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ナナイロサウルスの捜し物

*前回までのお話*

クビナガリュウの足跡を追ってやって来たのは、なんと博物館だった。

 日曜日、タンポポ団はさっそく博物館へと出向いた。夜な夜な歩き回るクビナガリュウが、どうやらナナイロサウルスの幽霊らしいとわかり、改めて調査する必要があると思ったのだ。

 博物館は今、恐竜展を開催していた。あちこちに恐竜のポスターが貼られ、新しくレプリカも追加されていた。

 しかし、なんと言っても目玉は、吹き抜けの広場の真ん中にでんとそびえるナナイロサウルスだった。

 周囲を柵で囲い、証明も効果的に手伝って、七色に美しく輝いていた。

 当然、見に来ている客もその回りに群がり、わいわいと騒いでいる。

「さすがに混んでるわね」辺りを見回しながら、美奈子が言った。

「そりゃあ、みんな恐竜がすきだからな」と浩。

「この間の晩見たクビナガリュウの幽霊は、やはりこのナナイロサウルスのようですね」プリントアウトしてきた写真と見比べながら、元之はうなずく。


「やあ、タンポポ団が揃ってやって来るなんて久しぶりだね」そこへ館長が現れ、一同を見渡した。

「あ、館長。ちょうど会いに行こうと思っていたんです」元之は手間が省けたと思った。

「わしに何か用でも?」

「ぼく達、夜中に歩き回る影の正体を突き止めたみたいなんです」和久もいささか興奮気味に言う。

「ほう、さすがはタンポポ団だな。で、それはなんだったんだね?」

 そこで、元之はこれまでのあらましを話して聞かせた。カエデ通りを滑るように歩いてきたクビナガリュウ。そして、着いた先がこの博物館だったことを。

「なるほど、するとあれはナナイロサウルスの幽霊だったというわけだな。どうも、ただのクビナガリュウではないと思っていたのだよ」館長も、何か感じていたらしい。


「ナナイロサウルスは、何か探してたみたい」美奈子がそう説明する。「図書館だとか学校だとか、いろんなところで足跡が止まっていたの」

「何かを探す? はて、なんだろう。宝物だろうか」館長は首を捻った。

「わたしはそうじゃないと思います」元之が反論する。「宝物があるとすれば、図書館などを気にするはずもないし、きっと、自分にとって大切な何かなんでしょう」

「館長、何か心当たりとかないですか?」浩が聞く。

「うーん、そう言われてもなあ……」館長の首はますます傾いていった。

「ドラゴンって、玉を握っているよね。きっと、あんなものじゃないのかなあ」和久が思いつく。

「発掘現場は、もう探し尽くしたんですか? まだ、何か埋もれているのかも」美奈子が聞いた。

「ああ、とことん探したよ。だが、出てきたのはここにあるだけだったなあ」館長はナナイロサウルスを見上げた。


「ところで、ナナイロサウルスって何年くらい昔の骨なんですか?」浩が尋ねる。

「そうだなあ、研究者の話によれば、ざっと1億年ほど前らしい。その間に地層も変わって、骨は散乱し、探し回るのに苦労したぞ」

「それで、骨はすべて見つかったんでしょうか」元之がそう聞く。

「いや、全部というわけにはいかんかった。何ヶ所かはどうしても見つからなかったのだ」

「雨で流されたか、動物が持っていったかしたのかしら」

「あるいはそうかもしれん」

「どこの骨が見つからなかったんですか?」と元之。

「どこだったかなあ。そうだ、わしの部屋へおいで。復元の時の図面がある。それでわかるぞ」


 一同はぞろぞろと館長室へついていった。

 館長は、ずらっと並んだファイルから1冊を取り出すと、みんなの前に広げて見せた。ナナイロサウルスの骨格が細かく描かれている。

「えーとじゃな、まずは頭の部分だ。それから胸の一部もなかった。それから喉の骨が1つ足りなかったな。前足と後ろ足の指も、それぞれ1本ずつなかった。まあ、それらはレプリカをこさえて付け足したがな」

 元之は図面をじっと見つめていたが、やがてハッとしたような顔をした。

「館長、ナナイロサウルスはもしかしたら、そのなくなった骨を探しているんじゃないでしょうか」

 これに対し、美奈子は疑問を投げかけた。

「でも、図書館や学校が関係するとは思えないわ」

「いや、何か手がかりがあるのかもしれませんよ。例えば学校の理科実験室。あそこにはホルマリン漬けの標本のほか、剥製などもありましたね。もしかすると、そこにナナイロサウルスの骨があるかもしれません」


「あっ、そうか。ぼく、日直の時に何かの骨を見たことがあるよ。もしかしたら、あれがそうなのかも」和久がうれしそうに叫んだ。

「だったら、行ってみましょうよ、理科実験室」美奈子がそう提案した。

 そんなわけで、タンポポ団は博物館を後にし、学校へと向かった。


 夜と違って、昼間の学校は少しもおどろおどろしいところはなかった。

しかも、4人揃っているのだから、日曜日で誰もいないとしても、怖いとは感じなかった。

 美奈子達の小学校は、日曜日は校庭開放されているので、堂々と中へ入れた。クラブ活動もあるので、校舎の鍵は開いたままだった。

「理科実験室はたしか2階だったわね」美奈子は先頭を立って階段を上っていった。

 ところが、理科実験室についてみると、ドアに鍵が掛かっている。考えてみればそれも当然である。ここには劇薬なども置かれているのだ。

「誰か、職員室へ行って鍵を借りてこいよ」浩が指図する。

「ぼくが行ってくるよ」和久が買って出た。

「なんて言って借りるつもり?」と美奈子。「理科実験室なんて、日曜日に入るような場所じゃないでしょ」

「確か、宿題でカエルについて調べなくてはなりませんでしたね」元之が思いつく。「あそこにはカエルのホルマリン漬けがありましたよ。それを見たいと言えば、許可が出るんじゃないでしょうか」


