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現実とは残酷だ

多分非リアの俺が恋をしたの中で一番問題の話となってます。暖かい目で見ていってください。

 五月のよく晴れた日。クラスにも馴染んできて、そこそこ楽しい学校生活を送っていた俺。

「こんな日は、なんかいい事でも起こんないかねぇ……」

 思わずこんな独り言を言うほど、いい天気なのだ。

 数学の授業中だが、現在は話し合いの時間で、俺はぼっち。

 数学とかマジで無理。

「全く……そんなんで留年されたら困るわよ」

「美咲希か。問題わかったか?」

「一応ね」

「お、まじか。教えて」

 美咲希は教えるのが本当に上手い。なので、よくこうして教えてもらっているのだが、

「ラブラブですねぇリア充さんよぉ」

 北村はそんな俺らを見て毎回こうやって冷やかしてくる。

 こういうのは相手にするだけ無駄なので、放っておく。

「ちょ、無視かよ!?」

「ああごめん。おはよう?」

「ちげぇよ!!」

 このやり取りも何度目だろうか。何度やっても北村の反応が面白くてついついやってしまう。

「はい、そこまで。みんな一旦席につけ」

 若くすらっとした体型の教師がそう言うと、一分も経たずに静寂が訪れた。

 これから答え合わせが始まる。美咲希に教えてもらった部分は少し理解出来たが、正直まだ不安が残る。

 いつもなら即行寝ているのだが、今日は何故か落ち着かなく、起きて授業を聞いていた。

(なんだこれ…………胸騒ぎ?)

 そう思った瞬間、どっくんどっくんと心拍数が跳ね上がる。隣の席にまで俺の鼓動が聞こえているのかという錯覚をするほど、振動がでかい。

 一回落ち着くため、深呼吸をしてみた。――だが、胸騒ぎは治まらない。

 あまりにも初めてな出来事に、軽くパニックになっている。

 授業はまだ続く。このままだとなんにも内容を理解出来ないので、机にひれ伏し寝たふりをする。こっちの方が俺の異常に気づく人が少ないと判断したからだ。

 そして、そうすること数分。先程より少し落ち着いた俺は、寝たふりを解除して授業を受け始める。

 ――――タッタッタッ。

 どこかから誰かが走っている気配がする。漏れそうな生徒がトイレにでも行ったのか?

 ――タッタッタッタッ。

 その足音はこの教室に近づいている。我慢の限界に達した生徒の顔でも拝んでやろうかな。

 タッタッ。

 そう思った矢先、足音はぴたりと止んだ。どういう事だ?

 ガラガラ、ドンッ!

 勢いよく開けられたドアに気を取られ、授業を受けていたクラスメイトだけではなく、数学の先生までもが唖然としている。

「おい、川崎。ちょっと来い」

「え? 俺ですか?」

 担任からの突然の指名に戸惑う俺。というか、なんも悪いことしてないはずなんだけどなぁ。

「いいから来い!」

「は、はい!」

 怒っていると言うよりかは、焦っているような感じで担任は俺も呼んでいる。

 俺は席を立ち上がり、担任の元へ向かう。

 俺を含め、理解が追いついていないクラスメイトは一斉にざわめき始める。それと同時に、俺の胸もざわめきが酷くなる。

 今までで嫌な予感は一度も当たったことがなかった。なのにどうしてだろう。今日はその嫌な予感が当たる気しかしなかったのだ。

「川崎。貴重品は持ったか?」

「はい」

 いつも財布と携帯は制服のポケットの中だ。俺は手を使い、ぽんぽんと財布と携帯を叩く。それを見た担任は、

「そうか。それ校則違反なんだけど今日は見逃してやる」

 と言って、廊下を走り出した。

 置いていかれないように、俺も廊下を走る。何が起きたのだろうか。



 それから、靴を履き変えて校門の前で待つように命じられた俺は、そわそわしながら身の回りに変化があるか、五感をできる限り敏感にしながら探していた。

 すると、後ろから車のクラクションが鳴らされた。

「乗れ」

 担任が車を持ってきたのだ。嫌ですなんて言うわけにもいかず、俺はただ従った。

「失礼します」

 一応最低限の礼儀は忘れない。

 そうして助手席に乗り込んだ俺は、担任から事情を聞かされた。

「すまんな。結構余裕なくて」

「いえ、どうしたんですか?」

 車の中ということもあってか、焦る気持ちはあっても多少の余裕はできたので、気になっていたことを聞く。

「実はな、学校に一通の電話がきたんだよ」

 一通の電話……それで俺が呼び出された?

