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第十話『傭兵組合』

約一年ぶりの更新で申し訳ありません。

 アルムザクス帝国の軍備というのは、内政と同様に基本的に地方分権だ。

 領主である伯爵以上の貴族には、領土の統治権や徴税権等が与えられているが、同時に軍を設立し、各地に常備兵を置く義務や、有事の際には決められた兵数を負担する義務も有している。

 公爵領の場合は領邦全土の常住人口の二割、侯爵領の場合は一割、伯爵領の場合は領土の規模や人口に関わらず一律千人以上の常備兵を置く義務と、その常備兵の中から最低でも一割の兵数を負担する義務だ。

 ファイレーガ侯爵領の全人口は一五〇万人程度でその内の三分の一がレガ市に住んでいる。

 この約五十万人の一割である五万人程度がレガ市に配属されている常備兵の数だ。

 しかしながら、レガ市配属ファイレーガ侯爵軍のこの五万人というのは純粋な戦闘員というわけではない。

これは帝国に限ったことではないが、この世界では役人と軍人の区別というものが存在しない。

城壁や公共施設の警備や犯罪の取り締まりだけでなく、公共工事の手続きや防災要員もそうであるし、農民や自由民の税金を徴収する税務官、平民同士の紛争を解決する裁判官、法整備を行う立法官等、領主の下の統治機構で働いている役人は全てが基本的に軍人も兼ねている。

 さて、カリスにはこの領地の兵力五千人程度を誅伐軍に加えさせるという方針を伝えてある。

しかし、その指揮系統や選抜方法、そして実際に広大な領地から集める為の日程等の細々とした調整はやはり話し合う必要があった。

 城の一室でカリスとその側近達、代官であるギャレィとその側近達等の会議が開かれるも、俺は当然ながら不参加となった。

 「後は我々にお任せ下さい。」

 誅伐軍側からも代官側からもそう言われれば、彼等に任せることしか出来ない。

まあ、名目上の総司令官とはいえ、四歳の子供を小難しい会合に出席させるのは、大人たちは気が引けるのだろう。

 そんな訳で俺は城での昼食が済むと、侍女頭のキャロルを伴ってカリス将軍の側近の一人、クロッカ城伯に同行して繁華街へと行くこととなった。

 それにファムと彼女の二人の側近も連れ立ち、更にアクア部隊の面々も同行している。

俺とキャロルとファムはファムの側近が御者を務める二頭牽き馬車に乗り、その周囲を城伯とアクア部隊が囲んで進んでいる。

 タリナ程度の中規模の都市であれば目立つかもしれないが、レガ市は大都市且つ交易の拠点でもある。

大量の荷物を積んだ隊商の馬車が幾つも大通りを闊歩していて、ちょいと小綺麗な馬車がそこに紛れている程度は別に気にも留めていない。

 クロッカ城伯とアクア部隊は、昨日の賞金首の件での手続きの為に傭兵組合へ行き、ファム達は良質な魔石を求めて専用の市場へと向かう。

俺はというと、アクア達の手続きが終わり次第彼女達を護衛兼誅伐軍の戦力として雇う為に彼女達に同行している。

 彼女達は今回の派兵が終わった後に、俺直属の近衛騎士団として叙爵する予定であるが、侯爵領に着く前に『自分達はゼファン傭兵団の中では軽視されている』と彼女達が言っていた事から俺が同行した方が、傭兵団の他の部隊や団長であるアクアの祖父にも話が通りやすいと考えての行動だ。

 「到着いたしました殿下。

ここがレガの傭兵組合支部です。」

 「へぇ~。

まるで城だな・・・。」

 ファイレーガ城から馬の小走りで一時間程大通りを南下した先。

レガ市の南地区にそびえ立つ黒い煉瓦造りの城に、俺達はやってきた。

 かつては一国の皇帝の住まいであった領主の城に少し劣るが、これまでの行軍で立ち寄った領主城にも引けを取らない大きさの城だ。。

 「まるでファイレーガ城と相対しているみたいな城だな。」

 ふと北の方角を見ると、さっきまで昼食を摂っていた領主の城が見える。

 「今は、商人組合と傭兵組合の支部として使っているのです。」

 馬車から降りながら城を眺める俺に、傍に控えていた馬から降りて出迎えた男が答えた。

年齢はギャレィやデオンと同世代の四十歳代後半だろうか。

短く刻んだ角刈り頭に、鼻の下に髪と同じ青黒い髭を蓄えた筋骨隆々のいかにもな武人。

クロッカ=ル=ラーヴェン城伯だ。

 「実は元々この城の名こそが、『ファイレーガ城』だったのですが、今では『南ファイレーガ城』と呼ばれておりまして、北にある領主城はファイレーガ帝国の最後の皇帝が建てた城なので御座います。」

