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it'sLife rock'n'roll  作者: 魔法使いの弟子スオウ
第三章 怒涛の文化祭

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ただいまより、星雲高校の文化祭を開始します

 スタジオに戻り、練習が始まる頃には、カンナはすっかりいつもの調子に戻っていた。


「誠くん、このパートなんだけど……」

 声のトーンも普段通りで、美月さんの冗談にもよく笑っている。


 やっぱり、さっきは少し緊張していたのかもしれない。そんなことを考えていると、隣でリョウさんが小さく舌打ちした。


「マコト、あんまりこういうこと言いたくねぇんだけどよ……」


「え?」


 思わず聞き返すと、リョウさんは一瞬だけ言葉を止め、俺の顔を見た。


「……いや、なんでもねぇ。忘れてくれ」

 左手で顔を覆いながら、右手をひらひらと振る。

 音のことだろうか、と胸の奥がざわつく。


「音のことですか?」


「いや。いいバッキングだよ。お前が入ってくれて良かったって思うくらいにはな」


「あれ? リョウさんが褒めるなんて珍しいですね」

 ケイタさんがニコニコしながら、俺たちのやり取りを眺めている。


「うっせ。俺だって褒めるときくらいあるだろ」


「そうかなぁ? いつも“悪くねぇんじゃねぇか”とか、曖昧な言い方ばっかりじゃん」

 リナさんが笑いながら茶化すと、リョウさんは露骨に顔をそむけた。


 その光景を見て、胸の奥がじんわり温かくなる。

 俺の知らないところで、このバンドにはこんな人間関係が築かれていたんだと、改めて実感した。


 それからというもの、少しの時間でも音を合わせられるなら、俺たちは迷わず集まった。


 一方で学校では、文化祭の準備が着々と進んでいる。

 俺たちのクラスは焼きそばの露店を出すことになった。


 理由は単純で――芝崎が「焼きそば食いてぇ!」と騒いだからだ。


 あいつが言い出すと、大抵その方向に決まる。羨ましいというより、あいつが動かないと誰も意見を出さないのだろう。

 そういう立ち位置でいられる芝崎には、少しだけ感心している。


「須藤くんは客寄せ係ね」


 隣の席から、中谷さんが声をかけてきた。


「客寄せ係? 俺より中谷さんのほうが向いてるんじゃない?」


「それ、本気で言ってるの」

 本気も何も、中谷さんみたいに可愛い子が立っていれば、男子なんて列を作ると思うんだけど。


「うん、まあ本気だけど」

 そう答えると、中谷さんはわざとらしくため息をついてみせた。


「私も売り子はするけど……まあ、当日になったらわかるよ」

 黒板にはすでに役割分担が書き出されている。


 客寄せ係 須藤・芝崎


 ……俺の意見はどこへ行ったんだ。


 文化祭までは、本当にあっという間だった。


 というのも、毎日が忙しすぎる。

 日常生活に文化祭の準備、そしてバンドの練習。


 家に帰る頃にはクタクタで、ベッドに倒れ込む日も多かった。


 それでもなんとかやれているのは、陽葵が「温めて食べてね」とメモを添えて晩ご飯を用意してくれるからだ。


 受験生なんだから俺に構わなくてもいいと言ったら、A判定の通知をドヤ顔で見せてきた。

 ……出来の良い妹を持って幸せです。


 朝、学校へ向かう途中。

 いつものように合流した環奈が、どこか言いにくそうに口を開いた。


「あの……誠くん、いいかしら」


「何かな?」

 頬をうっすら染め、もじもじしながら、鞄から一枚のプリントを取り出す。


 そこには大きく《星雲高校ベストカップル賞》と書かれていた。


「なにこれ? 文化祭の出し物?」


「ええ。有志の企画だったらしいんだけど、生徒会が“面白いから”って全校イベントにしたみたいなの」

 へえ、確かに盛り上がりそうな企画だ。


