プロローグ
『今日から独自でこの地底世界について調べていこうと思う。これはその調べた内容と日記を記したものである。
まず、地底世界について理解っていることを整理する。
・歴史
今から約1000年前、地上にて世界を滅ぼす程の戦争があった。人類を滅ぼそうとする邪神が世界を蹂躙した。人類が総力を上げて対抗するも敗れ、人類はこの地底奥深くに追いやられた。そして、そこから人類の地底世界での生活が始まったとされる。
「地底世界のあらまし」から一部抜粋
・地形
地底というだけあって、基本は土や岩しかない。しかし、この地底世界には自然が存在する。草や木が生え、水源がある。理屈ははっきりとは判明していないが、魔力が関係しているのではないかという説もある。中でも、地底世界というのは暗い場所であるため、魔法陣などで光源を確保しなければならないが、ごく稀に光源を確保せずとも明るい場所がある。
その場所を自然発光地帯という。自然発光地帯は文字通り自然が発光している場所である。温かい空間と優しく包まれるような感覚は地上を連想させる程である。
「地底世界の自然とかたち」から一部抜粋
・生態
人類が地上世界にいた頃から、魔獣という生き物が存在していた。魔獣は人類に害を出す生き物であり、古来より人類と魔獣は対立関係にある。しかし、人類が地底世界に進出してくるまでは魔獣の類も地底世界には存在しなかったとされている。人類が地上にいた頃より数や種類は大きく減っているものの存在は多く確認されている。
「生態標本 〜地底世界の生き物たち〜」から一部抜粋
・人類の生活
人類は地底世界に進出した時、初めに大きな部屋と呼ばれる大きなドーム型の空洞を作り、生活圏を築きだした。大きな部屋の大きさは直径5kmとされており、中央と東西南北の四つ、合計で五つの大大きな部屋を形成している。そして、大きな部屋と大きな部屋の間は渡り道という道で繋がっている。尚、東西南北の大きな部屋は全て、中央大きな部屋にしか繋がっていおらず、東西南北の大きな部屋を移動するには必ず中央大きな部屋を経由しなければならない。北は魔獣の生息地とし、狩りを行う場所、西は生活区、東は商業区、南は発掘区、中央はその全てが集まる場所として、配置されている。地底世界は自ら光源を確保しなければ暗いままであるため、人類は魔法陣を道に配置し、光源を確保している。食料は魔獣の肉や農作物。地上世界にいた時に人類が飼っていた家畜というものはない。建物は土や石、木などで出来ている。地上世界にいた頃と比べ、様々な文化が継承されず、途絶えている。
「人々の暮らし」から一部抜粋
今書き写したものは図書館に置いてある正式で正確な内容の専門書である。
これらの本を読み、客観的に地底世界を見てみる。
――正直言って、気持ち悪い。
何か大事な本幹が欠落しているように見える。
私自身、今まで何の不自由もなく生き、生活してきて何も違和感はなかった。
だが、いざ仕事としてこの現状に向き合った際に奇妙な点が多くある。
自然発光地帯、魔獣、地底であるのに木や水があること。
――異常だ。
地理学的、生物学的観点から見てありえない。
どうやってそれらが存在するのか。
専門書や記録書を見ても明確にされていない。
どれもまるでそれが常識だと受け入れたような書き方をされている。
私はこれが地上世界と何か関係しているのではないかと考えている。
これらが当たり前だという認識をされているならば、伝記や専門書に記されていないだけで、地上世界ではそれらが常識だった可能性が高い。
これらの観点を考慮し、研究を進めていく。
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今日は半休をもらい、地底世界の自然について調べることにした。
学校、道、村、あらゆる場所で草木を確認出来る。
場所によっては花が咲いていたりする。
雪道花、クオンユリ、ジャミール、ツヅラバナなど、綺麗な花々が咲いている。
花言葉は希望、愛、精神の美、献身など、縁起のいい言葉ばかりだ。
しかし、専門書によると地上にあった花の種類はこれだけでなく、もっと多くあったそうだ。
地底にある花々は専門書に記載されている地上の生息地とは大きくかけ離れた場所にある。
地上とは関係ないものなのだろうか。
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今日は水源を調査しようと思う。
そもそもの話、地底世界に水があるというのはおかしな話なのだ。
熱水ならまだしも、冷たい水というのはありえない。
そこで水源がどこから流れているのか調べようと思う。
まず、水源は地底世界の至る所に流れている。
中央、東西南北、全ての大きな部屋に流れている。
しかし、どれも壁から流れ出ている。
壁を掘ってみたが、一向に先が見える感じはしない。
仮説としては、まだ見つかっていない自然発光地帯から流れ出ている可能性があるのではないだろうか。