 「・・・クロッカ卿、随分お詳しいんですね。」

 聞かれてもいないのに得意げに城の歴史を講釈するクロッカに、アクアの部下の一人が驚いて口を開いた。

 「ぬははは!

実は当方の妻は、レガ市で生まれ育っているのだ。

何度か来たこともあるので詳しいぞ。

 殿下も、レガ市の観光の際には是非当方を案内役としてお使い下さい。」

 なるほど、暑苦しい情熱を周囲に振り撒く体育会系熱血野郎だ。

同じカリス将軍の側近のデオンと体型も性格も正反対。

ただ、こういった建前や理屈を捏ね繰り回さない明朗快活な性格は、アクア達と通じる所があるようで、昨日が初対面ながらも気の良い仲間のように会話していた。

 

 

 

 傭兵組合というのは、傭兵の審査登録や依頼の受理と審査や斡旋を行う組織だ。

かつては商人達に雇われた護衛達の寄合が各地で独立していた私設団体であったが、先代皇帝『ギルギオギス二世』の時代に帝国政府の公的機関として組み込まれ、帝国各地に支部を持つ単一の組織となったらしい。

登録された傭兵はこういった場所で依頼を受けて仕事を行う。

 仕事の内容は様々だ。

商隊や商人の警備や賞金首の逮捕、魔獣退治や害獣駆除などの荒事から、道路工事の人足や足りない人手の補助やお使い等の雑事まで、依頼は多岐に渡る。

但し、非合法な殺人や略奪をした組合員はその資格を剥奪され、犯罪者として裁かれなければならない。

また、組合に加入していないにも関わらず傭兵の身分を偽って組合経由での依頼を受けることも禁止される等、厳しい規則が設けられている。

アクア達ゼファン傭兵団のうち、二部隊がレーソ森林地帯で捜索していた未認定傭兵五人組もその一例だという。

 そんな傭兵組合の受付というか傭兵たちの仕事の斡旋場は、南ファイレーガ城の一角の正面入口から入った城の玄関を兼ねた大広間が改装して使われていた。

 「ん?

アクア達が貴族様連れとか珍しいな。」

 「ホントだな。」

 大の大人が四~五人は横一列に並んで入れそうな程に大きな出入り口から中に入ると、いかにもな貴族らしい格好のクロッカと俺とその後に続く侍女姿のキャロルという、この場に合わずに目立っている三人の後ろに、アクア達十八人が従っている光景を見た六人組の男達の声が聞こえた。

