第一話「男の通る道」
ここは地底世界。
地面の中にある世界だ。
そんな世界にも学校というものがある。
それが、この地底世界唯一の魔法学校、
『グランベル学園』だ。
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俺の名前はアルス、年は十二。
このグランベル学園の最上級生であり、誰もが憧れるスーパーグッドルッキングガイである(※ 個人の感想です)。
現在、学校の授業を終え、放課後。
アルスは子分たちを従えて、誰もいない校舎裏に来ていた。
「お前ら準備はいいか!」
アルスの言葉に答えるように子分たち(クラスの男子たち)の視線がアルスに向かう。
「いいか!男には命をかけてやらなければならない戦いがある!俺たちは今からその戦いに赴く!」
アルスは台の上に乗り、声高々に叫ぶ。
皆は緊張や期待、羨望など様々な感情を巡らせ、息を呑む。
「この戦いを制した時には俺たちは一人前の男になれる。得られる経験は大きい!だが、これはかなりの危険を伴う。捕まればおそらく命はない。過去に挑んだ者がいたそうだが成功率は0%。あまりに無謀な戦いだ。それでも行きたい奴だけ付いてこい!」
アルスの声明に全員の表情が引き締まった。
みんな覚悟は出来ているようだな。
まぁ、当然だな。
俺の子分にこんなところで日和る奴はいない。
すると、一人の子分が声を上げた。
「我々の意思はもう決まっております!ここで行かねば男ではありません!」
そう言うと周りの子分たちも「そうだそうだー!」と便乗し、声を上げる。
なんて頼もしい奴らなんだ………!
「…………そうか。すまない、さっきの質問はお前たちにとっては無粋だったな。」
アルスは皆に謝り、顔を上げる。
そうなれば話は早い。
俺の役目はここでこいつらを鼓舞するだけだ。
「なら行くぞ!お前たち!戦場へ!!!俺たちの明るい未来を!掴みに行くぞ!!!」
「「「「「オォォォォォォオッ!!!!」」」」」
アルスの言葉に全員が雄叫びのような声を上げる。
士気は上がりきっている。
早速向かうとするか。
と、アルスが目的地へ歩き出そうとした時、また一人の子分が声を上げた。
「隊長!」
隊長とはおそらく俺のことだろう。
どうやら今は隊長で通ってるらしい。
「なんだね、ベンジャミン君。」
アルスは隊長らしく、毅然とした態度で答える。
隊長っていうのを見たことがないからどんなものなのか知らないが、たぶんこんな感じだろう。たぶん。
「隊長!今回の戦場はどこなのですか!」
思わぬ質問が飛んできた。
アルスは思わず肩を落とす。
「お前ら、今回の戦場を知らないのか?」
「申し訳ごさいません!」
お前らそんなんでよく付いてきたな。
これから行く場所も把握してないとは何事だ。
「家を出る時にお母さんにどこに行くの?って聞かれなかったのか?お前今日なんて言ってここに来たんだよ。何も言わず出てったらお母さん泣くよ?」
「うちに母などいません!いるのは恐ろしい山姥です!」
「………それお前のお母さんのこと言ってるんじゃねぇだろうな?」
「………」
変な空気が流れる。
うん。まぁそれはそれで置いといて。
「今回の戦場は『ヨルメールの泉』だ。そこに " 奴らが来る " との情報が入った。」
ヨルメールの泉は自然発光地帯の一つである。
自然発光地帯とは地底世界では見られない明るく神秘的な景色が広がる空間のことを指し、地底人たちからはパワースポットのように扱われている。
そして今回のヨルメールの泉という場所は自然発光地帯の中では少し特殊な所で、泉周辺が明るい訳ではなく、泉そのものが光っているのだ。
つまり、人の視覚上、泉の中からは泉の外を確認しづらいのだ。
故に、奇襲に打って付けってわけだ。
「ヨルメールの泉!?なんて絶好のチャンスなんだ!!」
「これなら勝てるかもしれない!」
「いやいや、こんなの勝ち確だろ!」
みんなが興奮気味に声を上げる。
それもそうだ。
今回の戦いは今までにないほど有利な立場にいる。
これを逃せば次はないだろう。
「いいか!失敗は許されない!必ず勝つぞ!!!」
「「「「「オォォォォッ!!!」」」」」
拳を突き上げながら大声で鼓舞し、場を引き締める。
よし!これなら大丈夫だろう。
絶対に勝とう!
