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「俺は勇者だ!魔王を倒すぞ!」 ~チート勇者と巻き込まれヒロインの奮闘記~  作者: 川合 佑樹


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第1話

 魔法学校に進学した13歳の少女は、春の朝の大通りを一人で歩いていた。


 朝陽が大通りを柔らかく金色に染め、道端の若草に夜露がまだ残って、きらめいている。


 街路樹の枝々が新緑を一斉に芽吹かせ、風がその葉をそよがせるたび、みずみずしい緑の香りが漂う。


 平坦な道に、自分の足音が響いた。


 その横を、何台もの馬車が通り過ぎていく。


 馬の吐息が白く空気に溶け、車輪が道を転がる音が、静けさをかき乱しては遠ざかっていく。


「いいなぁ……」


 遠目から馬車を眺め、そんな小さなぼやきをこぼした。


 マルキュナは寮から学校へ向かっている途中だった。


 学校と寮はそれほど離れているわけではなかったが、馬車への憧れはあった。


 特別な理由がない限り、みんな馬車で向かう。


 そういう学校だったからだ。


(せめて友達と登下校できればなぁ)


 これから毎日、こんな朝が続くのかと気分が少し沈みかけたが、すぐに自分を叱咤した。


「何を考えてるの、マルキュナ。これからが大事なんじゃない。こんなところで躓いてちゃダメ」


 これも訓練だ。


 魔法使いになるなら、体力だって必要だ。


 そう思い直し、背筋を伸ばして歩みを進めた。



 学校に着くと、巨大な白い石門が彼女を出迎えた。


 マルキュナは無意識に自分の茶髪のおさげを両手で軽く整えた。


 噂で聞いていたよりもずっと荘厳で、どこか近寄りがたい威厳に満ちている。


 到着するやいなや、係の人が少し驚いた顔をして、すぐに講堂へと案内してくれた。


 おそらく、歩いて入学式に来る生徒など初めてだったのだろう。


 マルキュナは係の人の後ろについていき、静かに歩いた。



 門をくぐると、広大な中庭が広がっていた。


 同じ制服を着た生徒たちが、あふれている。


 先輩なのか同級生なのか分からなかったが、みんな楽しそうだった。


 誰かの杖先から小さな光の蝶が舞い上がり、笑い声と共に空中を飛び回っていた。


 遠くの噴水では、水の魔法で虹を架け、通りすがりの生徒たちが手を叩いて喜んでいる。


 周囲の生徒たちは三人、四人と自然にグループを作り、興奮した声で言葉を交わしていた。


 講堂に近づくにつれ、そのざわめきはさらに大きくなった。


 講堂の巨大な扉が開くと、中はすでに熱気で満ちていた。


 天井には魔法陣が浮かび、柔らかな光を落としている。



 講堂での入学式中、他の生徒たちは新しい学び舎への希望や未来への期待を大きく膨らませているようだった。


 けれどマルキュナだけは、どこか暗い表情を浮かべていた。


 彼女は決して裕福な家庭の生まれではない。


 学費を稼ぎながら通うことがすでに決まっていた。


 その両立が本当に可能なのか。


 そんな恐怖が、式の最中も胸を締めつけていた。


 周りには知り合いなど一人もいない。


 他の生徒たちは、すでに小さなグループを作っている。


 その疎外感が、彼女を襲う。


(みんな昔からの友達なのかな……?)


 ただ、そんな想いを抱いているのは自分だけではないようだった。


 同じように周りをきょろきょろと見回している生徒が、ちらほらいる。


 安堵はできないまでも、どこか仲間意識のようなものが芽生えるような気がした。



 この学校では、みんな同じ制服を着ていた。


 男女の違いは、ズボンかスカートかだけ。


 これは昔からの伝統で、女性の生存率を上げるためだと、制服の仕立て屋で教えてもらった。


 ズボンしか履いたことがなかったので、この涼しさに危うさを感じた。


 詳しい理由までは聞けなかったが、きっと女性であることを明確にするのが大事なのだろうと、マルキュナは勝手に納得していた。


 そんなことを考えながら周囲を見渡しているうちに、入学式はつつがなく終わった。


 内容はほとんど覚えていない。


 ただ「頑張れ」と言われたような気がする。


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