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it'sLife rock'n'roll  作者: 魔法使いの弟子スオウ
第三章 怒涛の文化祭

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もう少しだけ、今のままで

「ただいまより、星雲高校の文化祭を開始します」


 アナウンスが響いた瞬間、校門から一般客がどっと流れ込んでくる。


「お、おいしい焼きそばです……」

 プラカードに隠れるように声を張ってみるが、誰も足を止めない。


「おい、まこと。プラカードが主役じゃねえから」


「え? 焼きそばの宣伝だろ?」

 芝崎とそんなやり取りをしていると、女性グループがこちらで立ち止まった。


「あなたたち、何を売ってるの?」


「かっこいいね。名前なんて言うの?」

 急に声をかけられて固まっていると、芝崎がすっと前に出る。


「芝崎です。こっちがまこと。焼きそば売ってるんで、よかったらどうぞ」


「焼きそば? いいじゃん、買う買う」


「作ってる子も可愛いよね。やっぱり付き合ってるの?」

 屋台の方へ向かった女性が、中谷さんに話しかけている。


「いえ、クラスメイトですよ。お買い上げありがとうございます」


「ええ? レベル高すぎない?」


「なんか焼きそばもおいしく感じる〜」

 そんなわけあるか、と心の中でツッコミながら振り返ると、いつの間にか列ができていた。


「君、名前は? 一緒に写真撮っていい?」


「えっ、写真はちょっと……」


「いいじゃん、撮ろうよ〜」

 困っていると、芝崎がすぐ横に来て、


「俺とも撮ってくださいよ!」


「えっ? こっちの子もかっこいいんだけど」

 芝崎がさりげなく俺と女性の間に入ってくれる。

 こういうのが苦手なの、ちゃんとわかってくれている。

 なんだか少し頼もしい。


 その後も怒涛の忙しさだった。

 次々と声をかけられ、焼きそばを売り、また声をかけられ……。

 焼きそば目当てで話しかけてくる人に、むしろほっとするようになっていた。


「そこの、かっこいいお兄さん」

 後ろから声をかけられ、正直うんざり気味でゆっくり振り返る。


 振り返った瞬間、言葉が喉で止まった。

 ピンクの髪を、いつもと違う位置でひとつにまとめた美月さんが立っていた。


「驚いた? 見に来ちゃったよ」

 少し屈んで、切れ長の目でこちらを見上げる。

 口元がゆるみ、いたずらっぽく笑った瞬間、八重歯がのぞいた。


 大きめのパーカーにショートパンツ。

 パーカーからすらりと伸びる脚が目に入って、慌てて視線を上げる。


「あれ? 驚きすぎじゃね?」


「いやいや、そりゃ驚きますよ!」

 俺が慌てるのを見て、美月さんは満足そうに笑った。


「あ、あれミツキさんっ!」

 芝崎が気づいた瞬間、弾かれたように駆け寄ってきた。


「来てくれたんですね! 感激です!」

 さっきまでの頼もしさはどこへ行ったのか。

 今の芝崎は完全に“クリクリ”のミーハーファンの顔だ。


「アタシもさ、たまにはマコトちゃんの学校見てみたいなって。ダメだった?」


「とんでもないです! 来てくれて嬉しいです!」

 芝崎が首をぶんぶん振りながら答える。

 いや、それ俺に聞いたんだと思うんだけど……。


「マコトちゃんは?」

 ほらな。というか美月さん、その上目遣いは反則だ。


「もちろん、嬉しいですよ」

 そう言った瞬間、美月さんの表情がぱっと明るくなった気がした。


「てか、まこと休憩まだだろ? ミツキさん案内して来いよ」


「え? マコトちゃんが案内してくれるの?」

 嬉しそうに目を細める美月さんを見た瞬間、心臓が跳ねた。


「お、おう。じゃあ芝崎、少しの間だけ頼むわ」

 そう言って歩き出す。

 隣に美月さんがいる文化祭なんて、最高すぎる。


 その裏で、芝崎が中谷さんに蹴られていることに――その時の俺はまったく気づいていなかった。


「へえ、マコトちゃんの学校ってさ、結構広いんだね」


「そうですか? あっちが俺の教室がある校舎です」

 美月さんの視線が、校舎の外観をゆっくりなぞる。


「ねえ、どの辺?」


「行ってみます?」


「え、いいの?」

 校舎へ向かって歩き出すと、周囲からひそひそ声が聞こえてくる。


「え、誰あの人……ヤバくない?」


「めっちゃ綺麗……」

 すれ違う女の子たちが振り返るたび、なんだか背中がむず痒い。


「こっちです」

 階段を上がり、教室のあるフロアへ向かう。


「カンナの教室はどこなの?」


