美咲希の一日 下
宿題終わるまで投稿を休ませていただきます。申し訳ございません。
「ふぅ……食ったな」
満腹感に満たされ、幸福そうに悠眞は言った。
それは私も同じで、ソファーに座りながらくつろいでいる。
いつもならこの後は大体ゴロゴロしてる過ごすのだが、この日、悠眞が言ったことは予想外すぎるものだった。
「なぁ美咲希……デートしないか?」
「へっ?」
唐突に言われたものだから、思考が追いつかない。
で、デート? それに、悠眞から誘ってくるなんて。こんなに幸せなことは無い。
聞き間違いじゃ……ないわよね?
「別に嫌ならいいんだけどさ」
「そんなわけないわ。ちょっとびっくりしただけよ」
一応何かあった時のために川崎家に来る時も財布は欠かさずに持ってきている。小さめのショルダーバッグも一緒に。
最も、それがこんな所で役立つとは思ってもいなかったが。
「おにいって……やっぱ鈍感なんだね」
葉月ちゃんに同意する。好きな人にデートに誘われて、嬉しくないわけがないじゃない。
そんな悠眞でも、鋭い時は鋭い。場はわきまえるし、空気を読んで行動することもできて、気が利いて、何気ない仕草が可愛くて、真剣に何かに打ち込んでいる時はかっこよくて、照れ屋さんで。
…………話が脱線したわね。不覚。
「おい葉月。聞こえてるからな。……じゃ、行こうぜ」
ということは、あらかじめ行く場所は決めているのだろうか。私は悠眞に任せ、ついていく。
何だか今日は背中が頼もしい。
「どこに行くの?」
「ショッピングモール」
これは意外だ。そんなリア充っぽい所を選ぶとは思わなくて、正直驚いた。
「……楽しみね。うん、とても楽しみ」
「そっか。そりゃ良かった」
そう言って、悠眞はホッと息をついていた。それから、すぐに表情を明るくし、
「あそこに和菓子が美味い店があるんだよ。しかも結構安い」
と言って笑いかけてくる。悠眞も私も甘いものが好きなので、結構期待できる。
心が踊りながら、私達はショッピングモールへ向かった。
「何度来ても慣れないわね」
決して都会っ子とは言えないので、こういう場にはあまり慣れていない。
しかし、田舎に住んでいるかと言われたら、そこまでではない微妙なところなのだが。
ここまで来るのに、電車で5駅。時間で言うと15分ほどだろうか。手軽、という訳でもないけれど、街のスーパーやホームセンターでは手に入らないものを買いたい時はここへ来る。
「喉乾いたなぁ……ちょっとフードコートに寄ろうぜ」
「ええ、いいわよ」
断るはずもない。いや、あまりにも無茶だと思うものは断るけれど、悠眞はそんな要求をしてこない。
そうして、私達は2階にあるフードコートへ向かった。
「おお、人結構いるなぁ」
この中では空き席に座るのも難しいだろうなどという考えは、一瞬で消え失せた。丁度空いてる席があった。
もちろんそこに腰掛ける。
「じゃ、俺飲み物買ってくるから。コーラでいいか?」
「いいわよ。値段は言ってね? ちゃんと出すから」
すぐに購入しに行こうとした悠眞の背中に向かって言った。
そう言えば、なんでフードコートなんだろう。自動販売機とかあるのに。
でも、もう悠眞は行ってしまったので、適当にスマホゲームをして時間を潰す。
まだ正午を少し過ぎた辺りなので、みんな料理を口に運んでおり、お肉やご飯の匂いが絶妙に混ざり合い、とても食欲を刺激してくる。
さっきお昼食べたばっかりなのに。
悠眞はもう人混みに紛れていて、見つけ出すのは困難になった。距離も遠いということもあるけど。
買うのは飲み物だけなので、そこまで時間はかからないと思うけれど、待っている時間は退屈だ。だからこんな時のために幾つか暇つぶし用のゲームをインストールしているんだけど、どれもつまらなくてログインする気にもなれない。
「わりー、待たせた」
「おかえりなさ……い!?」
そんなに待ってないわよ。その言葉は発されることはなかった。
「なに? それ」
悠眞が持ってきたのは、大きめの紙コップに、長めのストローが刺さったもの。おまけにストローはハート形で、吸い口は二つある。
「カップル用のドリンク。自販で買うより安いんだよこれ」
照れくさそうに頬をかきながらそう言う悠眞。
「そ、そうなのね。そゆことなら仕方ないわね」
