トーナメント 下
いつもより短めです。
悠眞とマルの決勝戦がメインなので、暖かい目で見ていってください。
凄まじい戦いに幕を閉じたのは、葉月だった。
「あ……」
自滅。いわゆる復帰ミス。
「なんつーか、お前らしいな」
「うっさいなぁ。入力ミスだって」
「それが命取りになったな。出直してこい」
俺の厳しい指摘に、葉月は何も言い返せず、ぐぬぬと喚いている。まぁ放っておくとして。
「さぁて、勝ち進んだなマル。真剣勝負だ」
一応、優勝候補の威厳というものを保っておかないとな。そのために、ゲス顔でそう言った。
じゃあ、始めようか。俺達の戦いを。
「始まりましたね」
私がそう言うまでもなく、みんな画面に釘付けだ。優勝候補VS優勝候補だから無理もない。
開始10秒は、両者とも動かず、相手の様子を伺っていた。
先に仕掛けたのは悠眞で、相手との距離を半分詰めて飛び道具を使った。
それをマルちゃんは飛んで回避し、その瞬間を悠眞に狙われた。しかし、マルはそれも回避して反撃に移った。
それを防ぎきれず、ファーストアタックはマルに取られていた。
「なんかもう、凄いですね」
復帰ミスとはいえ、一応私に勝ったのでマルちゃんの実力は悠眞に限りなく近い。
「そうね。それに、何となく悠眞とプレイスタイルが似ているわ」
「多分、皆さんが来る前おにいと特訓していたからじゃないですかね?」
「師弟対決ね。なかなか面白いじゃない」
声を発する余裕があるのは私と美咲希さんだけで、大悟さんと凛花さんは画面から目が離せない。もちろん、悠眞もマルちゃんも無言でプレイしている。
両者とも1歩も譲らない戦いで、今回ばかりは悠眞が負けるのではと思う。
(頑張れ、マルちゃん)
口には出さないが心の中で応援する。じゃないと悠眞に怒られちゃうから。
戦況に変化があったのはその数10秒後だった。
悠眞が深呼吸して、マルちゃんに突っ込んでいったのだ。もちろんそれは防がれるのだが――それさえも計算に入れて、マルちゃんの反撃を防ぐ。
それが終わった時、悠眞は投げ技を入力していた。
初めて見るそれに、マルちゃんは対抗できず、無防備な状態で追撃を食らう。それが決定打になり、場外へ出てしまう。
マルちゃんは後1回、吹っ飛ばされたら負ける。明らかに悠眞の優勢。こっからが見物だ。
(……手強い。余裕が無いな。それに、切り札の投げ技も使ってしまった。隠し事は一切無し。でも、負けない!)
意地と経験が、俺に自信を与えてくれる。もちろん、そんな簡単に行くわけは無く、やはりファーストアタックはマルに取られる。
今の攻撃を食らって、俺のパーセンテージは90。大攻撃を受ければ飛ばされてしまう。
このゲームに関しては自分のプレイスタイルを持っていて、基本的に受け身だ。
相手に攻撃をさせて隙を作る。もちろん、隙を見つければ突っ込んでいくのだが。
マルも似たようなスタイルなので、戦いにくい。それだけ必死に俺に食らいついてくる。
楽しいな。これだけ必死になってる相手と戦えて。余裕はないのだが、今は勝ち負けも忘れて純粋にこのゲームを楽しんでいる。
何となく入力した攻撃か当たる。チャンスだ。相手がひるんだ瞬間に距離を詰め、突進をする。それも命中。そして、着地する前、無防備な体勢を叩く。パーセンテージを稼げていなかったので、場外へは飛ばせなかったが、攻撃は全ヒット。気持ちいい。楽しい。
更なる追撃を試みたが、マルに防がれる。最も驚いたのが、マルがコンボを使ってきたことだ。1回攻撃が入れば、回避不能になる。初心者だからそれはないだろうと思っていたので、完全に油断していた。
やるじゃないか。今の攻撃で俺は吹っ飛ばされた。
しかし、マルも隠しているものはないだろう。こっからは俺らの、全力の勝負だ。
しかし、こちらがダメージを与えているので、焦ることは無い。余裕を持って構えよう。
場外へ出てしまえば試合終了。そんな状況なのに、自然と口角が上がる。
ちらっとマルの方を見ると、俺と同様に笑っている。
「いくぜ、手加減なしだ」
実際、手加減なんてしてないのだが、1度は言ってみたいセリフだったので、言った。
「お兄ちゃんに勝つ!」
やはり手強い。怖気付くどころか、闘士を燃やしてるよ。全く、ほんとに楽しませてくれる。
そして、俺らは同時に突っ込んでいった――
俺らは、現在食卓を囲んでいる。
その中には大悟と凛花もいる。急に呼び出したりしたので、そのお詫びだ。
「悠眞って、手加減を知らないよな」
トーナメントの結果は、俺の勝ち。連戦で集中力が切れたマルは、終盤隙が多く、狙いやすかった。
俺の攻撃が連続で当たってしまったマルを、容赦なく吹っ飛ばして、俺は勝ったのだ。
「手加減も何も、真剣勝負にそんなもの要らないだろ?」
しれっと言った俺に、みんなは
「鬼畜だ」
「鬼畜ね」
「……鬼畜」
「鬼畜」
と言ってくる。そんなに鬼畜を連発しないで欲しい。
「きちくってなんですか?」
純粋なマルが、聞いてくる。その様子に、俺ははぁとため息をつき、
「マルは知らなくていいぞ」
と、話をそらす。
人を鬼畜と呼ばないでほしい。結構マジで。
「出来ましたよー。食べましょう」
もう限界だと言わんばかりの表情で、葉月が料理を持ってきた。
と言っても、さすがの手際で、調理開始20分で10人前の料理を作っている。
配膳を手伝い、早く食べれるようにする。
「お、相変わらず美味そうな料理だな」
「葉月ちゃんはいいお嫁さんになれるよ」
確かに、凛花の言う通りだ。家事は完璧。運動神経もそこそこ良くてノリもいい。出来ないのは勉強だけ。こんなに色々詰め込んで、モテないはずがない。
そんな出来のいい妹に対して、凡人の俺。つい5ヶ月ほど前まで非リア充で、恋愛とは程遠かった存在。唯一誇れるのは運動神経。どうしても劣等感を抱いてしまう。
抱いたところで何も変わらないから今ではもうなんとも思わないが。
「いただきまーす」
誰かがそう言うと、みんなは連鎖反応を起こす。
そんなに腹減ってたのかよ。
そして、俺らは晩御飯をとてつもない勢いで食べていった。
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