十五話 文化祭
7月2日23時40分私たち3人はとある倉庫の中に来ていた。
「結構広いんすね。」
「もう使われていない倉庫だ。」
「あの奈織さん、結局あの本ってなんなんすか?」
「事故の記録だよ。当時小学4年生の3人がトラックに轢かれて内2人が死亡、もう1人は意識不明の重体。」
「なんでそんなものがうちに?」
「悪魔関係の資料は全てうちに提出されるんだ、実際このトラックの運転手も低級の悪魔に取り憑かれていたしね。そして、ルイがそれを退治した。」
「でも禁書庫にあるなんて……なんでそんなものが欲しかったんです?」
「これが、憧也君と涼君のことだからだよ。そして、気になることがさらに一つ。憧也君の名前が違うんだ、その上もう1人の被害者の苗字が内貴なんだよ。」
「それってどういう……」
「憧也君はこの被害者の少女の家に引き取られたんだろう。下の名前は、勝手につけたのかもな。」
「トウヤはそのこと知らないんですよね!?」
「無論だ。教えるつもりもない。血のつながりだけが家族を家族たらしめるのではない。彼の家にいてわかったよ、彼らは充分家族である、とね。実際、篤男は血のつながりがあっても親と喧嘩別れしたそうじゃないか。」
「その話は今はいいでしょうに……」
「まあ憧也君が記憶を取り戻せば話はべつだがな。君らも疲れたろう、今日はゆっくり休め。見張りは私がやっておく。」
「では、お言葉に甘えて。」
「アリガトウ、オレモネマス」
憧也君のあの言葉。ケイルシールとアエロスもループしている、か……。アエロス、何者なんだ。
憧也君の1度目のループ、あの時にケイルシールは何度も憧也君を殺したといっていたらしい。……まさか、ケイルシールは自分以外のループでも記憶を引き継げるのか?憧也がループして時間が戻ったとしてもあいつはすべで記憶できているなら……。ループは決してリセットではないし時間稼ぎにもならない……か。
思ったより時間がないかもな。
*
「トウヤ!」
ん?後ろを振り返ると階段で涼が手招きしていた。
「はやくこっちこい!」
走ってどこかに行く。慌てて追いかける。
どこまで行くんだよ。結局校舎裏まで連れて行かれた。
「……どうしたんだよ、急に……。」
「トウヤ、話したかったんだろ?ほら……陽だ!!」
「……!!お前、気づかないところでボコつてんじゃねえよ!!」
地面には顔が蜂に刺されたかのように腫れ上がっている陽が座っていた。
「まあいい…………陽、お前なんなんだ。」
「よく、あそこから逃げられたな……こんなことなら殺しときゃよかったぜ。なんなんだってか?俺は俺だ。やりたかったからやった、ただそれだけだ、はやく殺せよ。」
「ふざけんじゃねぇよ!!なんでそんなに他人事なんだよ!今まで仲良くしてきたのは演技だったのか?お前の恋愛相談に乗ったのも、帰りにコンビニによったりいつもくだらない話したのも、俺に近づくための演技だったのか?」
「ちげぇよ!!」
「…………お前脅されてんだろ?あのとき、拷問のとき、お前は自分を大きく見せるため、自分に言い聞かせるかのように大声を出してたな。長い付き合いだから分かるよ。」
「だまれ!!お前に何が分かるって言うんだよ!俺の苦しみが、大切なものを秤にかけないといけないこと気持ちが!お前に、お前なんかに、何が…………がはっ!!」
「陽!」
血を吐く。
「おい、トウヤこいつ、悪魔に取り憑かれてやがる!!」
「なに!?」
「取り憑かれてるっていうか…悪魔が喉に張り付いてる!」
誰かが口封じのためにつけたのか?
「陽!しっかりしろ!!おい!!」
「はぁ、はぁ……ごほっ……ちっ……よくもやってくれたな…………はぁ……よく聞け…………」
その瞬間、陽の首が爆ぜた。
「あ……あ……あ゙あ゙あ゙あ゙ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
くそっ、くそっ……
「っ!!トウヤ!何かいるぞ!!誰だ!姿を見せろ!」
「ああ、、我が奴隷がお見苦しいところをお見せしてしまいましたね。失礼しました。」
そこには身長は異様に高く、細身の男が立っていた。肌は死人のように白く、口もとは常に吊り上がって笑っていて、黒い杖を携えている。
「おい!お前は何者なんだ!?」
「これは失礼、自己紹介が遅れましたね、私はケイルシール様の4の眷属が1人、ヴァンパイアのグレイスです。以後お見知り置きを。」
「うらぁぁぁぁぁぁぁ」
「トウヤ!ちょっと落ち着け!」
村正を手に取り、斬りつける。
剣は当たらず、コートを少し破るのにとどまった。
「おっと危ない危ない。陽は残念でした。一応先ほど先生方に校舎裏で人が倒れていると連絡をしました。助かるといいですね、ふふふふ。それでは、また。」
グレイスと名乗るやつは自分の大きさほどの空間を作り、そこに入っていった。
「まて!!」
その後はあまり覚えていない。先生がきて、警察、救急車が来て、もう文化祭どころではなかった。陽は即死だった。そして俺は事情聴取だと言われ警察署までいった。
「憧也君、ありがとう、君の親御さんが待っているからもう帰っていいよ。」
「はい。」
「……」
あれから涼と俺はずっと黙っていた。
「「なぁ………」」
……考えてることは同じか。
「行くぞ!」
「あたりまえだ!」
「ちょっと、憧也!」
悪い、母さん
俺たちは走って外に飛び出した。
「トウヤ!あいつの場所わかるんだな?」
「ああ、俺が斬りかかったとき掠っただろ?あの時に村正の呪いが付着して今もガッツリ共鳴してる。」
「よし、あいつがやってたワープホールは俺が出してやるよ!!」
「できるのか!?」
「今まで悪魔をみてきてな、思ったことがあったんだ、神と悪魔の本質は一緒なんじゃないかってな。だから多分できる!」
涼が俺の頭に手を置く。
「トウヤは場所を追うことに集中してくれ、俺はそれを読み取って空間を開く。」
目を閉じて集中する。呪いを追う、まだだ、まだだ、まだまだ先、もっと詳細に…………ここかっ!!
「きた!伝わったぜ!!真後ろ!!」
涼が空間を分断し穴を開いた。
「うらぁ!!」
俺は入るよりも先に村正を深く突き刺した。




