勝ったけど最悪
「はぁ~。」
生きている。
それだけで、力が抜けた。
「レオンちゃん!最高よ!」
次の瞬間、花園の面々が飛びついてくる。
「やめてくれ!当たってるって!マジで離れて!」
「何よ!今は喜ぶ時よ!」
「んなわけあるか!」
全裸のオッサン達に抱きつかれ、最悪の気分になる。
「ははっ……でも、生きてる」
そう呟いた瞬間――
脳裏に、あの言葉がよぎる。
――近いうちに現れる。
「……」
「レオンちゃん?どうしたの?」
「いや、なんでもないです」
振り払うように首を振る。
「でも、ドラゴンの目的が俺の呪で、俺を殺す事って……」
視線が、崩れた城壁へ向く。
瓦礫。
煙。
戦いの痕。
「……この惨状は、俺のせいって事ですかね」
「幸い、騎士や冒険者はかなり離れた所まで退避してるから聞かれて無いはずよ」
オネイが軽く肩をすくめる。
「その事は、ナイショにしておきましょ」
「いいんですかねぇ」
「知られたら面倒よぉ?」
にやり、と笑う。
「何かしらの罰を受けた上で、最悪――危険因子として処分される可能性もあるわ」
「絶対に喋りません!」
「アリスちゃんには言っておいたほうがいいかもね」
「レオンちゃん、嘘とか演技下手そうだもの」
「……否定できないです」
「アリスちゃんは頭いいし、上手くフォローしてくれるわよ」
「ですね。俺も二人に秘密とか無理そうです」
「この後も大変だけど、出来るだけフォローするわよ」
「迎えが来るまで、少し休みましょ♡」
□ □ □ □ □ □ □
「レオン!」
「レオン君!」
城壁を抜けると、ミリアとアリスが駆け寄ってくる。
「無事でよかった……!」
アリスが胸を撫で下ろす。
「心配してる割に面白がって送り出したよね」
「面白がってないわよ!」
「流石レオン、期待通り!って思っただけよ!」
「それを面白がってるって言うんだよ!」
ミリアにツッコみながらも、少しだけ肩の力が抜ける。
「でも、ミリアちゃん本当に心配してたよ」
「ホントに〜?」
疑いの目。
「……まぁいいや」
息を整える。
「今からオネイ様達とギルマスの所に報告行くけど、先生を呼んできてくれない?」
「俺は依頼じゃないけど関わってるから説明しないといけないし、先生も一緒にいてほしい」
「わかった、すぐ呼んでくるね!」
□ □ □ □ □ □ □ □ □
ギルドホール。
ギルマス、担任教師、アーヴィン教授、騎士団長。
そして花園と俺。
全員が向かい合って座る。
「よくやってくれた!」
ギルマスの声が響く。
続けて、
「とりあえず花園の皆さん……」
「服来てくれませんか?」
そう、こいつらは未だに全裸だ。
「私達の美しい裸を見たくて急いでギルドに呼びつけたクセに♡」
「断じて違う!」
「今日は気分いいからサービスって事でこのままでいいわ♡」
――誰かこいつをぶん殴って欲しい
「本当に今回はヤバかったわよ」
「レオンちゃんがいなかったら、ミトマの街は終わってたわね」
オネイの言葉に、場が頷く。
「攻撃が全く通らなかったし」
「ドラゴンスレイヤーのロー……オネイ様でも、ですか」
「えぇ」
肩をすくめる。
「昔倒したのは“ドラゴンもどき”だったみたいねぇ」
「ドラゴンの因子を取り込んだトカゲ、ですって」
「ドラゴンが……喋ったのですか!?」
騎士団長が身を乗り出す。
「えぇ。そこからして別物よね」
「……何か目的は?」
――来た。
レオンの心臓が、一瞬強く打つ。
「聞いても、黙れとか知る必要はないってガン無視よ」
「失礼しちゃうわよねぇ」
「そ、そうですか……」
安堵と、罪悪感が同時に押し寄せる。
「しかしレオン君、君の魔法は凄かった」
「城門前のモンスターを一撃とは」
「いや〜、それほどでも……」
「謙遜しなくていい!」
強く言い切る。
「ミトマは君に救われた様なものだ!」
――違う。
喉まで出かかった言葉を、飲み込む。
(俺が原因かもしれないのに)
「アーヴィン先生が助言をくれたので、ドラゴンを倒せたんです」
「アーヴィン教授、説明してもらえるかな」
「はい。では私が行っていたレオン君の魔法についての研究から説明いたします。」
静かに立ち上がる。
□ □ □ □ □ □ □ □ □
「――なるほど……」
説明を聞き終え、騎士団長が息を呑む。
「モンスターにそのような臓器が……」
「はい」
アーヴィンの目が、わずかに輝く。
「魔石に魔力を送る“魔力供給臓器”です」
「ゴブリンやオークが他種族を孕ませるのも、その応用でしょう」
「魔力で適合させている……と」
「つまりレオン君は」
「“睾丸”という誤認で魔法を使っていた。そして睾丸の無い者を対象から無意識に外していた。」
「ですが実際は――」
「“繁殖機能に関わる臓器そのものの消滅”」
場が、静まり返る。
「では……制限が無くなった今は……」
ギルマスの声が、わずかに震える。
「……ほぼ無制限に近い可能性がありますね」
空気が、変わる。
「それは実験してみないといけませんね」
アーヴィンの目が、明らかに輝く。
「騎士団長、適当に実験に使える男女数名――」
「とんでもない事を言うな!!」
怒号。
場の緊張が、一瞬で弾ける。
「……冗談ですよ」
多分本気で言ってる。
「報酬の件もあるが、まずは領主様へ報告に向かう」
「オネイ様達には申し訳ありませんが、しばらくミトマに滞在を」
「別に構わないわよぉ♡」
オネイがにっこり笑う。
「レオンちゃんとイチャイチャしてるわ♡」
「全力でお断りします!!」
――その喧騒の中で。
(……ドラゴン族がまた、来る)
誰にも聞こえないように、レオンは息を吐いた。




