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運命の市場 未来そのものを取引する

「見てください。あの店主、透けてますよ? 飲みすぎた後の私の記憶くらい透明です」

マクラが呆れたように指差す先には、輪郭だけがゆらゆらと揺れる店主たちがいた。彼らは過去・現在・未来を同時に見通す超越存在。だが、ドラキチにとっては単なる「契約相手」に過ぎない。


「外見に惑わされないで。彼らは都合の悪い特約を隠すのが上手いからな」

ドラキチは指先に淡い光を灯した。消費者契約魔法は、商品の裏側に刻まれた、運命という名の契約書を暴く魔法だ。棚には怪しげな光を放つ概念が並んでいる。


「運命の回避」――嫌な未来を消しゴムで消せるが、代わりに大切な思い出が一つランダムで消える。

「未知の選択」――人生のルートを増やせるが、セーブポイントがない初見プレイを強いられる。


その中で、ドラキチの目が一点で止まった。

「未来の成功」。

「ほう……『成功の前借り』か。エモいじゃないか」

「全然エモくないですよ。それ、破滅への特急券って読み替えられません?」

マクラの冷静なツッコミを無視し、ドラキチは浮き上がった契約条項を読み解く。


効果:未来の自分が手にするはずの栄光を今すぐデリバリー。

特典:成功規模の拡大、および代償(お支払い)の分割・軽減相談可。

代償:成功後、それまでの「現在の努力」が宇宙の塵となって消失する。


「なるほど。努力が消えるってことは、プロセスが白紙になるわけだ。つまり、結果だけ手に入れて中身が空っぽの『ハリボテの天才』になる危険がある……だが」

ドラキチは不敵に笑うと、魔法の術式を編み替えた。

「消費者契約魔法・追記事項発動!代償の『努力』の定義を『昨夜の飲み会での無駄な粘り』に限定し、特典の『代償軽減』を最大値までブーストする!」

虚空に響くシュレッダーのような音。契約は成立した。


直後、空が割れ、まばゆい光と共に一つのアイテムがドラキチの手元に降臨する。

「おぉ……これが未来の俺が手に入れるはずだった、万能ツール『未来のカギ』か」

それは、どんな物理的な扉も、閉ざされた人の心も、ついでにギルドの給湯室の隠し棚も開けられるという伝説のアーティファクトだった。


「すごい! 本当に手に入れちゃったんですか?」

「あぁ。これがあれば、次のクエストは楽勝だ。……ただ、一つだけ問題がある」

「なんですか?」

「『昨夜の努力』を代償にしたせいで、昨日マクラさんに奢った高いワインの記憶が、領収書ごと消えてるんだ」

「……それ、意図的ですよね? 今すぐそのカギで、ご自分の誠実な心を開門してもらえますか?」


●運命の分岐

「……ねえ、あそこの『特売:ハッピーエンド詰め合わせ』って本当にお買い得だと思う?」

マクラが、フリルたっぷりの袖を揺らしながら胡散臭そうに指差す。

「世の中にタダより高いものはない。特に賞味期限切れの幸福しあわせには要注意だ」


そんな二人の前に、音もなく現れた影がある。

市場の管理者コロコロ。見た目は愛くるしい二等身のぬいぐるみだが、その瞳には銀河が渦巻いている。運命を司る神だ。


「運命を変えたいという者には、それに見合う試練が必要だ」

コロコロの声は、頭の中に直接響く。


「君も、自らの運命と向き合う覚悟があるか?」

ドラキチは一瞬、マクラの胸元のギルドバッジに目をやり、不敵に口角を上げた。

「まあ、どうせならお得な運命を手にしたいからね」


コロコロに導かれ、市場の中央、星屑が降り積もる祭壇へ。そこには三本の「光の糸」が揺らめいていた。

糸A:平穏で退屈な未来。(定時退社、安定の年金生活)

糸B:危険だが成功に満ちた未来。(英雄、だが多額の賠償請求リスクあり)

糸C:未知の未来。(詳細不明、クーリングオフ不可)


「どれを選ぶ?」

問いかけるコロコロに、ドラキチは迷わず手を伸ばした。

「……Cだ。予測可能な未来なんて、規約を読み飛ばすのと変わらない」


刹那、視界が弾けた。

真っ白な空間。現れたのは、これまでの冒険で交わした血とインクの記憶。

『ドラゴンの牙・ローン契約書』『初恋の返金不可通知』――それらがドラキチの周りでダンスを踊る。


「お前が選んだ全てが、未来に影響を及ぼす。だが、その未来をさらに上書きする覚悟はあるか?」

虚空の声が響く。ドラキチはふっと笑った。


「俺の選択が俺らしい未来を作るなら、何度だって選び直してやるさ」

その言葉が「承認」された瞬間、空間がガラスのように割れた。

舞い落ちる破片が収束し、彼の手の中に一冊の重厚な、それでいてどこか軽薄な装丁の本が現れる。


【運命の書:プレミアム・プラン】

効果:未来の運命を自在に書き換え、選択する権限を付与。

特典:契約リスクの分散、運命の不適合に対する自動調整機能付き。

代償:選択肢を増やすたび、現実の時間がコンマ数秒ずつ喪失される。


ドラキチは迷わず指先で「合意」のサインを刻んだ。

「時間が少し減るくらい、残業に比べれば安いものさ。お得に未来を変えられるならね」

「またそんな、維持費の高そうな契約しちゃって……」

マクラは呆れた。


●帰還とさらなる挑戦

運命の市場を後にしたドラキチは、契約書と新たなアイテムを手に、再びギルドへと戻った。未来の可能性を手にしたドラキチの冒険は、ますます広がりを見せることになる。


次回予告

「運命の書」を手にしたドラキチの次の目的地は、「虚無の市場」。そこでは、全てを失う代わりに、全てを得るという究極の取引が待ち受けている――!?


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