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クリパ⑨

恐らく次でクリパ編ラストです

「大悟……お前いつあんなにアニソンのバリエーション増やした?」

 歌い終わり、帰路に着こうとしていた時、俺は大悟に訊ねた。

「凛花がオススメしてきた曲聴いたら増えてった」

 すげーな。俺がどれだけ頑張ってもこいつの歌えるアニソンを増やすことは出来なかったのに。

 流石彼女。影響力凄いな。

「この後どうします?」

 何にも予定を決めていなかったので、葉月がそう言う。

 みんな何か考えているが、俺は別の用事があるから先に離脱させてもらおう。美咲希を置いていくのは気が引けるが。

「ごめん、俺この後用事あるから先帰るわ」

「え!?あのおにいが用事?何があったの?」

 俺を年中用事が入らないやつだと思ってんのかこいつ。間違ってないからなんも言えないが。

「そ。珍しく用事。てことで行ってくるわ」

 そう言い残し、俺は進もうと自転車を進めようと――

「悠眞」

 思ったのだが、美咲希から強く呼び止められた。

「ん?」

 振り向き、美咲希の方を向くと、その顔には感情が無く、背筋が凍るような感覚を覚える。

 それと同時に、俺何かしたっけ?と考えた。だって、美咲希は理由なく怒らないから。

「女のところ?」

 無表情に、淡々と質問してきた。

 いつもと違う雰囲気に、恐怖を覚える。

「いや、久しぶりに親友に会ってくるだけだよ。女じゃない」

 震えそうになる声を必死にこらえて、やっとの思いで声を出した。

 いや、少し震えていたかもしれない。

 他のみんなは黙って俺達のやり取りを見ている。

 多分この場にいる誰も美咲希には刃向かえないだろう。

「……そう。いってらっしゃい」

 少し間があったが、笑顔で美咲希はそう言った。

「おう。行ってくる」

 自転車を進めながら、俺はホッと胸をなでおろした。

 ……マジで怖かった。


 目的地に着いた俺は、誘ってきた本人が出てくるのを待った。

 俺が今いる場所はとある集合住宅だった。

 適当にSNSを起動してタイムラインを見ていると、

「ねみー……夏休みぶりか。やっぱお前変わんねーわ」

 高木だ。

 中学の頃はよく高木の家で遊んでいて、大体は俺が一番最初に着いて高木にメッセージを送り、それを見た高木が家から出てきて、最後に高嶺が来る。

 今日もそのパターンで、この後高嶺が来る予定だ。

「そーゆーお前もな。高校どう?」

「まーまー。意外と楽しいぞ」

「へー、そっか。よかったな」

 男子っていうのは喋ることがなくなると昔話に走る傾向がある。俺らとて例外ではない。

「お前中二の頃、部活をトイレ行ってサボってたよな。何してたんだ?」

「あれな、みんなにはペーパーが無くて困ってたとか言ったけど実は面倒くさくてサボった」

 しれっとそんなことを言う高木。当時の顧問が聞くとブチギレそうだ。

「クソ野郎かよ」

 笑いながらそういう俺。

 あの時の俺は部活を必死にやっていたので、今みたいに笑う事は出来なかったと思う。

 それは出来事が過去になって、俺が少しだけ成長したからかもしれない。それはきっと嬉しいことなのだろうが、成長している分歳をとっているということにもなるので悲しくもある。

「ま、過去の話よ。気にしない気にしない」

「そうだな。高嶺起きてる?」

 俺が話題を変えると、高木は携帯を取り出し、グループチャットの既読の数を確認した。

「あー、あいつ起きてる」

「あー、いつも通り遅刻か」

 暇人のくせにいつも何してるんだか。

 これが固定されつつあるパターンなのでもう慣れたが。


 暇になった俺らは、高木の家にあるサッカーボールを使って、軽くパス回しをやる。

 高木は小学生の時、サッカーをやっていて、何もやっていなかった俺より上手い。

 高嶺は中学の時サッカー部で、シュートを得意とする。

「こうしてサッカーするのも久しぶりだな」

 ボールを蹴りながら、嬉しそうに高木が言う。

「そうだな。懐かしいよ」

 今となっては卒業式の前日に俺と大悟、高木と高嶺が一緒に遅刻をした事もいい思い出だ。

 あれが、中学校生活最初で最後の遅刻だったな。

 昇降口に野球部の顧問がいて、なんで遅刻をしたのか聞かれたっけ。

 そんなことを思っていると、急に切なくなる。

 溢れ出してしまいそうな涙を、出るな、出るなと堪える。

「ほんと、懐かしい。泣けてくるよ」

 半分本気で言ったが、高木は冗談と捉えて、昔話に花を咲かせていた。

「よおお前ら」

 そうしているうちに、高嶺がやって来た。

「おせーよ」

 間髪入れずに俺がそう言う。

「さっき起きた」

 寝坊か。いつもと同じだな。

「流石かよ」

 笑わずにはいられないよな。だってなんにも変わらないんだもん。

「俺も混ぜろぉ!」

 高嶺が叫んで、パスカットをした。

 お、なんだやる気か。

 感覚を確かめるようにボールを操っている高嶺に、俺の最速で近寄り、ボールを奪う体勢をとる。

 それに気付いた高嶺は、俺の股に視線がいったが、やがて俺の足元を見ている。

 股抜け出来ないから諦めたのだろう。

 ボールを右脚を素早く出す。すると、それに合わせて高嶺は1歩引く。

 その瞬間、俺は出していた右脚を少し引いて地面に付け、左脚に重心を乗せていたがそれを右脚に移し左脚を出す。今度はボールを取りに行くつもりで。

 だが、高嶺は経験者。一筋縄で上手くいくはずがなく。

(流石。持久戦に持ち込むか……?いやつまらないな。積極的に狙いに行こう)

 あいにく、俺も経験者と対戦する機会はあったもんで、一筋縄ではいかないことは想定済みだ。

 最も警戒するべきは股抜け。あれは死ぬほど悔しいからな。そこだけ気を付ければこっちのペースに持ち込める。

 一定の距離を保って、お互い次の手を伺っている。

 数秒の膠着こうちゃく状態。

 だが、その数秒は頭の中を整理するには十分すぎる時間で、俺は賭けに出た。

 わざと・・・右側に隙が開くように高嶺に向かって走り込んだ。

 すると、高嶺は俺の作戦通りその隙を狙い、ボールを右に蹴る。

 あまりにも狙い通りすぎる動きだったので、ボールが高嶺の体を離れた一瞬を狙い、奪い取る。

「やったぜ」

「お前……初心者の動きじゃねーよそれ……」

 若干息を切らしている高嶺。こいつスタミナ無いのだ。

「どーも。ドリブルとシュートはできないけどな」

 俺ができるのは相手の邪魔だけで、ドリブルとシュートは全くできない。

 高嶺と俺、攻守交替をしてもう一度やったが、あっさりボールを取られた。

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