 大広間の半分は打ち合わせ用や手続き用の脚長の机が並べられており、複数で集まった傭兵たちが立ち話をしている。

 椅子がないのは、おそらく長居させないようにするためだろう。

入り口から右手にはレンガ造りの壁に木の板を幾つも貼り付けて、そこに文字の書かれた紙が鋲で貼られていた。

ここにいる傭兵の半分以上はその近辺に屯している事から、そこに貼られている紙が組合に来て傭兵たちが仕事を請け負う依頼書だというのは、容易に想像できる。

 入り口から見て左側と正面は組合員との手続き用の場所として区切られていて、受付に依頼書を持っていって受注する仕組みなのだろう。

 前世の職業安定所のような仕組みだ。

いや、そもそも傭兵というのは実際の所は日雇労働のなんでも屋のようなモノなのだろう。

筋力はさほどでもなく戦士のような鎧を来ていない、荒事が出来なさそうな外見の者達もチラホラと見受けられた。

 中には十歳前後の子供まで居る。

 「なんだあいつ?」

 「貴族の子供だろ。」

 俺を見た子供傭兵達の声が聞こえて、思わずそちらを見る。

 「殿下、どうなさいましたか?」

 「あんな子供も傭兵やってるんだなと思って。」

 四歳という自分の実年齢を棚に上げて、俺はキャロルに答えた。

 「傭兵は子供でもなれるものなのか?」

 俺は眉を潜めて溜息を吐きながら、顔をアクアに向ける。

 子供なのに働かなければならないという事は、平民に対する福祉政策が不十分だという答えに行き着いたからだ。

 「はい。

規定では十歳から認定資格を得られます。

・・・とは言っても、あの子達は最下級の八級でしょう。

受注出来る依頼は、清掃作業や商店の臨時店員のようなモノですね。」

 「孤児なんですよ。

この近くに神殿が建てた孤児院があるんですけど、そこは最低限の読み書きや作法を教えて、十歳になると傭兵にさせて寝泊まり以外は自分で食い扶持を稼がせるんです。」

 アクアに続いてその部下の、肩くらいまで銀髪を伸ばした背が高くて胸の大きな女が口を開いた。

 「サラ、だったな。

随分詳しいんだな。」

 「アタシとゼイドは孤児ですからね。」

 確か、この女の名前はサラ=ペリオンだったと、侯爵領に付く前にアクア部隊の面々から自己紹介を受けた時の事を思い出す。

 要するに福祉政策や自立支援の一種ということなのだ。

 この世界には魔獣という人類にとって明確な脅威が存在し、国と国同士の戦争以外にも戦う為の力は必要不可欠。

 特に帝国の領土は世界一の広大な面積を誇るが、レーソ森林地帯のような強大な魔獣の群生地を幾つも抱えている。

 帝国兵が他国軍よりも強靭である事も、一兵卒にも男爵位と特権が与えられている事も、貴族の間に魔法術や魔道具が普及している事も、他国ではなく魔獣の脅威に対抗する為というのが理由だ。

 しかし、いくら騎士や兵士が多くても、面積が広大で各地に魔獣が出没すると対処が間に合わない場合も多い。

 特に魔獣の被害が深刻なのは整備された街道から遠い農村部だ。

田畑の周囲に簡易な柵や木製の壁と堀しかない場合だと、成人男性程度の大きさで筋力一辺倒の中型魔獣や害獣には対処出来るが、数年から十数年に一度出没する大型の魔獣には対処できずに、住民が食い殺される事もあるという。

 しかし、流石に全ての農村部に大型魔獣が突破されないようにする立派な防壁を設置するのは現実的ではない。

 農村部は居住区よりも田畑などの農地の方が圧倒的な面積を占める。

故に、居住区には立派な防壁を備える事は出来ても、それを農地にまで広げることは税金がいくらあっても足りない。

昼間に畑仕事中に大型の魔獣に襲撃されて命を落とす者も年に十数人程いる。

 そうやって、戦時でもないのに孤児が発生してしまうことは、国土が広く魔獣の群生地を多く抱えるこの国の深刻な問題であった。

どうしたもんだか・・・。

 

 

 

 「アクア=ゼファン他十七名、依頼達成の報告に来た。」

 受注報告と掲げられた看板の受付に立っていた禿頭の中年男性に、アクアが声をかけて大きな紙と小さな冊子のような物を机へと出した。

 おそらく受注依頼書と傭兵認定証だろう。

背丈の関係で俺の目では詳細が分からない。

 ・・・首が痛くなってきたな・・・。

さっきからずっと上を向いて大人達と会話をしていた所為だ。

 いやね、別に正面を見てもいいのよ本来は。

ただ位置関係的に正面を直視したくない事情があるのよ。

歩いていた流れで、受付の最前列にアクアが立っていて、俺の周囲にローズや部下の女傭兵達が並ぶようになってしまった。

 そう。

 俺の正面にはいつの間にかサーキャ(レオタード)を来た彼女達の尻や鼠径部が壁となっていたのだ。

 紺色のサーキャは申し訳程度にしか尻を包んでおらず、白い肌が満面無く俺の視界を覆う。

 前方右斜め前に立つクロム=レイダーは、机の端に腰を付けるように机を覗き込んでるので、俺の眼前に股間が向いていた。

 布地の面積は少なく、生地は薄い。

それ故に鼠径部どころか、股間の溝のような部分や後ろにある筈の尻の一部さえもよく見えるし、この世界の女特有の甘酸っぱいような香りが俺の鼻腔をくすぐる。

 しかしそれでも前世の習慣から、彼女達の股間や臀部をまじまじと見るのは気が引けた。

なんせ、前世の俺が生まれ育った日本は女性至上主義者(フェミニスト)が蔓延っていたので、女が露出度の高い格好をしていて男がそれを視界に入れただけでも、怒り狂って男を性犯罪者に仕立て上げて金銭を要求したり、男を去勢しようと企てたりする事が平然と行われていたからだ。

