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正月

平和すぎて平和です(語彙力)

「よし、マル。東京行くぞ」

 午前9時。唐突に俺は言い放つ。

「ふぇ? とーきょー?」

 それを聞いたマルは素っ頓狂な声を上げる。

 ま、仕方ないか。いきなり東京なんて単語が出たら驚くよな。

 ちなみに、珍しく俺が早起きをして、マルが起きるのを待っていた。

 目的はもちろん、新年の挨拶。

 それから朝ごはんを食べて一段落経って、今に至る。

「もちろん、行きたくないのなら無理にとは言わないけど」

 マルの好きにしてもらいたいので、変に強制はしない。

「行くっ! 東京行く!」

 やっと思考が追いついたのか、マルが声を荒らげて言う。

 図書館に行った時、ラノベはないのかと聞いてきたので、まさかとは思ったが、やはり日本のその文化に興味があるんだな。

 なら行先は秋葉原で良さそうだ。

「じゃ、行ってくるわ。昼はコンビニで済ませるから。夕飯までには帰ってくる」

 マルも支度を終えたみたいなので、俺は玄関に向かい、靴を履く。

「あー、ちょっと待って」

 玄関を出ようとした時、葉月に呼び止められる。

「これ、必要になるかもしれないから」

 そう言って、差し出してきたのは防水ケースの中に入った携帯。

「おま、これ貸してくれんのか!?」

「……マルちゃんに何かあったら嫌だし。携帯のロックとLINEのロック、外しておいたから」

 あの携帯中毒者の葉月が、携帯を差し出してきた……だと?

 予想外の事態に脳がフリーズする。それはマルも同じようで。

「葉月ちゃん、いいんですか?」

 そう問われた葉月は深呼吸して、笑みを浮かべ、

「うん。使って。充電もしっかりしておいたし、連絡手段として使えると思うよ。後、私に敬語はいらないから、良かったらタメ口で喋ってくれる?」

 携帯の操作方法を教えている。

 防水ケースには首にかける紐があるので、落とすことは無さそうだ。

「ありがとうな。葉月」

 実は、俺もはぐれたらどうしようとか思ってたんだよな。対処法が見つかってよかった。

「別に。受験勉強に必要ないし」

 俺が礼を言ったら、不貞腐れたようにそう吐き捨てる。

 素直じゃないな。でも、そこも含めて葉月なわけで。

 携帯を貸してくれるって言う判断をするまで結構迷ったと思うんだよな。

 でも、最終的には自分が使うのではなく、マルの身を案じて貸してくれた。

 その優しさにちゃんと感謝しなきゃ。

「じゃ、行ってくる」

「行ってくるね!」

 天気は快晴。柔らかい日差しが降り注ぐ。

 そんな中、俺らは駅へ向かった。


 ◆


「さて、何から手をつけましょうかね」

 正直、受験勉強とか何をすればいいかわからない。

 でもやらなきゃいけないし……困ったものだ。

 私が頭を悩ませていると、不意にインターホンが鳴った。

 こんな時に誰だよ、と心の中で愚痴を溢す。

 来客を確認した私は少し驚いた。今日は来ないだろと思ってた人がいるんだもん。

「美咲希さん。どうしたんですか?」

 数時間前、親戚と賑やかな正月を迎えたので、てっきり今日はその延長線かと思っていたんだけど……

「さっき悠眞からメッセージが届いたのよ。葉月が心配だから様子見に行ってくれないかって」

 なるほど。おにいの仕業か。

「親戚の方は大丈夫なんですか?」

「問題ないわ。ほら、さっきも言ったけど歳の近い人がいなくて退屈だったのよ」

 苦笑いを浮かべる美咲希さん。その表情からすると、本当に退屈していたのだろう。

「じゃあお言葉に甘えます。私の面倒見て下さい」

 変な日本語だな、と思うけれど、これが1番伝わりやすいかな。

「任せて」

 美咲希さんのおかげで受験勉強も捗るし退屈しないし、一石二鳥だ。

 それから、私は美咲希さんを案内して(もう必要ないのだけど)受験勉強を見てもらうことにした。


 途中、みかんを食べたり、昨日のテレビの話をしたりしたけど、勉強自体はかなり進んで。

「これなら、私達の高校は余裕よ」

 と、お墨付きをもらうほどになった。

 その言葉でかなり自信が付いたし、気が楽になった。

 時間は1時間半程度しか経っていないのだが、とても内容の濃い時間となっていた。

「そろそろご飯作りますね」

 と言っても、昨日の年越しそばの残りがあるので、そこまで手間はかからない。

 私はテキパキと麺をゆで、盛り付ける。

 だし汁に天かす、油揚げとなかなかに油っこいトッピングがあるのだが、こんな日ぐらいいいだろう。

 ……だから正月太りなんてするのかな。

 そんなことを思い、浅くため息を漏らす私に対して、美咲希さんは美味しそうに麺をすすっている。

 私の倍以上の速度で食べる姿を見ていると、嬉しくなる。

「ふぅ……ごちそうさま。美味しかったわ」

「いえいえ。良かったらおかわりまりますよ?」

 さり気なくおかわりを勧めるが、

「気持ちは嬉しいけど、もう入りそうにないわ」

 断られてしまった。

 ま、無理強いをするつもりは無いから美味しいと言われるだけで十分なんだけどね。

 やがて、私も食べ終わり、少し休憩する。

 皿洗いは後でいっか。

「今頃、悠眞とマルちゃんは何してるのかしら。間違いは起こしてないわよね?」

 おにいに限ってそれはないと思う。何せ『ロリは神聖なり! 汚してはいけない!』とか昔ほざいてたし。

「気になるなら電話してみればいいんじゃないですか?」

「そうね……ちょっとかけてみるわ」

 そう言って携帯を取り出し、電話をかけている。相手はおにいか、マルか。どっちだろう。

『わわっ、電話かかってきたっ』

『落ち着けマル。……ええと、美咲希さんってことは美咲希か』

 スピーカーにしているので、私まで届く。かけてから1コールで出たということは、暇をしていたのだろうか。

「私よ。今何してたの?」

『コンビニでおにぎり買って隅っこに移動して食べてる最中』

 向こうも昼なんだ。

「そう。どの味?」

『俺が鮭と明太子。マルがツナマヨ3個』

『はむっ。ふごふおいひいれふ』

『マル。ちゃんと飲み込んでから喋ろうな』

 それから、僅かな間があって.、

『すごく美味しいです!』

 と元気な声が返ってきた。

 それを聞いて、美咲希さんは優しい声音で、

「よかったわね。楽しい?」

 と、会話を繋げている。

『はいっ! ラノベも漫画もたくさん買いました!』

 思ったのだけれど、マルの小遣いってどうなっているのだろう。そこそこ裕福な家庭だったりするのかな。

『じゃ、俺らそろそろ行くわ。またな』

「気をつけてね」

 ここにいなくても、私にはいつもの、おにいと美咲希さんのやり取りがここで行われているような錯覚を受けた。

「とりあえず大丈夫そうでしたね」

「そうね。安心したわ」

 こうして、私の正月はゆっくり過ぎていった。

読んでくださる皆様のおかげで、2017.7.17現在、10日連続PV100超えという記録が更新されています!これは、自分にとってはとても大きなことで、皆様には感謝しかありません……

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Twitter→@Ikasumipasuta03

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