戦の始まり
――領主邸
「なに!? ドラゴンにモンスターの大群だと!」
「はい」
ギルドマスターは短く答える。
「“月の陰”が逃げ切れず……ギルドに辿り着けたのは、1名のみ。他は全員死亡しました」
探索を主とし、正面戦闘は避ける。
だが、隠密と撤退に関しては一流――
そのパーティが、逃げ切れなかった。
「……まだ森の中にいるのか?」
「はい。ですが、いつスタンピードが起きてもおかしくありません」
領主の表情が強張る。
「……そうか」
一拍の沈黙。
そして、即断。
「ミトマ騎士団を総動員、防衛に当たらせる」
「街の門は封鎖。事態が収束するまで開けるな」
「冒険者にもギルド依頼を出せ。報奨は弾む」
「私も王都に応援要請を試みる」
「ギルド依頼の準備はすでに進めています」
ギルドマスターは頷く。
「ただ……規模が大きすぎます」
「どれだけの冒険者が街に残ってくれるか……」
領主は静かに目を閉じた。
「……残る者で、守るしかないな」
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――ミトマ領都 市街地
「モンスターの大群が来るぞ!!」
「急げ! 荷物をまとめろ!!」
「馬車が足りない!!」
城下町は、すでに混乱の渦の中にあった。
泣き叫ぶ子供。
怒鳴り合う大人。
荷物を抱えて走る人々。
――ガラガラ……
――バタン!!
重々しい音を立てて、門が閉じられる。
「おい!! 開けてくれ!!」
「まだ家族が外にいるんだ!!」
「ここは終わりなんだ!! 逃がしてくれ!!」
叫びが飛び交う。
だが――
「領主の命令です。門は開けられません」
警備兵は、歯を食いしばって言った。
その手は、わずかに震えている。
(……俺だって……)
逃げたい。
家族だけでも、他の街へ逃がしたい。
だが――できない。
ここを離れれば、逃走罪。
すべてを捨て、追われる側になる。
「……持ち場に戻れ」
別の兵が、低く言った。
誰も反論しない。
できるはずがなかった。
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――ミトマ学院
街から少し離れた学院にも、情報はすぐに伝わった。
当然――
パニックである。
「ドラゴンとか……ヤバすぎだろ……!」
「なぁ……これ、マジで来るのか……?」
ざわめきが広がる中。
「でもさ、レオン君」
「何だよ」
「フラグ、回収できたね!」
「俺はドラゴンと戦わねーよ!」
レオンのツッコミが、虚しく響いた。
だが――
その軽口が、わずかに空気を和らげたのも事実だった。




