私たちのギルド
「アリア~。帰ったよ~」
勢いよくギルドの扉を開けたノエルが、カウンターのアリアを見つけると声をかけた。
「あら、お帰りなさい。無事帰ってきてくれてありがとう。報告は聞いてるわよ?確か、ホーンラビット、ワイルドボア、ゴブリン、オーガよね?」
「近くの村で追加あったからね」
「報酬はまとめてでいい?それとも分けた方がいいかしら?」
「こっちで分けるから、まとめてでいいよ」
「了解。飲んでくんでしょ?後で持っていくわ」
そんなやり取りが先に卓についていた私たちにも聞こえてくる。
やがてアリアに手をひらひらさせて席に着いたノエルは迷わず目の前のジョッキを掴み、勢いよく掲げた。
「さて、と。とりあえずお疲れ~」
「「おつかれ~」」
お互いのジョッキを勢いよくぶつけ合い、溢れる琥珀色のエールがふりかかる。でも気にならない。…なんならそれもこの儀式の醍醐味だと思う。
辛さは苦み。
喉への刺激は生の実感。
全身に染み渡る酒精のエネルギー。
味ならカンナさんの村のエールとは比べ物になんない。
――でも!生きてて良かったぁ~…
何だろう?1つ強くなれた気がする。
「ふぅ…この後はどうするんだ?」
と同じように一息にエールを飲み干したピエール。
「後でアリアが報酬持ってきてくれるから皆で分けましょ。2,3日はオフでいいかなぁって思うんだけど、どう?」
既に2杯目に突入したノエルが口を手で拭いながら答えた。
「私はいいわよ。さっきから皆が煩くて…数日ギルドにいないと暴発しちゃいそうだから」
「私もいいよ!でも小さな依頼なら受けててもいいかな?」
「それもいいかもね!でも受けていいのはDランクまで。C以上ならアタシに声かけなさい」
「分かりました。ちょっと掲示板見てくるね」
――Dまでね。1人で受けてもいいってことは、認めてくれているって証だよね。
掲示板と睨み合っていると、背後の喧騒がさっきより少し大きくなっていた。
「ソファちゃ~ん!助けて~!」
と突然背後からアリアの声。
振り返ると多分ギルド中のハンターが塊になって奇声をあげていた。
――??
あ、レイブさんのとこで見たのと同じ!
そう気付いた瞬間、思わず声が出る。
「いつの間にゾンビが?」
「ソファちゃん!ちょっと!」
「アリア?どうしたの?」
ゾンビの足元の隙間から現れたアリアが飛びついてきた。
「助けて!あれ、なんとかして!」
なんでギルドで集団ゾンビ化?抱き着いてきたアリアから漂ういい香り…さらには腕を挟む柔らかな感触…。この感じだとアリアもファニーくらいか…。
って違う違う。でもこの状況は何?
⦅ソファちゃんじゃねぇか⦆
⦅依頼手伝ってやろうか?⦆
⦅女神が増えたぁ⦆
⦅お前どっちするよ?⦆
⦅順番だろ順番⦆
⦅ええなぁええなぁ⦆
⦅アリアちゃん…⦆
「…一体何したの?ゾンビ魔法?なんとかって…どうすればいいの?」
「魔法!魔法!オーガ凍らせたんでしょ?それよ!それ!」
ホントにゾンビ魔法とかあるの?っていうか凍らせる?
「ええっ?皆死んじゃうよ」
「死なない程度に凍らせて!」
「無理むりムリむり!」
「だいじょうぶ。てつだうよ」
「「ヤクモ?」」
「カチカチにして
ちょっと止めればいい?」
「「できるの?」」
「だいじょうぶ」
「ヤクモちゃん、お願い!」
「アリア好きだもん。まかせて。
ソファ、行くよ?」
「あ~もう!知らないからね?
≪フェンリル≫」
――ホントに知らないからね?
床を這うように白い霧が広がり、氷の蔓が一気に伸びる。ゾンビたちが驚く間もなく、氷柱が立ち上がり“氷の檻”が完成した。
⦅う、うぅぅぅ……さむ……⦆
⦅お、おい……出してくれ……鼻水が…鼻水も凍った…⦆
⦅俺は手伝うって言っただけだぜ?⦆
⦅悪ノリしすぎたよぉ…勘弁してくれよぉ…⦆
“檻”の反対側でノエルがお腹を抱えて床を叩いてる。
――あれ笑ってんの?