アルスはそう意気込み、目的地へ向かった。
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『ヨルメールの泉』がある場所は今いる中央大きな部屋から見て東に位置する、東大大きな部屋にある。
そこは商業施設が多くあり、建物も多い。
行き交う人は商人やら主婦やらと様々だ。
そんな街並みを抜けていくと、突き当たりの壁に小さな穴がある。
子供一人がしゃがんで通れる大きさの穴だ。
その穴を通り抜けると、さっきの街並みとは全く別の景色が広がる。
そこは人の手で作られた空間ではなく、自然と出来た空間と湧き出る泉。
その泉は暗い空間を照らし出し、水色の光を放っている。
言わば神秘的な鍾乳洞と言ったところだ。
ここは子供しか立ち入ることの出来ない場所で、よく水浴びや遊び場として使われたりする。
アルスたちにとっても馴染みのある場所だが、今回はここが戦場だ。
「おぉ!相変わらず綺麗なところだな」
「そりゃあそうだろ。ヨルメールの泉だぜ?綺麗に決まってる」
「違いない」
泉に到着し、子分たちが感嘆の声を上げる。
ここの景色は、アルスたちの住んでる世界とは別世界のようなところだ。
地底世界でもトップクラスの景観だろう。
だが、そんな場所が今日、血に染ってしまうとなると少し残念だ。
「おい、早く来い!モタモタしてると奴らと鉢合わせるぞ!」
アルスはそう言い、目の前の凹凸のある壁を登り始める。
何故壁をって思うかもしれないが、この壁を登った先に出っ張った足場がある。
十数人が乗っても大丈夫そうな場所だ。
そこで奴らを待ち伏せし、奇襲をかけるのだ。
これで勝算はかなり上がる。
あとは運のみだ。
全員が壁を登り始めた頃、声が聞こえてきた。
「――――よねー。」
「分かる分かる!私も思ってた!」
来た!奴らだ!
アルスたちは急いで壁を登りきり、バレないようにしゃがみ込む。
思った以上に早く来たな。
情報元によるともう少しかかるはずだったんだが………。
まぁいい、遅かろうが早かろうが関係ない。
やることをやるだけだ。
アルスは小声で奴らに気づかれないように喋る。
「お前らいいか?今から作戦伝える。」
そう言うと全員が聞き入るように顔を寄せてくる。
「奴らが全員泉に入ったら俺が合図を送る。そしたらベンジャミン、お前が先陣切って飛び込め。お前らもベンジャミンに続け。」
「了解です。しかし隊長。隊長は飛び込まないのですか?」
ベンジャミンが質問で返してくる。
俺が飛び込まない?
無粋だな。俺は隊長だぜ?
飛び込むに決まってんだろ。
だが、俺が飛び込むのは最後だ。
隊長故に、最後に回らなければならない。
「俺は指揮をしなければならないから最後だ。美味しいところはお前らに譲ってやるよ。」
まぁ、本音を言うと一番最初に飛び込みたかったが、これも上に立つ者の責務だ。
譲ってやらねばな。
そんなことをしてる間に奴らの声がどんどん多くなっていく。
増えたな。
増えれば増えるほど勝率はどんどん下がっていく。
だが問題ない。
今のこの状況と配置、まだ俺たちの方が有利だ。
アルスは奴らの状況を確認するため、ゆっくりと顔を覗かせた。
「っ!!!」
ブシュッ!!!
下を覗いた瞬間、アルスは鼻血を吹き出した。
「た、隊長ッ!!」
子分たちはその様子を見て慌てふためく。
とんでもない破壊力だ。
これが成功率0%の難戦!
まるで桃源郷じゃないか………!
「お前ら気をつけろ。これはやべぇぞ………。」
アルスの言葉に全員がしり込みをする。
「隊長……。俺たちは…………」
「ねぇ、なんかあそこら辺変な感じしない?」
アルスたちが喋っていると敵の一人がアルスたちの気配に気づいたようだ。
まずい!
気づかれたか………!
「やっぱり?私もさっきからなんかいるような気がしてたんだよねぇー」
今ここでバレれば終わる!
いくら状況と配置が良くても、奇襲をかけられなのであれば意味は無い。
戦いどころか一方的に狩られる!
どうする………!
