第10話。戦の後始末。
本日2話目の投稿です。
この第10話までが、プロローグでごさいます。
次話から、主人公が過去に転移した直後からのお話になります。
孫堅を先頭に勢い良く北門から出撃した朱儁軍は、長社を包囲する敵(黄巾軍)の前衛を薙ぎ倒して、一気呵成に敵本陣目掛けて突進したものの、本陣を囲む馬防柵に行手を阻まれて右往左往している所に、敵軍の弩隊による一斉射撃を受けて大損害を出していた。
「……弱っ。ってか、頭悪っ……」
私は、愕然とした。
「敵(黄巾軍)が構築した陣に考えもなしに突撃すれば、ああなるのも必然かと……」
私配下の筆頭軍師で、私兵団の最高司令官でもある荀攸が呆れながら言う。
私達は、長社の城門に上がって城外の様子を観戦していた。
城門上にいるのは、私の陣営の、荀攸・戯顓(戯志才)・関羽・項桓・項鴛・司馬徽・郭嘉、それから官軍の、皇甫嵩・王允・荀爽・孔融というメンバー。
左慈は、自分の軍を追い掛けて出撃した朱儁を、いざという時は守る為に、彼の側に付けてやった。
私は、「朱儁、討死したって構わない」と思ったんだけれど、「あんなのでも一応は天子(皇帝)から勅命を受けた官軍の中郎将だから……」と、王允と荀攸と皇甫嵩から頼まれたので守ってやる事にしたんだよ。
当初私は、私の「籠城死守命令」を無視して出撃した孫堅と、それを追認した朱儁を引っ捕らえて、連中の軍を長社内に戻すつもりだったんだけれど、荀攸が「朱儁軍を一当てしてみて、敵の戦力を確認したい」と言うので、しばらく様子を見る事にした。
私は、味方にも敵にも無駄な犠牲を出したくはないのだけれど、荀攸に「敵を知れば、いざ戦闘になった際に味方の損害を少なく出来るから……」と強く進言されたので、嫌々許可を出した。
黄巾の民兵や、その家族の非戦闘員にも被害を出したくはないんだけれど、荀攸から「味方の犠牲を少なくする為だ」と強く主張されたら致し方ない。
申し訳ないけれど、黄巾の賊軍より、私の配下の将兵の命の方が大事なのは間違いないからね。
朱儁軍の犠牲?
私の命令を無視して戦略を台無しにした朱儁軍なんか、如何なろうと知った事っちゃないよ。
精々捨て駒になって、荀攸の分析の役に立って貰えば良い。
「あれはっ!匠姫様(玉蓉)が開発した屠虎連弩?何で、あの兵器を敵(黄巾)軍が持っているんだ?」
郭嘉が双眼鏡を覗きながら言う。
「屠虎連弩」とは、私の陣営が開発した兵器で、大型の設置式弩(クロスボー)……つまりバリスタに、予じめ多数のボルト(クロスボー用の短い矢)をセットしておき、レバーを回すと弦を固定しているフックが順番に外れて、敵に向かって大量のボルトを浴びせられる連発バリスタだ。
「虎を屠る連発式の弩」って事。
銃火器類とは違い、漢代にもある既存の技術の組み合わせと応用で製造可能な屠虎連弩は、別に秘匿兵器ではない。
因みに、屠虎連弩の機構は、後代に諸葛亮が開発した(と伝わる)諸葛連弩からアイデアをパクらせてもらった。
ま、現在の世界線で諸葛亮は、未だ数え4歳の幼児だから「アイデアを盗んだ」なんて文句を言われる事はない。
そもそも、漢代には特許なんて概念もないしね。
因みに、現在長社の場内から照明弾が複数撃ち上げられていて、夜間だけれど戦場はそれなりに明るくて戦闘の様子が見える程度の光量はある。
照明弾を上げたら、朱儁軍の奇襲の意味がない?