「これに……私と参加してくれませんか?」


「は?」

 あまりに急で、間抜けな声が出た。


「な、なんで?」

 環奈はプリントの下のほうを指さす。


《優勝したカップルの所属クラスには特別ポイントプレゼント》


「クラスから頼まれてしまって……」


「俺と?」

 特別ポイント。まあ、クラスは喜ぶだろうけど。


「毎朝、誠くんと登校してるのを見て、優勝確実だって」


「それ、芝崎が言いそうだな」


「俺がどうかしたの?」

 突然現れた芝崎が、環奈のプリントを覗き込む。


「おお、これいいじゃん! 絶対出ろよ、優勝目指そうぜ!」

 ああ、やっぱり盛り上がった……。


「俺も中谷さんと組んで出るよ。だったら、うちのクラスのどっちかが優勝するだろ?」


「由美子と出るんですか?」


「強敵出現でしょ?」


「負けませんよ!」

 おお……二人の間に火花が散ってる。


 って、俺はもう出場確定なんだな。


「まあいいか。楽しそうだし」

 そう言うと、環奈はほっとしたように、柔らかく微笑んだ。


 そして、文化祭当日――


 朝、ギターを背負って家を出た。


「後で行くからね」

 陽葵はそう言って送り出してくれたが、あいつがクリクリのライブを見るのは初めてじゃないだろうか。


 ……いや、たぶん初めてだ。妙に張り切っていたし。


 それにしても、俺自身も学校にギターを持っていくのは初めてで、胸の奥がそわそわして落ち着かない。


 最寄り駅に着いて改札を抜けると、ベースケースを背負った環奈が待っていた。


「おはようございます。なんだか変な気分ですね」


「うん。家を出るときから、ずっと緊張しててさ」

 そう言うと、環奈はくすっと笑った。


「誠くんでも緊張するんですね」

 その笑顔があまりに眩しくて、通り過ぎる男子生徒がみんな振り返っていくのが分かった。


 二人並んで学校へ向かっていると、背後から聞き慣れた声が響く。


「おーい、まことー! 水橋さーん!」

 振り向くと、芝崎が全力で手を振りながら走ってくる。

 今日はその隣に中谷さんもいて、二人ともどこか楽しそうだ。


「環奈、おはよう」


「由美子、おはようございます」

 すっかり仲良くなった二人だが、中谷さんの表情はいつもより少しだけ柔らかい。


「そうやって楽器持って並んでると、クリクリって感じだね」


「おお、サインください!」

 芝崎がふざけて頭を下げるものだから、思わず吹き出してしまった。

 そんな調子で笑いながら、四人で学校へ向かう。


 文化祭の朝の空気は、いつもより少しだけ軽くて、胸の奥が自然と高鳴っていた。


 校門をくぐった瞬間、周りの生徒たちの視線が一斉にこちらへ向いた。


 ひそひそとした声が耳に入ってくる。


「え、あの二人……ギター持ってる」


「有志のバンドかな? でもあの二人が出るならもっと騒ぎになってるはずじゃない?」


「いや、メンバー表って本名じゃなくても良かったから」


「ていうか、なんか様になってるよね」

 ……注目されてる。

 ライブには慣れてるはずなのに、学校でこういう視線を浴びるのは勝手が違う。


 背中にじんわり汗がにじむ。


「なんだか……変な気分ですね」

 環奈が小声で言う。


「うん。文化祭で演奏するなんて、思ってなかったよ……」

 教室に入ると、クラスメイトたちがまるで時間を止めたみたいに固まった。


 ギターを置いて席に座った途端、スイッチが入ったように一斉に押し寄せてくる。


「須藤くん、今日出るの?」


「ギター弾けるんだ? 知らなかった」


「有志バンド? 何時から?」

 質問攻めにあって困っていると、中谷さんと芝崎が前に出てきてくれた。


「まことは有志バンドに出るわけじゃないよ?」


「須藤くんはいろいろ出るからね」

 二人の言葉に、クラス全体が「いろいろ……?」と首をかしげたあと、なぜか勝手に納得し始めた。


「あ、ベストカップル賞の衣装的な?」


