4.図書館
*前回までのお話*
ナナイロサウルスの幽霊の足跡を追ってやって来たところは、博物館だった。
翌日の夜、タンポポ団は博物館の前に待機していた。
「昨日は、1時きっかりにここへ戻ってきていました。今夜もきっと会えるでしょう」というのが元之の見解だった。
果たしてその予想通り、思い出の小路をすうーっとやって来る巨大な影が現れた。
「ねえ、あんたっ」美奈子が思いきって声をかける。すると、ナナイロサウルスの幽霊は、門の前でピタッと止まり、こちらを振り返った。
幽霊でも、ちゃんと聞こえているんだな、と美奈子は思った。
「あなたは、一体何を探しているんですか?」今度は元之がそう聞いた。「わたし達はあなたを助けたいと思っているんです。力になれるかもしれませんよ」
すると、ナナイロサウルスは長い首をこちらにヌウッと近づけてきた。
どうやら、何か言いたげな様子である。しかし、言葉は出てこず、ただ口をパクパクするばかりだった。
「何を言ってるんだ、こいつは。全然わからないぞ」と浩。
「きっと、捜し物のことをいってるんだよ。僕らでなんとかしてあげたいね」和久も、怖さを忘れて、すっかりナナイロサウルスに同情している。
「どうしたら、この子の言うことがわかるかしらね」美奈子もすっかり困ってしまう。
「とにかく、今までのことをヒントにするしかありませんね」元之はそう言うと、ナナイロサウルスの方に向き直った。「あなたは、学校や図書館に興味があったようですが、そこに何かがあるのですか?」
ナナイロサウルスはうんうん、とうなずいて見せた。
「言葉がわかるみたいよ」美奈子はちょっと驚いた。恐竜にしろクビナガリュウにしろ、人間の言葉を理解しているとは思わなかったのである。
「おれ達、学校に行って色々調べてみたんだ。でも、何も見つからなかったぞ」浩がナナイロサウルスに話しかける。
「図書館はどうですか? あそこに何かあるのですか?」
すると、またうんうんとうなずく。
「それって、あんたにとって大切な物?」美奈子のこの質問にも、大きくうなずく。
「あのう、ぼくらにも見つけられるの、それって」和久がおずおずと尋ねる。ナナイロサウルスは、もちろん、とでも言うようにうなずいた。
「なら、見つけてやろうじゃないか、その何かを」浩が力強く腕を組む。
「そうですね、なんとしても見つけてあげなくてはなりません。やはり、図書館を調べるのが早そうですね」
この晩はこれで終わりだった。ナナイロサウルスは門をすり抜けて、博物館へと帰っていった。
翌日、学校が終わると、タンポポ団の面々は急ぎ足で図書館へと向かった。
「恐竜に関する本を、なんでもいいから、片っ端から持ってきてください」元之が指示をする。
「絵本でもいいの?」と美奈子。
「はい、全部です。その中のどこかに、きっとナナイロサウルスの探しているものの謎が隠されているはずです」
そこで、それぞれが本を次々と持ってきては、テーブルの上に積み上げる。ざっと見て、100冊はあるだろうか。
図鑑、絵本、学術書まであった。
「図書館が閉まるまでに、全部調べられるかなあ」早くも、和久が弱音を吐く。
「今日中に読み切れなかったら、また明日来ればいいじゃないの」美奈子がピシッと切って返した。
一同は黙々と本を読みあさった。浩など、図鑑を取り上げ、次々とページをめくる。ステゴサウルス、アパトサウルスなど、まるで見てきたようにリアルに描かれている。
和久は絵本ばかりを集め、半ば楽しみながら読んでいた。
美奈子は、「恐竜はどうして滅んだか」という、読み物を選んだ。挿絵付きで、それによれば、6,500年前に隕石が降ってきて、環境の変化に堪えきれず滅んだ、と書かれている。
一方、元之は活字ばかりの分厚い学術書から始めていた。そこには、恐竜がどんな暮らしをし、長い長い年月を生きてきたかが書かれていた。
それぞれ夢中になっているものだから、あっと言う間に閉館の時間が来て、その日は本を戻して帰ることになった。
「なんの手がかりもなかったな」浩がしょぼしょぼした目をこする。
「いえ、きっとあるはずです。昨日の晩、ナナイロサウルスがわたし達にも見つけられると言ったではありませんか」
実際には言葉を発したわけではなかったが、クビナガリュウの意図は全員が理解していた。
「なんとしても、見つけなくっちゃね」美奈子は独り言のように言うのだった。
次の日もタンポポ団は図書館へ行った。
浩など、何冊もある恐竜図鑑を2度も3度も読み返している。
元之は元々読むのが早いので、すでに4冊目に突入していた。それは「恐竜の起源」という、小学生が読むには少し難しい本だったが、彼は苦にもならない様子で読みふけっている。
この日も、まるで収穫がなかった。
結局、まる1週間、図書館に通い詰めの毎日。それでも、誰1人としてあきらめようという者はなかった。
あの晩のナナイロサウルスの様子が、どうしても頭から離れないのである。
日曜日、相変わらず図書館で調べ物をしていると、それは突然起こった。