いやいや、孫堅に率いられた朱儁軍は、出撃時に軍鼓で「総突撃」の合図を打ち鳴らしている。
軍鼓の音は敵(黄巾軍)にも丸聞こえで、突撃は敵にバレバレ。
そもそも、これは奇襲になっていないんだよ。
「奉孝(郭嘉)。双眼鏡なんか何処から持ち出した?」
「へへ〜ん。観戦するなら双眼鏡は必須でしょう?」
郭嘉は、自慢気に言った。
「ちょっと、それ(双眼鏡)を私にも見せてごらん」
「え〜、これは俺のですよ」
「仙姫様。宜しければ、こちらをどうぞ」
荀攸が懐から望遠鏡を差し出して言う。
「あ、それよか、あっち(郭嘉の双眼鏡)のが良いや」
「そうですか……」
荀攸は、申し訳なさそうに言った。
荀攸が持つ望遠鏡は、私の陣営が以前に開発したガリレオ式望遠鏡で、郭嘉が持つ双眼鏡は最新式で、砲兵隊の着弾観測員用に開発された照準線が刻まれた光学式照準器機能付きの特別製だからね。
「郭嘉。それを貸して」
「嫌ですよ。これは俺んだもん」
「良いから寄越しなさいよ。双眼鏡は、そもそも私の(現代)知識を使って製造させた物だろが」
「ちっ。壊さないで下さいよ。匠姫様(玉蓉)に無理を言って塔里木帝国から特別に送って貰った最新式の貴重な品なんですから……」
郭嘉は、渋々という様子で双眼鏡を差し出した。
分かっているよ。
本来、双眼鏡や望遠鏡などが開発されるのは、ずっと未来の中世の話なんだからね。
どれどれ……。
私は双眼鏡を覗く。
「あ〜、あの屠虎連弩の識別番号は、朱儁軍に私が送ってやった物だね。朱儁が長社に敗走する際に、黄巾軍に鹵獲された物を使われたんだよ」
取り敢えず、あの屠虎連弩が「塔里木帝国の国営工廠から技術を盗み出された物」でないなら全く問題ない。
それにしても、朱儁は本当に無能だ。
自分が奪われた兵器で攻撃されてりゃ、世話がないよ。
陣地から撤退する際に持ち出せない兵器類を破壊して、敵に使われないようにする事なんか、戦闘教則の基本だろうに……。
私達は、順番に双眼鏡を覗いて戦闘の様子を確認する。
「皇甫右中郎将殿(皇甫嵩)なら、この状況で如何采配を振るわれますか?」
荀攸が皇甫嵩に訊ねた。
皇甫嵩は、名将だからね。
「私なら……。まず夜陰に紛れて敵本陣の後方に伏兵を配しておき、上空に火矢を放って合図を送り、一斉に火を放たせます。敵は草地に陣を張っており、風向きは東風。そして今は乾燥しておりますので、瞬く間に火の手が回り、敵は混乱するでしょう。その混乱に乗じて城から本隊を出撃させ敵を挟撃、殲滅するでしょうな」
皇甫嵩は、説明する。
それは、史実の「長社の戦い」で皇甫嵩が実際に波才軍を撃破した戦術だね。
「なるほど。夜襲と火計を組み合わせる訳ですな。流石は皇甫右中郎将殿(皇甫嵩)です」
荀攸は、感服した。
「いやいや、お恥ずかしい……」
ま、その戦術は、この世界線では多分失敗するだろうね。
「いや。その計略は上手く行きませんよ」
郭嘉が言った。
「そうだろうか?私には最良の策に思えるのだが?」
荀攸が言う。
「その理由を教えて貰えぬだろうか?」
皇甫嵩も訊ねた。
「理由は、この潁川は、仙姫様の庇護領域だからですよ。潁川では、仙姫様の加護で火事は燃え拡がりません。つまり、潁川では火計が使えないんですよ」
郭嘉が説明する。
「ああ、そうか……」
荀攸は、納得した。
「神仙が治める地では、そのような加護があるのですか?」
皇甫嵩が驚いて私に訊ねる。
「ええ、まあ……」
私は、頷いた。
塔里木帝国や潁川……つまり、私が庇護する領域では、「災害発生率が下がって、仮に災害が発生しても被害が軽減される」という神様チートが掛かる。
だから、私の庇護領域では火災が起きても延焼が拡がらずに直ぐ自然鎮火するのだ。
それは山火事や野火も例外ではない。