「そういえば、水橋さんもギター担いでたよね」


「嘘、マジで見たいんだけど!」

 歓声が上がり、教室が一気に盛り上がる。


 まあ、今日は文化祭。

 これくらい騒がしいほうが、むしろちょうどいいのかもしれない。


 星雲高校の文化祭は二日間にわたって行われる。


 一日目は一般公開で、クラスの出店や部活動の展示、有志イベント、演劇にバンド演奏と盛りだくさんだ。


 生徒たちが帰ったあとには音響スタッフが入り、翌日のステージが組まれる。

 その後にはゲストのリハーサルまで予定されている。


 二日目はクラスごとの演劇や文化部の企画が中心で、一般には公開されない。

 招かれるのは生徒とその家族だけだ。


 もちろん教育委員会の偉い人たちも来るらしいが……その辺は正直どうでもいい。


 そして二日目のラストを飾るのが、ゲストイベント。

「Critical Clinical」の出番だ。


 俺たちのクラスは中庭で焼きそばの屋台を準備していた。


「まことは客寄せだから、休んでていいよ」


「いや、それは悪いだろ?」

 そう言うと、芝崎がニヤリと笑う。


「まあ、始まったらわかるよ」

 意味深に肩へ手を置いてくるあたり、絶対ろくなことじゃない。


 開始時間が近づき、俺は決められた位置に立たされ、「おいしい焼きそば」と書かれたプラカードを持たされていた。


 鉄板には油が敷かれ、じゅっと音を立てる。

 開始数分前、焼きそばが作り始められる。

 肉と野菜が焼ける匂いが風に乗って広がり、ソースの香りが一気に中庭を満たしていく。


 そのタイミングで、生徒会のアナウンスが校内に響いた。


「ただいまより、星雲高校の文化祭を開始します」


 その瞬間、ざわめきが一段階大きくなり、文化祭が本当に始まったのだと実感した。


【須藤家】


須藤すどう まこと/17歳・都立星雲高校2年生

マックスでのメンバー登録表名はマコト。

アマチュアバンド「マックス」のヘルプギタリストとして、ライブハウス「Roots」に出演中。

人前では髪を下ろして顔を隠すほどのコンプレックス持ちだが、ギターを握ると別人のように冴える。

静かな日常と熱いステージ、そのギャップが彼の魅力。


須藤すどう 陽葵ひなた/15歳・中学3年生

誠の妹で、しっかり者の家庭担当。共働きの両親に代わって家事をこなすスーパー中学生。

兄の通う星雲高校を目指して受験勉強中。兄にはちょっぴり甘えたいけど、素直になれない年頃。



Criticalクリティカル Cliticalクリニカル 通称:クリクリ】


有栖川ありすがわ 美月みつき/18歳・ヴォーカル担当

Critical Cliticalのメンバー表登録名はミツキ。

ピンクのツインテールにオフショルダーの服がトレードマーク。派手に見えるが、整った顔立ちと圧倒的な存在感で観客を魅了する。

マコトを気に入っていて、何かと“お姉さんぶり”たがるが、時々天然。ステージでは圧倒的カリスマ、オフでは賑やか担当。

有栖川という名家の娘であることが分かった。


宮田みやた りょう/22歳・ギター担当

Critical Cliticalのメンバー表登録名はリョウ。

レスポールを愛用するギタリスト。音とテクニックで観客の心を掴む、クリクリの音楽的屋台骨。

口が悪くて天邪鬼なところがあるが、音楽に対する情熱は誰よりも熱い。ステージでは言葉よりギターが語る。


ケイタ/20歳・ドラム担当

黒髪の長髪にアルカイックスマイルが印象的な、落ち着きのある青年。

正確無比なリズムでバンドを支える縁の下の力持ち。物静かだが、時折鋭い一言で場を動かすタイプ。


水橋みずはし 環奈かんな/17歳・ベース担当/都立星雲高校2年生

Critical Cliticalのメンバー表登録名はカンナ。

年齢に似合わぬベーステクニックで“天才少女”と呼ばれる実力派。

高校では物静かで目立たないが、黒髪ロングの美人で、周囲からは羨望の眼差しを受けている。

