農(しんのう)の加護……この名前は知っている。

 中国神話に出て来る「三皇(さんこう)」と呼ばれる神様だ。

 つまり、さっきの「加護…根源」というのは、私には伏羲(ふっき)と女媧(じょか)と神農(しんのう)の加護が付いているって意味か?


 ようやく説明文がある……どれどれ……。


「極限まで向上する」とか、どれも何だか凄そうな加護だね。


 でも、この「庇護領域の……」とか「庇護領民の……」とかの但し書きは?

 つまり、加護(バフ)が効く効果範囲が設定されているのか?


 ・・・


 私は、砂漠の地べたに座り込み、ステータス画面を弄(いじく)り回して色々と調べた。


 神威(天位)……変化なし。

 啓示(天位)……変化なし。

 君臨(天位)……変化なし。

 魅力(天位)……変化なし。

 言語(天位)……変化なし。

 記録(天位)……変化なし。


 集配(天位)……変化なし……いや、神力が98に減っている!


 今私は、集配の「配」を使った。

「集」の方を使うと、神力が99に戻った。


 増減するって事は、つまり、この神力ってレベルじゃないのか?

 スキルを行使して増減するなら、MP的な事かな?


 但し、MPらしき神力を消費した結果は、特にこれといった変化はなし。


 これ何だろ?

 集配……良く分からないね。


 看破(天位)……変化なし。

 盟約(天位)……変化なし。


 解析(天位)……おっ!

 砂に解析を使ってみたら、砂の成分が分かった。


 3分の1が石英、後は雑多な鉱物。

 砂漠だから有機物は、殆(ほとん)ど含有していない。

 塩化ナトリウム……つまり、塩も発見出来た。

 生きるのに塩は必要不可欠。

 含有率は微量だけれどね。


 なるほど。

 解析は、文字通り解析能力だ。


 収納(天位)……おっ、これもゲームにありがちなアレみたい。


 手の平に砂を掬(すく)って……。


「ほいっと……」

 手の平の砂が消えて、砂が私の内部ストレージ(私が勝手にそう名付けた)に入ったのが分かる。


 うん、収納だね。


「ほいっと……」

 内部ストレージから、手の平に砂が出て来た。


 効果範囲とかは……。


「ほいっと……」


 はっ?

 内部ストレージに砂が入ったけれど、これヤバくね?


 今、私は地平線の彼方にある砂を収納しようと念じてみたんだよ?

 私が座っているのは砂丘の上で、周囲は視界が開けた砂漠だから見通しが良い。


 たぶん、地平線の彼方は、軽く50kmくらいはあるだろう。


 マジか?


 50km先の物体をストレージに入れられるって、ゲームだとしたら完全に仕様がバグってるよね?


 兎に角、この「収納(天位)」がゲームとかのストレージ機能だという事は分かった。


 でもさ、この「収納(天位)」って【常時能力】(パッシブ・スキル)に分類されているけれど、私が念じてストレージに出し入れするんだから、【任意能力】(アクティブ・スキル)じゃないの?


 あ、もしかしたら「ストレージに回収した物体は、意識を他に向けても収納された状態が維持される」から、【常時能力】(パッシブ・スキル)なのかも。

 たぶん、そういう解釈なんだと思う。


 あ、そうそう。

 ストレージの容量とかは?


「ほい……あわわわわ……ストップ!ストップ!」


 と、とんでもね〜。


 試しに周囲一帯の砂を収納してみよと思ったら、私が座っている丘が一瞬で沈み込んで、今私は巨大な穴の底にいる。


 私が内部ストレージに収納した砂の量は、砂丘1個分で、2000万t(トン)。

 それだけ収納しても、ストレージ容量は一杯にならなかった。


 どんだけ入るの?

 まさか、容量無限?


 そして内部ストレージに収納された物体は何処(どこ)に行くの?

 良く分からないね。


 内部ストレージに入った砂は、取り敢えず「砂」とタグ付けして一纏(まとめ)にしておく。


「砂を物質ごとに選別出来ないか」と試してみたら、出来た。

「解析」を併用したら、砂の成分を選り分ける事が可能みたい。


 砂に微量含まれていた塩化ナトリウム(塩)が結晶になった。

 塩化ナトリウム(塩)の含有率は微量だけれど、砂の分母が馬鹿デカい(2000万t(トン))から、かなりの量になる。


 ストレージから塩化ナトリウム結晶を取り出して舐めてみた。

 間違いなく塩だ。

 生存に必要な塩は、この方法で入手可能だね。


「収納」で大気を大量に集めて、ストレージ内で大気中の水分を選り分ければ水も入手出来るかも。


 乾燥しきった砂漠や南極にだって湿度がある。

 地球の陸地上で湿度0なんて場所は、どんなに乾燥した気候でも基本的にはない。

 私は地理学の基礎を学んでいる。


 先ずは大量の大気を集めて……収納っと。


 うぼっ!


「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ……。あ、危(あっぶ)なっ!死ぬかと思った」


 調子こいて大量の空気を一気にストレージに取り込んだら、周囲一帯が真空になって軽く酸欠になりかけたよ。


 一気にやるとダメだ。

 徐々に……。


 おっ、問題なく空気も集められるね。

 良し良し。


 大気から湿度を分離して、水が取れた。

 良〜し、来たこれっ!


