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第四十二話「ともにある」

 デートが終わり、夜。

 王宮内ではパーティが開かれていた。

 集まるのは貴族がほとんど。


 そこへ、アルスたちも招かれていた。


 豪華な装飾に端から端まで並べられるありったけのご馳走。

 貴族たちは皆ワインやら酒を片手に談笑している。


 このパーティの内容は花神祭云々関係なしに開かれる社交界のようなものらしい。

 スーリオとリリアがちょっと前で挨拶してその後は自由。

 貴族たちは他国の政治の事やら外交の話しやらでアルスたちにとってはなんともつまらない会になっていた。


 周りには同年代らしき令嬢やら令孫がちらほらいた。

 一応社交界なので三人ともドレスコードを着せられたものの、あまりにも行動が奇妙なせいで浮いていた。


 会場に入った瞬間目もくれず一目散に料理に手を付けたアイビス。

 この一ヶ月で親しくなった貴族連中と政治の話に混じるフェンリル。

 ただ一人壁際の席で上を向いて口を開けて唖然としているアルス。


 行動全てが『変な奴ら』のそれだった。


「あのー、大丈夫ですか?」

「……」


 アルスは周囲の者に心配され声をかけられるもその声が届いている様子はなく、ただ唖然を貫いている。

 挙句の果てには奇妙な笑いを浮かべ、周囲から人が遠ざかるばかり。

 まさしく不審者そのものだった。


 リリアがチューしてくれた……。へへっ……!

 リリアの唇が……へへっ……えへへっ!


 アルスは気持ち悪いほどに浮かれていた。


 唇柔らかかったなぁ。

 いい匂いもしたし、あんな美少女とキスって…………えへへへっ…………もうこれ付き合ってんのかなぁ。

 結婚間近か?


 少ない知能がさらに低下していく。


「アルス君!」


 そんな浮かれた妄想していると、気づけば妄想の相手が目の前にいた。


「探したよアルス君」

「うぇ!?リリア……」


 慌ててヨダレを拭く。


 いつの間にリリアが――。

 え、今のヨダレ見られてないよな?

 大丈夫だよな?

 それに探してたって、なんで――。


「ど、どうしたんだ?」

「あのね、今からパーティーの余興として社交ダンスがあるんだけど……」


 しゃこうダンス?

 なんだそれは?

 ダンスの種類か?

 リリアが踊っていたダンスとはまた違うのか?


「それがどうしたんだ?」

「えーと、その……そのダンスは男女でペアになって踊るダンスなんだけど………」

「はあ……?」


 リリアが頬を染めながら目を逸らす。


「その、アルス君が良ければ、………私と一緒に踊ってくれませんか?」

「!!!」


 ダンス。

 リリアと二人で。

 公衆の面前で。


 これはこの前みたいにみんなが畏れ多くてリリアと踊りたがらないからなのか?

 いや、そうじゃない。

 リリアの後ろには羨ましそうな目でこちらを見る令息たちが群がっている。

 つまり、全ての誘いを断って俺のところへ――!!!?


 この時、アルスの脳内処理速度は光の速さを超えた。


「もちろん。俺で良ければエスコートさせてください」


 最大級のイケボを出しながら出されたリリアの手を取る。


 リリアの顔がぱぁっと晴れ、満面の笑みで二人は前へ出た。



---



 会場のコテージには涼しい夜風が吹いていた。


 人も少なく、ロマンチックな夜景が見えるその場所は酔いを覚ますには十分な場所だろう。


 そんな場所で酒を煽る者がいた。

 服装はドレスコードなどではなく、いかにも冒険者風のコートを身にまとい、パーティには似つかわしくない服装だった。


 初めてそいつを見る者がいるとすれば「なぜあのような身なりのものがこんなところへいるのだ」と喚いていたかもしれない。

 しかし、その場にいる者たちはその人物が誰なのかを知っている。

 来客として招かれた者の一人であるからだ。


「また一人で飲んでるんですか?バーゼルさん」


 そんな彼を気遣うように別の者が近づき声をかけてきた。


「なんだァ?スーリオか……。なんか用か?」

「いや別に何も無いですよ?ただ、また一人寂しくお酒を煽ってるのなーって思っただけです。酔っぱらいの介護は必要でしょう?」

「はぁ、ホントお前生意気になったねぇ。これだからガキは嫌いなんだよ」

「もうガキじゃないですよ?ちゃんと一国の王様ですから!」


 腰を塀に預け、酒を煽りながらつまらなさそうに会場を眺めるバーゼルの横にスーリオがワインを持って塀に体を預ける。

 街の夜景を目にしながらワインを一口。


 スーリオが呟く。


「今回の襲撃事件、やっぱり『奴ら』が関わっていたと見て間違いないでしょう。アルスが目を覚ました際に聞いたんですが、襲撃時に骸骨のような老人の首を跳ねたそうです。フェンリルたちも一緒にいたらしいんですがその人物を覚えてるのがアルスだけのようです。」