「まさか…………警察ですか!?」

「馬鹿言え。詳しいことはわからんが電話の主から言われたんだよ。川崎悠眞を連れてきてほしいって」

 詳しいことはわからないって何だよ。そんな信憑性のない情報だけで生徒をのこのこと差し出していいもんなのか?

 もちろん口には出さないけど。

「お前今そんな信用できそうにない情報だけでなんで呼ばれたかって思っているだろ」

「……はい」

 超能力でも使ったのかこの人。図星すぎてなんも言えないんだが。

「電話の主から言うなって言われてたんだけどなぁ……。まぁいいか。コンラード・アルドベリって人からの電話だった」

「な……!?」

 あまりにも衝撃的な人物だった。その人が俺に何の用があって電話したのか、見当もつかない。

「それで、お前を連れてきてほしいって指定された場所は――――」

「――ッ!」



「…………着いたぞ。三階の三〇一号室だ。何も無いことを祈ってる」

「はい。ありがとうございます」

 焦る気持ちを何とか抑えながら、礼を言って頭を下げる。

 担任が駐車場へ向かって行くのを確認してから、俺は走り出す。

 俺が連れてこられてきた場所は俺が住んでいる街の隣にある大きな病院。

 すぐに面談申請を書き終え、三階へと向かう。

 こんな時だけ、時間が過ぎるのが早いと感じる。

 エレベーターを出て、すぐに三〇一号室に向かった。

「――ッ! マル!」

 そこで見た光景に、俺は驚愕した。

 点滴に繋がれ、弱った姿のマルがいた。誰の目にももう助からないとわかるほど、弱っていた。

「お兄……ちゃん。きて……くれたんだ」

 声すら弱々しい。

「マル……どうしたんだよ」

「ごめん、ね。ほんとは病気……だったんだ」

 ――何かやばいことを隠してるよね。

 マルと初めて会った日、葉月と廊下で会話していた時の記憶がフラッシュバックした。

 それは、病気。とても重い病気。

「それで、ね。お兄ちゃんに聞いてほしいことが、あるの」

 嫌だ。聞きたくない。けど、マルが命を懸けて俺に伝えようとしているのに聞かないのは最低だ。そんな人間にだけはなりたくない。

「…………聞く」

 それでも、俺が返事をするのに時間がかかった。こんな現実、受け止められるわけないじゃないか。

「ありがと。治療するために、日本に来たの」

 その声はとても弱々しいものだった。

「でも、ね。病院は嫌いだった」

 気を抜くと聞き逃してしまうほど小さくて。

「けど、お兄ちゃん達……に会えて、とっても、とっても楽しかった」

 それでも、俺は聞き逃すことは無かった。

「お兄ちゃん。大好きだったよ」

 だって、マルの意思はすごく強くて、俺には痛いほど伝わってきたから。

「美咲希、さんと、し、あわせ、に、ね。私を…………わす、れ、な……」

 ――ピー。

 心肺停止の音が病室に鳴り響く。

 マルの頬には一筋の涙が伝っていた。

「なぁマル。嘘だって言ってくれよ」

 とても、受け入れ難い現実。

「俺まだお前とやりたいこと、行きたい場所沢山あるんだよ!」

 俺の叫びは伝わることは無い。それなのに、叫ばずにはいられないんだなって。

「お前だって言い残したことあるだろ!」

 マルは最後まで言い切っていない。なのに、なんで。なんでお前は――。

「そんな、笑っていられるんだよ……」

 そこまで言った時、俺の頬を大量の涙が流れていた。

「この前まで温かかったじゃねーかよ……なんで、なんで」

 今のマルから体温は感じられない。それが死をより一層感じさせる。

「うわあああああああ!!」

 気づけば俺は声を上げて泣いていた。

なるべく早く次話投稿します

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