どちらにせよ、まだまだ調査が必要である。
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今日、魔獣の生態調査として、狩人たちに同行した。
地底世界にはグランドウルフ、グランドバッド、グランドアント、グランドワーム、グランドモルの五種類の魔獣しか発見されていない。
北大大きな部屋にて、その生息域を拡げているようだ。
調査は問題なく進み、魔獣の動向は変わらず落ち着いていることが解った。
しかし、調査の帰りにグランドウルフの群れに襲われた。
数は10匹程度。
プロの狩人なら問題なく狩れる。
直ぐに狩り終え、死体を持ち帰ることにした。
そして私はそのうちの1匹を譲り受け、少し調べることにした。
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今日は昨日譲り受けたグランドウルフの体を調べた。
すると、とんでもないことがわかった。
なんとこのグランドウルフ、体の98%が魔力で出来ていることが分かった。
それもかなり高濃度であり、体が魔力そのものと言っていいだろう。
これは驚くべき発見だ。
しかし、そうなるとまた別の問題が出てくる。
――魔獣はどこから産まれてくるのか。
このグランドウルフは雄雌どちらでもない。
生殖機能が付いていないのだ。
つまり、魔獣は生殖によって増えていない。
また別の方法で数を増やしている。
それは今後の調査で明らかにしていくつもりだ。
だがしかし、私には不思議でならない。
何故だ。
なぜこのことについて誰も気づかなかったのだ。
人類が地底世界に進出し、同時に魔獣の存在も地底で確認されだした。
なのに何故、誰一人としてこの事実に気づかなかったのだ。
体を調べるのに特別な方法を使ったわけではない。
誰でも出来るようなやり方で行った。
どうしてだ。
どうして千年もの間、気づかなかった。
いや、調べようとしなかった。
謎は深まるばかりだ。
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今日、神隠しが出たという情報があった。
なんでも忽然と姿を消し、帰ってこないんだとか。
困ったものだ。
神隠しとなると私も捜査に出向かなくてはならない。
そんなものの為に私の貴重な研究と気力を割かなくてはならない。
なんてったってその神隠しにあったのは私の最も嫌悪する、あの自己中心主義者たち。
『オーディ・アーグベル』
『フィナス・レフィーヤドール』
『ギィ・フォーディン』
の三名だ。
特にオーディは最悪だ。
軽薄、無責任、下品、浅学、利己主義。
この世のクソを凝縮したような奴だ。
何故私がそんな奴らの為に動かねばならんのだ。
同学年というだけで最悪だというのに。
気分が悪い。
どうせまた、適当にそこら辺をほっつき歩いているだけだろう。
全く迷惑な奴らだ。
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一ヶ月が過ぎた。
未だ三人は見つかっていない。
どうやら本当に神隠しにあったようだ。
まぁ私としては嫌いな連中がいなくなり、せいぜいした。
捜査も打ち切られ、今日からまた調べ物が出来る。
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今日は図書館の本棚の整理を命じられた。
確かにもうそんな時期だったな。
これぐらいの時期になると本の冊数が増えたり、本の場所がかなり移動したりして整理しなければならない。
これを機に何か掘り出し物でも見つかるといいが。
面白い本を見つけた。
タイトルは『地上の失われた技術』と書かれてある。
これはかなり興味深い。
地底では再現出来ないような優れた技術が地上にあったということをだろう。
もしこれらを再現出来れば正しく私は地底世界に名を刻むほどの偉人になるだろう。
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一晩かけてその本を読み終えた。
読み終えた感想は衝撃的の一言。
おかげで酷い頭痛に記憶が飛びそうな感覚だ。
忘れないうちに書き記す。
あの本には色々なものが書かれてあった。
魔法陣を扉に埋め込み、施錠する 施錠型魔法陣
神の力を注ぎ、打たれた 神剣
人々の暮らしを支える 魔道具
これらのものを再現するのは不可能と言っていいだろう。
しかし、再現可能なものもいくつかある。
水を便利に酌める ポンプ
自分自身をそのまま映し出す 鏡
そして最もこの地底世界に必要なもの、 " 時計 " だ。
時計というのは時間というものを表し
時計というのは時間というものをあらわして
時計は※□時間というものを○◇◇ЙЖていて。
12のДにЁМ÷か?みめの○|Л ◇…Ё
針で-%はわМ□ら!