なにも仕方なく無いのだけど、嫌じゃないしむしろ嬉しい……って、何言ってるのよ私。
でもほんとに断る理由は無くて、 恐る恐るストローに口を近づける。
そしてしばらく経ったあとに液体が流れ込んでくる。冷たくて美味しい。
のだけど、やばい、これかなり恥ずかしい。
ふと悠眞の方を見ると、頬を赤らめて目をそらしている。
羞恥の感情を抱いているのだ私だけじゃなくてほっとする。というか、間接キッス……?。
意識した途端に羞恥の感情は更に強まる。
「ぷはっ。これ想像より百倍恥ずいな……」
「そうね……」
そうは言うものの、飲み物がもったいないので協力して飲みほす。
ストローが長いから手こずったけれど、感情に押し潰されそうだったので全力で吸い込んだ。
「ふふっ、悠眞と会ったばかりの時はこんなことするとは思わなかったわ」
「そうだな。付き合うことになるなんて全然思わなかった」
そういって、二人同時にクスクスと笑い始めた。なんというか、心地いい。
「飲み終わったし、そろそろ行くか」
「そうね」
デカめのコップをゴミ箱に捨て、目的の和菓子屋さんへと向かう。
恥ずかしながら、私はこういった場所には疎い。
何せ約十五年間非リア充だったのだ。悠眞と出会ってからも非リアの癖は治らず、インドア思考のまま過ごしてきた。なので、案内は何回かここへ来たことのある悠眞に任せている。
「確かここを右に……ってありゃ?」
とっても嫌な予感がするわ。この後何を言うかわかった気がする。
「やばい。迷子」
ああ、やっぱり。予想はしていたんだけれど、こう普通に言われると絶望感がすごい。
結局、二人で地図を見て無事和菓子屋さんに辿り着き、お饅頭を買ってゲーセンで軽くゲームをやりに行った。
「やっぱり騒がしいわね」
「なんか燃えてきた」
デートがゲームセンターってどうなのかとは思うけれど、まぁこれが私達らしい。
やるのはもちろん音ゲー。クレーンゲームはお金が吸い込まれるので絶対にやらない。
色々な音が混ざり合った混沌とした空間を進む。
すると、奥の方に私達がプレイをするゲームが見えてきた。幸い、人がおらず、すぐに出来そうだ。
さっさと準備を済ませ、百円を入れてゲームを開始する。このゲームは店内マッチングが可能なので、それをやる。悠眞はかなりの手練れなので、気を抜くとスコアが置いていかれる。恐ろしい人ねほんとに。
私も上手い方に入ると思うのだけど、それでも悠眞はおかしいほど上手いと感じる。上には上がいるとはよく言ったものだ。でも負ける気はない。悠眞を置いていく気持ちでやらないと。
……というか、難曲選ぶのやめてほしい。疲れるじゃない。
今までで一番ハードなゲームになりそうだ。
「今日はありがとね」
「別にいいよ。それよりも、ここに住んでるんだな」
川崎家の住んでいる住宅街とは違い、家が三つ並んでいるところの真ん中が私の家だ。近所さんとはあまり会わず、近くには畑がある。毎朝農家さんたちが頑張っているのが目に焼き付いている。
悠眞に送られるのは初めてで、曰く最近不審者とか色々出てるっぽいから送るだそうだ。
悠眞の家から帰るときは毎回私が断っていたのだが、今日はどうしてもということで、送られてみた。
帰り道はお互いの日常について語り合い、それが思いのほか楽しかった。
「じゃ、またな」
「ええ。気をつけてね」
そして、悠眞は暗闇に消えていった。
「あら、キスしなかったの?」
背後から母さんの声。正直、しようとはしたのだけれど、何故か一歩が踏み出せなかった。中高生の間だとこれをチキンと呼ぶのだろう。
ここまで来てヘタレっぷりを発揮するなんて、自分に呆れる。
「…………その事については触れないでほしいわ」
「ま、ゆっくりいけばいいさ。今のうちに色々経験しておきな〜」
こんな時、親っていい相談相手になると思う。だから、母さんの言葉を肝に銘じておく。
「ありがと」
「いいってことよ! 頑張れ娘」
時々この人のキャラがわからなくなる。
8月も後半になりました。皆様はこの夏休み、どうお過ごしでしたか?
自分はなかなか楽しかった夏休みでした。こういった経験を小説に繋げていけたらいいなと思っています。
それではまた次話もよろしくお願いします。
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