 和久は職員室に向かった。本当のところ、内心ドキドキしていたのだ。いきなり怒られたらどうしよう、と想像して。

 幸いなことに、当直の先生は担任の小倉静子先生だった。

「あら、どうしたの?」小倉先生はちょっと驚いたような顔で聞く。

「あのう……その、カエルのホルマリン漬けを見たいので、理科実験室の鍵をお借りしたいんですけど……」やっとのことでそう言う。

「ああ、そう言えば宿題に出してたわね。いいわ。その代わり、薬の瓶とかには絶対触っちゃだめよ。危険なものもたくさんあるんだから」

 あっさり鍵が借りられ、和久もいささか拍子抜けするほどだった。


「おーい、鍵を借りてきたよー」和久が廊下を駆けてくる。

「よし、中へ入ろうぜ。ナナイロサウルスの骨があるといいな」

「でも、もしあったらどうするの? 黙って持って来ちゃう?」美奈子は聞いた。

「そうですね。先生に断って持っていくのが得策でしょう。あれは博物館にあってこそのものですからね」

「でも、ナナイロサウルスの骨だってわかるかなあ」和久が心配する。

「ばかね、ナナイロサウルスの骨は七色に光ってるの。ひと目見ればすぐにわかるわ」

 一同は理科実験室に入っていった。


 ムッとする匂いが立ち込めている。ふだんは気がつかなかったが、意外と気味の悪い部屋だった。

 人体骨格の標本が立ち、棚には薬瓶がいくつも並んでいる。

 さらに置くへ行くと、ホルマリンのビンに詰められた動物が何十体も並んでいる。

 和久は、自分1人で来るハメにならなくて、本当に良かったと思うのだった。動物達はうつろな目でこちらをじっと見つめている。死んでいるとわかっていても、薄気味の悪いものだった。

 レプリカか本物かわからないが、ニホンオオカミの剥製が置いてある。まるで、今にも飛びかかってきそうだ。

 とある棚には、化石がケースに入って並べられていた。アンモナイト、三葉虫、恐竜の足跡。

 その同じ棚に、やはりケースに入った骨が置かれていた。ラベルにはヴェロキラプトルの胸骨と書かれている。


「恐竜の骨はいくつもあるけど、七色に輝く骨は見当たらないな」と浩はつぶやいた。

「奥の方にあるのかも」美奈子は、背伸びをして棚の奥を覗いてみた。しかし、「ティラノサウルス・レックスの歯」と書かれたケースがあるばかり。

 4人はしばらくあちこち探して歩いたが、結局、七色に輝く骨を見つけることはできなかった。

「やっぱり、ここにはないみたいだわ」あきらめたように、美奈子が溜め息をつく。

「では、ナナイロサウルスは学校などに興味を持ったのでしょう」元之も首を傾げる。

「やっぱ、勉強しに来たんじゃね?」浩がまたおどけてみせた。

「ぼく、絶対にここにあると思ったんだけどなあ」和久もがっくりと肩を落とす。

「わたし達は何か見落としているのかもしれません。やはり、ナナイロサウルスの探しているのは、ほかの何かなのかもしれませんね」


 一応、カエルのホルマリン漬けを観察して、一同は理科実験室を後にした。

「どうだった? カエルは見つかったかしら」鍵を返しに行ったとき、小倉先生が聞いた。

「あ、はい。見つかりました。あれって、ガマガエルですね。ずいぶん大きいんで、びっくりしました」和久は心にもないことを言う。

「ウシガエルっていうのがいてね、それなんかもっと大きいのよ」小倉先生は両手を大きく広げて見せた。30センチはありそうだった。

「大きいんですね」

「そんでもって、夜、暗くなるとモーモーって鳴くの。そこからウシガエルって名前がついたんだけどね」

 内心、カエルの話などどうでも良かった。ナナイロサウルスのことで頭がいっぱいだったのだ。それでも、話を合わせなければと思い、

「へえー、そうなんですか」とだけ答えた。


 タンポポ団は学校を出て行きながら、それぞれにあれこれ考えていた。

 ナナイロサウルスは何を探していたのだろう。当然、まだ見つかっていない自分の骨だと思っていたのだが。

「まさか、理科実験室以外のどこかにあるとか」美奈子が誰にともなく聞く。

「思い当たりませんねえ。第一、七色に輝く骨なんてあれば、とっくに気がついているはずです」

「おれ達の入ったことのない部屋かもよ。例えば校長室とか」

「ぼく、1回入ったことあるよ、校長室に。みんなからいじめられていないかとか聞かれてさ。でも、あそこにもなかったなあ」

「ともかく、学校のことは後に置いておいて、次は図書館を探してみることにしましょう。もっとも、学校以上に可能性が低いと言わざるを得ませんがね」元之はそう言って締めくくった。

*次回のお話*

4.図書館

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