友達
お久しぶりです!
月に1~3回更新しようかと考えています。
「連れてきたわよ」
結局、最後の一人は美咲希に頼んで連れてきてもらった。
俺の力では超絶コミュ障の中村荘介を誘うのが限界だったからだ。
「谷崎美野梨。最近少しネットで話すようになったからこの機に仲良くなろうと思って」
「気軽にみのりって呼んでくれていいよ〜」
身長は美咲希と同じぐらいで、少し大人びた顔立ちだ。俺の第一印象は怖くて近寄り難いなのだが、口調はおっとりしていて優しい。髪は俺の知り合いでは珍しいショートカットで、茶色寄りの黒髪である。
「おー、よろしく」
俺がそう言うと、他のみんなもつられてよろしくと言っていたのだが、中村だけはずっと俯いたまま微動だにしなかった。
「よ……よろしく」
その声はとても小さいものだったが、俺は確かに聞き取った。
「よろしく〜」
谷崎は聞き取れたのか否か、よくわからないが、にこりと笑いながら、みんなに返事をしていた。
悪い雰囲気じゃないし、楽しい修学旅行になりそうだ。
問題があるとすれば、中村だろうか。ま、そっちは俺がなんとかするっきゃないな。
俺は現在、俺の住む街のとある公園へ来ていた。近くには橋があり、車やトラックがいつも通っている。
「そろそろ時間、か」
公園の時計の針は昼の一時を示している。この時間に、俺はとある人と待ち合わせをしているのだ。
俺がいる場所は周りに何も無いし、俺は堂々と仁王立ちしているからすぐにわかると思われる。
「お、来た来た。中村ー!」
前方に自転車に乗っている中村を確認できたので、大声を出して呼びかけたのだが、中村は軽く頭を下げるだけだった。
「おはよう……」
「おう。じゃ、行くか」
この日、俺は中村と仲良くなるためにここへ呼んだ。
修学旅行の班決めが終わったあと、中村のSNSのアカウントをゲットした俺は中村と同じ音ゲーをやっていることがわかった。なので、次の休日に一緒に行こうと約束をしたのだ。
この公園からゲーセンまでは徒歩圏内なので、自転車に乗るとあっという間に着く。
コミュ障の中村との会話は続かず、多少気まずい空気が流れた。
「よーっし。着いたぞ」
ここからが本番。共通の話題さえあれば打ち解けることが出来るだろう。
ここに最後に来たのはクリパ以来か。なかなか久しぶりだな。
中村はここへ来るのは初めての様子だったので、俺が先導しているのだが、中村はずっと無言のままだ。
しかし、しっかり一定の距離を保って付いてきているので、悪くは思われていないだろう。
俺は両替機の前で立ち止まり、千円を百円玉10枚に両替する。
いつもなら両替が終わったすぐに突っ込んでいくのだが、今日は中村もいるのでそうはせずに中村のペースに合わせた。
俺らの目当てのゲームは人がおらず、即行で出来た。
「マッチングしよーぜー!」
俺は腹に力を込めてそう言った。様々な音が飛び交うゲーセン内だと、こうでもしないと声が聞こえないのだ。
すると、中村は首を縦に振った。OKということだろうか。
「先選んでいーよー!」
ゲームのログインが終わり、俺はいつでもプレイが出来る状態になっている。
そうして、俺らは思う存分楽しんだ。
「いやー、楽しかったなぁ」
結局、俺らは朝から夕暮れまでずっとゲームをしていた。
昼を過ぎたあたりで、俺は飯を買いにコンビニへ行こうと話を持ちかけようとしたのだが、なんと中村からもっとやろうと話しかけてきてくれたので、それに従った。
「うん。ありがとう」
この前に比べると会話がしやすくなった気がする。それに、俺個人としても中村とは仲良くしたい。
音ゲーの腕は葉月より下なのだが、それでも上級者に区別されるほどの腕前だ。もう少し特訓すれば葉月を越える可能性がある。
「また一緒にやろうぜ。今度は中村のいつも行ってる場所でもいいぞ。移動大変だろ?」
「んー、特には。俺の家もここから近いし。またここがいい」
「了解」
この後はどうしようか。コンビニ寄ってもいいし、どこへ行ってもいい。今月はまだ余裕がある。
「なぁ中村。門限とか大丈夫か?」
「うん。へーきだけど」
「よっしゃ。飯をご馳走してやる」
「ただいまー」
帰る途中に葉月に友達を連れていくと連絡をいれた。どうせ両親もいないし葉月と二人で寂しくご飯を食べるよりは楽しいだろうと思ったのだ。
「あら、意外と早かったのね」
「おーす。お邪魔してまーす」
「よ。久しぶり」
リビングにはいつもの面子が、台所には葉月が、俺の後ろには中村がいる。なんとも不思議な光景だ。
「中村くん、悠眞にいじめられなかった?」
すると、美咲希が変なことを言ってくる。まぁ、本気で言ってるわけではないことはすぐにわかったが。
「特に。ただ音ゲーがすごく上手かった」
初対面の人がいるので、俺はてっきりコミュ障を発揮するのかと思ったが、その心配はいらなかったようだ。
「そう。なら良かったわ」
「いやいや。俺がそんなことするわけないだろ」
「それにしても、悠眞の音ゲーの上手さは本当に異常よね」
「「「それな」」」
俺の言葉を華麗にスルーした美咲希の言葉に、中村以外のみんなが同意をする。しかも真顔で。
そこまではっきり言われると恥ずかしいというか、なんというか。
「みんな音ゲーやってるの?」
「大悟以外はみんな上手いぞ。ちなみに中村はこの中だと四番目に上手い」
「なぬっ!? あたしより上手いのか……」
何やらショックを受けている凛花は大悟がなんとかしてくれるだろう。
俺は中村に適当なところへ座るように指示を出し、料理が出るまでお互いの近況を報告しあった。
料理を食べ終わった後、みんなはすぐに帰宅した。中村はみんなと打ち解けていたようだし、これで修学旅行も楽しめるだろう。
「おい妹よ」
「なんだね兄よ」
「学校どうだ?」
「楽しいよ」
「そっか。ならよかった」
こんなどこにでもあるような兄妹の会話をするのは、久しぶりな気がする。こんな会話が出来ることが嬉しくて、だから失いたくないと思う。
「全力で楽しめよ」
「……? うん。どうしたの急に」
「いーや、別になんもねーよ」
一生に一度の高校生活、楽しまないと後悔するぞなんて照れくさくてまともに言えねーよ。
感想、アドバイスなど頂けたら嬉しいです!




