表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガールハント  作者: みやしろちうこ
番外編三 お弁当

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
37/45

02

 オレンジ色をした楕円の、二段重ねのお弁当箱。

 箸ではなく、先の丸いフォークがついている。

 水色地に黄色とオレンジがさくらんぼのようにくっついているランチボックスからでてきた弁当箱に、成瀬の目は釘付けとなった。

「……じろじろみるな英輝」

「いや、みるでしょ。それはみるでしょ」

 いつもの昼休み。グランドの端。日陰にあるコンクリートの低い塀に腰掛けての昼食。

 昼食はたいてい売店でパンや弁当を買ってすませている剣持が、この日は見慣れぬものを持参してきた。

 成瀬は父親手作りの、青色の布で包まれた弁当箱とお茶のペットボトルを持参するのがつねだった。

 いま、その弁当の包を解く手をお休みして、剣持の膝のうえを凝視している。

「そんなかわいい弁当箱、おまえ買ったわけ? いや、いいのよ始ちゃんが買ったっていいんだけど……おまえ自分でそれ作ったの?」

 剣持の答えは黙秘だった。

 弁当の中身は、緑や黄色や赤が色鮮やかなものだった。

 わが父親の、作り慣れした弁当にはない初々しさが感じられた。

 親友からの視線を痛いほど感じているだろうに、それにはもはや黙ったままで、剣持は神妙な顔で弁当を持ち上げて、フォークをつかって食べだした。

(あれは、市販の弁当の具をつめたって感じじゃないぞ。始が自分で作ったか、あのじいちゃんが作ったか。第三者が作ったか、だな)

 そうなってくると、相手は決まってくる。

 剣持はよほど強引な相手からでも、納得しなければ受け取らないだろうし、ほだされるにしろ、それはそうとう根気がないとできないことだ。

 この条件に合致するのは、このお硬い男に冷たくされてもめげもせず、告白してから数ヶ月経ってもあきらめる様子もなく、文化祭では剣持の恥ずかしい場面を劇的に救ったかれ。ひとつ年下のかれしか成瀬にはおもいあたらない。

(――すごいねえ、美幸ちゃん……。ついにやったんだなあ……)

 本当にすごい。

 この永久凍土に花を咲かせるとは。





 成瀬は、自分でも剣持にたいする気持ちが恋心なのか、友情なのか計りがたかった。

 同性しかいない世界で、厚い友情は恋愛感情と肩を組んでいる。

 仲のいい友達に恋人ができたら寂しくなる、ただそういった心境なのかもしれない。

 桜井が剣持に近づいてきたときも、告白をしたときも、ただただ面白くなってきた、としか感じなかった。

 時を経ても揺らがないかれの気持ちに、柄にもなく心打たれたりもした。

 しかし、こうして桜井のお手製弁当らしきものを食べている剣持をみると、わああ! といってオレンジ色の弁当箱をとりあげて投げ捨ててやりたいような気持ちになっている。

「おまえ、いいのか!? 美幸ちゃんでいいのか!?」

 襟を両手でつかんでがくがく揺らしてやりたい。

 その一方で、心のどこかで、まあいいんじゃないとおもっている自分もいる。

 成瀬も自分の弁当を食べだした。

 じっさい、手作りの弁当を持たせてくれるなんて、これが愛情でなくてなんだというのだろう。

「英輝、事故に気をつけてな。信号を渡るときはいったん止まるんだぞ」

 自分の父親の毎朝のセリフをおもいだす。

 おれは小学生か……とこれまた毎朝おもうのだが。

 会社勤めをしているというのに、毎朝早く起きて息子の弁当を作ってくれる。

 売店でなにか買うから無理しなくていいというのだが、父親は頑としてやめない。

「英輝には米を食べてほしいんだよ。しっかり食って、元気でいてほしいんだ」

 それが父の気持ち。

 息子はちゃんと、親からの愛情を受け取っている。





 きれいに食べ終わると、剣持は丁寧に弁当を重ね、ランチボックスにしまいこんだ。

「美味しかったか」

 意地悪くきいてやる。

「ああ」

 剣持は視線をグランドにやりながら返事をした。

 ついにだれからのものか白状しなかった。

 昼休みもそろそろ時間切れとなるころ、ふたりして教室にむかっていると、中庭でクラスメイト数人がミニバスケをしている姿をみかけた。

「あ、みんなバスケしている」

「本当だ」

 階段の二階踊り場の窓から並んで見下ろした。

(お、岩井がいる)

 眼鏡に日差しを反射させながら、たくみにボールをあやつっている。

 成瀬はちらっと隣の友人の横顔をみた。

 真面目な横顔が、岩井はちょっと似ている。

 だから、いま付き合ったりなんかしたら、勘違いしてなにをどうしてしまうか自分で自分を予測できない。

「あーあ、おれもほしいなあ、お弁当作ってきてくれるかわいい恋人」

 そうため息をついていうと、平手でばしっと頭をはたかれた。

「照れるなよ始ちゃん。初々しくっておれのほうが照れるっつーの」

「黙れ英輝」

 そういうと友人は耳を赤くして、さきに階段をあがっていった。

 その背を見送ったあと、右手にさげている青い包を持ち上げた。

「……まあ、おれはまだ当分、親父の愛情弁当で我慢しよう」

 自分にもいずれ、弁当を作ってくれるかわいい恋人か、作ってあげたくなるような愛しい相手ができるかもしれない。いまはそれを楽しみにしておこう。






番外編三 完結


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