 故に前世の俺も自衛手段として、女の居る場所に近づこうとしなかったし、視界に入れることも極力避けていたのである。

 さて、こうしては居られない。

首は痛いし周囲は女体、キャロルは俺の後ろに居るが、今から彼女の後ろに回るのは不自然なので、どうしようかと悩んでいたら、左斜め後ろにいたらしきクロッカ城伯が一歩前に出た。

 俺の視界の端に入ったことでこの男を利用しない手はない。

 「城伯、ちょっといいか?」

 「?

はい、いかがなさいましたか殿下。」

 咄嗟にこの中年男は跪いて俺と目線を合わせた。

貴族としての教育の賜物なのだろう。

 子供とはいえ上位の者を見下ろす事は特段の無礼と言う考えが、根底にあるようであった。

 「肩車してちょうだい。」

 「は、・・・御意。」

 一瞬沈黙したのは、戸惑ったのかな?

俺を肩に載せたクロッカがすくりと立ち上がると、その頭越しに受付の机が見下ろせた。

ついでに受付の男の禿頭が後頭部はまだ微妙に髪が健在なのもよく分かる。

 「じゃあ、アクア。

早速、賞金首を引き取ろうか。

連れてきてんのか?

まあ、死体でも構わないって書いてあるけど。」

 顔なじみなのだろう。

受付の男は気さくに、それでいてどこかぞんざいに対応した。

 「それなんだがこの方が説明してくださる。」

 「うむ。

まず、当方が肩車させていただいているこの御方は、フィローザイン=ストル=アルムザクセル皇孫殿下だ。」

 アクアから紹介されたクロッカは自分の事はどうでもいいとばかりに、俺の紹介をした。

 「・・・・・・見上げると首が痛いので、上からで失礼する。」

 自己紹介をするとばかり思っていたクロッカが俺の紹介を始めたので、その準備をしていなかった俺は数秒の沈黙の後に口を開いた。

 そういえばそうだった。

貴族は身分にかなり五月蝿いから、主や高位の者を差し置く言動を避諱する教育を施されているという事を思い出す。

 そんな俺の油断は兎も角、俺の素性を知った男や周囲の職員は、目と口を大きく開いていた。

 まあ、そうなるだろうな。

彼等平民が普段目にする貴族は殆どが男爵や子爵といったそこいらにいる兵士や騎士達だからで、ごくありふれている。

 この国の貴族階級の九割以上を占める下級貴族とその家族は、全人口の一割五分もいる。

無作為に国民を百人集めたらその内の十五人が貴族という計算だ。

因みに他国と比べて異様に多い割合だが、世界一を誇る面積と各地に大型魔獣の棲家の多い事と、そもそも他国との軍制の違いからこうなっていた。

 他国でもこの国でも貴族という身分は、領地を持つ者という定義がなされている。

そんな領主貴族、つまり伯爵以上の上級貴族とその家族はこの国では一万人程度、つまり三十万人に一人しか居ない。

帝国を構成する領邦は全部で一五〇〇程だが、上位の貴族であればある程複数所持している。

上級貴族では側室を侍らせている者も居るが、それでも一家は数世代で多くても三十人程度なので、そのくらいの計算にはなるだろう。

流石の俺も一桁単位まで細かい数字は覚えていないよ。

 まあそんな感じで、領地持ちの貴族ですら平民には珍しい存在なのだ。

そしてこの国に皇族は三十六人しか居ない。

その皇族序列第三位の俺がこんな所にいる事実を、激しく動揺するくらい驚愕してもおかしくはない。

 「こここここ・・・皇孫殿下!!?」

 受付のおっさんは呂律が回らない程に動揺し、クロッカ城伯の言葉を聞いていた周囲の者達も、一斉に俺に視線を向けてきた。

 彼等の緊張が視線を通して俺にも伝わり、不必要に緊張してくる。

彼等の緊張は当然だ。

 政治的な実権はまだ何もないが、平民からすれば俺はこの国では上から三番目の権力者である。

 「静粛に。

殿下の御前です。」

 騒ぎになる事を予見していたキャロルが、咄嗟に口を開いた。

 「・・・・・・・・・お、おい、親方を呼んでこい!!」

 「よくぞお越しくださいました。

一先ずこちらへどうぞ。」

 キャロルの言葉に我に返った数人が忙しなく動き始めて、おっさんが脇の階段から上へと誘ってきた。

先程までのゆったりした態度とはうって変わって、緊張が隠せない。

 