「骸骨のような老人……」

「アルスが言うにはそいつが何かを唱えた後あの『呪い』がしたんだとか。」

「……そいつの死体は?」

「それが、アルスが一瞬目を離した隙に姿もろとも消えてたらしくて……。加えて、そいつがいた場所に国が魔獣を管理する用の魔導具が破壊された状態で置かれていたそうです。これがその内の一つです。」


 懐から壊れた魔導具を取り出しバーゼルへ手渡す。


「……握りつぶしたみてぇだな。こんな簡単に壊れるもんなのか?」

「いえ、普通の人の腕力じゃ無理ですよ。付着してる魔力からして『呪い』で壊したんでしょう。」


 バーゼルはその魔道具に見つめた後、ため息をついてそれを懐へしまった。


「これは俺から『ジジイ』に報告と一緒に手渡しとく」

「お願いします」

「それにしても、『飢餓の呪い』を使う骸骨のような老人か。聞き覚えがあるな」

「えぇ、多分ですけど、こいつだと思います」


 今度は紙切れを手渡す。


「何だこれ?」

「資料庫の本に挟まってあったものです。複写(コピー)ですけど」


 バーゼルがそれに目を通す。


「……」

「約800年前、この大陸全土は飢餓時代でした。このフロールワ王国も例外なく大飢饉に見舞われました。その大飢饉を引き起こした張本人、名は『アルブェナド・フェミン・ボ・ワーラ』。元は王国の政治家だったようですが大飢饉の数年前に行方をくらまし、骸骨のような老人の姿で戻ってきた後、『呪い』で飢饉を引き起こしたと記されてます。」

「特徴が一致してるな。」

「『奴ら』なら800年など造作のない月日でしょう。()()()()()も生き続ける化け物もいますしね。まぁそれでもアルブェナが生きていたことにビックリですけど」

「……ほーん、当時の『砂王』が命を落とし、『花神』までも瀕死になったが倒すことに成功したって書いあるな。」

「当時は地下牢に入れてたそうですが、何者かによって牢を破壊され、逃げられたそうです。」

「当時の『砂王』と『花神』を……。」

「今回の『奴ら』はフリージックを切り捨てる前提で動いていたと見ていいでしょう。それに、僕が特一魔術で対抗することも織り込み済みだったようです。」

「お前が『呪い』に対抗すればお前は戦力として数えられない。何せ手を離せないしその分相手も動き回れるからな。もし対抗する手段を選ばなかったらそれはそれで敵味方両方とも殺すつもりだったってわけか。