 これで飲料水も確保出来る。

 周囲の大気と砂を徐々に収納しっ放しにして、解析で成分を分離して、水や塩をストレージに自動で貯めておく事が出来るか試したら……出来た。


 良し!

 自動化行ける。


 これで放置したまま水と塩は、自動で貯まるね。


 そして、如何(どう)やら私のストレージは、生物は収納出来ないようだ。

 ストレージ内で選り分けられた物質の中に細菌などが全くない。

 だから、飲料水も安全。


 私は、水と塩を自動収集しながら、再び地面に向かって収納を試みた。

 今回は、少しリスクを取ってみる。


 収納対象は……地球。


 ……何も起こらないね。


 流石に地球は、ストレージ容量を超えたか。

 ま、実際に地球を収納出来てしまったら、足場がなくなった私は宇宙空間に投げ出されるかもしれない。

 そのまま死ぬ可能性もあった。


 その時点で慌てて収納から地球を取り出しても、地球がある宇宙空間の位置座標は、引力などの絶妙な相互作用のバランスで均衡しているから、釣り合いを失った月は一瞬で何処(どこ)かに吹っ飛んで行っちゃうだろうし、元の正確な軌道に戻せなければ、地球だって有らぬ方向に飛んで行ってしまう。

 飛んで行った方向が太陽系の外側なら寒さで凍り付くし、太陽の重力に捕まれば太陽に衝突して地球は蒸発する。

 太陽系内にある他の惑星とぶつかるかもしれない。


 ……こういう死ぬかもしれないリスクは、次からは事前に良く考えてから試す事にしよう。


 取り敢えず、地球は収納出来ないという事は判明した。


 ちょっと待てよ。

 この砂漠が、そもそも地球じゃない可能性は……。


 あ、いや、怖い事は、考えないようにしよう。


 地理(天位)……あ、地理ってマップ機能か?


 ん?

 頭?


 縮尺が馬鹿デカいから何も分からん。

 鳥瞰図で、私の頭頂部が見えている。


 カラー映像のマップだ。

 グー〇ル・アース的な感じか?


 いや、それよか凄いね。


 私が動くと、マップ上の私も全く同じ動作をする。

 リアル・タイムの動画マップだ。


 これは、スパイ衛星とかなんじゃ?


 私は上空を凝視した。

 雲1つない青空には、人工衛星的なものは見えない。


 マップの縮尺を自由に変えられるね……。

 ……おっ、地名が表示された。


 私がいるのは、中央アジアの「タクラマカン砂漠」。


 私は、何でそんな場所にいる?


 取り敢えず、ここが地球だという事は判明した。

 地球ならば日本にも帰れる……かな?


 現在、私は見渡す限り人影も人家も町も見えない砂漠のド真ん中にいて、水も食料も連絡手段も車もない。

 完璧に遭難している。


 普通に考えて、死ぬよね?

 水と塩は入手出来ても食料がないんだから。


 でも、不思議と気持ちは落ち着いている。

 怖いとか、心細いとか、そういうネガティブな感情が全く湧いてこない。


 そうだ。

 前向きに考えよう。

 遭難時に一番怖いのは、パニックになる事だからね。


 マップの縮尺をドンドン小さくすると、町っぽい地名表示が出た。

 ここから一番近い町は、「ホータン」。

 タクラマカン砂漠のオアシス都市だね。


 取り敢えず、そのホータンを目指して移動するか?

 いや、待て。

 ホータンはマップ的には直近の町だけれど、距離的にはメッチャ遠い。

 200km……無理だ。

 徒歩では、辿り着く前に死ぬ。


 ま、如何(どう)にかなるっしょ。


「とりゃっ!……うおっ!何この跳躍力?」


 私は穴から外に出ようとして、「身体能力が極限まで向上する」という「伏羲(ふっき)の加護」っていうのの効果を試してみたんだけれど、数十mを軽く飛び越えてしまった。

 オリンピック・アスリートなんか目じゃない身体能力だね。


 そして着地の衝撃で怪我をする様子もない。

 こっちは、「肉体強度を極限まで向上する」という加護の影響なんだろう。


「靴が欲しいな……」


 私は寝た時の格好をしていた。

 パーカーにカーゴ・パンツ姿で、室内にいたから当然裸足だしね。


 というか私は、この瞬間、今まで失念していた最も重大な問題に気が付いてしまった。


 私……スッピンじゃんか〜っ!


 こんな顔を誰かに見られたらお嫁に行けない〜っ!


 砂漠にいて死ぬか生きるかという遭難時に、眉毛を描いていない事に最大の危機感を覚えるという。


「アラサー無理すんな」だと?


 喧(やかま)しいっ!

 お前、マジ殺すぞ!

 このクソ馬鹿のボケナスのボロカスがっ!


 はあ、はぁ、はぁ……取り乱してしまった。


 でも、直ぐに気持ちが落ち着いたね。

 あ、これは「精神耐性が極限まで向上する」という伏羲(ふっき)の加護が効いたのか?


 なるほど。

 遭難している筈なのに全く不安な気持ちにならないのは、この加護の影響かもしれない。


 さ〜て、これから如何(どう)すっかな〜。


 砂漠に立ち尽くす私は、薄い眉毛で途方に暮れる……。

お読み頂き、ありがとうございます。

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・・・


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