お嬢様、王子に会う
「ケイン殿下ではありませんか。」
「やぁ、エリアス。
変わりないか?」
ケイン殿下と呼ばれた男が、返事をする。
「とても良く過ごさせていただいております。」
私を置いて、2人は簡単に挨拶のような会話を始めた。
(うまく私だけでも逃げられないかしら…)
ケイン殿下は、私の住む国の王子。
つまり…私の婚約者にして憎き敵。
そんな奴と話すなんてゴメンな私は、話さず立ち去る方法はないかと必死に考えている。
しかし、呆気なく私の目論見は敗れ王子が私に話しかけてきた。
「こっちを見てくれないかな。青薔薇姫。」
ゾワッと背筋に何かが、這うような感覚がした。
(うざいッ‼︎キモいッ‼︎)
思わず手が出てしまいそうになるのをグッと抑えて、私は拳を握りしめながら王子へ体を向ける。
引きつりそうになる顔をなんとか笑顔に変えて、スカートの端を軽く摘むと、侯爵令嬢らしく、優雅に、可憐に、挨拶をする。
「こ…こんにちは、殿下。」
「やっと笑顔を見せてくれたね。
これから友人達と昼食を取ろうとしていたんだ。
君もどうかな?」
「絶対、嫌よっ‼︎‼︎
こっちはお前が近い未来、私にする裏切りを許してないっての‼︎
少し笑顔を向けたからって図に乗ってんじゃないわよ‼︎」
と叫びたい気持ちを我慢して、目を伏せ心から残念そうに断る。
「いいえ…殿下。
殿下のご学友様方とのご歓談のお時間にお邪魔するわけにはいきませんわ。」
「そんな事気にする必要は無いよ。
僕の友人は、君との食事を楽しみにしていたほどだからね。」
そう言って王子が目配せすると、瞬時に王子の友人…もとい取り巻き達が賛同し始めた。
「その通りです!キーラ嬢。
学園屈指の才女であるあなたと、一度でいいから食事をしてみたいと思っておりました。」
「青薔薇姫と呼ばれる姫。
殿下の婚約者に相応しい美しい方とご一緒出来るなんて夢のようです。」
「先程の光魔法の授業でのご活躍、私のクラスにも届いております。
流石は殿下の婚約者様、と先程もお話しをさせていただいておりました。」
取り巻き達の煽てに気をよくしたのか、王子は軽く頷くと私にニコリと笑いかけると手を差し伸べてくる。
「だから言っだろう?
僕の、婚約者。
遠慮せず、行こうか」
(キモいッ‼︎)
思わず足が後退してしまいそうになった瞬間、周りが大きくざわついた。
「キャァッ‼︎」
「殿下の笑顔、素敵〜♡」
「流石殿下、婚約者のエスコートも完璧だ。」