これは54「Ё-┐▋▔はゆとよjp94○地底の軸となるも8♡*7◇Л◢├эы
私はg▋‰:‥tほ(
必ず|οξ完成させる。
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久しぶりに家の本棚を整理していたら面白い日記があった。
おそらく私が昔書いていたものだろうが、あまり記憶に残っていない。
せっかく見つけたので、続きを書いていこうと思う。
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今日も一日働いた。
やはり生徒たちと向き合うのは楽しい。
私の職業は教師。
昔は図書館の副司書兼研究員をしていた。
何故か教師になるよう言われ、腹を立てながら教師になったが、今はかなり楽しい。
充実した毎日と言えるだろう。
十年前の自分に見せてやりたい。
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今日も一日働いた。
仕事終わりの妻の料理はいちばん美味しい。
最近は息子によく勉強を教えている。
私に似て勉強が得意なようだ。
将来が楽しみだ。
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今日、とんでもない事を知ってしまった。
――地上世界についてだ。
私は今日父に連れられ、北大大きな部屋の北部へと赴いた。
なんでも、見せたいものがあると言われたが、詳しくは知らされなかった。
そしてある程度歩いたところで、壁に妙な隙間が出来ていた。
私たちはその隙間へ入り、かなり移動した。
代わる代わるする光景を目にし、最終的に異様な空間にたどり着いた。
とても地底世界とは思えない場所だった。
そしてその空間の壁に父が手を当てると壁が開き、中に椅子だけが置かれた部屋が見えた。
私はその中へ入り、絶句した。
その場所から上を見上げるとなんと " 月 " が見えるのだ。
おかしな話だ。
地上は千年も昔に滅んだはずなのに。
私の目の前にあるのは間違いなく地上のものだった。
地上は今も尚存在していた。
父に聞くとなんと地上は無くなっておらず、私たちの一族は地上に選ばれた者を送り出す役目を担っているらしい。
そしてその地上に選ばれた者は神隠しにあった者のこと。
つまり、表向きは神隠しにあったと知らせ、裏では選ばれたものとして地上へ出していたということだ。
そうやって隠すには何かしらの理由があるのだろう。
しかし、何のために地上へ送り出すのだろうか。
私はこんな秘密を知ってしまっていいのだろうか。
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あれから1週間が過ぎ、父が亡くなった。
父は私に地上の秘密を教え、役目を終えたようにそのまま息を引き取った。
死期を分かっていたのだろうか。
どちらにせよあの場所はこれから私が管理しなければならなくなった。
うまくやっていけるか心配だ。
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大変なことが起こった。
一族に伝わる長い長い記録書の中で初めて、初めて地上へ出た者が帰ってきた。
その人物は、私が昔神隠しが出たと捜査に駆り出された時のあの同級生。
――フィナス・レフィーヤドールだ。
私がいつものように授業をしていた時に彼女を見たという報告を受け、私はすぐに駆けつけ、彼女を保護した。
彼女はボロボロでまるで死人のような目をしていた。
私は彼女に地上世界のことやオーディやギィはどうしたのかとあれこれ質問してみた。
すると彼女の口からは旅は楽しかっただのあそこは綺麗なところだっただのと、いい思い出を話し出したのだが、オーディやギィのことに関しては何も言わなかった。
そして何より彼女の顔色はひとつも変わらないままだった。
私にはそんな楽しそうな旅をしてきた人間がするような顔には見えなかった。
その様子に私は怖くなり、ある程度聞き終えた後、彼女の双子の妹が住んでる家へ彼女を預けた。
彼女の妹は病気だが、夫もいるし大丈夫だろう。
そこ意外彼女の身内はいないから仕方がない。
私としては彼女の精神の方がかなり心配だ。
地上へ行って何を見たのか、何をすればああなるのか。
それとも地上に行くだけでああなってしまうのか。
恐ろしい。
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久しぶりにこの日記を開いた。
最後に書いたのがフィナスが帰ってきた時だ。
あれ以来あのことを忘れようと日記をしまっていたが、よりによってなぜ今日これを開けてしまったのか。
何の因果だろうか。
今日、地上へ選ばれた者が現れた。
私が受け持った生徒だ。
私が受け持った生徒の中で一番の優等生たちだ。
私は彼らを外へ送り出さねばならない。
だが、同時にあの時のフィナスの顔がチラつく。
私はどうするのが正解なのだろうか。
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一週間後、彼らは地上へ出た。
準備を整え、期待を胸に膨らませながら出て行った。
私は外が見えるあの場所からただ彼らが出て行くのを見守ることしか出来なかった。
本当に、これで良かったのだろうか。
私のしていることは正しいのだろうか。
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今日、フィナスが亡くなった。
地上から帰ってきてから体の様態がどんどん悪くなり、そのまま息を引き取った。
