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午前二時に会いましょう  作者: はしもと
第二章 京都旅行
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初めての街

「岡部さんは大きくなったら何になりたかった?」



 京都へ向かう新幹線の中、話題が尽き果てて寺田からそんなこと聞かれた。

子供のころ何になりたかっただろう。将来のことをぼんやり考えるようになったのはきっと小学生の低学年くらいからで、そのときくらいから社会でいう自分の立ち位置が嫌でも分からされてきて

 人気者の奴、勉強の出来る奴、運動の出来る奴、優しい奴、怖い奴、たぶん俺はそんな明確なカテゴリ分けに上手く入る人間というわけではなく、ぼけた印象のこれと言った特徴のない奴だった。

 ただなんとなく予想出来たことは、俺はこれからの人生はきっと苦労するだろうなと。

 モテるわけでもなく、勉強も出来ず、人見知りで友達付き合いもよくない。こんな人間が楽々生きていけるわけでもないのはたった5~6年程生きただけで十分理解出来ていたのだ。

 それでも僅かながら願いはあった。こんな俺でも夢はあった。


「もう叶わないけど、漫画家になりたかったかな」

「へー、私と似てますね」

「寺田は何になりたかったんだ?」

「物語を作りたかった。私さ、全然人と話せなかったんだよね。だから自分を表現出来る手段が物語を書くことだけだった。こんな場面になったら私だったらこう考える、私だったらこうするってさ。物語になっているかどうかすら分からないくらいなんだけどね。

……楽しかったんだ」


「次は~ 京都~ 京都~」

 話の腰を折るように、車内アナウンスが鳴る。


 寺田は体に不釣り合いな大きい荷物を抱え、後ろにひっくり返りそうになりながらも前進する。新幹線から京都へ始めの第一歩を踏み出した。

「ようやく京都に着いたね」

 窮屈だった車内からようやく解放され深呼吸をして一息つかせる。

「とりあえず荷物置きに行こうぜ。まったくなんでそんな大きな荷物が必要なんだ」

「だって旅行だよ。忘れ物して困ったことになるの嫌じゃない」

「忘れ物があったとしても今の時代そこらへんで買えるだろ」

「またそうやって現実味のあることを言う。この三日間は現実を忘れるためにあるんだよ。さぁしゅっぱーっつ」


 元気よく寺田は目的の出口と反対の方向へ歩き始める。

 俺は後ろで大きくため息をついて、寺田のカバンを掴んで向きを修正してやる。




 今回の二泊三日京都旅行でお世話になる宿は商店街側が用意してくれた。なんでも予算削減のため商店街の会長の知り合いの宿を使わせてもらうことが暗黙のルールになっているらしい。余所者の俺たちにしたら関係のないことだが。


 京都タワーが正面に見える駅からバスに乗り、そのあと徒歩20分くらい歩いた外れにその建物はあった。


「ここか」

「そうみたいね」


 お世辞にも綺麗とは言えない古い家が目の前にあった。

 商店街からもらった資料を確認。間違いなくここだった。


 インターホンに手を伸ばしたとき目の前の扉が勢いよく横に開いた。


「うわあああああああん。おばあちゃんのアホーー」

 と同時に小学生くらいの女の子が飛び出してきた。

 俺と寺田のちょうど真ん中を走り抜け、そのままどこかへ行ってしまった。

「全くあの子は……」

 家の奥から少しだけ背中の曲がったお婆さんが出てきた。

「すんませんなぁ、恥ずかしいところ見せてしまいまして。お二人さん今日泊まるお客さんやろ?」


 シワシワのその顔をもっとシワシワにしながらお婆さんは優しく微笑んだ。

 どうやらこの人がここの女将さんのようだ。

「いらっしゃい。部屋は廊下の一番奥の101号室。狭いんだけど堪忍したってや」


 渡された鍵で廊下一番奥の101の部屋を開ける。

「あら、本当に狭いね……」

 無意識に寺田が呟いてしまうほど、こじんまりとした部屋。悪く言えば本当に寝るだけの部屋。

「まぁあんな小さい商店街のくじ引きなんだからこんなもんじゃね?荷物置いたら観光に行こう」



「ねぇ岡部さん」

「なんだ?」

「観光って何かもっていくものある?」


 寺田は寺田で大きいカバンの中から持っていくものを選定しているようだ。すでにカバンの横にはいらないものが散乱している。

「とりあえずこれだけはいるよね」

「全部いらん。財布と携帯だけでいい」

「えーー」


 せっかく持ってきたのに。と不満な表情を向けてくるが本当にいらないのだから仕方がない。グズってる寺田の手を引いて俺たちは京都の街へ出かけた。


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