だから私は、左慈から「陽翟城外の建物が黄巾軍に放火された」と報告されても意に介さなかったんだよ。
火事は延焼しないで自然鎮火するからね。
これは災害と判定される火の場合で、焚き火など何らかの目的で燃やされる管理された火は自然に消えたりはしない。
便利な加護だ。
従って、史実では大成功した皇甫嵩の火計も、この世界線の私の庇護領域では直ぐに鎮火して目的を果たせない。
それに直ぐ気付く郭嘉は、やっぱり天才だ。
「さてと、そろそろ助けてやんないと、朱儁が危なそうだね。屠虎連弩が実戦で使える事も分かったし、ここらが頃合いでしょう?」
朱儁は、黄巾軍に馬を殺されて囲まれ、敵中で立ち往生している。
あれは、助けてやらないと死んじゃうね。
あの致命的な状態でも降伏して命乞いをしない朱儁の気概は立派だけれど、そもそも1軍の司令官が敵中に孤立して白兵戦をするような行動を取る事自体が間違っている。
指揮官が死んだら、退却命令も出せないんだから。
朱儁だけなら、左慈が助け出せるけれど、あの苦戦の様子だと孫堅以下の将兵は全滅するだろう。
「仙姫様。お気を付けて」
関羽が言った。
ま、私は不死身だけれどね。
私は、城壁を蹴って城外に飛び降りた。
・・・
30分後。
「おい、朱儁。私に何か言う事はあるか?」
私は、朱儁を怒鳴り付ける。
「『籠城して守りを固め、三国王の御下知があるまで決して出撃してはならぬ』という厳命がありながら、御命令を破って我が軍が勝手に出撃し多大な犠牲を出した挙句、三国王御身の御出陣によって命を救って頂きましたのは、痛恨の極み。また、感謝してもしきれません。御命令無視の軍律違反については、全て不徳の将たる私の責任。この朱儁、一生の不覚。この上は、私が軍律違反で死を賜る事は当然の処分であると覚悟しております。その点に全く異存はございません。……しかしながら、我が配下の兵には何卒御寛大な処分をお願い申し上げます」
朱儁は、叩頭(地面に頭を叩き付けて土下座する事。最大限の謝罪の姿勢)をして言った。
ふ〜ん。
見苦しく言い訳の1つでもするかと思ったら、素直に自分の罪を認めて処刑される事さえ受け入れて、部下の助命嘆願をするなんて……。
私は、朱儁を救いようがないクズだと思ったけれど、中々如何して憎めない所もあるじゃんか?
それに、少し前までは胡人(外国人)で女の私に命令される事に不満がありそうだった態度も改めて、今は神妙で殊勝な態度をしている。
ぶっちゃけ、朱儁が言い訳をして居直るようなら首を刎ねてやろうかと考えていたけれど、こういうふうに率直に謝罪されると厳しい処分は科し辛い。
「軍を率いて勝手に抜け駆けしたのは、お前の配下の孫堅だと聞いたが、それについて言い訳しないのか?」
私は、重ねて訊ねた。
「我が配下の不始末は、全て将たる私の責任。元より申し開きのしようがございません。そして、孫文台(孫堅)めの抜け駆けも、私の管理責任でございます故、如何か私の素っ首と引き換えに、孫文台(孫堅)の命は御赦し下さいますよう何卒お願い申し上げます」
朱儁は、ガンガンと地面に額をぶつけて言う。
へえ。
部下の勝手な行動も、責任転嫁せずに自分が全部背負うと言うのか……。
そういうのは嫌いじゃない。
朱儁を殺すのは惜しくなって来たね。
「孫堅。お前の上司の朱儁は、こう言っているが、お前は何か言う事はあるか?」
「まず申し上げるべき事は、傷付いた我が配下の兵を治療して下さり、命を救って下さった三国王には、心より感謝申し上げます。私の軍律違反につきましては、全て私の一存で行った事。朱左中郎将様(朱儁)には、責任はありません。如何か私の首をお斬り下さり、その代わり朱左中郎将様(朱儁)には、御寛大な処分を賜りますよう言上仕ります」
な〜るほど。
そうやって庇い合うのか?