マコトとは同級生で、淡々とした言動の中に時折見せる優しさが印象的。


小松こまつ 里菜りな/キーボード担当/ミズハシ楽器・アルバイト

Critical Cliticalのメンバー表登録名はリナ。

前任のヨネさんの紹介でクリクリにヘルプとして加入。

普段はミズハシ楽器でアルバイトしている。

落ち着いた雰囲気を持ちながらも、音楽に対しては柔軟で積極的。サポートメンバーとして呼ばれることも多かった。



【MACS】


ヒトシ/ヴォーカル担当

マコトをバンドに誘った張本人で、明るくポジティブな兄貴分。

ライブでは観客を巻き込むパワー型フロントマン。マコトにとっては頼れる先輩であり、良き理解者。


クロ/ドラム担当

ヒトシの相棒で、落ち着いた雰囲気の大人っぽいドラマー。

言葉少なめだが、演奏ではしっかりとバンドを支える。マコトのことも静かに見守っている。


松崎(まつざき)/ベース担当

寡黙で無口なベーシスト。だが、マコトのことをよく気にかけてくれる優しい一面も。

演奏中の安定感は抜群で、マックスの土台を支える存在。


【サンデーパニック】


せき/ヴォーカル担当

マイクパフォーマンスが楽しいサンパニのヴォーカル。

環奈推しでよくお茶に誘うが、毎回断られている。

以前リョウに怒られて以来、少しリョウが怖い。



【都立星雲高校】


芝崎しばざき/誠と同じクラス

顔良し、友達多し、ノリも軽い。高校生活を全力で楽しむタイプ。

なぜか誠に絡んでくることが多く、軽薄な口調ながらも憎めない存在。


中谷なかたに 由美子ゆみこ/誠と同じクラス・隣の席

素朴で可愛らしい雰囲気が魅力の女の子。男子から密かに人気があるが、本人はあまり気づいていない。

誠とは隣の席で、時折交わす会話がじんわりと心に残る。


【美月の同級生】


泉谷いずみや/泉谷グループの御曹司

音楽業界に強い影響力を持つ名家の跡取りで、若くして多くのアーティストやプロデューサーと繋がりを持つ。

冷静で礼儀正しいが、その裏には家の期待と責任を背負う重圧もある。

有栖川家との関係から、美月との縁談が水面下で進められており、本人もその事実を理解しているが――彼自身の本心はまだ誰にも見せていない。


藤崎ふじさき/美月の同級生

美月の同級生で、名家・藤崎家に育った正真正銘のお嬢様。

育ちの良さがそのまま性格に表れており、言葉遣いは丁寧だが、価値観はどこか“良家の常識”に縛られている。



【市田楽器店】


市田いちだ/市田楽器店の店長

穏やかな笑顔と落ち着いた声がトレードマークの、街の楽器店の店長さん。

誰にでも優しく、従業員や常連からの信頼も厚い。

リョウのバンド活動を陰ながら応援してくれており、時にはアドバイスをくれることも。


戸田とだ/市田楽器店・アルバイト

高校時代から市田楽器店で働いている、元気で世話焼きな女性スタッフ。

リョウとは同い年ながら、バイト歴ではちょっぴり先輩。

Critical Clinicalの大ファンで、ライブにはほぼ毎回顔を出している。


【ミズハシ楽器】


米山よねやま/35歳・マネージャー

クリクリの元キーボード担当をヘルプでやっていた。登録名はヨネ。

ミズハシ楽器の社員で、店内では“そこそこ偉い人”として知られる存在。

スーツ姿じゃなくても漂う落ち着きと余裕――その佇まいは、まさに“大人の男”。

クリクリの音に心を動かされ、自ら「手伝わせてほしい」と申し出た。

年齢も立場も違うのに、スタジオでは誰よりも柔らかく、誰よりも鋭く音を見つめる。

時に冗談を交えながらも、音楽に対する姿勢は本物。

「拗ねるとちょっと面倒」と噂されるが、それも含めて愛されている存在。



【陽葵の同級生】

加地かじ あかり/陽葵の同級生

陽葵の同級生で親友。大人っぽい外見をしている。



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