 恐ろしいねぇ。今回『奴ら』が引いてなかったら間違いなく国どころかガキ共まで失ってたな。」

「……バーゼルさんがいるなら大丈夫では?」

「馬鹿言え。そんな簡単な相手じゃねぇよ。俺が生き残れてもあのガキ共が生きてなきゃ意味ねぇだろ」

「ははっ、ほんと()()()()ですね。」


 その言葉にバーゼルが顔を引きつらせる。


「……俺はアイツらの先生じゃねぇよ。手のかかるガキを世話してやってるだけだ。」

「それだけであそこまで肩入れしないでしょう。僕の時はあそこまで熱心じゃなかったじゃないですか。ねぇ?先生?」


 バーゼルとスーリオの関係は少し古い付き合いになる。

 スーリオとリリア、二人が亡命時に『水の国』にて魔法や戦い方を教えたのがバーゼルである。

 ――言わば師弟関係というものだろう。


「その呼び方はやめろ。俺は仕方なくやっただけだ。」

「冷たい人ですね。まぁそれでも僕たちの先生であることには変わりないですけどね!」


 ダルそうに呟くバーゼル。

 それをからかうように見るスーリオ。


「はぁ〜、ホントガキは嫌いだわ。生意気なクソガキめ」


 笑顔で返すスーリオ。


「それで、この先どうするんです?いつまでも同行するわけじゃないんでしょう?」

「あぁ、そうだな。俺にも他の仕事があるしな、それに基礎は大まか教えた。教えられることももうほとんどねぇだろ。後は自分たちで成長して行ってもらうしかねぇな」

「僕としては、あなたには彼らのそばにいてあげて欲しいですけどね。彼らの身に降りかかる危険を考えればあなたでも足りないと思います」


 不安げな表情を浮かべる。


「まぁそれも一理ある。実際、ここに来る前に『レーデ村』に寄ったが、そこでも教会の奴と出会した。」

「え!?あの村に行ったんですか?よく行きましたね。僕でもあまり立ち寄りたくないのに」

「まぁずっとあそこに教会の奴がいることは分かってたからな。先手取られる前に追い払って、ついでにアイツらに自分たちがこれから相手にする奴らがどんな奴らなのか教えるためにな」

「はぁ……ほんとシビアな人ですね。それなら尚更彼らといるべきでしょう?今回のフリージックを含めれば向こう側は既に三人も手先を送り込んできてる。確実に狙われてますよ」

「そうしたい気持ちは山々だが、いつまでも俺がいちゃあアイツらの成長を妨げるだけだ。」


 バーゼルがいるという保険がある限り、アルスたちの成長を止めかねない。

 いつまでも親に守られる子供じゃダメなのだ。


「まぁ詳しい説明はまだされてねぇけど、もうそろそろお前たちにもちゃんとした説明があるだろうな。」

「……あぁ、招待状のアレですか。」

「そう。もうすぐ『八大強国王帝会議』が開かれる。そこでおそらくあのガキ共に対する扱いも色々決まるだろうな」

「……そうですか。僕は彼らが良い扱いを受けらるように計らいますよ。可愛い弟弟子たちですからね。バーゼルさんもちゃんと弁解してくださいね?」

「……言われずとも、だ。アイツらは世界にとって重要な存在だ。(たが)えちゃいけねぇ」


 決心のこもった目で呟く。

 スーリオはその目にふとずっと感じてきた疑問をこぼした。


「バーゼルさんって、子供は嫌いってよくボヤいてますけど、本当は好きですよね?じゃないとここまで僕や彼らに尽くさないでしょ」

「はぁ、勘違いもいいところだな。俺はガキは嫌いだ。うるせぇし、弱ぇし、頭も悪けりゃ行動も読めねぇ。イライラして仕方ねぇ。」

「じゃあなんでこれほどまでに?仕事にしてはまた違う気がしますけど?」


 スーリオの質問にバーゼルは酒を煽りため息をついた後、夜空を見上げた。


「そりぁ俺も守られて生きてきたからな。弱くて考えも至らねぇから道を間違える。どうしようもなく面倒にな。

 子供を護って、優先して、導く。余裕のある大人の責務ってやつだろ。どんなに腹が立っても、次の時代を生きる奴らだ。多少はマシなようにしてやんねぇと、俺らが歳とった時に苦労すんだろ」