それって、申し合わせてやっている訳じゃないよね?
そもそも孫堅が命令を無視して勝手に出撃したのも、「波才軍に負けて長社に逃げ込んだ殿様(朱儁)が、このまま何の戦功も挙げなければ朝廷から処罰される」と焦った孫堅が、上司の朱儁の失態を取り返す為に無茶をしたかららしい。
つまり、孫堅の抜け駆けは、自分の手柄の為ではなく、上司の失態をフォローをしようとしたからなんだよ。
そう聞くと、多少は仕方ないと思えるね。
ま、理由は如何あれ命令無視は軍隊では言語道断だけれどさ。
「分かった。罰を言い渡す!命令無視の孫堅には、杖刑(杖で叩く刑罰)100回。監督責任で朱儁も杖刑100回。贖銅(罰の回数に応じた量の銅を納める事で実刑を回避する制度)は認めない。しかし、特段の慈悲と配慮を以って今回の不始末を天子(皇帝)と朝廷には上奏せず、この場限りの処置とする。同じく2人の配下の者達は、全員一切の罪に問わず。以上」
私は、2人への処分を命じた。
「「御寛大な処分を、ありがとうございます」」
朱儁と孫堅は、平伏して言う。
『主上……』
応竜が思念を飛ばして来た。
『応竜。言いたい事は分っているよ。甘いって言いたいんでしょう?』
『それもありますが、曹操の援軍が、長社の10km程の所まで来ています』
応竜が報告する。
『ん?やけに早いね』
『はい。曹操は、陳諶の援軍要請を受けて、直ちに自ら軽騎を率いて昼夜の区別なく駆け付けて来たようです。後続の歩兵も急ぎこちらに向かっております』
それは、有難いね。
曹操には、またお礼をしなけりゃならない。
「皆の者、聴けいっ!今、曹騎都尉殿(曹操)の援軍が近郊まで来ている。友軍が到着し次第、私達も討って出るぞ。全軍、鎧装にて各部隊の集合場所に向えっ!賊軍を潁川から追い払うぞーーっ!」
私は、宣言した。
「「「「「おーーっ!」」」」」
長社の人達から、歓声が上がる。
・・・
翌朝。
「三国王。味方の犠牲少なく、敵は全滅。この上ない勝ち戦でございましたな。流石は神仙。真に御見事でございました」
曹操が言った。
「いいえ。曹騎都尉殿(曹操)の援軍があればこそです。ありがとうございました」
私は、礼を言う。
とはいえ、私は今回の戦闘の結果に不満だ。
当初私は、「私の軍と曹操軍に挟撃された黄巾軍は撤退する」と読んでいたんだけれど、そうはならなかったんだよ。
黄巾軍は、極めて不利な状況にも拘らず、全く逃げ出さずに迎撃を選んだ。
逃げてくれなければ、「味方だけでなく敵にも犠牲を出さずに賊軍を追い払う」という戦略目標は達成不可能だからね。
敵が撤退ではなく戦闘を選ぶなら、私達も戦わざるを得ない。
曹操軍が後方に現れて奇襲して来たので、敵軍は浮き足立った。
その隙を突いて、敵本陣に騎兵突撃した関羽達親衛隊が敵将波才と配下の将達の首級を挙げた後は、黄巾軍は完全に統制を失い無惨に瓦解する。
馬防柵と屠虎連弩?