元之が「恐竜は眠る」という詩集を読み終えたとき、本が突然消え、代わりに皿のような物体が現れた。それは虹色に輝いていた。
「これですよ!」元之が叫んだ。「これこそ、ナナイロサウルスの探していたもの、そうです、これまでどうしても見つからなかったという、残りの骨です!」
どこの骨かまではわからないが、七色に輝いていることが何よりの証拠だった。
「さっそく、館長の下へ急ぎましょう。あの人ならきっと、どこの骨かわかるはずですからね」
一同は、散らかり放題の本を大急ぎで片付けると、その足で博物館へと向かった。もちろん、例の骨を隠し持ったまま。
博物館に着くと、真っ先に館長室へと飛び込む。館長はいつものようにイスに座り、のんびりと本を読んでいるところだった。
そこへタンポポ団が慌てた様子でやって来たものだから、飲みかけのコーヒーを危うくこぼしてしまうところだった。
「どうしたんだね、いきなり。わしに何か用でも?」タンポポ団は館長の回りに集まると、虹色に輝く骨を差し出した。
「館長、これを図書館で見つけました。どうやって見つけたのかは、この際聞かないでください。ややこしい話になりますので」
「で、これはナナイロサウルスの骨なんでしょ? いったい、どこの骨だかわかります?」美奈子も、知らず早口になっていた。
「確かに!」ナナイロサウルスの骨を受け取るなり、館長は声を上げた。「これはナナイロサウルスの頭頂部の骨だな。今日中にも学術団を呼んで、レプリカと交換してもらうこととしよう」
館長が電話をすると、ものの10分としないうちに学術団が修復にやって来た。
ただ、元が接着剤でしっかりついているものだから、それを外すのに30分もかかってしまった。
「図書館で見つけたと言っていたね」と館長。「そこのところ、もうちょっと詳しく説明してもらえないだろうか。もしかしたら、残りの部分も見つけることができるかもしれない」
タンポポ団はそれぞれ互いの顔を見て、どうしたものかと思案した。あの奇跡のような出来事を説明したところで、果たして信じてもらえるだろうか。
けれど、とうとう元之が説明を始めた。
「実は、先日の晩、ナナイロサウルスの幽霊と会話をしたんです」
「なんと! あやつはものを言うことができるのかっ」
「いえ、言葉は話せませんでしたが、うなずいたり首を振ったりと、こちらの言葉が通じたのです。いつかの晩、ナナイロサウルスが図書館を気にしているのに気付いたので、そのことを聞いてみました。すると、自分の探しているものはそこにある、しかも、わたし達がそれを見つけることができる、そう答えたのです」
「ふむふむ、それで?」
「恐竜に関する本を、片っ端から調べました。どこかに、ヒントが隠されているのではないかと思いましてね」
「なるほど、で、骨のありかがそこに書いてあったのだね?」
「そうじゃないの、本が骨に変わっちゃったの」美奈子が口を挟む。
「ええ、そうなんです。『恐竜は眠る』という本を読み終わった途端、この骨が現れた、とこういうわけなのです」
「ふうむ」館長はナナイロサウルスを見上げながらあごをなでた。「それは確かに不思議な話だな。本だったものが、いきなり骨に変わってしまった、そう言うのだね?」
「はい」一同は、ほとんど同時に返事をした。
「まったく、謎が謎を呼ぶわい。わしが思うに、図書館にある骨はこれっきりだろうな。ほかに何か知っていることがあったら、教えておくれ」
「学校にも興味を示してましたよ」浩が答えた。
「あと、思い出の小路のブロンズ像も、1つ1つ調べてました」和久も思い出して、そう言った。
「ということはだ。それらも、今回同様、唐突に骨が出現する可能性があるな」館長は考え深げに言った。
「そうなんですか?」美奈子は聞いた。
「そうとしか思えん。問題は、ナナイロサウルス自身も、正確な場所をわかっていないらしいことだな」
やっとのことでレプリカを取り外し、代わりに本物のナナイロサウルスの骨が埋め込まれた。まるで、初めからそこにあったかのように、ピッタリと収まる。
「残りは4つか。ぼく、全部揃ったら何かが起きそうな気がするんだ」と和久が言った。
「何かって、例えば?」と美奈子。
「そんなのわからないよ。ただ、なんとなくそんな気がしただけだもん」
「いいや、和久君の言う通りかもしれんぞ。とにかく、君達には感謝しなくてはならないな。明日のラブタームーラ日報で、また写真が載るな」館長は満足そうにうなずくのだった。
「よーし、こうなったら、残りもおれ達が見つけてみせるぜ」そう浩は意気込んだ。
そのとき、「ありがとう」と言う声を聞いた。いや、頭の中に直接話しかけてくるような感じだった。
しかも、それはタンポポ団だけのようだった。館長も、学術団の誰も、その声には気がつかなかったからだ。
「今の声、聞いた?」美奈子は元之達を見渡した。
「聞こえましたよ」
「ああ、聞いたぜ」
「うん、ぼくも聞いた」
「どうやら、ナナイロサウルスがわたし達に礼を言ったようですね。どうも、このクビナガリュウとは縁があるような気がします。」元之はつぶやくのだった。
*元之のお使い*




