キーホルダー
暑かったり涼しかったり、よくわからない日が続いていますね!
「うわお、近所の水族館とは大違いだな」
美咲希が熱を出してから数日経った休日、俺は葉月とマルを連れて都会の水族館へ来ていた。
ついた瞬間に出た言葉がそれなのだから、これから先が思いやられる。
「私もこんなにでかいとは思わなかったよ」
俺と一緒にぽかんと突っ立っている葉月が、驚嘆しているような声でそう言った。
今日ここへ来たのは葉月が最近水族館に行ってないから行きたいとわがままを言ったからである。そうして企画していくうちに、マルも連れていこうと言うことになり、現在に至る。
マルは早く魚が見たいのか、そわそわしている様子だ。
入場券を購入して館内へ入ると、薄暗く辺りを照らすライトが俺たちを迎えてくれる。
二人横に並んで歩いたら隙間が無くなりそうなほどの廊下を少し歩くと、広いスペースに出た。
そこにはペンギンやラッコ、アザラシなどがいて、心が癒される。
「飛べない鳥はただの鳥って、実際そんなことをないじゃねーかよ」
昔どこかで聞いたフレーズを思い出し、独り言を呟いていた。
ペンギンは確かに飛べない海鳥だ。でも他の鳥には出来ない泳ぐということが出来るし、寒い場所でも生きることが出来る。
飛べない鳥だって良いところはある。
「おにい、ペンギンって結構速いね」
「それな」
高校生二人と小学生が一人、食い入るようにペンギンを見ていた。
と言うか、高校生の方がじっと見ている気がする。傍らから見ればただの変人だ。
「ペンギン……焼いたら美味しいのかな」
「魚を刺身にする妄想をするやつは見たことあるけどペンギン焼くって言ったやつは初めて見たぞ」
「ペンギンさん焼いちゃダメだよ可哀想だよ」
俺らからの総攻撃を受けた葉月は「うぅ……」と喚いて、
「冗談に決まってるじゃん!」
と強く言っていた。
恐らく、本気で言っていたのだが、共感されなくて恥ずかしくなったのだろう。
ま、理解不能なのは確かなので今更訂正するつもりもないのだが。
俺達はさらに奥へ進んだ。すると、小さな魚達が大きな水槽を群れを作りゆらゆらと泳いでいる。
一糸乱れぬその行動は、とても幻想的で、しばらくの間目をそらすことが出来なかった。
「すごいね。私たちが食べてきた魚って、こうやって生きているんだ」
こうやって生命の神秘みたいなものを感じられるのは、俺達が成長したからなのか、それとも水族館が素晴らしいからなのか、俺には答えを出すことが出来なかった。
「次行こ!」
マルは飽きたのか、もう進みたがっている。
ド派手という感じでもないので、少し退屈だったのかもしれない。
「そうだな」
しっかりと魚達の集団行動を目に焼き付けた俺は、マルに頷く。
葉月も異論はないようで、しっかりとマルをリードしている。
館内地図によると、次はクラゲとカニがいるっぽいから、少し楽しみだ。
「お兄ちゃん。カニってどんなのがいるの?」
「そうだなぁ……。デカくてガシャーンって感じのやつがいると思うぞ」
「そうなんだっ!」
目を輝かせながら、俺と握っていた手を一瞬離し、金髪碧眼の少女は腕に抱きついてきた。
春も初期なので、まだ少し風が冷たい。なので、マルは長袖を着ているのだが、それでも女の子特有の柔らかさを感じられる。胸は少ないが、凛花よりはあるだろう。
これからマルが成長して、どんな魅力的な女性になっているのか、想像するだけで楽しみだ。
「おにい何デレてんの。美咲希さんに告げ口してあげるよ」
「別にデレてないだろ。後どちらにせよ美咲希に言うのは勘弁してください」
美咲希が誤解をすると俺の命があるかどうかよくわからないので本当にやめていただきたい。