そんなもん私が転移して、真っ先に引っこ抜いて回収しておいたよ。
その後の戦闘は、敵(黄巾)軍にとって悲壮だった。
次々に兵が討ち取られ、戦闘員として戦う夫や父親や兄弟や息子が戦死する様子を見た非戦闘員の女性達は、幼い子供を道連れに次々と自害し始めたからね。
元より碌な装備もない黄巾の賊軍は、兵数だけは多くても大した戦力ではない。
波才率いる黄巾軍が、初戦で朱儁軍に勝てたのは、朱儁率いる官軍が急拵えで実戦経験が乏しく士気も練度も低かったから、数だけ多い黄巾軍にビビった所為なんだよ。
また、昨夜の朱儁軍の抜け駆けも、敵が守りを固めるキル・ゾーンにワザワザ孫堅と朱儁が突っ込んで行ったのが敗因だしね。
私が出撃を命じた官軍は、孫堅と朱儁の失態を見て、尻に火が付き必死に戦った。
こうなると、戦いは一方的になる。
私は、応竜に言われるまでもなく甘かった。
「なるべく味方も敵も傷付けずに、戦争を終わらせよう」だなんてね。
戦争とは、本来こういう凄惨なものだ。
綺麗事じゃない。
私は、前の「塔里木統一戦争」でも戦争の現実を嫌という程味わった筈なのに、未だ「平和ボケ」が抜け切っていなかったらしい。
いや……私の指揮は、そう悪くなかった。
史実の「長社の戦い」と比較しても、今回の「長社の戦い」は圧勝だったからね。
史実では、波才を始めとする黄巾軍は、長社で皇甫嵩に敗れた後も汝南に撤退して反乱を続けた。
でも、今の世界線では、波才は討ち取られ、長社方面の黄巾軍は全滅。
波才軍10万の内、半数が戦死して、残りは全員投降して捕虜になった。
私が「武器を捨てて降伏する者は殺さない」と伝えたからね。
戦場から逃走した黄巾の兵もいるが、僅か数百人ばかりだ。
「さて、この後は如何致しますか?」
曹操が訊ねる。
「潁川領内の賊軍掃討は、私の私兵団にやらせます。王豫州刺史殿(王允)は、御役目として州内の汝南などにいる賊の残存兵を駆逐する必要があるでしょう。また、義真殿(皇甫嵩)と、朱左中郎将殿(朱儁)には、朝廷から改めて南陽方面や冀州方面の黄巾軍討伐の命が下る筈です。曹騎都尉殿(曹操)と、配下の将兵の皆様には、歓待の宴席を設けておりますし、当然その他の(金銭的な)お礼も致しますよ」
「ははは、賊軍討滅は当然の事をしたまでですのに、お礼とは辱い。しかし、御厚意は有り難く受けておきましょう。何しろ、三国王の食べ物も酒も素晴らしいものですからな〜」
曹操は、笑った。
「なので、王刺史殿(王允)、義真殿(皇甫嵩)、朱左中郎将殿(朱儁)、曹騎都尉殿(曹操)。2つ程、お願いがあります」
「何でしょうな?」
曹操は、訊ねる。
王允と皇甫嵩と朱儁も私に注目した。
「まず、此度の『長社の戦い』について、先陣の功と賊の指揮官波才を討ち取った功は、朱左中郎将殿(朱儁)と孫軍司馬殿(孫堅)、御両人の手柄として頂きたい」
「三国王……」
朱儁が驚愕したように言う。
「ええ。実際にそれを行ったのは三国王配下の軍ですので、三国王が宜しければ、私は構いませんぞ」
曹操は、言った。
他の一同も頷く。
これで朱儁と孫堅の過去の失態は帳消しにはならないまでも、幾らか挽回は出来る筈だ。
「それと、もう1つは、潁川内で投降し捕虜となった黄巾の賊徒達の処遇は、私に一任して頂きたい」
「……賊軍の捕虜は、朝廷の管理となるのが通例ですが?」
曹操が言う。