その隣でセレナが拍手してる。
――なんかの劇でも見てた?
「ヤクモちゃん、ありがとね。…アナタたちは少し頭を冷やしましょうね」
アリアは小声でヤクモに礼を告げ、“檻”に向けてにっこり笑うと“檻の中のゾンビ”たちの絶叫と天井の軋む音が重なって聞こえる。
――何に巻き込まれたの?
ギルドの夜は――いつもより少し、涼しく更けていった。
――――――――――――――――――
⦅どうすんだよ?⦆
⦅知らねぇ⦆⦅開かねぇ⦆⦅出れねぇ⦆
⦅お前が調子乗るから…⦆
⦅そうだそうだ!⦆⦅寒い…⦆
⦅俺にいい考えがある!⦆
⦅お前が?⦆⦅期待薄…⦆
次回予告!俺たちを氷の檻に閉じ込めたソファちゃんの単独クエスト!
飼い犬探しか?戦闘か?護衛か?気になるだろ?気になるなら応援してやってくれ!
⦅いいじゃねぇか⦆
⦅お前にしちゃあな⦆
⦅…おい!天井ギシギシ言ってんぞ⦆
◇◇◇◇
ソファが席を立ってからの一幕
「…聞いていいか?報酬についてなんだが…俺も貰えるのか?」
「当たり前でしょ?皆で山分け。そういえば言ってなかったね。ファニーもいるんだし、アンタたちはこの国に来たばっかりなんだから。アリアがその辺はキッチリしてくれてると思うけど、アンタはまず稼がないと!」
「すまない。助かる」
「…相変わらず固いわねぇ。
もうちょっと馴染めないと問題ね。
…この後少し時間貰えるかしら?」
ピエールの隣に座っていたセレナが濡れた瞳を向けすり寄る。
「ちょっ!待て!
セレナ!どういう意…」
ドンッ!!
「皆さんお疲れ様でした!」
アリアとともにファニーが報酬を手にテーブルにやってきた。
意味ありげな笑みを浮かべるノエルとセレナに、固まるピエール。
「ちょっと主人に話がありますので。少し…」
丁寧に言葉を交わすファニーに笑顔で答える3人、と青褪めるピエール。
「…謀られた」呟きとともにピエールはファニーに2階へと連行された。
階下では様子を見ていたハンターたちの囃し立てるような声。
「アンタ分かっててやったでしょ?」
「あら?態度が固いのは問題でしょう?離れていたのは数日だけど、2人ともここへ来たばかりで色々あるでしょうし、お膳立てをしてあげたの」
「“色々”って何かなぁ?私はギルドの仕事を教えてるだけよ」
「アリアは厳しいからなぁ~。休憩ってことでいいでしょ?」
「今日はもう上がってもらったわ。人を鬼みたいに言わないでくれる?」
「やるじゃん。“それ”も仕事?」
「私たちの仕事は、依頼の仕分けだけじゃないわ。外に出るだけでリスクはあるんだし、帰ってきた時に“休息”してもらえるなら、その方が効率いいじゃない?」
「やっぱり鬼ね。でも、ピエールはファニーに任せたけれど…このコたちはアリアが見てくれるのよね?」
セレナにそう言われてアリアが辺りを見回すと、いつの間にかギルド中のハンターが聞き耳を立てて集まっていた。
「あっ!」
⦅アリアちゃ~ん⦆
⦅この後癒してくれんのか?⦆
⦅ありがてぇありがてぇ⦆
⦅女神だな⦆
⦅2階、まだ空いてんのか?⦆
⦅待てコラ!順番だろ⦆
⦅あ?おめぇは一日中飲んでただけじゃねぇか⦆
ギルド内は血走った目のハンターたちが蠢き、テーブルの3人は取り囲まれた。
「あ~あ。アタシ知らないからね。これゾンビだよゾンビ」
「助けて!お願い!セレナ!」
「私も今回は“帰ってきたハンター”だから。ね、ノエル。言ったでしょう?暴発寸前って」
「もうしてんじゃん。コイツら弦張り切って指先から血が出てるよ」
「裏切り?味方がいない?
ギルドにも危険がいっぱい?」
「あっちにソファいるわよ?
助けてもらいなよ」
「神?ソファちゃ~ん!助けて~!」