「あっちの校舎ですよ。環奈は進学クラスなので」


「へえ〜」

 感心したような声を出しながら、隣を歩く美月さんを横目で見る。


 変な気分だ。

 学校で、しかも自分の教室に美月さんを案内しているなんて。


「ここが俺の教室です」


「おお。ね、座ってよ」


 言われるまま椅子を引いて腰を下ろす。

 美月さんは隣の席に座り、じっとこちらを見てくる。


「前向いてみてよ」


「えっと……こうですか?」

 黒板の方を向くと、美月さんが目を細めた。


「ここ、誰の席なの?」


「中谷さんです」


「えっ、ここ中谷ちゃんなの?」

 美月さんが驚いたように机へ視線を落とす。

 そして、ほんの小さな声で――


「いいなあ……」

 そう呟いたように聞こえた。


「美月さん?」

 教室の外から環奈の声がした。


「あっ! カンナ!」

 美月さんがぱっと立ち上がり、嬉しそうに環奈へ駆け寄る。


「マコトちゃんの教室、見せてもらってたんだよ。カンナの教室は?」


「私の教室ですか? こっちの渡り廊下から向こうの校舎に行くんですけど」


「見たい! マコトちゃんも行こ!」

 手招きされ、俺は二人の後ろを追いかける。

 廊下を三人で歩くと、すれ違う男子たちが振り返ってざわついていた。


 美月さんと環奈が並んで歩く光景は、そりゃあ目立つ。


「マコトちゃんの屋台、すぐ見つかったよ」


「ああ、プラカード持ってましたからね」


「何? 見てたの?」

 環奈に聞くと、ぷいっと横を向いた。


「べ、別に。意識して見たわけじゃないです」


「まあ、あんなの持ってたら目立つしな」


「そうですよ」

 そんなやり取りをしているうちに、環奈の教室の前へ着いた。


 少し俯いていた美月さんが、顔を上げて教室の中を覗き込む。


「ここ? 環奈の教室」


「ええ。あまり面白いものじゃないですけど」


「いやいや、新鮮だよ!」

 そう言って嬉しそうに教室へ入っていく美月さん。


 その背中を見て、環奈と顔を見合わせて思わず笑った。


「環奈の席どこー?」


「あ、そっちです」

 呼ばれて環奈が教室へ入っていく。

 その横顔はどこか誇らしげで、本当に美月さんのことが好きなんだな、と感じた。


 そのとき、ポケットのスマホが震えた。

 通話ボタンを押すと、芝崎の声が飛び込んでくる。


「まことー? 今どこ? そろそろ戻れる?」


「ああ、わかったよ。そろそろ戻る」

 電話を切ると、二人がこちらを見ていた。


「芝崎が、そろそろ戻って来いって」


「あ、そうか。マコトちゃん、頑張ってね」


「はい。それじゃ」

 振り返って戻ろうとした瞬間、環奈が駆け寄ってきた。


「どうしたの?」


「午後のイベント……お願いしますね」

 その後ろから、美月さんが首を傾げながら近づいてくる。


「午後のイベントって何?」


「いや、有志のイベントで『ベストカップル賞』みたいなのがあって……」


「えっ!? カンナと出るの?」


「その……クラスの人に頼まれて」

 環奈は耳まで真っ赤にして、恥ずかしそうに答えた。


「じゃあ、マコトちゃんとカンナ。ベストカップルじゃん」


「いや、勝てるとは決まってないでしょ?」

 そう言うと、美月さんは俺たちをじっと見てから、


「優勝間違いなしだね」

 と、満足げに大きく頷いた。


「じゃあ、そろそろ戻ります」

 屋台へ戻る途中、ふと振り返る。

 二人が並んで、同じ場所から俺を見ていた。


⭐︎ ⭐︎ ⭐︎


 誠くんの背中が廊下の向こうに消えていく。

 私は美月さんと二人、教室の前に並んで立っていた。


 いつも通っている学校で、いつもの教室の前なのに――

 隣にいるのが美月さんだと思うと、胸の奥がざわつく。


 変な気分で、どう整理していいかわからない。


 もし、美月さんと同級生だったら。

 こうして二人で並ぶことがあったのだろうか。


 考えても仕方ないのに、そんな想像が勝手に浮かんでしまう。


 ふと横を見ると、美月さんは少し視線を落とし、ぽつりと言った。


「ベストカップルじゃん……いいな」

 聞き間違いであってほしかった。

 その言葉が胸に刺さる。


 まだ、進まないでほしい。

 せっかく笑えるようになったのに、もう少しだけ時間がほしい。


 そんなことを思ってしまう時点で、

 私はもう負けを認めているようなものなんだけれど。

 それでも――

 今は、今の関係のままでいたい。


 もう少しだけ、誠くんを好きなままで……。









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