 

 

 「お初にお目にかかります。

私、傭兵組合レガ市支部統括支部長のゴルアス=ゼノーと申します。」

 客間へと案内された俺と城伯とキャロルとアクア。

 俺が長椅子に座りしばらく待っていると、一人の男が現れて頭を垂れると、自己紹介を始めた。

六十歳位の白髪で顔がシワだらけのギョロ目の男は、細身ではあるが華奢ではなく、筋肉質な手足の偉丈夫に思える。

 しかし、ガチガチと震え脂汗を流している様子は緊張がわかりやすいな~。

 「楽にして・・・というか座ってください。

さっきから大人を見上げてばっかりで、首が痛い。」

 うなじを抑えるように右手で揉んでいると、支部長はいそいその向かいの長椅子に腰掛ける。

 「城伯。」

 「はい。

・・・ここに居られるアクア殿とその仲間が受託した依頼の事だが・・・。」

 と、クロッカは前もってアクア部隊と取り決めしていた約束通り、彼女達が賞金首を捕縛していたが、そこへイングロが現れて、一味を食い殺してしまったと説明した。

 「我々の部隊は移動中にその一部始終を見ていて、彼女等と協力してイングロを退治したのだ。」

 と、その旨を記載した証言書を支部長の男へと見せる。

末尾には俺とカリス将軍の署名付きだ。

 身分制のある国では、上の身分の名前が記載された書類というものは、下の身分にとっては強力な説得力になるのだ。

特に皇族の身分は。

 「畏まりました。

早速彼女達に、報酬の支払いと致しましょう。」

 支部長のギョロ目は俺達への愛想笑いを変えずに、俺達の言を了承して依頼書に達成済の判子を押して、達成者代表の名前を書いた。

 「良かったな、アクア殿。」

 「お心遣い感謝致します、殿下。」

 俺は後ろを振り向くと、少女はニコリと笑顔を見せた。

 

 

 

 「・・・・・・何かしら?

下が騒がしいですね。」

 目的の一つは達成し、次は俺の護衛を彼女達に指名依頼する書類に記入する事となり、城伯にそれを任せようとした時、下の大広間だった斡旋場で幾つかの大声が聞こえた。

 「今の声は、私の従兄の声でした。」

 キャロルの言葉にアクアが眉を顰めて答えた。

確かに扉越しに聞こえてくる若い男の声が僅かに聞こえるが、凄いなアクアは。

俺には男女の声かの判断くらいしか出来ないが、個人までは判別出来ない。

こういうのも傭兵の技能なのだろうか?

 

 

 

 「はあ!?

巫山戯たこと言ってんじゃねぇよ!!

お前ら低等級が皇族の護衛なんて出来るわきゃねぇだろ!!」

 扉を開けて部屋から出る。

見下ろすと大広間を改装した斡旋場では、五人程の二十代前半程度の若い男が、アクアの部下達に絡んでいた。

 「ホントだヨ~。

皇孫殿下に直々にアクア様が頼まれたんだって・・・。」

 「んなわけあるか!!

馬鹿も休み休み言えよこの雑魚ォ!!」

 帝国軍の下衣に似た紺色の穿物(リグール)に同じ色のピッタリとした蜘蛛服、その上に茶色の革製の上着を羽織って、左右の腰に剣を装備している金髪の青年が、同じく茶色の革手袋でバッシリとゼイドを指差して怒声を張り上げていた。

