13.記憶の記録
季節は夏から秋に移り変わった。朝晩と冷え込むようになり、あっという間に雪が降るんだろうと思い始めた頃、私は復職する事となった。
とはいえ、あくまでも「リハビリ」だ。勤務時間は短く、徐々に働ける時間を増やす事となったが、一日が終わる度に、毎回ほっと胸を撫で下ろす。
今日も無事だった、何事もなかったと。
疲労は徐々に蓄積していったのだけど、正直なところ、その頃のことはよく覚えていない。漠然とした辛さだけは感覚として残っているのに、小さな事柄も記憶からは拾い上げられなくて、ただ「苦しい」と「辛い」が混在していた。
職場での面談ではよく泣いた。何が辛かったのか当時は言語化できていたのだろうけど、それすらもよく覚えていない。涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながら、現状を吐露していたのだけれど、何をぶつけたのかは霞がかかって思い出せない。思い出す手がかりは、日記だけ。一日たった数行だけだが、仕事を休むようになってから、記録していた出来事と心情。書き殴った字は、その日によって姿が違う。蚯蚓がのたうち回ったような字だったり、とても小さな文字だったり、丁寧に書いた字だったり。
日記の中によく出てきた言葉は、「不安」だった。失敗しないか、怒られやしないか、間違いやしないか、全てに於いて「不安」を中心に日記は綴られている。
通院していても一向に良くならない不安。薬を増やしてもいいことはないと主治医に言われたと書かれているものの、ぽんぽんと薬を増やしていったのはどこのどなたでしょうと問いただしたくなる。
朝昼晩と薬を飲んで、眠る前に眠剤も飲む。そのルーティーンは一度目の休職から何も変わっていない。薬の量は時間と共に増えていったのだけれど、それに反比例するかのように、私の不安は強くなるだけだった。
私はパタンと、日記を閉じた。
今日で短縮勤務は終わり。あと一度眠りにつけば、勤務時間は元に戻る。上手く働けるだろうか、上手く喋られるだろうか、上手く…上手く…上手く…。
完璧なんて求めるべきでないのに、完璧主義者の私が顔を出す。完璧になんて出来ないのに、完璧を求めるから今の私が出来上がったというのに、どうやら懲りていないらしい。
もう一度日記を開く。殴り書きの文字は震えていて、私は日記を開いたまま机の上に突っ伏した。開いた頁には滲みが出来る。書き殴った文字は滲んだ。
『明日が怖い』
久々の更新です。なかなか自分の中で何を書こうかがまとまらなくて…。あと数話で終われると思いますので、ゆっくり見守っててください。