天才と呼ばれた彼女に似つかわしくない最後だったが、これも彼女の運命なのだろう。
その代わりと言ってはなんだが、妹の方は病気も治り、すっかり元気になった。
しばらく会えなかった姉と再会して元気をもらえたのだろう。
これならフィナスも喜んでいることだろう。
彼女にはフィナスの分まで生きてほしいと思う。
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最近、家で妙な本を見つけた。
タイトルは「地上の失われた技術」と書かれてある。
何故今になってこんな物が見つかるのか不思議だったがとりあえず読むことにした。
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一晩かけてこの本を読んだが、かなり面白かった。
なんと言ってもこの時計というもの。
これは人々の生活にэЛ|◇せないもので、ιΞ▆…ぜこれがなかっ◢#∞▊Йд不思◇:οだ。
これがいつか€Å∣┯▔щт▇
暮らしは5Ξ≧Ё?&だろう。
私は*∬★┰▅Тюν
×█!ЖЮз4に┼▕せる。
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久しぶりに懐かしいものを見つけた。
昔に書いていた日記のようだ。
そろそろ私も死期が近い。
最後の思い出として、日記の続きでも書くとしよう。
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最近の趣味は花の鑑賞だ。
昔は花は綺麗だとは思っていたが鑑賞するほどでもなかった。
だが、妻が先立ち約三年。
花を見ると花が好きだった妻を思い出す。
この花に似て綺麗な人だった。
またいつか会ってみたい。
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今日は息子夫婦が来てくれる日だ。
孫も連れてきてくれてくれるとの事だ。
私はとても嬉しく思う。
プレゼントとして花でも摘みに行こうか。
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昨日息子夫婦が来てくれたが様子がおかしかった。
特に息子は目を合わせてくれない。
どうしたのかと聞いても何も返してくれない。
私は何かしてしまったのだろうか。
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最近専門書をよく読む。
興味深い記述がされてあったり新しい発見があったりする。
もっと若い頃にこうやって専門書などを読み込んで研究などをしておけば良かった。
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今日、面白い専門書を見つけた。
魔力と魔獣の関係について書かれた本だ。
この本の記述によると魔獣の体は魔力で出来ており、体そのものが魔力と言っていいそうだ。
面白い内容だな。
よくそんなことを発見したものだ。
しかしこの著者、どこかで見た事のあるような名前だ。
知り合いにいただろうか。
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今日、街を歩いていると偶然フィナスの妹に会った。
懐かしい。
お互い、若い頃は仕事が忙しくて顔を合わす機会もほとんど無かった。
随分と老けていたが、彼女を見ると フィナスを思い出す。
歳をとる毎に似てきただろうか。
フィナスにそっくりだ。
笑い方、話し方、仕草、まるで本人そのものだ。
しばらく彼女と話した後、帰ることにした。
古い友人に会えてよかった。
帰り際にフィナスが生前書いていた書物を渡してきた。
ぜひこれからの未来のために使って欲しいと、フィナスが言っていたそうだ。
フィナスも随分と人が変わったな。
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今日、私はとんでもないものを目にした。
いや、思い出したと言うべきか。
フィナスの書物だ。
フィナスの書物を読んで、私は全てを思い出した。
私は何をとぼけていたのだ。
この日記の原点はこの地底世界の異常を調べるためだ。
魔獣が魔力出できている理由。
地底であるのに自然がある理由。
そして何より、我々人類が地上に引こもる理由。
フィナスの書物を読み全てが分かった。
この地が何故こんなにもおかしいのか。
何故地上に行けるのは選ばれた者だけなのか。
全ては " 呪い " だ。
あれに書かれてある " 呪い " が全てだ。
自然発光地帯も魔獣も我々が信じて疑わない常識も。
花に至っては地上に行かずとも分かっていたではないか。
雪道花、クオンユリ、ジャミール、ツヅラバナなど、何故地上にはたくさんの花があるのに地底にはこれだけしかないのか。
いや、何故よりにもよってこれらの花々なのか。
これらの花言葉は希望、愛、精神の美、献身などの縁起のいい花言葉だけではない。
これらの花々の隠された花言葉。
――それは呪い、復讐、縛り付ける、犠牲、あなたの死を望む。
全て憎しみを込められた言葉だ。
何故気づかなかった。
そして何より私がこの日記を何度も中断した原因。
その仕組みを理解する度に狂い、記憶が飛ぶ。
あの呪いの言葉。
――時計だ。
これは█┰ЛЙ-られた☆Ю∬/□#だ。
私がЖ▕◣∽Б2Å…ている。
だがkзЁ▇‰∵ζθめない。
●ずだ。
Щず6й┏♦は後世へj▼▔ч≠す。
この地は、呪われている。
』
そこから約千年後、物語は始まった。
『呪いの日記』著者 ダンデ・ルリエ・フューレン