青年と同じ格好の同年代らしき周囲の男達も、それに同調している。

皆、目がギラギラとしていて厳つい顔の、いかにも荒くれ者という第一印象を俺に抱かせてくれているよ。

 「殿下、あの男が私達と同じ依頼を受けたビスト部隊の長、ビスト=ゼファンです。」

 ゼイドに向かって怒鳴りつけているその金髪男を、アクアが指し示した。

なるほど、そういえばアクア部隊の少女達が着ている服と色は同じで、アクア部隊の男版制服と言った感じだ。

 軍隊と同じで色合いや意匠を同じ服にする事で、ひと目に彼等が同じ傭兵団だとわかるようにしている。

元貴族の騎士団だった頃のこだわりが感じられる。

 「昨日ローズ達から聞いていたのとは随分違うな・・・。」

 階下に見えるそれは、前世で幾度か目にした光景に似ている。

コンビニ等で、女性店員や体格の細い男の店員に無理なイチャモンを付けるクレーマーだ。

また、ギャーギャーと猿のように集団で怒鳴り散らす様は、喧嘩の強さが偉さと勘違いしているヤンキーにも見える。

 どちらにしても自分を偉いと勘違いしている馬鹿なヤカラ共でしかないが、ビストとかいうこの男の今の行為と発言は、それに類いする者のような印象しか抱けない。

ああいった奴等には毅然と対応するか無視するか、実力行使しか方法はない。

奴等の言う事に従うことだけは、絶対にしてはいけない悪手だ。

 奴等は、自分達の身の程知らずの鬱屈した感情の捌け口に相手を屈服させたいだけで、他者を改善させたくてやっている訳ではないからだ。

 それどころか自分が騒げば騒ぐ程に周囲が自分に従うと勘違いして、別の者にもイチャモンを付けてしまう。

つまり被害を拡大させてしまうのである。

だからこそ、こういったヤカラは正しく排除するしか方法はない。

 しかし口に出した通り、チンピラみたいな態度と話し方で俺はうんざりする。

男の左腕を見るとなるほど確かに、一級に組合から認定されている証の銀色の腕輪があった。

 達成率や個人の強さで等級が決まる故に、黒い腕輪を着けた三級傭兵のアクアよりは強く、困難で高額な依頼を幾つも達成出来る傭兵だと、一目で第三者に理解できる。

 「それにしては相応しくない態度だ。」

 俺は思わず溜息を吐く。

高い実力に自惚れて周囲の者を見下す。

しかし、見下していた者の努力を認めない、切磋琢磨という概念が理解できない人間は俺にとっては嫌いな分類の人間だ。

 「・・・城伯はあの男に勝てそう?」

 ふと、俺は奴等の戦士としての強さに疑問を持って、傍に居たクロッカ城伯の袖口を軽く引っ張った。

 一流の戦士は他者の強さが見ただけで分かると地球では言われていたが、この名前がまだない世界ではどうだろうか?

 「はっ。

・・・・・・・・・条件にもよりますが、おそらく五分五分かと愚考致します。」

 跪いてしばしの沈黙の後に出した答えは、俺にとっては意外なモノだった。

 この男、クロッカ=ル=ラーヴェンを俺はかなり強いと評価している。

一昨日のタリナ包囲戦では馬に乗っていた敵の騎士の首を幾つも刎ねる活躍を見せ、昨日のイングロ襲撃では縦横無尽に馬を操って魔獣共の脚に剣を貫通させる程の怪力を見せつけてくれた。