やり過ごせるか…………!
「 隊長 」
思考を巡らせているとベンジャミンが呟いた。
「もう、いいんです。もう十分です。」
その言葉にアルスは思考が固まった。
「待て。十分ってなんだよ!
お前らまさか、諦めたんじゃ………」
「俺たちは隊長のおかげでここまで来れたんです。1週間前から念入りに情報収集と立地の確認、そして完璧な計画。俺たちはついてくるだけでここまで来れた。だから、俺たちがすることは完璧に戦うだけです。」
そう言い、子分たちは全員立ち上がった。
こいつら………諦めたんじゃなくて、覚悟を決めたのか……………!
だが無理だ!
奴らの戦闘力は一人一人が全く違う凄まじい戦闘力を持っている!
不意打ちでもなければ確実に負ける!
「待て!早まるな!ベンジャミン!」
アルスの言葉を無視し、子分たちは相手から見られる位置に立った。
「キャアーーー!男子が覗いてる!!」
相手はすぐに気づき声を上げる。
終わった…………。
これは、俺たちの負けだ。
「隊長、ありがとうございました。あなたのおかげでここまで来れた」
諦めたアルスに対してベンジャミンが声をかける。
他の子分たちもアルスに向けて指でグッジョブサインを送る。
「お前ら……!」
「あと、これだけは伝えておきます。」
背中で語っていたベンジャミンがゆっくり顔だけ振り向かせた。
その時、俺は気づいた。
こいつらは俺の子分なんかじゃねぇ。
――一端の、 " 戦士 " だ。
「俺、ベンジャミンじゃなくて、、レンヌです。」
そう言い、レンヌは飛び降りた。
「行くぞお前ら!隊長から貰ったこの命!こんなところで落とす訳にはいかない!勝って帰るぞぉぉぉぉ!」
「「「「「オォォォォォォォッ!!!!」」」」」
レンヌに続き、全員が雄叫びを上げながら飛び降りた。
「ベンジャ………じゃなくて、レンヌーーーーッ!!!」
アルスは急いで子分たちが飛び降りたのを見下ろす。
――だが、遅かった。
「おい…………嘘だろ…………!」
アルスは子分たちが飛び降りた瞬間下を見た。
なのに、下はもう既に、血の海と化していた。
あいつら、一瞬で……………いや、まだ何人か残ってる!
よく見るとまだ数人生き残っている。
逃げ回ってる者。追い詰められてる者。
まだ助けられる!
早く加勢に………………………………いや、このまま見てていいのでは?
アルスの頭の中にそんな考えが一瞬よぎった。
この戦いは一人でも生き残れば勝ちと同様。
ならいっその事ここで見てればいいのでは?
わざわざ飛び込む必要ないのでは?
っていうかそもそもあいつらを囮にして上からじっくり見てた方がおいしいのでは?
うん、飛び込まなくていいと思う。
よし、ここから見ておこう!
アルスは一瞬にして考えを180°変え、あっさりと仲間を見捨てた。
そして、上からまじまじと敵の姿を観察し始めた。
色も様々。
大きさもバラバラ。
侵食具合も人それぞれと言ったところか。
ふむふむ……………なるほど。
「美しい!!!…………あっ…」
ドォーーーンッ!!!
アルスがじっくり見下ろしていると、下から魔法が飛んできた。
その魔法は足場ごとアルスを泉に落とした。
「イテテッ………!」
誰だこんなところで思いっきり魔法ぶっ放した奴は。
天井が崩落したらどうするんだ。
アルスは打ち付けた腰を抑えながら目を開けた。
そこには全裸で水浴びをしていたクラスの女子がたくさんいた。
「あんた、死ぬ準備は出来てるんでしょうね?」
一番前に立っていた女子が殺意の籠った顔でアルスに杖を向けていた。
もう分かったかな?
この戦いは、、そう、女子の水浴びの覗きです。
杖から魔法が放たれ、アルスの体の真正面に直撃し、アルスを吹っ飛ばした。
我が人生に一片の悔いなし……………。
とんでもない衝撃と共にアルスの意識は遠のいて行った。
♦ちょこっと解説♦
子分たちが下へ飛び降りた後すぐに泉が血の海と化したのは一瞬で女子にボコられた訳ではなく、女子の裸を見て鼻血を吹き出し、自滅したからである。