 バーゼルの横顔は少し楽しそうに口元を綻ばせていた。


 本当にこの人は隠し事が下手だな……。

 素直になればいいのに。


「そうですか。」


 スーリオも笑みを浮かべた。


「ところで、リリアの方は大丈夫なのか?なんか最近元気がないって言ってなかったっけ?」

「あぁ、それならもう大丈夫ですよ。ちゃんと、適任者(アルス)が元気づけてくれましたから」


 そう、温かい目で会場内に目を向ける。


「あははははっ!アルス君何そのステップ!」

「い、いや、俺ダンスとか分かんないんだけど!?」

「えぇ〜?エスコートするって行ってくれたのに?」

「うっ………するって言ったけど踊れねぇの!」


 会場のど真ん中に、微笑ましく手を取り合って社交ダンスをするアルスとリリアの姿。


 周りにも同じように踊る者がいる者の、皆リリアの表情に見惚れて動きが止まっている。


「リリア様があんな風に笑うなんて……!」

「まるで、無邪気な少女。でも、美しい……!」


 リリアが普段見せないような笑顔に全員が見惚れているのだ。

 王女としての姿ではなく、少女としての姿に。

 仮面を被らない彼女に。


 いつしか会場内には二人だけのステージが出来ていた。


「なんだ。全然大丈夫じゃねぇか。」

「まぁ、(アルス)のおかげですよ」

「へぇー。こりゃあアルスがお前の義弟(おとうと)になるのも近いかもな」

「うっ………いや、それはしっかりと話し合ってから、ね?」


 血なのかワインなのか分からないものを口から吐き出し、握るグラスにヒビが入る。


「お前ほんとシスコンだな。いつまでもそんな感じだとリリアから嫌われるぞ」

「ぐふっ………何言ってるんですか。リリアが僕のこと嫌うわけないでしょ」


 何かが胸にぶっ刺さる。


 バーゼルはため息をこぼしながらも、教え子の姿に頬を緩ませ、酒を煽った。



---



 一週間後、アルスたちは出国の日を迎えていた。


「ここまでで大丈夫です」


 国の東門の前までスーリオたちが見送りに来てくれた。

 スーリオたちが四人に深々と頭を下げる。


「少しの間だったけど楽しかったよ。君たちには感謝しきれないほどの恩がある。助けが必要ならいつでも言ってくれ。」

「ふん!当然よ!もっと感謝してもいいのよ?」

「壁の修繕費、出世払いだってこと忘れないでね?」

「あっ……」


 パーティーの際にアイビスが間違えて酒を煽ったらしく、酔った勢いで魔法を壁へとぶっ放し、王宮の壁に大穴を空けたのだ。

 パーティーはそれのせいでお開きになった。

 ちなみにアイビスは壁を壊したことをほぼ覚えていないらしい。

 都合のいい脳みそだ。


「まぁ俺たちならすぐに出世すんだろ。冒険者ランクもDランク通り越してCランクだぜ?」


 襲撃時の活躍もあり、三人の冒険者ランクはすでにCランクに昇格していた。


「馬鹿言え。たまたま国に関わる問題を片付けたから運良く昇格したんだよ。ランクが上がろうがお前らはまだまだ初心者(ビギナー)だ。」

「たまたまて。十分すごいだろ」


 まぁ、初心者(ビギナー)のつもりでってことだろうな。


「なんにせよ。君たちには感謝してるんだ。ありがとう。」


 スーリオがもう一度お礼を言いながら三人と握手をする。


「それで、みんなはこれからどこへ向かうんだい?」

「これから向かうのは『水の国 マール王国』だ」

「『マール王国』?」

「確か隣国の八大強国ですよね?」

「そうだ。そこから次のルートを目指す」


 へぇー。

 つまり他の大陸に行くには『マール王国』を経由しなきゃいけないってことか。


「どれくらいかかるのよ?」

「順調に行けば二ヶ月程度かな」

「二ヶ月!!?今回も遠いわね」


 まぁ地底とは距離とかも立地も全然違うからな。


「皆さん、これからの旅路も気をつけてくださいね」


 綺麗な微笑みを浮かべるリリア。


「はい!」

「まぁ余裕よ!」


 自信満々に答える二人。


「アルス君。私、頑張るから。お父様とお母様のような王女になれるように頑張るから!」

「おう!分かってるって!俺も負けねぇくらい強くなってやるよ!」


 ニカッと笑顔を見せるアルス。


 微笑ましく見つめ合う二人にスーリオと女執事が血走った目で睨みつけている。


「スーリオ様。あのクソガキの駆除の許可を」

「まぁまぁ落ち着くんだ。リリアに気づかれないように国から出た後に存分に労わろうじゃないか」


 なんかすんごい怖いこと言ってくるんですけど。

 スーリオお前さっきの感謝の言葉はどこに行ったよ。


「もういいか?そろそろ行くぞ」


 痺れを切らしたバーゼルが荷物を持って歩き出した。

 後ろからスーリオが声をかける。


「バーゼルさん。三人のこと頼みましたよ」

「……あぁ、分かってる」


 フェンリルもお礼を言いながら頭を下げ、アイビスも大きく手を振りながらバーゼルについて行く。


 名残惜しく感じるもアルスも荷物を持つ。


 そんなアルスの手をリリアが握る。


「アルス君。気をつけてね。コレ、お守りなるかは分からないけど……」


 握られた手を開くと指輪がついたネックレスがあった。


「コレ!」

「大事にしてね?」


 照れた笑みに声が漏れそうになる。


「あぁ、ありがとう!」

「私こそありがとう。アルス君のおかげで前を向けるようになったから。」

「おう!」


 笑みを浮かべ、リリアの手が解けていくのを感じながらアルスも歩き出す。


 会えるのはこれが最後じゃない。

 必ずリリアの元へ帰ってくる!

 スーリオは……まぁいいか。

♦ちょこっと補足♦

パーティーでのリリアの無邪気な笑顔を見て、リリア信者たちは全員気を失い、三日間熱が下がらなかったそう。














二章『砂の国編』 -終-

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