「存じております。しかし、私は『潁川の内治は、好きにして構わない』と天子(皇帝)より勅許を頂いております」
「つまり、仙姫様は、賊軍の捕虜を赦すおつもりなのですか?」
荀爽は、訊ねた。
「うん。処刑はしない。そう約束して降伏を促したからね」
「死刑は免れるとしても、反乱を行った者は罪人として顔に黥(入れ墨)を施されて奴婢に落とされるなどの処罰はあって然るべきかと。まさか、処罰自体を特赦するつもりですか?」
「いや。一定期間の無報酬労働などの罰は与える。でも、それ以上の重罰は与えない。そもそも、黄巾の反乱は、朝廷の悪政の所為だし、私は奴婢って制度が嫌いだからね」
「潁川憲法の理念である基本的人権に反するからですね?」
郭嘉が言う。
「そうだよ」
「う〜む……。それは、朝廷の連中が良い顔をしないかもしれませんぞ。戦争捕虜を奴婢として売るのは、国家財源になりますからな」
曹操が難しい顔で言った。
「賛成して下さる必要はありません。朝廷には『私が強引にそうした』と報告なさって下さって結構です。金銭的問題なら、私が捕虜の人数分朝廷に銭を支払えば済む話ですしね」
「三国王が、そう仰るなら私は構いませんが……」
「私は三国王の御判断を全面的に支持致す旨、朝廷に申し上げます。三国王には御寛大な処分で命を助けて頂き、更には軍功まで御譲り頂きましたからな。これで借りを返せたとは思いませんが、私は義を通したく存じます」
朱儁が胸を張って言う。
朱儁の背後に立つ孫堅も頷いていた。
朱儁と孫堅は、杖刑で100回木の棒でブッ叩かれて足腰が立たなくなったけれど、刑が執行された直後に私が神力で治療したので、すっかり怪我が治り痛みも後遺症もない。
「ありがとう。でも、私を支持して朝廷から目を付けられて欲しくないから、それは遠慮しておくよ」
「しかし……」
「良いから、良いから。何かあったら、私は塔里木帝国に逃げちゃえば良いしさ」
ま、私が天帝だと知っている天子(皇帝)が、私に敵対するとは思わないけれどね。
「その時には、この朱公偉(朱儁)めが微力ながらご助力致し、三国王の撤退をお助けする為、一命を投げ打って殿軍を務め血路を開きますぞっ!」
「あ、ありがとう……」
私は不死身だし転移も出来るから、血路なんか開いてもらう必要はないんだよ。
何だか分からないけれど、私は朱儁から懐かれたみたいだ。
ま、別に良いけれどさ。
こうして、長社の戦いは終わり、私は降伏した黄巾の捕虜5万人を比較的軽い罰で赦し、潁川の市民として保護する事にした。
甘い処分なのは、分かっている。
でも今回の対応は、応竜から文句を言われなかった。
軽い罰だけで命を助けられて、潁川市民になって生活の心配がなくなった元黄巾の捕虜達は、後に全員私に深い感謝をして神力の供給源になったからね。
日毎5万神力追加。
毎度あり。
応竜は、現金な奴だよ。
お読み頂き、ありがとうございます。
もしも宜しければ、いいね、ご感想、ご評価、レビュー、ブックマークをお願い致します。
本作の時代背景上、人名や地名に非常用漢字が多用されており、文字化けが起きるかもしれません。
・・・
【お願い】
誤字報告をして下さる皆様、いつもありがとうございます。
心より感謝申し上げます。
誤字報告には、訂正箇所以外のご説明ご意見などは書き込まないようお願い致します。
ご意見ご質問などは、ご感想の方にお寄せ下さいませ。
何卒よろしくお願い申し上げます。