まぁそれは葉月も冗談で言ってたし、そんなことが起きるはずがない――――と信じたい。
そんなこんなで、俺達はいつの間にかクラゲとカニがいる場所へと辿り着いた。
「お兄ちゃん、カニさんデカいよ!」
「おお……!」
クラゲよりも先にカニを見つけたマルに便乗してカニを見たのだが、とにかくやばかった。
何がやばいかと言うと、まずはでかいハサミだ。それを勇ましく広げて威嚇をしている姿がかっこいい。
それに、ゆっくりと横歩きをしている。それは、何となく機動要塞を思わせる。
……こんなことを思うなんて、俺もまだまだ男子だな。
嬉しいというか、高校生にもなってこんなにはしゃぐなんてみっともないというか。
俺が小学生ぐらいの時に想像していた高校生って、もっとかっこよくて落ち着いていて大人で……少なくともはしゃぐような感じではなかった。
やはり、想像と現実は違うなと思う瞬間だった。
一方で、葉月はクラゲを見ていて、あちらもみっともなく表情を崩している。
ま、楽しければいいか。高校生だからってはしゃいじゃいけないだとか、自分を殺す必要なんてどこにもないしな。楽しむ時は楽しもう。
それから、水族館を堪能した俺達はお土産屋さんに来ていた。マルが買いたいものがあると言って、俺達は外で待たされていた。
「ねぇおにい」
「なんだ?」
こうやってみんなで外出している時は極力携帯は触らないようにしているので、どうやって時間を潰そうか考えていた俺に、葉月が声をかけた。
「こういうのって、どう?」
そう言って葉月は先ほどのマル見たく俺の腕に抱きついてきた。
突然の出来事に数秒間、何が起きたのか理解ができなかった。しかし、女の子特有の柔らかさに加え、デカくてとても柔和な双丘が理性を刺激してくる。
それによって、俺は状況を把握した。
「ちょ、お前何してんだ!?」
「おにいこーゆーの好きそうだったからさ。ど、どう?」
葉月は女子の中では高身長なのだろうが、俺とは普通に身長差がある。そのため、自然と上目遣いになってしまうのだが、それがまたとんでもない破壊力を秘めていた。
「どうって……お前も女の子なんだなって思った」
俺の腕はしっかりと葉月が抱きしめていて、そのためか、葉月の鼓動が感じられるほどだ。
徐々に速くなっていくそれにつられて、俺の心拍数も上がる。
「なんか……恥ずかしいね」
「お前がそれ言ってどうすんの」
葉月はそう言うと、俺の腕に顔を埋めた。
「お兄ちゃん、葉月ちゃん。戻ったよ」
「お、おおマル。目当てのものは買えたか?」
「うんっ! これあげる」
マルに話しかけられ、すぐに離れた俺と葉月。その動揺を隠すために平然を装って会話を進めていると、マルが俺達に手を差し出してきた。
断るつもりなんて微塵もないので、俺達はそれを受け取る。
「ないかなって思ってたから見つけた時はびっくりしちゃった。えへへ」
それは、何かの花の絵柄が描かれたキーホルダーだった。俺が青色で葉月が赤色。マルは黄色だ。三人一緒のものを持っていると、なんだか不思議な気分になる。
「マルちゃん、この花なに?」
「それはね、勿忘草って言うの」
「勿忘草……聞いたことないなぁ」
俺達兄妹は花には詳しくない。だから知らないのは当然で、興味もそんなに無いのだが。
何故か、なんだか良くわからないけど、俺はその花を素敵で切ないと思っていた。
「じゃ、そろそろ行くか。日が暮れる」
そう言って、俺はジャンバーにキーホルダーを大切にしまった。
久々に作品について語ります。
金髪少女が隠していることについて、皆様は覚えているでしょうか。よく覚えていないという人は、一年編の終盤を読んでくだされば思い出せるかと思います。
そろそろその隠していることについて、書きます。楽しみにしていてください