歴戦の勇士であるカリス将軍に、相当鍛え込まれた筈だ。

 そんな男に互角とまで評されるということは、ビスト=ゼファンはなかなかの実力なのだろうが・・・俺には正直納得がいかない。

 「あの男は、アクア殿と同じく魔術の運用に長けて居ると思われます。

一対一で尚且つ魔術が使えない純粋な剣術試合といった状況では、圧倒的に当方の勝利となりましょう。

・・・ですが、何でもありの殺し合いとなると、長距離攻撃魔術が不得手な当方の苦戦は必至になりますので。」

 「長距離攻撃魔術?」

 「あの男の服を御覧ください。

他の傭兵と違い防具らしい防具を装備せず、服も戦いには関わらない商人の様に目立った破れ等が見当たりません。

腰に剣を持ってますが、おそらくあれは魔術士同様に杖として使っているのでしょう。」

 城伯の説明に納得して、俺は大きく頷いた。

なるほど、勉強になる。

こうやって相手の実力を見定める観察眼も、俺は養わなければならない。

 「流石は騎士様です。

ビスト部隊は数人が前衛兼囮となって魔獣を誘き寄せて、ビストが長距離から魔獣を斃す戦法を得意としているんです。」

 クロッカの解説が正しかったらしく、アクアが驚いて目を見開いていた。

 「伊達にカリス様の直参ではないということだ。」

 得意気に、クロッカが笑った。

 「おいビスト、何を騒いでいる!」

 俺達がビストの態度を眺めていると、支部長のゴルアスがいそいそと階段を降りながら大広間に轟かせようと声を張り上げた。

 「・・・おいおい、支部長さん。

あんたもコイツラの味方するんじゃないだろうな?」

 アクア達の活躍が相当気に入らないのだろうか。

男は苛立ちを隠さずに、次は支部長へと顔を向ける。

身長はゴルアスよりも頭一つ分程大きいと、ビストに近づいていくゴルアスと見比べて理解できる。

 「全くだ。

俺達一級傭兵部隊を差し置いてなんで七級が居る落ちこぼれ部隊が、皇族御抱えになるんだ!」

 「そうだそうだ!!」

 ビストの隣に立つ鼻元に傷のある赤い髪の男はゼイドの後ろで怯えているトリムを一瞥すると、ゼイドの前へと立ち塞がったゴルアスに詰め寄り、男の言葉に周囲のビスト部隊の男達も同意していた。

 「俺達ゃ、誇り高きゼファン傭兵団だぞ!?

舌先三寸の売り言葉で貴族なんかになれるかよ!!」

 続けて言い放ったビストの言葉に、どうやら俺達とアクア部隊の出会いを聞いたらしく、実力で目を掛けられたわけではないと思いこんでいるようだ。

 「者共控えよ!!

ここにいらっしゃる御方をどなたと存じておるか!!

フィローザイン皇孫殿下であらせられるぞ!!」

 「「「「!!??」」」」

 更にワイワイガヤガヤとあれこれ文句をゴルアス支部長に捲し立てている光景に、とうとう堪忍袋の尾が切れた男の怒声が響き渡った。

俺の隣に立っていたクロッカは、欄干の手すりを今にも握り潰しそうな程に強く掴んでいる。

おそらくは、額に血管が浮き出ているのかもしれない。

 確かにこの城伯の怒りが有頂天になる気持ちも理解できる。

彼等傭兵は飽く迄も身分制度が布かれているこの国では平民であり、皇帝の孫である俺の判断に文句をつけるような立場ではない。

本人が居る居ないに関わらず、公衆の面前で皇族批判などすれば、他者からその不敬を叱責される事もある。

 クロッカは実際には俺の臣下ではなく、祖父帝の臣下の臣下であり、誅伐軍の中では俺の部下となる。

それでも帝国貴族であるが故に、皇族への忠誠心は君主に対するそれと同じくらい強い。

そもそも帝国貴族はその全てが基本的に皇帝の臣下という前提がある為、皇帝や皇族に対して忠義を尽くすように教育されているのだった。

 その教育が故に、知らないとはいえ皇族の眼前で当人に対する批判とも取れる発言に、憤慨したのも無理はない。

 怒号が響いて大広間に居た全員が声の方向へと視線を向け、男が手の先を俺に向けている光景を視界に入れる。

 「「「ははぁあああっっ!!」」」

 大広間に居た殆どの者がしばしの沈黙の後に一斉にその場で土下座をしていた。

 「コラ、お前達頭を下げないか!?」

 「え?

うわっ!!」

 向こう側に居た子供傭兵達は事態が飲み込めず、周囲の大人達が慌ててしゃがみ始めた状況が飲み込めずに居たが、隣りの中年傭兵に無理矢理土下座させられていた。

 「うぬ等は先程から聴いておれば、皇孫殿下のお考えに異議を唱えるとは無礼千万!!

己の分際を弁えぬ不敬で不遜な物言いではないか!!」

 あからさまに激しく指をビスト=ゼファンに突きつけ、捲し立てるクロッカ。

 「・・・・・・はじめまして、皇孫殿下。

私はゼファン傭兵団団長の孫、ビスト=ゼファンと申します。」

 クロッカの言葉に、周囲の男達は酷く動揺していたが、それに反してビストは立ち上がり改めて俺に目を合わせてから恭しく頭を垂れた。

 「・・・私がフィローザイン=ストル=アルムザクセル=レオタルドスである。

私に意見があるというならば、聞いてやってもいい。」

 「!

・・・有難き幸せ。」

 余程の自信があるのだろう。

俺が聞く耳を持った事で浮かべた笑みを隠そうともしなかった。

色んなキャラが話し合う回って作っていると疲れます。

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